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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第267話 見せちゃった秘匿

 
前書き
~一言~

遅くなってしまってごめんなさいっっ!
そして、もっとごめんなさい…… 話、進んでません………。映画編までもう少しお待ちいただければ……。

書いては消して、書いては消して、で、更に リアルでいろいろあって 出来なかったので 殆ど出来てた話を入れちゃいましたw

うぅ なかなか自由な時間が………、で、でもガンバリマス。

最後にこの小説をよんで下さってありがとうございます! これからもガンバリマス!


                            じーくw 

 


 聖バレンタインデーの夜。

 隼人は、帰路につき一仕事を終えた。
 後はもう就寝するだけ。明日へ備えて万全の体調を整えよう! ―――などと言えば、また渚あたりから 脳天手刀打ち(チョップ)をまた。今度は割と強めに浴びる事だろう。確かに現実世界でではしっかりと果たす事が出来たと思う。
 受け取った想いに対して、自分の想いを、誠意を、日ごろからの感謝も全部込めて、皆に渡す事も出来たとリュウキ自身では思うことが出来た。自画自賛をするわけではないが、皆等しく笑顔を見せてくれたから。


 でも、それはあくまで現実世界でのみの事。


 現実ででは会う事が出来ない人が、ALO(むこう)ではたくさんいるから。その点も渚は理解しているし、ALO内でプレイしているのだから更にわかる。

 そもそも玲奈や詩乃、そして木綿季、藍子とALOでまた会おう、と約束もしているし、渚にも事前にしっかりと教育を受けている為、そんな愚行は犯さないのが正しい認識なので、つまり言ってみただけなので、リュウキはしっかりと行動をすると宣言しよう。

 でも、少々時間が遅くなるのだけは、事前に連絡を入れているし許してもらいたい。
 仕事がまだ残っていたから。……それに、その仕事とは強ち、他の皆と関係ない、とは言えないものだから。




 ベッドに横になっていた隼人はゆっくりと身体を起こした。
 身体の状態を軽く確認すると、頭に装着されているアミュスフィアを外し、軽く頭を振って乱れた髪を直した。
 そんな隼人の傍には、綺堂が直立不動で佇んでいた。 隼人と目が合うと、ゆっくりと頭を下げたのちに微笑む。

「お疲れ様です。坊ちゃん」
「うん。爺やもね! 僕は……って、……あ、ぅ……、坊ちゃん……、それに僕。うぅ まただ。やっぱり、恥ずかしい」
「ほほ。申し訳ありません。2人きりになるとどうも昔を思い出してしまいますので。私も、坊ちゃんも」
「う~ん……、そこまで昔と言うわけじゃないし、それは僕……オレも解るけど、何とかしないと。……ほら、やっぱり爺やと2人だけだったら口調とか、一人称も戻っちゃう事もあるから。……オレ、オレは隼人。オレはリュウキ。オレ、オレ、オレ……」

 綺堂と隼人の2人だけであれば、以前の様な何処となく甘えが見える隼人になってしまう。それは ずーっと前からそうだったから 仕方のない事なのだ。SAO時代よりも長い時を一緒に過ごしてきたから。
 でも、SAO時代の方が遥かに短いとはいえ、密度の濃さ、あの濃密な期間を考えてみれば 一概には言えないかもしれない。
 そして今は親子水入らずの時間帯ともいえるから やっぱりどうしても~ なのだ。ふと思い返して 恥ずかしい、とわずかに顔を紅潮させる隼人、が定番だ。

 こればかりは、長年共に戦い続けた戦友たち。そして最愛の人も知らない自分だけの秘密にしている。特に秘密にする様な事ではないのでは? と何度か綺堂に、渚に言われているのだが、隼人は首を縦には振らない。

 あの世界、仮想世界が生まれて今日。

 仮想世界で、産声を上げ生まれ出たリュウキは、リュウキではあって、隼人ではない。矛盾した言い方ではあるが、細部においては違うと隼人自身は思っている。デジタル信号。数万、億、兆、京と無限に等しい数の信号が流れているあの世界と現実世界は違う。
 
 隼人とリュウキは、同じではある、が、厳密には同じ存在ではない と思っているのだ。

 リュウキとして仲間たちと出会った。だから、リュウキだから隼人とは違う。





 ―――???





