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懐かしい秋の時

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第一章

               懐かしい秋の時
 室生加奈はお祖母ちゃん子だ、子供の頃から優しくて色々なことを教えてくれる祖母の静を慕っている。
 それは大学生になった今も同じで実家のある広島に帰ってきた時はいつも祖母の祖母そして祖父の家に遊びに行っていた。
 それはこの時も同じで加奈は祖母と笑顔で話していたが。
 その中でだ、加奈は祖母に残念そうに言った。
「カープ今年も駄目だったわね」
「優勝したじゃない」
 静は残念そうに言う孫にこう言葉を返した、黒髪をショートにしていてはっきりとした目鼻立ちで自分より二十センチは高いすらりとした孫娘に対して。
「三連覇でしょ」
「リーグ優勝したけれど」
 それでもと言うのだった、加奈としては。加奈は加奈でやや太った小柄な祖母を見ている、もう髪の毛は白くなっているがそれがかえって老齢の穏やかさを出している。二人共ズボンだが加奈はジーンズで静はモンペの様なものだ。
「それでもじゃない」
「シリーズで勝てなかったらかい」
「去年はね」
 昨年の話もした。
「クライマックスで負けたし」
「だからなの」
「そう、日本一にね」
 是非にというのだ。
「なりたいのに」
「また来年頑張らないとね」
「来年来年って言って」
 加奈は祖母が出してくれたお茶を飲みつつ言った。
「それでもね」
「日本シリーズで負けているから」
「だからね」
 それでというのだ。
「私としてはなのよ」
「リーグ優勝したら」
「もう日本一になって欲しいわ」
「そう思うのね、加奈ちゃんは」
「そうよ。私今福岡の大学にいるでしょ」
 そしてそこに住んでいる、今は十一月の連休でこちらに戻ってきているのだ。
「そっちじゃね」
「ホークスさんの本拠地だからだね」
「もう大喜びよ」
 日本シリーズに勝って日本一になったからであるのは言うまでもない。
「それを見てるよね」
「怒るのかい?」
「怒らないけれど」
「それでもなんだね」
「残念に思うのよ」
 この気持ちは隠せないというのだ。
「どうしてもね」
「それはわかるけれどね、祖母ちゃんも」
「お祖母ちゃんも広島ファンだから」
「そう、子供の頃からのね」
「お祖母ちゃん今七十だから」
 加奈とは五十歳離れている、丁度半生記だ。
「六十年以上広島ファンよね」
「今でいう鯉女ね」
「そうよね、お祖母ちゃんが子供の頃って」
「カープは本当に弱くてね」
「優勝するまでずっとぱっとしなかったけれどね」
 所謂万年Bクラスだった、ネットでは赤貧球団だの言われて何かと地味な扱いを受け続けていたチームだった。
「その前は」
「浩二さんや衣笠さんが出るまでは」
 山本浩二に衣笠祥雄だ、二人共カープの永久欠番だ。
「ずっとね」
「地味でよね」
「負けてばかりで優勝なんてね」
「夢物語だったのね」
「最近までよりもね」
 その優勝するまでよりはというのだ。
「ずっとね」
「地味で」
「広島だけのチームだったのよ」
 人気もというのだ。 
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