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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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MR編
  百五十七話 談笑響く迷宮

 
前書き
ハイどうもです!

さて、今回はある意味でこのダンジョン編において最も大事なシーンかもしれません。

では、どうぞ! 

 
あいもわからず薄暗く狭い通路を少ない明かりを頼りに歩く。
リョウコウの感覚と、実際に時計を見て確かめた時間、その双方において、このダンジョンに突入してからの時間がそろそろ一時間半は過ぎようかと言う頃合いになっていた。此処がまともにクリアさせる気の在るクリエイターによってデザインされたダンジョンであるならばそろそろボス戦の気配も見えてこようかというタイミングだ。

「(いい加減、この辛気臭せぇ場所も億劫になってくるしなぁ)」
暗い場所が怖い、と言う感覚は割と大昔に無くして久しいが、そうでなくても狭く薄暗い所に長時間居るのは精神衛生上あまりよろしくないとは聞いたことがある。リョウとしても、ストレス云々はともかく外の空気が吸いたい……気がした。
奥に行くほど暗闇で隠される通路の向こうに、小さなオレンジ色の光が瞬く。二回、三回と金物の出す甲高い音と共に不規則に瞬くそれに、リョウは見覚えがあった。

「お、やってんな」
「やぁっ!」
再び光が瞬く、今度は朱いライトエフェクトだ。二転三転と繰り返されるラッシュに寄って相手のパリィを突破した少女一撃が、Mobの体制を崩す。すかさず少女の剣にライトエフェクトが瞬いた。ソードスキル……

「やっ!!」
「!!?!?」
快活な声と共に放たれた片手直剣三連撃技《シャープネイル》が、霞むような剣速で炸裂する。

「(早えぇな)」
キリトやアスナの剣を見慣れたリョウをして、そう思わせるに十分すぎる神速の斬撃。ソードスキルの速度は、本人がそのスキルの動きを把握し自らスキルをなぞるように動くことでブーストする事が出来るのはALOプレイヤーの間でも既に既知の事実だが、あれはそれだけと言うには群を抜いている。
本人の敏捷値に加えて、ソードスキルに完全に体を反応させて追いつき、あるいは追い越すほどの反応速度が無ければああはなるまい。
速度が十分に乗った攻撃は、ALOではそれだけで十分な威力を発揮できる。

「せぇいやぁっ!!」
シャープネイルには、連撃技でありながら技後硬直の時間が短く、隙が少ないという特徴がある。それだけでも衝撃でノックバックした敵……干からびてミイラ化したモンスターの隙を突くには十分だが、立て続けに発動するスキルは、片手剣の中でも特に威力と出の速さを重視したそれ。

片手剣 重単発技 《ヴォーパル・ストライク》

ジェットエンジン染みた轟音に続いて響く聞きなれた破砕音と共に、少女よりも頭一つ大きな人型が爆散する。すると何を想ったか、少女……ユウキは虚空に向かって高々とピースサインをして大きな声で言った。

「ぶいっ!!」
「ナイスファイトォ」
「ぅぇあっ!!?」
ビクッ!!と身体を飛び跳ねさせて振り向いたユウキの顔が、リョウの姿を認めて気恥ずかしそうに朱く染まる。一人でポーズを決めていたところを見られたのが恥ずかしかったのだろう、正直リョウにも経験が無いわけではない。

「よっ。良い動きだったな……最後のピースサインも含めて」
「言わないでよぅ!!恥ずかしいなぁ……リョウ、何時から居たの?」
「お前さんがシャープネイルぶっ放した辺りからだ。そっちはいつ此処来た?」
「ついさっき!そっちの通路から来たら壁からさっきのが出てきたんだ」
「ふぅん?」
部屋に続く通路はユウキがやってきたそれと、リョウ自身が歩いてきた通路の他には見当たらない。ユウキが示した壁に近寄ると、リョウは自らの顎を軽くなでた。壁は縦になった石棺が埋まったような作りになっていて、先ほどユウキに倒されたモンスターはこの石棺に入っていたのだろう。と……

「あぁ、なるほどな」
「?」
「おら、よっと!」
突然、リョウが石棺の奥、壁になった部分を蹴り飛ばす、するとその部分がバラバラと崩れ、向こう側に薄明りの灯る通路が見えた。