「……つまり、『恥ずかしいから無理です』と言う事ですよね? 隼人君。結局な所」
「っ……」
「全部確認すると少々混乱しそうなので、簡略させました」
「そ、そんな気は使わなくても良いですよ……」


 長々と説明をしてしまって 時間をかけてしまって、申し訳ないが簡単に纏めると……つまり、聞かれるのが凄く恥ずかしい、と言う一言に尽きるのだ。

 いつの間にか来ていて、ひょこっ と顔を出した渚に痛烈に指摘されてしまい、隼人は首を竦めた。

「私は そちらの隼人君も良いと思いますが。玲奈ちゃん達にもそう接してみてはどうでしょうか?」
「それは嫌ですよ。……そもそも、いきなりだと豹変し過ぎだと思いますし。変な心配をかけてしまいそうです……。自分で言っておいてなんですが」
「一瞬なら、ビックリっ! とは思いますが、そこまで心配はしないかと。……それに玲奈ちゃんは喜ぶかもしれませんね。恋人の別な一面を見れたのですから。とても可愛らしい隼人君を」

 グっ! と笑顔でサムズアップする渚。
 そして、微笑ましそうに佇む綺堂。

 当の隼人は げんなり……としていた。

「――いや、でも可愛いって思われるのは嫌ですよ。男なんですから。ただでさえ色々とあったのに」(GGO編参照)
「ふふ。でも、最後は皆笑顔でした。ほら、勿論隼人君も含めてです。……良い思い出にはなりましたよね?」
「……否定はしません。いえ、否定は出来ない、ですね」
「なら考えてみてください。きっと最後にはみんな笑顔ですっ」

 隼人は、なんだか綺麗に纏められそうになるのを感じたから、ぱんっ! と手をたたいた。纏める~と言うのは、素のままで、ありのままの自分で行きましょう! とだ。
 確かにやぶさかではない。なんだか説得されてしまいそうな自分もいるのも確かだ。でも、やっぱりそれはそれ、これはこれの方が良いし、いきなり『はい、どーぞ』と言われても対応できる自信がない。面白おかしくからかわれる未来しか見えないのも苦悩の種だ。

「とりあえず、この話はここまでにしましょう。オレはALOの方で約束がありますので、それに――今回は仕事、でもありますし」
「おっと、そうでしたね。今日はこの辺りで。……ふふ、 存分に楽しんできてください」

 渚には敵わない……と隼人も思う。

 菊岡も同様な感想を渚には持っており、意味を理解する事が出来た。あいにく、菊岡に関しては 渚は決してやさしくなく、寧ろ鬼軍曹と化す勢いだから、感じているモノの根幹部分は全然違うだろうが。














~新生アインクラッド 第22層 キリト×アスナの家~



「ふ~ん。それで遅くなっちゃったんだー。現実の学校では沢山の女子たちに、ALOでは綺麗な綺麗なお姉さんたちに。更には自宅でって。毎日毎日見えない所でレイ以外の女の人にもイチャコラしちゃってるんだね~、りゅーき君ってば」
「……まぁ、予定より1時間も遅れてしまったし、詫びもしたい、とも思ってるが、そこまで悪意むき出しにしなくても良いと思うんだが? リズ」

 元々仕事関係で遅れる事は殆ど直前に連絡はしているものの、それ+渚との話(詳細は省く)も長くなって更に遅れてきてしまったリュウキ。それを面白おかしく、にやにやとさせながら 非難をするリズ。

 明らかに楽しんでるのは見てわかる。

 そして勿論、リズが謀った通り レイナやシノンはリュウキの方を睨み? をきかせていた。レイナはあからさまに嫉妬全開。渚との事は知っているが、同性のレイナが憧れる程の大人な女性。リュウキに限って、とはいくら思っても やはり頻繁にリュウキの家に~ となるとどうしても膨れてしまうのだ。
 そして、シノンは極限まで殺気を消し、それでいて冷ややかな絶対零度な視線。綺堂とは 今までもそれなりに交流はある……と言うより、綺堂がシノン、詩乃の事を少なからず気にかけている、と言うのが正しいかもしれない。唯一の一人暮らしの女の子なのだから。そんな交流の中で、勿論 渚とは面識もあり、それなりに話もするが……レイナ同様シノンも素敵な女性だとわかる。

 超有能な美人秘書。

 と言う肩書がしっくりくる女性だから。


「ハイハイ。リズもそこまでそこまで。もうちょっとで新しいクエストが始まるんだから、集中しなさいって。レイもしののんも落ち着いて。そんなのいつもの事でしょ?」
「わ、わたしは別に何もっ! それに全然落ち着いてるもんっ!」
「…………リュウキ。後何分後だっけ?」
「ん? ああ。30分切ってるよ」
 
