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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第181話「これからの事」

 
前書き
魅了の件も片付き、クロノサイドの処理も終わります。
 

 






       =out side=





「……そう、ですか……」

 式姫達がまとまっている部屋。
 そこで、鈴が椿と葵の事を皆に伝えていた。
 鞍馬を除いた式姫達と、別の部屋から来ていた葉月はその話を聞いて愕然とする。
 ちなみに、鞍馬はクロノや澄紀と共に報告書の内容を纏めるのを手伝っている。

「欲を言えば犠牲はない方が良かったけど……そうね、あの二人だけで済んだのも、奇跡に近いものね……」

「だからと言って、納得できるかは別だけどな……くそっ……!」

 織姫、山茶花がそう言って悔しそうに拳を握る。
 しばらく交流がなかった分、ショックが少なかったであろう猫又やコロボックルも、悔しそうに顔を伏せていた。

「そん、な……」

 一番ショックを受けていたのは、やはりと言うべきか、葉月だった。
 直接の交流は僅かだったが、知らない訳ではない。
 そのためか、葉月はその場に倒れこみそうになるほどショックを受けていた。

「しばらくすればどの道伝わる事だろうけど、それでも先に伝えておきたくてね……」

「瀕死の状態での憑依。確かにそれは危険な行為です。こうなるのも頷けるかと……」

 天探女が冷静にそういう。
 絡繰り仕掛けだからこそ、冷静に事実を受け止められたのだろう。

「……でも、実際に見た訳じゃない……ですよね?」

「希望を持つのを悪い事とは言わないけど、その可能性は低いわ」

「え……」

「わざわざこんな事で嘘をつく利点がない。あの戦いの後に誰かが死んだなんて嘘をついて喜ぶなんてとんだ人格破綻者よ。……で、それを言った司と奏はそんな性格をしていないし、そもそも嘘で誤魔化した様子はなかった。むしろ、あの二人も信じ難かった様子だったわ」

「…………」

 葉月の言葉に、鈴は申し訳なくなりながらもきっちりと否定する。

「悲しく思うのも分かるし、落ち込むなとも言わないわ。……でも、立ち止まらないで。前を向きましょう。……あの二人は、きっとこうなる事は望んでいないわよ」

「……そうですね。確かに悲しい事ですが……だからこそ、乗り越えなければ」

 悲しむのも、悔やむのも、泣くのも構わない。
 だけど、時間を掛けてでもそれを乗り越えるべきだと、鈴は言う。

「はい……っ……」

 葉月も、心苦しそうにしながらも、二人の死をしっかりと受け止める。
 猫又やコロボックル達も、長年生きてきた事もあって、葉月よりも人の死に慣れている事もあり、すぐに受け止める事が出来た。