「あ、この棺の向こうに通路があったんだ!」
「そう言うこったな、ん、簡単に崩れるわこれ」
「へぇぇ……よくわかったねリョウ!」
「昔からゲームばっかやってると、こういう事にだけは敏感になるんだな、っと!」
三度目の蹴りで、壁が完全に崩壊し人ひとりが通るには十分な大きさの穴が開く。軽く腰を落として向こう側を覗き込みながらリョウは軽く頷いた。

「うし、ひとまず敵影無し……先行くぞ、頭気を付けろよ」
「了解!」
ピッと軽い敬礼をして答えるユウキに苦笑しながら、リョウは低い天井をくぐった。

────

「そういやぁ、お前さんの剣筋……やっぱ、ランに似てんのな」
「えっ!?」
ユウキを前方に置いた状態で慎重に、しかし速やかに通路を進行する中、不意にリョウがそんなことを言った、ユウキの方はと言うと、いきなり姉の名前が出てきたことによほど驚いたのか振り向くのももどかしそうに後ろ歩きになってリョウを見る。

「リョウもボクの姉ちゃんを知ってるの!?」
「あ?なんだよ、アイツちゃんと言わなかったのか?俺と、ランと、サチの三人で前にダンジョン潜ったって話だぞ?あと前見ろな」
「知らなかった!ボク、サチからはまだ話ちゃんと聞いてなくて……」
「なんだ、そなのか。んじゃあ俺もあんま言うこっちゃねぇか……」
担いだ斬馬刀を肩にトントンと当てて虚空を見るリョウに、ユウキはあからさまに不服そうだった。相変わらず後ろ歩きにリョウを見ながら、ピョンピョンと飛び跳ねて抗議する。

「えー!?聞きたい!」
「その内話してやるよ、少なくとも、今こんな辛気臭ぇとこで話すこっちゃねぇって、あと前見ろな」
「むぅ」
明らかに納得していない様子で前を向くユウキに、やれやれとリョウは肩を竦めた。

「まぁ、そんなに長い時間付き合いがあったわけじゃねぇけどな、それでも大した奴だと思う程度にゃ、色々驚かされたな彼奴には……」
「リョウが?へぇぇ……ボクはリョウとか、キリトに驚いてばっかりだけどなぁ……」
「そりゃお前さんも大概だ」
呆れ半分、からかい半分に肩をすくめるリョウだったが、当の彼女はと言えば今度は首だけで振り向いて「何が?」とでも言いたそうに首をかしげている。自覚が一切ないらしい。

「いや、まぁ分かってねぇならいいや……あと、そろそろ振り向いてねぇで本気でちゃんと前見ろ。広場に出るぞ」
「っと!」
指さす先にパッと向き合って、しかしのしのしと迷いのない足取りで通路を進み、広場へと入っていく。

「……広いね」
「あぁ……ユウキ、壁だ。気ぃつけろ」
「壁……あ……!」
その部屋は広さも天井も他の場所と比べてはるかに広く、高く出来ていた。壁を見回すと、部屋中の壁に奇妙な紋様がほられているのが見える。いや、紋様と言うよりは。

「あれ、全部さっきの棺……だよね?」
「あぁ、扉も……閉じたな、やっぱり」
二人がくぐった入り口が降りてきた石の壁で閉ざされ、同時に周囲の壁に天井の高さまで埋め込まれた石棺の蓋が一斉に震えはじめる。どちらが何かを言うでもなく、涼やかな音と共にユウキは剣を抜き放ち、リョウは斬馬刀を軽く一回転させて構えた。

「ラッシュ来るぞ」
「うんっ」
壁際の床に次々に落下する石棺の蓋が、硬質な音と共に割れ砕けポリゴン片へと還っていく。その青い光を瞳に移しながら、リョウは不意に、ニヤリと笑った。

「おいユウキ、ゲームしようぜ」
「え?ゲームしてるよね……?」
「じゃねぇって、これから出てくる奴、どっちが多く撃破できるかの勝負だ」
「沢山倒した方が勝ちって事?面白そう!!」
「よーし」
互いに不敵な笑みを崩さないまま、彼らの意識と瞳は戦闘モードへとシフトする。立ち上がった蠢く死者の群れの頭に次々にドㇻウグルという統一された種族の名称が表示され、HPが表示されると同時、2人は殆ど同時に姿勢を低くした