 アスナがパンパンっ、と手を叩いて収集を付ける。
 そして レイナはアスナに反論。シノンは 気にしてるわけない、オーラを全面に出して話題そらしをした。
 
「あー、そうだ。ここからはただの質問、と言うか確認だからね? ほんと。あんた達アレだけのチョコ。どーやって処理すんの?」
「う……。ちゃんと食べるよ。……ぜん、ぶ?」
「なんで疑問形なんだ? それにしても正直なところ、オレも驚いてる、かな。山のようなの、って。現実(リアル)でもALO(ここ)でも見たことないし」

 リズがくいっ、と親指を向ける先にあるのは、山々と積まれた箱の数々。ストレージ内に入れて、収納するというのが一般的と言うより、当たり前の事ではあるのだが、こう言った感じでオブジェクト化する事もある。


 確かにこれ(チョコ)をストレージに入れて、『チョコ×50』と表示されるだけなど味気なさすぎだろう。


「あはは……。アリシャさんって おやつ付きで~ っていうのが定番と言うか勧誘の口癖だったんだけど、本当だったね~」
「はい。猫妖精族(ケットシ―)の領土では、チョコの素材となるアイテムのドロップ率が他の領土に比べてなぜか高い様なんです。……ケットシーってお菓子好きって設定……だったのかなぁ?」

 リーファとシリカは、はむはむ~ と用意してくれたクッキーを頬張りつつ、山の様なチョコレートに驚きの色を見せていた。リーファとシリカも当然チョコに関しては異議あり、と言いたい。もらった事に対して思う所がないわけではない。でも、レイナやシノンが圧倒的だから、逆に冷静になれるというものだった。それが良いのか悪いのかはわからないが。

「でも限度と言うものが……」
「近々大型アップデートの件もあるし、いろいろと助力を願いたい~ って感じじゃないかな? サクヤもそれ言ってたし、スリーピングナイツの皆とよく一緒にいるって所も美味しい所だって。まぁ、それまでに色々なイベントはあるけどさ。統一トーナメントとか」

 最後の一口。クッキーをはむっ! と口の中に放り込んだリーファ。むぐむぐ、と咀嚼をさせてからの数秒後。シノンは思い出したかのように顔を上げて、リュウキの方に向いた。

「今回は出るの? トーナメント」
「………仕事があった、かも?」
「そう言う濁す様な事をリュウキが言うときって、たいてい嘘よね? 慣れない事するものじゃないわよ」
「ぅ……」

 嘘、とは言えないだろう。
『~かもしれない』と言う事はあるとも無いともとれるからだ。でも 何事もしっかりしているリュウキ。特に現実の仕事関係でそんな曖昧な事はしないから、殆ど嘘だと言える。それは皆よく判っているのだ。

「はぁ~ 良いじゃない別に。ちょーっと目立つくらいなんだっていうのよー。あたし なんか、良いトコ3回戦くらいまでしか行けないのに」
「……いやいや、戦闘スタイル取ってないリズが、3回戦まで行けるだけで凄い事だと思うんだが」
「うるっさいわねー。リュウキやキリト達を見ちゃうと麻痺っちゃうのよ。それに、こちとら戦闘職じゃなく鍛冶職だけど、それでもプライドっていうのがあるの!」

 キリトのツッコミに抗議するリズ。SAO帰還者としての間合いの取り方。相手と合わせる呼吸。何より死線を乗り越えた戦いを経験した事。それを踏まえて やっぱり負ける~と言うのが悔しいものなのだ。ランとユウキのタッグ戦の時だって、シリカと同じように悔しかったのだから。

「でもリュウキ君。ユウキと約束をしてるんじゃなかったの? トーナメントには出て、って。さっき嬉しそうに言ってたよ? 約束したー、ってさ。ちょっと今検診があって来てないけど」
「ぅ。あ、ああ。確かに約束はした……けど」
「女の子との約束を破るのは、酷いですよ? お兄さん」
「うぐっ……」

 アスナの言及、そして ユイがアスナの肩から、ひゅんひゅんと飛び上がってリュウキの肩にのった。

「確かに良いとは言ったけど……、開催の規模が第1回とはくらべものにならない程広がってて正直げんなりだよ……。おまけに何でかRYUKIの事もバレてたらしい。流出する様な事は絶対ない、と思ってた自分が恥ずかしい……。一から見直さないとだ」

 はぁ~ と深いため息を吐くリュウキ。
 ひょこっと顔を出したシノンが くすっ、と笑いながらつづけた。

「BoBの時はバレてなくて良かったわね。もしあの時バレてたら中継カメラひっきりなしにリュウキを追いかけてきてたかもしれないわよ」
「………その時は、全部壊すから大丈夫だ」
「いや、アレって壊せるようなものじゃないんだけど。でも、リュウキならやりそうよね……」

