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永遠の謎

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43部分:第三話 甘美な奇蹟その八


第三話 甘美な奇蹟その八

「それが問題になるな」
「では今すぐではないのですね」
「両国の衝突は」
「そうだ、まだだ」
 これが太子の見解だった。彼はそう見ていたのだ。
「まだ動きはない」
「それでは今は」
「お互いに警戒し合っているところですか」
「まだ」
「そうだ、戦いはまだはじまらない」
 太子はまた己の見解を述べた。
「おそらくはだが」
「おそらくは」
「どうだというのですか、それで」
「今デンマークで騒動が起こっている」
 ドイツの北にある国だ。古い王国である。
「シュレスヴィヒ、ホルシュタインでだ。そこだな」
「あの二つで、ですか」
「そこでなのですね」
「あの場所での騒動が発端になる」
 太子はまた言った。
「そこに両国が介入する。そこから話がはじまる」
「そうなりますか」
「あそこからですか」
「そこからはじまる。だが今すぐではない」
 またこう言う太子だった。
「とりあえず今はだ」
「はい」
「我がバイエルンも備えをですね」
「戦争への備えを」
「今のうちから」
「それは別にいい」
 だが、だった。太子は戦争準備はいいとしたのだった。それは特に何でも問題にないようにだ。言ったのであった。そうだったのだ。
「我が国は特に何もせずともよい」
「いえ、それは」
「そうはいかないのでは」
「やはり」
「どうかな。だが一つ言っておく」
 ここで、だった。太子はその顔を曇らせた。そうしてそのうえでだ。こんなことも述べたのであった。
「私は戦いは好まない」
「それはなのですか」
「戦いは好まれませんか」
「それは何故ですか」
「戦いが何を生む」
 その曇った顔での言葉だった。
「戦いがだ。何を生むのだ」
「国家の発展です」
「勝利によって得たもので」
「それが得られるではありませんか」
「違いますか」
「そんなものはどうとでもなる」
 何か、他の者には見えないような目でだ。彼は語った。
「どうとでもな」
「なるとは」
「そうなのでしょうか」
「それは」
「そうだ、戦わずとも外交で得られるものだ」
 これが太子の考えだった。武よりも文を見ているのだった。
「それよりも戦いで何が失われる」
「何がですか」
「それが問題だと仰るのですね」
「殿下は」
「その通りだ。人が死に傷つく」
 そのことからだった。太子が言うのはだ。
「そして多くの美しいものが破壊されていく」
「街や田畑が」
「そういったものがですか」
「三十年戦争でドイツは荒廃したな」
 その長い戦争でだ。ドイツは多くの人命だけでなく国土を荒廃させてしまったのだ。千六百万いたといわれるドイツの人口は一千万まで減ったと言われ街も田畑も破壊された。そして多くの美しいものも失われたのだ。
 
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