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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第182話「連絡と異常」

 
前書き
とりあえず学校勢と連絡を取り、大門の調査をする話。
 

 






       =out side=





「……皆、無事かしら……」

 学校で、玲菜がふと呟く。
 優輝達が転移で移動してから、三日目になっている。
 妖の脅威もなくなり、身の危険が少なくなったため、改めて心配になったようだ。

「優輝が強いのは分かる……けど、さすがに心配だよな……」

「そうよね……」

 聡も同意するように呟く。
 すると、校庭に魔法陣が出現する。

「あれは……!?」

 聡や、学校の人達にとって、魔法陣は見慣れないものだ。
 そのため、妖の仕業と見分けがあまりつかない。
 その事もあって、学校全体に動揺が走り、警戒が強まる。

「いや、あのバケモノじゃない!あれは……あれは……!!」

 だが、すぐに妖とは違うと分かった。
 なぜなら、魔法陣から見覚えがある人影が何人も出てきたからだ。

「司さんに、アリシア先輩!」

「帰って来た……!」

 現れたのは、司や奏、アリシア達。
 優輝と神夜を除いた学校に通っている全員が戻って来た。

「え、ちょっ、皆!?」

 先生が落ち着くように言うのも聞かずに、何人もの生徒が校庭に飛び出していく。
 その有様を見て、アリシアはつい驚いてしまう。

「ストップ!ストーップ!!」

「ちょっと!一斉に来すぎよ!」

 咄嗟にアリシアが制止を掛け、アリサが叱責する。
 その様子に、司とはやて、すずかは苦笑い。
 なのはとフェイト、奏、帝は驚いて少し引いていた。

「帰って来た!」

「どうなったの!?」

「無事だった?」

「怪我はない?」

「ちょっと……一斉に聞きすぎよ!!」

 集まる勢いは何とか止めたものの、全員が口々に今までの事を尋ねてくる。
 さすがのアリサも、クラス一つ分以上の人数を纏める事は出来なかった。

「うーん、どう収拾を付けよう……」

「とりあえず、何とかして皆を落ち着かせるのが先決だよね……」

 アリシアと司が苦笑いしつつ、どうするべきか考える。

「司さん!」

「司!」

「聡君、玲菜ちゃん!」

 すると、そこへ聡と玲菜が人を掻き分けてやってきた。

「……どう、なったんだ?」

「そうだね……それを答えるには、まず……」

「皆!落ち着いて!!」

 どの道、一旦落ち着かせようとアリシアが行動に出る。
 言霊として、発した大声に霊力を乗せる。
 それにより、その言葉が皆に届いて一旦声が止んだ。

「……よし、さて聡君、質問どうぞ!」

「え、あ、お、おう……」

 言霊の影響は聡にも及んでいたため、アリシアに促されても聡は戸惑うだけだった。

「とりあえず……終わった、のか?」

「うん。事件は解決したし、後は体制を整えて復興が終わった所から避難が終わるようになっているはずだよ」

「皆は……無事なの?」

「大きな戦闘があって、無事……とまではいかなかったけど、五体満足だし、回復もしてきたからね。今はそこまで心配する必要はないよ」

 皆が最も聞きたかったであろう質問を、聡と玲菜が尋ねる。
 司は安心させるように、その質問にきっちり答えた。

「……優輝は……どうしたんだ?」

「優輝君は…一番頑張ってたのもあって、まだ回復しきれてないんだ」

「ちなみに、神夜もまだ休む必要があるから、来てないよ」

 優輝がいない事に気付いた聡が、恐る恐る尋ねる。
 聞かれるだろうと予測していた司とアリシアは、嘘を少し交えて誤魔化す。

「そうか……」

「他の場所は……どうなってるんだ?」

「海鳴市が一番マシだからね……。ラジオとかで情報は出てた?」

「一応は……京都がやばかったって事は流れてた」

 日本全体に妖がいても、情報機関は何とか人々に情報を届けようとしていた。
 その僅かな情報の一つが、京都で妖が溢れかえっているというものだった。

「やっぱり日本全土だったから、情報も滞ってるんだね……」

「一応、電波は無事だったみたいだったけど……」

「撮る人がいなきゃ、意味ないよね」

 妖は無差別に破壊活動をすることは少なかった。
 人を襲う際に副次効果として家などが破壊されていたため、人の被害に比べて電波塔が無事な場合が多く、電波が無事な地域も多かった。
 特に海鳴市やその周辺はほとんど無事だった。
 ただし、肝心の映像を撮影する人や余裕がなかったため、何も流れなかったが。