 シノンは苦笑いをした。
 
 因みに 説明すると 以前死銃事件の際に 実は、リュウキの名で大いに盛り上がっていた。死銃の絡みで仲間内ではあまり注目されてなかったのだが、Mストでも何度か持ち上げられたHN:RYUKI。それが大いにGGOの世界を揺らせた。
 その名は、世界一のプログラマーであるのと同時に、VRMMOと言うジャンルが始まる以前、ジャンル問わず、様々なオンラインゲームで常にトップランクに位置していた最強の名をほしいままにしていた名前でもある。勿論、それがリュウキ本人。VRMMOと言う自分自身の姿がアバターでとは言え はっきりと見られてしまうという事もあって、色々とVR世界では自重しよう……とか思ったりしてた時期もある様だが、結果は言うまでもない。

 そして 以前の戦績も驚愕の一言だ。
 中でもFPSでは、怒涛の200連抜き。ジャンルこそ全然違うとはいえ現在ユウキやランが記録した連勝記録のダブルスコア。その伝説は根付いており、ネット動画では未だに人気を博している。更に銃ゲーであるGGOで盛り上がるのも無理はない。

 ここで疑問が残るだろう。
 リュウキは、露出する事が少なかったというのに、なぜそこに結びついたのか、と。
 GGOでのリュウキが嘗て伝説? とまで呼ばれたRYUKIと同一人物だとバレたか。答えは簡単で、そんなの言うまでもない事だったりする。

 GGOで神懸かり的なスキルを、キリトと共に披露したからだ。

 戦車に勝った所を皮切りに、キリトと異常な時間のバトルを展開。ハンドガン(マグナム・SAA)とナイフだけでBoBを突破。

 だから、厳密には流出したとかではない。アレだけのスキルを見せ、そして名前も出して、連想しない方があり得ない、と言う事だ。ALOでもGGOでも大人気なのだから。

「えー。リュウキ君。ユウキさんとの約束……断っちゃうの? 悲しむと思うよー。あんなに楽しみにしてたんだし」
「っ……」

 レイナ自身が残念そうな顔をしていた。ユウキが楽しみ! と飛び跳ねていたのはついさっき見ているし、それにALO内でも五指に入るであろう超好カード。見れないのはやっぱり残念の一言。

 リュウキは、ん~ と何度も唸る。頭の中に浮かんだ天秤。どちらに傾くかは……、やはり いつもいつも頑張っているユウキの方へと傾いた。いつも皆が言う様に 本当にもう今更だから、と言う理由もどことなくあったりするが。

「……出るよ。出ない、って言ってないだろう?」
「流石お兄さんです!」
「どの辺りが流石なんだ……?」
「リュウキ君だもんねー」

 ユイが、リュウキに頬擦りして、レイナはにこにこと笑っていた。

 誰もが微笑ましそうに笑みを零していた。

 リュウキは少々複雑な心境ではあるが、可愛らしい妹が喜ぶ。ユウキだって喜ぶのなら、と私情を押し殺したのだった。







 そして約30分後。


 仕事で遅れてきたクラインやエギル。検診も終わって今日入る事が出来たユウキやランも揃い、今日参加できる全員が22層の森の家に集った。

「しっかしよー、リュウの字。どういうクエストなんだ? 今回の。リュウキが一枚かんでる、って聞いたぜ?」

 クラインは、クエストに備えて愛刀のカゲミツの手入れをしつつ 今回の情報をリュウキに聞いた。 
 何でも、テストプレイの様なものであり、このパーティ限定なのだ。だからこそ、何も情報がない。……それこそが 非常に楽しみであるが。

「ん。オレもよく判らない。関わったのは確かだが、大部分はじい……、渚さん達だから。ただ楽しみにしてて、とは言われてる。一応アイテム関係も出るけど、後日 随時配信される予定だから、そこまでレアってわけじゃなさそうだけどな」
「でも、最初の第一号だろ? くーー、燃えるじゃねぇか! 美人なNPCのお姉さんがやってきて、『頑張ったあなたの為にこのチョコを受け取ってっ♪』とか ありそうじゃね!? くぅぅぅ! なんたって、今はバレンタインだもんなぁ!」

 クラインはいろいろと妄想を膨らませていた。これもいつも通りな光景なので皆結構冷ややかだ。

「チョコに加えて、膝枕とかしてくれちゃってりして! そんでもって食べさせてくれたり!? くはーーー! 夢が広がるぜー! ってか、逆にオレが膝枕してやりてぇよなぁ! 綺麗なお姉さんならなおさら~!」