「「よぉい……どんっ!!」」

────

出だしから、ユウキは一息に敵集団のただなかへと飛び込むと、周囲を囲むドㇻウグルの位置を瞬時に確認して手近な一体に斬りかかる。
そこからの戦闘は、もし他のプレイヤーが見て居ればさぞおかしな光景に写った事だろう。剣を持ったモンスターが次々にそれを振り回し、斬撃の残光が周囲に無数の軌跡を描くにも関わらず、少女の身体にはただの一つの傷もつかぬまま、ドㇻウグルたちのダメージエフェクトだけが一方的に朱い光を散らすのだから。

「ほっ!やっ!エイッ!」
懐に潜り込み、素早く回り込んだかと思うと、背中越しに突きで一撃、振り向いたその一体に無理にこだわる事はせず、即座に別の一体に接近しては斬りつけ、また離脱。
周囲が全て敵という状況の中で、彼女は決して一体に長く関わろうとはせず、超至近距離まで接近して斬りつけては即座に離脱を繰り返す。しかしならば彼女が何の作戦も無くただ一撃離脱を繰り返しているかというと、そうではない。彼女はある一定の範囲のみでその動きを行っているからだ。部屋にひしめき合うドラウグルがユウキに向かって集中していけば行くほど、その周囲のMobの密度は高まり、必ずユウキに関わる事が出来ない個体が出る。そう言った個体は無視して、ひたすら至近に居る個体にダメージを蓄積させ、そして一定以上までダメージが溜まったところで……

「せぇ、のっ!!」

片手直剣 水平四連撃 ホリゾンタル・スクエア

ユウキ自身を囲むように放たれた正方形を描く残光が、拡散するように彼女の周囲を囲み、消える。同時に、ユウキの周囲に群がるように殺到していた干からびた死人の集団が、同時に4体爆散した。おおよそ片手剣で行ったとは思えぬほどの殲滅力。ユウキ自身も「即興で行った」それが上手く行った事に気分を良くしたのか、ニコリと笑ってリョウの方を見る。如何に自分よりも間合いの広い武器を使っているとは言っても、これならば流石に──

「ソォ羅ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
雄たけびを上げて、巨大な刃を持つ長柄の得物が振り回される。まるで暴風の如く荒れ狂うその一閃の下に3体ほどのドㇻウグルが空中高く吹き飛ぶ。

「へ……」
その全てが、床に落下するよりも早く空中で爆散し、水色のポリゴン片となってリョウの周囲に降り注いでいた。あまりにも出鱈目なその光景に、ユウキの口は半ば彼女の意志とは無関係に開き……。

「ず……」
「これで、八ィ!!」
「ズルぅい!!!?!?」
まったくもって正当かつ素直な感想を吐き出した。

「はっはぁ!片手直剣に薙刀が雑魚の掃討で負けるかよ!この勝負貰ったぁ!!」
「ズルい!リョウそれズルいよ!フェアプレーは!?」
「フェアプレーだぁ!?んなもんこないだ間違って燃えるゴミに出したね!!」
「フェアプレー燃やすなー!?」
言いながらも二人は周囲に群がるドㇻウグルを次から次へと撃破していく。が、そのテンポは明らかにリョウの方が優っている。細かいダメージを蓄積させて範囲攻撃で仕留めるユウキと、広範囲に高火力をばらまくリョウとでは、こと殲滅力と言う点においては勝負になるわけがないのだ。

「酷い酷い!リョウ最初から分かってたんだぁ!!」
「やる前に気が付くべきだったなぁお嬢ちゃん!!」
余りにも子供っぽい(ほぼ片方が原因だが)言い合いをしながら戦い続けた二人は、ほんの数分ほどでドラウグルたちを殲滅していった。終わった後、互いのスコアは9対16、ただ戦闘が終わった頃、ユウキがリョウをポカポカしたことは、言うまでもない。

────

「おーい、機嫌直せってユウキよう」
「ふーんだ!リョウがそんな大人げない人だと思わなかったよ!」
「少年の心を忘れないと言って欲しいねぇ」
「反省してなーい!」
プリプリと頬を膨らませて前を歩くユウキに、リョウは苦笑しながら少しからかい過ぎたかと頬を掻く。

「悪かった悪かった、お詫びに今度なんか美味いもん驕ってやるから、頼むから機嫌直せ、な?」
相手が相手なら食べ物でつろうとするような行為は逆効果なのだろうが……

「……何食べるか決めて良い?」
「(割とケロッとしてんなぁ)おう、勿論だ、食いたいもんあるか?」
予想通りと言うべきか狙い通りと言うべきか、ユウキはクルリと振り向くと、手を後ろに回してコテンと首をかしげる。シリカばりに素直なその反応に吹き出しそうになるのを何とかこらえて聞くと、彼女は間髪入れずに即答した。