「話を聞いた限りだと、沖縄と北海道の両端は被害が少なかったみたい。……というか、特に被害が大きかったのは基本的に東京や京都だったかな」

「どちらも都があった地域だからね」

「都……江戸とかか?」

「そうそう。妖怪とかの伝承も影響してたから、それで被害が大きかったみたい」

 詳しい事はあまり知らない聡だが、その言葉を聞いて納得した。
 同時に、それだけ被害が出て大丈夫なのかと心配した。

「……見る?今の京都の様子。相当荒れてるけど……」

「いや……やめとく」

 気にしていたのを司に見破られる。
 その際に、シュラインに記録されている映像を見るか聞くが、断られる。

「とにかく……皆、無事でよかった……」

「心配掛けてごめんね。でも、私たちが動かないといけなかったから」

 玲菜の言葉に、申し訳なさそうにしながら司が言う。

「それと、私と奏ちゃんはこの後行く場所があるから……」

「行く場所?えっ、それ私たちも聞いてないよ?」

 続けられた言葉に、アリシアが反応する。

「言ってなかったからね。鈴さんと一緒にちょっと調査にね」

「調査?……って、“鈴さん”って……」

 聞きなれない名前に、聡や玲菜は首を傾げる。

「事件解決に協力してくれた陰陽師の人だよ」

「……陰陽師、実在したんだな」

 簡潔な説明に、聡はそういうしかなかった。

「でも、調査ってどこに?」

「大門があった場所だよ。どんな影響が残っているか、どこか異常はないか……とかね。封印自体は大丈夫なはずだから、危険はないはずだよ」

「あそこを……」

「そういう訳だから、私と奏ちゃんはあまり長居できないんだ。ごめんね?」

 半分ほど聡達にはなんの事かわからない会話だったが、それでもまだやる事が残っている事はなんとなく理解する事ができた。

「それなら……しょうがないか。俺たちには何もできないんだし……」

 本当は戻って来たならいておいてほしい聡。
 しかし、やるべき事があるなら仕方ないと諦める。

「一度は会っておこうと思って来たからね。アリシアちゃん、後は頼んだよ」

「まっかせてー!そっちも妖がいなくなったからって油断しないでね」

 年長者のアリシアに後を任せ、ある程度皆に挨拶をしてから司と奏は戻っていった。

「あ、そうだ。なのはとかも、一回家族に顔を見せてきたら?連絡を取っていたとはいえ、やっぱり顔を合わせておいた方がいいでしょ?」

「いえ、後で構わないわ。来る前に連絡を入れておいたし」

「私も、後でいいかな」

「わ、私は……私も、後でいいかな……?」

 ふと思い出したように提案するアリシア。
 アリサとすずかは事前に連絡を入れていたようで、その提案に乗らなかったが、なのはは二人と違って連絡を入れ損なったため、少しどうしようか悩んだ。

「……連絡、入れ忘れた?」

「うっ……アリサちゃんとすずかちゃんみたいに、事前には……」

「まぁ、どうするかはなのはの勝手よ。とりあえず、連絡してないなら今すればいいじゃない。何のためのケータイよ」

「あ、そっか」

 アリサに言われるなり、ケータイを取り出してなのはは士郎たちに連絡を取る。

「……戦いが終わってどこか抜けてるのかしら?」

「あはは……まぁ、やっと終わった安心感は否定できないね」

 その様子を苦笑いしながら見届け、アリサとすずかは互いに顔を見合わせる。

「さぁさぁ、何をするにしても、一旦戻って戻って!先生たちが困ってるよ!」

 アリシアが大声でそう言いながら、皆で学校へと戻っていく。
 色々話す事があって大変だと思いながらも、皆を安心させるためにも頑張ろうと、アリシアは気合を入れてそう思った。

