 どんどん際限なく広がりそうなので、この辺りでシノンが氷の瞳を向けながら一言。

「あんたは、観葉植物でも膝にのせてたら良いでしょ」
「いや、観葉植物ももったいないし、用意するのも面倒くさい。その辺の石とか草で良いだろ」
「…………はぁ」

 キリトも同調した様でなかなか辛辣な一言。リュウキは一瞥しただけで無視とため息。

「ひでーー! 良いじゃねぇか! ちょっとくらい。って、もっと反応しろよリュウの字! ある意味一番ひでぇぞ!」

 口をとがらせるクライン。ぶーぶー言ってる姿はあまり可愛くないだろう……。
 そして あはは、と笑う面々。

「でもバレンタインっていうのはありそうだよねー。ボクもその手のクエスト沢山今日やってたの見てるからさ」
「ええ。今日はバレンタインデーですからね。凄くレアな高級チョコの素材が手に入る……と言うのも面白いかもしれません。アスナさんとレイナさん。その時は楽しみにしてますね?」
「おーー、それ良ーね。友チョコ~だってまだまだ流行ってるし。2人のなら大歓迎!」
「あ、私も食べてみたいですー。ね? ピナ」
「きゅるるる~~」
「お菓子作りは得意じゃないですし、私も楽しみだったり」

 ユウキとランの発言を始めとして、全員の視線がアスナやレイナに集中した。
 いきなりだったから、ちょっと困った顔をした2人だが『食べてみたい』と言ってくれるのはやっぱり純粋に嬉しい。でも、申し訳ないが二番手で良いのなら、と条件付けではあるが快く承諾した。 

 だって、一番手はそれぞれに決まっているから。





 そして、それから直ぐに部屋に光の粒が現れた。小さな小さな光で意識しないとなかなか認識できないレベルのものだ。

「パパ、お兄さん」

 まず、ユイがそれを視認した。ほぼ同時に呼ばれたキリト、リュウキもそれを見た。

「始まるみたいだな」
「ああ。間違いない」

 小さな光がゆっくりと広がり、大きく広がるにつれて 他の皆も気付いて視線が1つに集まった。

 鮮やかで暖かささえ感じる光が部屋を包み込み、やがて形を成していく。
 白い翼、鮮やかな金色の髪。そして まだ表情は光ではっきりとは見えないが、起伏に富んだ身体。それだけで、クライン辺りは興奮を隠せられず、爛々と目を輝かせた。勿論 違う意味で他のメンバー達も目を輝かせた。何が起きるかわからないからこそ、楽しいのだから。
 が、その中でレイナとシノンだけは違った。

 最初こそは 皆と大体同じ反応だったのだが。

『ふぅ~~。よーやく出てくれたわぁ!』 

 その光の正体が いったい何なのか……、いったい()なのかが直観したからだ。

「っっ。えっ……? えええっ!?」
「あ、あんたは!」

『はあ~い! バレンタインの精霊ちゃん。ここに降臨(こ~りん)っ!』

 いつか見た事のある光の精霊? だったから。

 そんな2人の混乱を余所に、他のメンバーたちは皆目を輝かせていた。

「うっひゃー、すっごく綺麗なお姉さん精霊だねー。それにバレンタインの精霊さんだって事はやっぱり 報酬はチョコレートかな 姉ちゃん? バトルも楽しいけど、こっちもとても楽しみだよー」
「ふふ。落ち着いて、ユウ。 んー、今までの世界を含めてあまり無かった展開だよね。やっぱりALOは素敵です」

「それにしても、凄く凝った演出ね。イベントのしょっぱなからってのはねー」
「私は初めてかもしれないよリズ。イベントの終盤になるにつれて どんどん大きくなっていく、って言うのはあったんだけど。最初から此処までっていうのは あまり記憶に無いかな……? ユイちゃんは知ってる?」
「そうですね。確かにママが言う通り。クエストの演出は終盤に向けて、つまりゴールに向けて最高潮に盛り上がりを見せていきます。例を挙げると、普通の村人NPCからの依頼で始まり、最後には実は、北欧神話の神々の使いだった、と。プレイヤーをあっと驚かせる展開になっていくんです。其々の感じ方になりますから、一概には言えませんが、私も一番だと思いますママ。それに特別にリュウキお兄さん達が作ったのであれば まだまだこれからもっと凄くなっていくと予想出来ます」
「ふっふっふ~ そりゃー楽しみよねー」