     ―――コンコン

「えっと……入ってもいいかな?」

「この声は……那美さんですね。何か御用でしょうか?」

 すると、そこへ那美が久遠と共にやってくる。
 面識のある蓮がすぐに応答する。

「あの……クロノ執務官から、少し落ち着いたから皆にアースラの設備を案内するようにって……そう言われて……」

「貴女がですか?しかし、貴女は別にここの組織の者では……」

「局員よりも一般人の方が感性が近くてわかりやすいだろうって事みたい」

「そういうことですか……」

 那美は応答する蓮と会話しながらも、部屋の中の雰囲気を感じ取る。

「……何か、あったの?」

「それは……」

 蓮は言い淀む。
 那美は椿や葵とも交流があり、そして人の死にも慣れている訳ではない。
 それを知っているからこそ、不用意に伝えていいのか悩んだのだ。

「……椿と葵は知ってるわね?」

「鈴ちゃん?知ってるっていうか、二人に霊術は教えてもらってたけど……」

 那美は、どことなく嫌な予感を感じ取った。
 それに対し、鈴は言い聞かせるために那美の肩を掴む。

「……あの二人は……死んだわ」

「……えっ?」

「ずっと戦い続けた結果、よ」

「そん、な……」

 葉月と同じように、那美も信じられないと言った風に驚く。
 実際、言葉だけでは到底信じられなかった。

「…………」

「落ち込むのもわかるわ。……私も、信じたくなかった」

「……あの二人には、何かとお世話になったから……でも、死んでしまうなんて……」

 涙を流す那美。鈴はそんな那美の背中を擦り、落ち着かせるように慰める。

「くぅ……」

「久遠……ありがとう……」

 黙って肩に乗っていた久遠(子狐状態)が、慰めるように顔を擦り付けてくる。
 そんな久遠の気遣いに、那美も少しは落ち着く。

「……無理して立ち直らなくてもいいわよ?」

「ううん……戦うって事は、死と隣り合わせなんだって、二人からよく言われてたから……無理はしてないよ……」

 式姫は戦争などで人の死をよく見てきた。
 そのために、那美よりも早く立ち直っていた。
 しかし、那美も立ち直りが早かったため、鈴は無理してないかと心配したのだ。
 事実、那美は立ち直った訳ではなく、悲しみを引きずっていた。
 ……それでも、頭では理解できていた。

「……とりあえず、案内するよ。……あれ?もう一人いたんじゃ……」

「鞍馬なら執務官の手伝いをしてていないわよ。まぁ、あっちはあっちで何とかやっていると思うからあまり気にしないでもいいわよ」

「そう?じゃあ……」

 悲しさを少しばかり引きずりながらも、那美は式姫達を案内した。

「(……皆にああは言ったけど、やっぱり信じられないわね……。出来たら、直接確かめるか聞きに行けたらいいのだけど……)」

 そんな中、鈴はやはり自分の目で確かめるまで、希望を捨てられずにいた。









「……さて、あー、まぁ、情報整理が終わった訳だが……」

「く、クロノ君、大丈夫……?」

「ああ。これが終わったら休むつもりさ……」

 再び招集が行われ、疲弊しきったクロノが説明する。
 話す内容は、今回の事件のあらましと、これからの事。

「なぁ、昨日と違って人数が少ないが……」

「同じ仕事をしていた者は既に内容を知っているからな……既に休んでもらっている」

 現在集まっているのは、ある程度自由な時間があった面子ばかりだ。
 エイミィや、他の事務処理系の局員はいなかった。
 ちなみに、神夜はこの場にいないが、一応通信で聞いてはいた。
 今顔を出せば厄介になる事を考慮しての事だ。

「―――以上が、上にも報告する事件のあらまし、という事になる。多くを省いてはいるが、何か質問はあるか?」

 まずは上にも報告する事件のあらましを説明する。
 戦闘の詳細や、優輝とパンドラの箱の関係以外を、大体説明する。

「……とりあえずはないみたいだな。気になった事は後で聞いてくれ。さて、ここからが肝心な事なのだが……」

 次に、これからの事に話が移る。
 基本的にクロノやリンディなど、それなりに上の立場の人が対応する事になっている。
 戦闘要員だったり、一局員でしかない優輝の両親や、偶然現地にいた扱いであるなのは達はあまり対応する必要はないと、クロノは説明する。

「地球……日本における法に関しては、管理局として責を負う事に決定している。君達も何か言われれば正直に答えればいい。……まぁ、大抵の事はこちらで答えるがな」

「それって、つまり……」

「……ああ。変に何かしようとするのはやめてくれ。謂れのない事を問われれば憤るだろうが、そこは抑えてほしい」

 変に騒ぎ立てれば、それだけ立場が不利になると、クロノは言う。
 真摯な態度で応じるのが吉だと、そう断言した。

「君達本人に責は負わせないつもりだ。君達は事件に巻き込まれ、学友を守るために力を振るっただけに過ぎないからな」

「それは、そうだけど……」

 クロノの言葉に、司が困ったように声を上げる。

「君達は言わば正当防衛なんだ。それに、嘱託魔導師に重荷を背負わせる訳にはいかないからな。司は僕らに背負わせているように感じるかもしれんが、それが最善なんだ」

「……うぅ……」

 まるで自己犠牲。司はそう思わざるを得なかった。
 元々前世の経験から責任を感じやすいものだから、余計にその想いが強かった。
 クロノの言う事も分かっていたため、それ以上に何か言う事はなかった。