「準備はいいかしら?」

 ところ変わって、アースラ。
 大門周辺を調査するために、優輝達は準備していた。

「大丈夫だ」

「私もいけるよ」

「私もよ」

 全員の準備が終わり、いつでも出られるようにする。
 なお、準備と言ってもそこまで用意周到な物は使わない。
 いつもと違って欠けているものがないか確かめる程度だ。

「よし、いつでも行けるわね」

「大門の調査……確かに、閉じる事ばかり考えて調べる事はしていなかったが……そこまで気にすることなのか?」

 四人を転送するために転送ポートの許可を出したクロノが、疑問に思って尋ねる。
 別に調査を怠る訳ではないが、それでも疑問に思ったようだ。

「ええ。何かが元に戻っていない……いえ、“変わっている”と睨んでいるわ」

「そこまで力強く言う程なのか……」

 悪路王の言った“縁”の存在。
 大門を閉じたはずなのに、それは残り続けている。
 本来ならあり得ない現象なため、鈴は何かあると確信めいた推測をしていた。

「まぁ、僕が担当出来ない分野だ。だから、頼んだぞ」

「任せなさい」

 転送ポートを起動させ、クロノは四人を転送した。





「……改めて見ると、だいぶ荒らしてしまったね……」

「瘴気の影響もあって、木々が枯れているわね……」

 転送が終了し、四人は大門の近くに転送された。
 戦闘の爪痕は深く残っており、特に自然には顕著に現れていた。

「建物もだけど、こういうのは時間を掛けて元に戻していくしかないわ。霊力を応用すれば、自然を戻すのはいくらか簡単にはなるけど」

「そっか……こういうのも、復興していかなくちゃいけないよね……」

 神降しをした優輝や、ジュエルシードをフル活用した自分が戦っていた場所も、同じように破壊跡が多くあるだろうと、司は考えてそう呟く。

「とにかく、大門の場所まで行くわよ」

「ああ」

 アースラからの転送は、瘴気の影響がまだ残っているかもしれない事を懸念して、大門から少しばかり離れた場所を転送先に指定していた。
 そのため、優輝達は周囲に刻まれた戦闘の影響を確認しつつ、大門へ向かう。

「……そういえば、本来の大門の守護者って、どんな人だったの?」

「とこよの人柄?……そうね……」

 ふと、司は気になった事を鈴に尋ねる。

「……私も、限られた時間でしか会ってないからあまり知らないのだけど……なんというか、とにかく前向きだったわね。同時に、どこか抜けていたけど」

「前向き……」

「諦めの悪さなら相当よ。……生憎、日常でのとこよの事は大して知らないけどね」

 鈴は死んでからとこよに会っていたため、普段のとこよは知らない。
 ただ、諦め悪く前向きな事はよく知っていた。

『普段の奴の事なら、吾が知っている。……尤も、普段の奴は座学をサボりがちで不真面目な能天気者だがな』

「……ちょっと、予想外ね」

「そ、そこまで普段と違うんだ……」

 代わりに悪路王が普段のとこよについて語った。
 なお、その内容と自分の知っているとこよの側面の違いに、鈴が一番驚いていた。

『だが、それでも芯の通った人間だ。それだけは変わりない』

「悪路王も認める程なのね……」

「なんだか……凄いなぁ……」

 感慨深そうに、司は感想を漏らす。

「……着いたよ」

「っと、話し込んでいたわね」

 優輝の言葉に、全員が立ち止まる。
 大門が存在した場所は、瘴気の影響で植物が完全に枯れていた。
 そのため、ちょっとした空き地のようになっている。

「っ……やっぱり、まだちょっと瘴気が残ってる……」

「そればかりは仕方ないわ。……さて……」

 幽世の大門は既に物理的には見えなくなっている。
 しかし、大門がその場にあった事もあって、未だに瘴気が残っていた。
 すぐさま霊力でカバーし、優輝達は瘴気の影響を跳ね除ける。

「まずは大門の確認よ」

 そういうや否や、鈴は霊力を用いて大門の状況を探る。
 とこよによって閉じられたとはいえ、確かめておいた方が無難だからだ。

「………大丈夫、ね。再び開く気配もなし。完全に閉じられてるわ」

「よかった……」

「まぁ、これは前座。本命は調査の方だもの。これで異常があったら困るわ」

 苦笑いしながら、鈴は封印を確かめていた霊力の使用を止める。
 そして、気合を入れ直すように袖を捲る。

「調査と言っても、何から取りかかればいいかな?」

「さっきは封印しか確認しなかったけど、様々な点において調べた方がいいわ。確か、開いた原因は魔法に関わるものだったでしょう?だったら、魔法の観点からも調べた方がいいわね」