「んー、私は何処かで見たことある様な人? だと思うんですけどー」
「あ、リーファさんもそう思いました? 実は私もなんです。雰囲気は兎も角、何かこう感じて……。ピナはどう思う? 覚えてない??」
「きゅる、きゅるる~」
「そっかー。進むにつれて思い出せるかなぁ」

「うっひょーー!!!」
「ちっとは落ち着けよ。純粋にクエスト楽しもうっ! って若者らがいる前だぜ」
「うっせーー、こちとら成人越えた大人だっての! 大人にゃ大人の楽しみがあるんだよー!」
「はぁ~。ま、ロクでもない目にあいそうな気がするから気をつけろよ?」
「不吉な事言うんじゃねぇよ! エギル!」

「……ん、んん? お前は確か……」
「あれ? やっぱリュウキは判るのか? オレも何か見たことある様な感じがしてるんだが、思い出せなくて……」


 それぞれの感想を口々に発し、軈てバレンタインの精霊? の光が部屋いっぱいに包み込んだ時、全員が転移した。

 ハート型の大きな大きなチョコレートの上に。


「ええ!? あ、あれ? 私たちの家はーー!?」
「ママ。落ち着いてください。転移したようです」
「ほ、ほっ……。そっか良かったぁ」

 まさか、家がチョコレートに変わってしまうなんて、ある意味悪夢だ。頑張りに頑張って手に入れた思い出の家だから。……よくよく考えたら そんな理不尽極まりないクエストは無いが。

「凄いわね……。胸やけしそうな景色だけど、そんな甘過ぎないし。程よく香るなんてねー」
「景色も何だか一気にファンシーになっちゃってー」
「きゅるるるるっ!」
「あはは。ピナもチョコ好きになっちゃうかな?」
「ほんと、おいしそうだよねーこれって食べれるのかな? かな??」
「ユウ。意地汚い事しないの」
「わ、わかってるよーボクだってそれくらい!」
 
 女性陣は大盛り上がりを見せる。
 2人を除いて……。


「ちょ、ちょっとーー、絶対あなた、花のっ! プネウマの花のクエストの時のっ!!」
「……ヴァナディース。なんで此処にいるのよ」


『うふふっ』


 きらんっ☆ と目が光ったかと思えば、即ざにリュウキとキリトの2人の元へワープ。

『やっほー♪』
「うおっ!!」
「っ。ん。やっぱり、見覚えがあるわけだ。あの花鳥風月クエスト……。SAOの時の」


 両腕で2人を抱き寄せた。
 豊満な胸がふにふに、とキリトの頬に当たって、顔を赤くさせ、リュウキには頬擦りする。 

 先ほどまで穏やかな、朗らかな、仄々としてたハズなのに一気に絶対零度近くに下がった気がした。クラインだけは熱の籠った嫉妬の念を向けられたが。


『チョコレート争奪戦。始めるわよぉ。 今から10分間。この広場にチョコレートを持った私の子たちが逃げ回るわぁ。頑張ってGETして、この子達にプレゼント! 指定した数のチョコレートをプレゼント出来たら、皆にもれなく天にも昇る程の美味しい美味しいチョコレートをプレゼントするわよっ♪ あー、あの子達が持ってるチョコを食べちゃうのはお勧めしないからねー? この男の子たちに渡して初めて、美味しくなるんだからっ♪』


 ルールをちゃんと聞いてる人は何人いるだろうか。宣言した通り、この精霊を二回りほど小さくさせた子達が縦横無尽に駆け回っていたのだが、反応せず。

 ただただ、文句を言おうとツカツカ、と無言で迫る乙女たちだったが、チョコレートの精霊? に近づく事は出来なかった。大きな大きな翅を広げて、空に逃げられてしまったからだ。

 特殊な空間のせいか、妖精たちの翅は使う事が出来なかった。


『この男の子達は凄すぎるから~。ちょーっとだけ預かっておくわぁ。だいじょーぶ。丁重にもてなすからさー』


「ん……。縛り系のクエストか。以前もそうだったが」
「ああ。以前聞いたヤツか。リュウキは眠らされたんだったな」
「そうだ。手伝えなくて少々肩身が狭かったが。今回も頼る事になりそうだ。皆に」

 リュウキが冷静だったおかげで、キリトも何とか邪気退散、煩悩鎮静、心頭滅却、獣欲消失……と念じて頑張れた。それで、眼下ですさまじい殺気を放ってたお嫁さんのが、少しだけ柔らかくなった……気がした。