「クレープ!」
「あ?なんだお前さんクレープ好きなのか?」
「うん!大好き!」
「ほぉ……おし、ならとっときのとこ連れてってやる」
少女らしいと言えばらしい好物ではある、ただ彼女は割と好物が多そうなタイプだと感じていたのだが、迷いなく即答するほどクレープが好物なのか。

「とっておき!?へぇぇ……リョウって甘い物のお店知らないかと思ってた」
「ハッ、舐めんなよ?オレはこれでも甘味類にはうるせぇぞ?」
「えー?なんか「意外なんだろ、もう言われ飽きたっつーの」そんなに言われてるんだ」
やや食傷気味な評価に苦い顔をしたリョウを見て、ユウキは愉快そうにケラケラと笑う。リョウは面白くも無さそうに鼻を鳴らすと、歩きながら懐からモスミントの煙棒を取り出して先端をトントントンと叩いた。

「あー、歩きタバコは駄目だよー?」
「タバコじゃねーです、見た目だけだし熱くねーし」
薄緑色の煙をくゆらせながら、彼は肩をすくめて少し意地の悪い笑みを浮かべたユウキを見返すと、そう言やあと前置きして尋ねた。

「話変わるけどよ、お前さん剣の扱いはどこで最初に覚えたんだ?初めから戦闘メインのMMOやってた訳じゃねぇんだろ?」
「うん、ボク達、初めは、セリーンガーデンで遊んでたから。セリーンガーデンは《ハウジング》っていうのがゲーム要素のメインのだったんだけど……」
「あぁ、某《~~~~の森》みたいなやつか」
「え?なにそれ?」
「2000年代の初めから最近まで続いてる、人気のハウジング系ゲームシリーズでな、こないだ久々に新作が出た」
ハウジング系ゲームと言うのは、文字通り自分の家を立て、その内装をカスタムして楽しむゲームの事だ。リョウが挙げたシリーズの作品を始め、戦闘要素が少なく、のんびりと楽しめるタイプのタイトルも多い。

「確かセリーンガーデンは、ビジュアル方面にリソース結構割いてたんだっけか」
「うんっ、ALOも凄く綺麗だけど、セリーンガーデンの世界もとっても綺麗なんだよ、今度アスナ達も招待したいくらい!」
「へぇ、興味はあるな……で?そんなお美しい世界から、なんだって最強無敵の絶剣様が生まれるに至ったんだ?」
「むぅ、なんかその言い方くすぐったいなぁ……えっと、そのセリーンガーデンで会った友達に、《アスカ・エンパイア》ってゲームに誘われて、そっちにダイブしたのが剣に触った最初かな」
少し懐かしむように言った彼女に対して、リョウは少し驚いたようだった。加えていた煙棒を人差し指と中指に挟んで口から外すと、興味深そうに言う。

「あ?なんだお前、《アスカ》やってたのか」
「リョウさん、アスカ知ってるの?」
「当然。割と有名だぞ?シード系列のゲームが出る前のVRMMOとしちゃ、基本プレイ無料の割に出来がかなり良かったって聞いてる」
「うん!アスカの世界も凄く綺麗だったなぁ……」
少しだけ、どこか誇らしげにも見える様子で話すユウキの言葉は落ち着きながらも弾んでいて、彼女がその世界でも多くの思い出を作ってきたのだろうと、聞かずともわかる。
アスカエンパイアは、ALOと同じくリョウたちがSAOから帰還する前に、世間からのフルダイブ系ゲームに対する強い風当たりの中でサービスを開始したVRMMORPGだ。したがってザ・シード系列のゲームではなく、ALOとは違ってシード稼働後もその連結帯(ネクサス)に加入することも無かったためコンバートは出来ないが、FPSや西洋ファンタジー系列の世界観が多かったVRMMO初期において登場した、クオリティの高い和風テイストメインの世界観と、独特の戦闘スタイルは今もコアなゲーマーからVRMMO初心者まで幅広い層で高い評価を得ている。

「聞いた話じゃ、スキルの発動方式が割とユニークなんだってな?フミコミザンだか、何だか……」
「アハハ、違う違う!踏み込みはキーになってたけどそんな名前じゃないよー《グラウンド・サークル》っていうんだよ、こう、一歩目で踏み込んでサークルを出して、二歩目でスキルを選ぶの」
地面を大げさに踏み込みながら説明する彼女の様子はしかし演技っぽい様子ではなく、中々どうして堂に入っていて、恐らくは実際に彼女がアスカ・エンパイアの世界で彼女がしていた動きなのだろう。リョウ自身も体感したことの無いゲームシステムに興味をそそられつつ、腕を組む。