「なるほど……」

「じゃ、始めましょう。少しの異常も見逃さないで」

 鈴のその言葉を合図に、全員で調査に取り掛かる。

「(霊脈の流れに大した異常は見られない。少しばかり乱れているのも、おそらく大門が開いた影響……これは定期的に確認しないと異常か分からないわね)」

「司さん、どう?」

「魔力で探ってるけど、残滓ぐらいしかないかな……大体が瘴気に呑まれてる感じ」

「そう……細かい所を探ってみるわ」

 鈴は霊脈から、司と奏は魔法関係から調査する。
 大まかな部分はどちらにも異常はなく、段々と細かい部分に調査をシフトしていく。

「(……土地にも特に異常はなし。……鈴さんは“縁”に原因があると見ていた。ならば、そう言った概念的視点から確かめた方が早いかもな)」

 優輝もまた、周辺の土地そのものを調べていた。
 そして、原因は概念的分野にあると睨み、それを調べるために準備をする。
 魔力と霊力、そのどちらかだけ使うのでは足りないために、その二つを掛け合わせながら術式を組み立てていく。

「っ……!なんて、術式……!?」

〈魔法と霊術の複合!?理論上は可能とはいえ、ここまで高度なのを組み立てるなんて……!感情を失った事で効率化しているとしても、彼の底が知れなさすぎる……!〉

 その力の流れと術式に、鈴が気づく。
 そして、マーリンと共にその術式に驚愕した。

「ちょっ……優輝君!?」

「優輝さん……!?」

 数瞬遅れて司と奏も驚愕する。
 何度も高度な術式を扱う所を見てきたが、それでもいきなりは驚く事だった。

「っ……処理速度が足りない……リヒト、シャル」

〈ここまで高度なものになるとそれ以前に魔力も霊力も足りませんよ。マスター〉

〈まず、他の方に助力してもらうべきです〉

 膝を付き、地面に術式を組んでいた優輝だが、息を切らしてそれを中断した。
 リヒトとシャルにサポートを頼むが、呆れたように二機はそう進言した。

「……それも、そうだな」

「今、何をしようとしていたのかしら?」

「概念的視点から辺り一帯を調査するための術式だ。地道に探すよりも、こっちの方が効率的だと判断したんだ魔法と霊術を混ぜたが……少し、計算違いだな」

「概念的……そんな高度な術式を即座に組み立てようとするからよ……」

 驚きを通り越して、鈴は呆れて溜息を漏らす。

「まぁ、効率的なのは理解できるわ。霊力は私が担当。貴女達は魔力を頼むわ。マーリン、術式構築の支援は出来るかしら?」

〈重要な箇所は彼の脳内にしか理論がないから外側だけだね〉

 しかしながら、鈴もそれが効率的だと理解しており、すぐに指示を出す。
 肝心な部分は優輝本人に任せ、それ以外をサポートするようにした。

「シュラインも術式のサポートを!」

「エンジェルハート」

〈分かりました〉

〈微力ながら私も手伝います〉

 魔力を供給するだけでいい司と奏は、すぐに自身のデバイスに、マーリンと同じように術式構築のサポートをするように指示する。

「……リヒト、シャル」

〈……分かりました。ただ、術式の核となる部分だけに集中してください。先ほどの時点で、脳が焼き切れる程の処理能力が必要だと判明しているので〉

〈マイスターはもう少し自身の限界に合わせるべきです〉

「……善処する」

〈出来てません。そう言って出来た試しがありません〉

 優輝も改めてリヒトとシャルに指示を出す。
 尤も、無理している事を思い切り指摘され、返答もばっさりと切られていた。

「……時々、優輝君ってリヒトに信頼されてるかされてないか分からない時あるよね」

「そうね……」

 その様子を見て、司と奏は苦笑いしながらそう言う。

「でも、優輝君の事をよくわかってるからこその言葉でもあるね」

「確かに……」

「……導王の時からの付き合いだから、私達以上に優輝君を知ってるんだろうなぁ」

 相棒でもあるデバイスなのだから、仕方ない事ではある。
 それでも、何となく司はリヒトの事が羨ましく思えた。

「………」

〈解析も同時に行っていますが……かなり高度で複雑な術式です。私達でサポートして肉付けしている部分だけでも、かなりの量になりますね……〉

「そ、それほどなの……?」

〈はい。そして、これほどの術式を瞬時に思いつくとは……〉

 無言のまま根幹の術式を組み、それを各デバイスが肉付けするように形にしていく。
 その最中、シュラインは同時進行で優輝が既に組んだ部分の術式を解析していた。
 そして、その解析結果に、デバイスでありながらも驚愕していた。