「(うぅぅ……、りゅ、りゅーき君と き、キス。あの子、覚えてるの……??)」

 レイナはかつての記憶が戻ってきて悶々としていた。あの時は僅かに入っていたアルコールのせいで勢いよく行っちゃったのだが、今はそれに頼る事が出来ないから大変だ。

 だが、もっともっと大変だったのは、実はシノンだった。

「(……だい、じょうぶ。だいじょうぶ。しの。シノン。あなたはだいじょうぶ。おちついて、おちついて。―――――でも、でもでも。あの時、わたしのはじめて(・・・・)を……っっっ~~~!! み、みられて?? い、いえいえいえ。周囲に気配はまったくなかったし! で、でも特殊能力とかあったら……??)」

 冷静な顔を、冷静な顔を、と何度も何度も念じたが、記憶がどんどん再生されてしまって無意味だった。その上 まったく動く事が出来てなかったから。
 


 その後―― さっさと終わらす! と言うことで 怒涛の勢いでチョコレートを回収し、キリトやリュウキにプレゼント。手渡し出来て嬉しい反面、隣のが正直不快。と言う何とも形容しがたい感情になっていたのだった。


 




~第22層 リュウキとレイナの家~


 全てが終わり、全員がログアウトした後の事。
 リュウキは、綺堂こと ジン、そして 渚ことシィと一緒に再度ログインしていた。

 その理由はあのクエストについて話があったから。

「少しばかり、気になった事があってね。2人に話を聞きたかったんだ」
「はい。存じておりますよ。あのチョコレートのお嬢さんの事、ですね?」

 流石はジン。リュウキが考えている事などお見通し~、と言える程の先読みである。

「うん。クエストについては面白いと思ったよ。最近のイベントはやっぱりユーザーも増えたし、統一トーナメントとかの話題もあるからか、戦い(バトル)系統のイベント中心だったからさ。……でも、あのNPC、ううん。もうそんな風には見えないかな。まるで、ユイを見ている様だから」

 リュウキはそう答える。あの感情豊富な表情、そして受け答えの自然さとその豊富な知識。女性陣を手玉に取るという荒業。……そして何より、あまり視ないようにはしていたのだが、好奇心に負けて少しだけ彼女をリュウキは視た。その数値が膨大な量、そしてそれに見合う処理速度を持って、彼女を構成していた。それはかつて、ユイを見たときのそれに酷似していたからこそ、性格は明らかに違うのだがユイを連想させたのだ。

「はい。リュウキ君の言う通りです。彼女はメンタルヘルスカウンセリングプログラムシリーズのプロトタイプとなっていました。……プログラムと称するのは私も聊か抵抗がありますが、言うならばユイちゃんの前身、原型ともいえる存在です。そして自己学習機能、処理能力がどのプログラムよりも群を抜いていて、あの旧アインクラッド……SAO時代の記録、人々の記録。その無限とも思える膨大な様々なデータを内包している前代未聞のプログラムです。アインクラッド、カーディナルが崩壊したというのに、彼女は今も存在し続ける事が出来ているのですから」
「そう。……成程、経験豊富な知識を持ってるわけだよ。……それで、彼女はこの世界を巡ってる、って事で良いのかな? ザ・シードを、……宇宙とも言えるこの世界を自由自在に」

 クエストが終えてひと悶着があった後に、彼女は姿を消した。
 文句が言いたい! と言うわけで追いかけようとしたが、まるで捕まらず、ユイでも無理だった。
 
 それだけでリュウキは連想させたのだ。ALO内だけに収まる様な事はない、と。あの天真爛漫な性格? から考えても 同じ場所に留まり続けるのは性に合わないとも思える。

「おそらくは、と言えましょう。試作の段階。そのクエストのテストプレイを行ってる最中に彼女と会えたのも偶然でしょう」
「その偶然であそこまで合わせるなんて、ほんと順応し過ぎでしょ……。いろいろと皆が振り回されて大変だった様だしさ」

 アドリブの聞いたやり取りの数々。それはまるでプレイヤーそのもの。実際にアバター操作している人間がいても不思議じゃない、とリュウキも舌を巻く程だったから。
 
「皆が振り回された、と言うのは リュウキ君が鈍感さんなのも起因してますよ? レイナちゃんも膨れてたのでしょう?」
「ぅ……そ、それは やっぱり難しくて……。一番、難しくて……」
「もう、しっかりしないとダメですよ?」
「……はい。善処します」
「ふふ。よろしい」