「情報メディアへの対応は、提督を中心に行う。……難しい事を考えるのは、僕らの領分だ。変に気負う必要はない」

「……それはそれで、大丈夫かって不安はあるんだけどな……」

 クロノがそう締めくくり、帝はふとそう呟く。

「そこは信じてもらうしかない。確かに、僕らは地球の常識に疎い所があるが、それでも上手く事を運んでみせるさ」

「……頼むぜ」

「……ああ」

 その期待には応えて見せると、帝の言葉にクロノは力強く頷いた。

「……ところで、私達、学校を放り出してきたも同然なんだけど……」

「ああ、その事か。それなら、少ししたら一旦戻れるから、その時にでも連絡してくれ」

「そっか。それならいいや」

 アリシアがクロノに問い、その返答に安心する。
 なんの連絡もなしでは、学校に残ったままの友人たちが不安がると思ったからだ。

「治療や休息、後処理のために皆に留まってもらっていたが、これからしばらく……向こうの政府機関とのやり取りまでは自由に過ごせる。一旦戻って、家族や友人に顔見せぐらいはしてきた方がいいだろう」

「……確かに。聡君とか、あの場に残したままだからね……」

 裏を返せば、政府機関と管理局の交渉などの時はまた自由ではなくなる。
 それを理解しているのは何人かいたが、言うのは野暮だと黙っていた。

「……じゃあ、伝える事はそれだけだ。帰れるようになったら改めて連絡する。では解散!」

 最後にそう締めくくり、集まった皆は各々の部屋へと戻ったりしていく。

「何とか、ひと段落って所だね……」

「そうだね……本当、短い間に色々あったよ……」

 僅か三日で大門が開き、それを閉じ、さらには魅了を解いた。
 それら全てに立ち会った司にとって、それは怒涛の三日間だった。

「……思い返したらどっと疲れが……」

〈休んでください。マスター。魔力や霊力が回復した側から使っています。相当の疲労が溜まっていますので、以前のなのは様のようになってしまいます〉

「にゃっ!?」

 いきなり名前を呼ばれてなのはが反応する。

「あはは……それは……確かに休んだ方がいいね……」

「以前のなのは……あー、確かに」

「ええっ!?」

 すぐに思い当たる司とアリシアとは違い、なのはは何のことかわからず困惑する。

「多分、以前なのはが疲労で倒れた時の事を言っているわ」

「あ、奏ちゃん。……そっか、確かにそれは休んだ方がいいよね……」

「倒れた張本人が言うと重みが違うわねー」

 アリサも会話に混じり、軽口を言う。

「う……そう言われると弱い……」

「ま、それはそうときっちり休まなきゃね」

「戦闘続きだったし、魅了の事もあってへとへとだもんね……」

 なのはは気まずそうにし、アリサとすずかが話を切り替える。
 “しばらく自由に過ごせる”と言われた事で、どっと疲れが押し寄せてきたからだ。

「……これから、地球では普通に暮らせなくなるのかな……」

 ふと、アリシアから呟かれたその言葉に、沈黙が包み込む。

「魔法が露見して、それを使う私達の姿は各地で目撃されてるからね……」

「クロノ達が頑張っても、普通は無理になるかもな……」

 司、帝が考え込むように呟く。
 その言葉で、さらに空気は重くなる。

「うーん、やっぱり自由はなくなるんだろうなぁ……」

 地球で数少ない魔法を使える人物。
 管理局側だろうと地球側だろうと、自由はなくなるだろうと司は考える。
 
「事態は日本だけじゃ収まらないものね。日本があんな災厄に見舞われたなら、各国も何事かと注目するだろうし……」

「お姉ちゃんとか、アリサちゃんのお父さん、士郎さんとかの伝手を使っても、どうにもならないかも……」

 アリサとすずかもどんどん不安になってくる。
 人は未知をよく恐れる傾向にある。それを二人は危惧しているのだ。
 特に、すずかは夜の一族なため、そう言った事は人一倍警戒していた。