〈……最早、人間業ではないとまで言えます〉

「っ……!」

〈おそらく、感情を失っているから出来る所業でしょう。余計な感情がない分、術式の構築、その一点に集中出来ます。……尤も、それでも人並外れていますが〉

 司は息を呑んだ。
 改めて、優輝の凄まじさを見せつけられたからだ。
 今まで何度もそう言った場面はあったが、司もそれに慣れていた。
 しかし、感情を失い、機械的になった不気味さが、再び驚愕に繋がっていた。

「(優輝君は……本当に、何者なの……?)」

 また、守護者と戦闘している時に、なのはと奏……“天使”が発した言葉。
 “天使”は、優輝について喋っていた。
 そのために、何かしらの関係があると司は見ていた。
 だからこそ、優輝すら知らないであろう“秘密”を、司は気にしていた。

「(……ううん。今気にしても意味ない……ね)」

 だが、今考える事ではないと、司は判断し、その思考を隅へと追いやる。
 ……否、心の片隅で優輝を“得体の知れない存在”だと思う事をすぐにでもやめたかったため、無理矢理中断した。

「……出来た」

「これが……」

 概念的視点から調査するための術式。それがついに完成する。
 効果としては、周辺の空間に概念的作用が働いているか感知するというもの。
 それ以外にも様々な効果があるが、ここでは割愛する。
 
「魔力と霊力を回してくれ」

〈二つの力の調和はこちらにお任せを〉

「ええ。流すわよ」

 優輝の合図に、鈴と司、奏で霊力と魔力を流す。
 魔力はともかく、霊力は鈴一人だけでは賄いきれないので、司と奏が補う。
 術式が起動するように輝き、機能し始める。

「………!」

「っぁ……!?」

「えっ……?」

「これって……」

 その瞬間、全員が驚愕した。
 別に術式がいきない瓦解したなどではない。
 機能した瞬間に、反応を捉えたからだ。

「……“縁”が残っているのも納得ね……」

「これ……どういう事なの……?」

「……異常……なんてどころじゃ、ないわ……!」

 異常があるのは、司と奏にもわかっていた。
 ただし、どんな異常なのか把握できたのは優輝と鈴だけだった。

「……現世と、幽世の境界が薄くなってる……!」

「っ……それって……!?」

「表裏一体なはずの二つの世界が、一つになりかけてるのよ……!それも、大門が開いていた時と違って、お互いを害さずに!」

 一瞬、司と奏は意味を理解するのに時間がかかった。

「例えるなら、水と油が混ざるようなものよ。……同時に、“混ざり合う”なんて火薬に火をつけるような危険な現象……なのに、それがない!」

「………」

 現世と幽世の均衡が崩れれば、世界は崩壊する。
 だと言うのに、“混ざり合う”などと言う均衡を放棄するような現象が起きた。
 それは、今すぐにでも幽世の大門が開き、日本が滅びに向かう程の事だ。
 ……だが、それがない。だからおかしいと、司と奏も理解した。

「境界が薄くなる……と言うのは、別段おかしいって訳でもないわ。実際、幽世の大門が開いている時は境界が曖昧になるから……でも、今回は例外よ」

「例外……」

「“異常がないのが異常”。悪路王が現世に留まれるのも、幽世との境界が薄くなっているから。今でこそ何も起きていないけど、見逃せるものではないわ。……いや、起きていないからこそ、今すぐにでも何かしなければ……!」

 爪を噛むように苛立ちを見せながら、鈴は推測を述べていく。
 その顔にははっきりと焦燥が現れており、非常に焦っているのが見て取れた。

「貴方の見解はどうかしら?」

「……概ね同じ意見だ。……それと、原因に心当たりがある」

「……もしかして、“パンドラの箱”?」

 鈴が優輝に意見を求め、優輝がそれに答える。
 その答えに、司がふと思い当たったように呟く。

「その通りだ。あの得体の知れないロストロギアなら、あり得る」

「……そうだね」

 幽世の大門を開いた原因。“パンドラの箱”。
 通称すらない未知のロストロギアで、解析もなぜか優輝のみに可能だった。
 あの得体の知れないロストロギアなら、この現象を引き起こしてもおかしくはない。
 ……そう、優輝は睨んでいた。

「……とにかく、原因は分かったわ。戻りましょう」

「ああ」

「……うん」

「………」

 心に大きなしこりを残し、四人はアースラへと帰還した。













 
 

 
後書き
アリシアと聡たちの関係性を考えてなかったので、とりあえず名前は知ってる感じに。
何となく、アリシアは友人になってない年下の相手は君orちゃん付けで呼んでいる印象。 
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