 聞きたい事も終えて、暫く3人で仕事関係を交えつつ談笑した後、シィは 視界の左隅にある時刻を見た。

「申し訳ありません。時間が来てしまいましたので、私はこれで」
「了解しました。今日はありがとうございました。シィさん」

 リュウキはすっと頭を下げると、その隣にジンもきた。

「私からも。……本日はどうもありがとうございました。おかげ様できっと大切な思い出がまた、増えたと私は確信しております。シィお嬢様」
「ふふ……。一助出来たのであれば、光栄極まれりです。綺堂さん……。いえ、ジンさん。それにジンさんに『お嬢様』と呼んで下さるだけでも、私にとってはご褒美の様なものです。では、リュウキ君もまた」

 淡い光の粒子となって、シィはこの場から消失した。 

 

「ねぇ爺や。帰る前にさ、紅茶を飲んでいかない? 渚さんとも、って思ってたんだけど、丁度タイミングが合わなかったのが残念だけど」
「ええ。ご一緒致します」
「ほんと? 良かった! 以前手に入れた素材なんだけどさ。……とても、懐かしい味なんだ。爺やが初めて入れてくれた味だから」
「それは……、とても楽しみです」
「うん! 今アイテムストレージに入れてなくて、倉庫に入れてるから取ってくるよ。待っててね」
「はい」

 
 リュウキは笑顔でそう告げると席を外した。その笑顔には笑顔で答える。
 2人のやり取りは、仲間内のそれとはまた違った種類のもの。……親子ならではの安らぎ、そして深い親愛の感情が全面に出ていたものだった。


 丁度リュウキが席を外したその時だった。新たな来訪者がこの場に訪れたのは。


「ごめんくださーい」
「おや?」

 ガラっと扉が開く。
 この家はプレイヤーホーム。常時開いていると言う事はなく、無関係のプレイヤーが中に入るには、家主に招かれなければならないが、仲間内で 身内の許可を得ていたなら話は別。

「アスナお嬢様。どうなされました? リュウキ坊ちゃんに御用でしょうか?」

 この場に来たのは家主のレイナの姉であるアスナだった。

「いえ。メッセージの確認が出来てないのを思い出しましてALOに。その時、綺堂さん、ジンさん達がいらっしゃったので挨拶をと。家は近いですからね。レイが、妹がたくさんお世話になってますから」

 アスナはニコリと笑ってお辞儀をした。 
 ジンも穏やかに、安心できる柔らかな微笑みをアスナに向け、左手を腹部に当て ゆっくりと頭を下げた。

「感謝をしているのは私の方です。……いつも、いつも皆さまには感謝しか御座いません。アスナお嬢様」 
「私も一度ゆっくりとお話をして、聞いてみたかったんです。しののん……、詩乃ちゃんやレイみたいに。それに お料理も一度 審査をしてもらいたい、って思ってるんですっ」
「私で宜しければ喜んでお受けしましょう」
「本当ですか! ありがとうございます!」

 綺堂と明日奈は、玲奈や詩乃に比べたら交流は少ない。沢山玲奈や詩乃から話は聞く事はあった。だからこそ 自分自身も2人のようにたくさん聞いて、色々と勉強もしたかった。
 何より隼人を育てて、隼人が大好きと初めての感情を向けた人だから。


 そんな事を考えていた時だ。

「――ぃやっ!」

 リュウキの声が聞こえてきたのは。
 そして、それはリュウキにとってはある意味最大の誤算(笑)でもあった。

「爺や 忘れてたよ。紅茶だけじゃないんだ。ショコラクッキーもあってね。僕、あの味だけは覚えてる。忘れられない味だから」

 リュウキの声は間違いない。だけど、明らかにいつもとは違う声色。そう言うなら甘える様な、甘えているような、そんな感じだった。
 いつもの冷静で凛々しくて、勇ましいリュウキのものではなく、 その可愛らしいと皆に何度か言われた姿にマッチしている、と言える。

 ガチャっ! と勢いよく開く扉。

「あのね、もう一つおもい、だしたん……だ、け………ど?」
「………………」

 開いたと同時に相見えるアスナとリュウキ。

 リュウキは固まっていたのだが笑顔だった。この笑顔はアスナも見た事がある。最近はめっきり少なくなったが、特にSAO時代に見た顔。時折、一瞬見せるリュウキの笑顔だった。笑顔だったんだ。でも完全に固まってしまっていた。
 
 
「あ、あは、あはは…… そ、そのー」
「……………あ、あす………?」
「ごめんねーリュウキ君。ちょっとお邪魔してるよー」


 アスナはただただ、リュウキの笑顔に負けない様な笑顔を見せていた。
 申し訳なさもあるが、滅多に見る事が出来なかった超がいくつも付くであろうレアな笑顔を見れて、良かったとも思う。


 何よりも やはり、『リュウキはとても可愛い』 と心から思うアスナだった。
  
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