「ほほう……なんだ、《~~~~~エグゼ》は無関係か」
「え?なにそれ?」
「2000年代がまだ一ケタ台の頃にあったアクションRPG。ゲームアーカイブとかでプレイすっとこれが中々単純でも奥深い戦闘システムでな……、まぁそりゃいいんだよ、そこで覚えたのか?」
「うん!ボク、アスカでは侍やってたんだよ!」
「侍ねぇ」
その頃を思い出すかのように、彼女は両手で構えた剣を振る動作をして見せる。成程、その少女侍こそが、現在の絶剣ユウキの原型になったのだろう。しかし和風テイストのゲームとなると……

「なぁ……アスカにも薙刀あったか?」
「あったあった!あ、ねぇ、そう言えばリョウってなんで薙刀使ってるの?」
「そうかやっぱあるのか……ん?何でって?」
「前に姉ちゃんが言ってたんだよ、薙刀は女の人の武器だったって、それにリョウの筋力なら、大剣とか使う人が多いじゃない?」
「あぁ……まぁ別にその手の武器が嫌いって訳じゃねぇがな……」
肩をすくめて、リョウは斬馬刀を取り出す、何故か大剣ではなく薙刀にカテゴリされたそれは、ALOを始めてから此方、リョウの「普段の」相棒として多くのMobを屠ってきた。

「まぁ、早い話使いやすかったんだよな……俺はなんつーか、昔から剣の類が苦手でよ、ガキの頃俺の爺さんに剣道やれっつわれたときも続いたのひと月かそこらだったし、まぁ合わねぇんだよな多分」
「それで、薙刀?」
「あぁ、SAOで元々槍が使いやすかったんで使ってて……そん中でも突くより薙いだり払ったりってスキル使いまくってたらたまたま薙刀スキルが出て……これが思いの外すげぇ使いやすくてよ……」
気が付くと、2人は戦闘や武器の扱いから、これまで行った世界の話まで、色々な事を取り止めも無く延々と話し込んでいた。つい先日まで自分達がお互いに対して感じていた後ろめたさの事は、そんな会話の中でどこかへと消えていた。

「さて……よーやくか」
「うん、多分此処がボス部屋……だよね」
そうして、2人は狭い通路を抜ける。たどり着いたその場所は先ほどの部屋に似て天井が高く、部屋の奥には見慣れた大きさの門がある。
アインクラッドのフロアボスが待ち構えるその部屋の入り口に酷似したその扉には、三つの宝玉がはめ込まれており、リョウたちが部屋の中ほどまでやってくるとそのうち一つがぼんやりと紅く光を放った。

「あれって……」
「ふん……多分あれだろ、部屋の入り口は三つあって、入り口にたどり着いた分だけあれが光る」
「じゃあ三つ光ったら……」
「他の連中も別の入り口にたどり着いたってこったな」
そう言っている間に、ほどなく他の二つの宝玉にもぼんやりと光が灯る。途端、門が重々しい石の擦れる音を響かせながら、土埃と共に開き始めた。

「揃ったらしいな」
「うん……他の人ルートが死に戻りして一人もいなくなってたらどうなってたんだろ?」
「さぁな?ま、多分全員無事だろ。そう言う連中だ」
「えへへ……うんっ、そうだね!!」
嬉しそうに頬を緩めて、ユウキは腰から黒い剣を抜き放つ。リョウはくわえていた煙棒を投げ捨て、踏みつけながら斬馬刀を構える。お互いの顔には、知らず笑みが浮かんでいた。

「んじゃ、とっととこの面倒な迷路を終わらせちまおうかい?」
「おー!!」
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか?

と言う訳で今回はリョウとユウキの会話シーンをメインとしましてお送りしました。
漸くこの二人をしっかりと会話させられる段階までやってきて、少なからずほっとしております。同時に此処に来てようやく自分でもある程度納得のいくユウキが書けてきたように思います。彼女のキャラを雑談の中でどうつかんでいくかはある程度以上に課題だったのですが、何とか書いていけそうです……
さて、ようやくこのダンジョンもボスモンスターとの戦闘になり、このダンジョン編も終盤へと近づいております。

ではっ! 
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