「え……それじゃあ……」

「最低でも、注目されない生活は送れない。そういう事になるな」

 フェイトが不安そうな声を出し、今まで口を挟まなかった優輝が結論を言う。

「……はい、そこまでや。これ以上は空気悪ぅするだけやで?」

「それもそうだな」

「とにかく、今は休む事だけ考えればええ。今悩んだかってしゃぁないねんから」

 そこではやてが話の流れを切る。
 これ以上は不毛且つプラスにならないと判断したからだ。

「ほな仕舞いや仕舞い。皆きっちり休んで心身共に回復させるんやで」

「……そうだね。夕飯を食べて、しっかり休もう」

 会話を切り上げ、司達は食堂に向かった。









「少し、いいかしら?」

 夕食を取り、食堂を出ようとした優輝に声が掛けられる。
 声の主は鈴だった。

「構わないけど……用件は?」

「少し場所を変えましょう。ここで話すには内容が合わないわ」

 とりあえずと、鈴に先導されて話す場所を変える。

「あの、私達もついて行っていい?」

「貴女達が?別に構わないけど……どうしてか聞いてもいいからしら?」

 司と奏が同行しようと、名乗り出る。
 ちなみに、同じ転生者である帝は神夜の所へ行っていた。
 なんだかんだ心のケアに赴いていた。

「あまり広まってないけど、今の優輝君はあの戦いの代償で感情を失っていて……」

「……私達で、補足する必要もあると思ったからよ」

「……!そう、なるほどね……」

 感情を失っているという事に驚く鈴。
 一応、戦闘中に感情が消えている事を感づいていたため、すぐに納得した。

「貴方もそれで構わない?」

「二人がそういうつもりなら構わない」

「そう。じゃあ、行きましょう」

 鈴の先導について行き、四人は話が聞かれないような部屋に移動した。







「さて、用件なんだけど……聞きづらい事だけど単刀直入に言うわ。……かやのひめと薔薇姫、椿と葵が死んだのは本当?」

「っ……!」

「……本当だ。憑依したまま、僕の中から命が消えた」

「……そう……」

 移動した鈴は、少し躊躇いながらも単刀直入に椿と葵の事を聞いた。
 二人の事だったため、司が優輝の反応を気にしたが、優輝は普通に答えた。

「……少し、確かめさせてもらうわ」

 まだ納得しきれないのか、鈴は優輝の胸に触れて霊力を流す。
 優輝の体を探る事で、すぐに椿と葵が憑依していた事実を確認できた。

「(……確かに、椿と葵の存在が感じられない……。瀕死なら、簡易的な術では存在を感じ取れない場合があるけど、ここまで感じられないとなると……)」

 そこまで考え、鈴は探るのをやめる。

「……確かに、そうみたいね……」

「鈴さん……」

「椿と葵は、前世の私にとって恩人のような存在だったの。……さすがに、死んだと分かると思う所があるのよ……」

 少し悲しそうな顔で、鈴は言う。 
 司も奏も、それを聞いてばつの悪そうな顔をする。

「ああ、そんな思いつめないで。元々、式姫だからこそ生まれ変わった私でも再会できたようなものだし……むしろ、あれだけの犠牲で済んだだけでも奇跡だから……」

「その割には、納得していないようだけど」

「当然じゃない。見知った人物の死なんて、何も思わない方が珍しいわ」

「……そうだな」

 鈴が言っている事は、悲しみを誤魔化すために過ぎない。
 優輝がそれでも誤魔化せていない事を指摘するが、鈴はそれすらも肯定した。
 その言葉の内容に、優輝も心当たりがあるため、普通に納得した。
 感情がなくなっているとはいえ、あった時の記憶や経験からこういった事は理解できているため、変な齟齬が起きる事もなかった。

