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戦国異伝供書

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第二十話 東の戦その二

「今もじゃ」
「兵達をですな」
「どう驚かせるか考えてじゃ」
「その様にされますか」
「うむ、あの者達は驚くぞ」
 笑って言う信長だった。
「自分達がまさかな」
「武田や上杉に勝つとは思っていないので」
「それで勝つのじゃからな」
 それだけにというのだ。
「驚かない筈がないわ」
「これ以上はない程驚きますな」
「それをさせて見てじゃ」
「殿はですな」
「笑ってやりたいのじゃ」
 まさにというのだ。
「是非な」
「左様でありますか」
「それでじゃが」
 信長はさらに話した。
「一つ思うことじゃが」
「何でしょうか」
「うむ、どうもな」
 ここで信長は周りを見た、そうして家臣達に言った。
「不思議じゃな」
「不思議とは」
「何があったのでしょうか」
「うむ、三河でも一向一揆が出たな」
 今言うのはこのことだった。
「それも相当な数で」
「しかも多くの鉄砲を持っていて」
「そうしてでしたな」
「随分と強かったとか」
「暴れ回ったとか」
「三河も確かに一向宗が多いが」
 それでもというのだ。
「何万も出て来たというが」
「その何万がですな」
「普通はないですな」
「そこまでの数が出て来ることが」
「三河でも」
「そうじゃ、そこまで三河で一向一揆が出るか」
 このことがというのだ。
「わしはわからぬ」
「ううむ、そういえばそうですな」
「我等が戦ってきた一向一揆もでした」
「合わせて何十万も出てきましたが」
「そこまで出るか」
「どうしてもですな」
「わからぬ」
 それがというのだ。
「どうもな」
「ううむ、ではですな」
「そのことを考えますと」
「一向一揆は今も謎ですな」
「顕如殿もそこまで動かしたことはないと言われていますし」
「覚えはないと」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「これもまた妙なことじゃ」60
「ですな、何度考えてもです」
「妙なことですな」
「顕如殿が動かしていないなら誰が動かしていたのか」
「下間家もあそこまでするなとは言っていなかったといいますし」
「ましてや鉄砲をあそこまで持っているなぞ」
 このことも妙に思えることだったのだ。
「撃ち方も知っている者のそれでしたし」
「武具もよかったです」
「一揆といえば農具が多いですが」 
 百姓が起こすものだから当然のことだ、鍬や鋤や鎌、それに簡単に作った竹槍等が武器だが実はこうしたものが案外強いのだ。
「しかしです」
「あの一向一揆はとかく武具がよかったです」
「百姓一揆とは思えぬまでに」
「具足もいいものを着けていました」
「一揆にしては」
 具足のこともというのだ。
「妙ですな」
「全く以て妙なことでした」
「旗は本願寺の色である灰色でなかったですし」
「三河の一向一揆もそうだったといいます」
「そしてです」
 長曾我部も言ってきた。 
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