「……最後に、一つ確認させて」

「なんだ?」

「二人の型紙はまだ持っているかしら?」

 その問いに、優輝は少し考える。

「ちょっと待ってくれ」

 すぐさま懐を探り、二人の型紙がまだ存在している事を確認する。

「……まだあるが……それがどうかしたのか?」

「ッ……!」

 型紙を二枚取り出し、何でもないように優輝は言う。
 それに対し、鈴は驚き、目を見開いていた。

「ちょっと貸して!」

「え、あっ……!」

 奪い取るように鈴はその二枚の型紙を確かめる。
 その様子に、司は驚いたような声を上げる。

「……悪路王」

『言わんとしている事は分かる。……吾から見ても同意見だ』

「じゃあ……間違いなく……!」

 鈴と感覚を共有して言う悪路王も、それを見て鈴が思っている事と同じだと言う。

「え、何、どうしたの?」

「……“縁”が残っているわ……!これなら……!」

「まさか……」

 司と奏も、鈴の様子に僅かな希望を見出す。
 そして、そんな想いに答えるように、鈴は笑みを見せる。

「二人の再召喚が可能よ……!」

「「っ……!」」

 その言葉に、司と奏も笑みを浮かべる。
 優輝も、二人より反応が薄いものの、明らかにその事実に驚いていた。

「でも、どうして……」

「わからないわ……。でも、型紙も“縁”も残っているの。まるで、誰かが二人の死を望まず、帰ってくると願ったように、その通りに残っているの……!」

「望んで……願って……」

 鈴にもわからない“縁”の残留。
 だが、推測で述べられた言葉は、司にとって心当たりがあるものだった。

「……もしかして……!」

〈おそらくは。優輝様が倒れた時のあの祈りが原因かと〉

「心当たりがあるの?」

 それは、優輝が精神的負荷によって倒れた時。
 二人に帰ってきてほしいと、心から願った時の事。

「で、でも、あの時、あまり魔力を……」

 しかし、それは本当にただの“祈り”でしかなかった。
 天巫女の魔法として使った訳でなく、だからこそそれが原因だとは思わなかった。

〈……真髄の一端ですね。祈りの極致、それによる天巫女の力は、魔力をほとんど使用せずとも発動し、しかしながらささやかな希望を齎す……〉

「……じゃあ……」

「司さんの祈りで、二人が……?」

〈……おそらくは、ですが〉

 推測でしかないシュラインの言葉。
 だが、それでも司と奏、鈴にとっては嬉しいものだった。

「二人が……帰ってくる……?」

「そうだよ……そうなんだよ優輝君!」

「……そう、なのか……」

 優輝も噛み締めるようにその言葉を呑み込み、安心した顔をする。
 力が抜けたように、一瞬ふらつく。

「だ、大丈夫!?」

「……大丈夫だ。安心して力が抜けただけだ」

「そ、それならいいけど……」

 一度倒れた事もあり、司と奏はふらついた優輝を心配する。

「……喜んでる所悪いけど、再召喚するには色々と準備が必要よ。貴方達、さすがに召喚の仕方は知らないでしょう?」

「あ……そういえば……」

「椿と葵にも教わっていないな」

「やっぱりね……」

 思い出したかのように言う司と優輝に、鈴は呆れたように溜息を吐く。

「“縁”がこれ以上薄れる様子はないから、慌てる必要もないわね。再召喚するなら、入念に準備しましょう。私が確かめておきたい事もあるしね」

「確かめておきたい事?」

「幽世の大門についてよ。あの執務官にも、一応伝えてあることだけど……」

「大門について……」

 どういうことなのかと、奏が疑問に思って言葉を反芻する。

「私に憑いている妖……守護者との戦闘でもいたでしょ?悪路王って言うのだけど……本来門の守護者である悪路王がまだ現世にいられる原因を知りたいのよ」

『力のある妖や、特殊な妖であればしばらくは現世に留まる事もできる。だが、生粋の妖怪でもない吾が現世に留まれるはずがないのでな』

「私たちはこれの原因が幽世との“縁”にあると睨んでいるわ。幽世の大門が開かれた際に繋がった幽世と現世の“縁”が、大門を閉じられた後も続き、その影響で悪路王が残れるようになっている……とね。まぁ、推測の域を出ないのだけど」

 司達が知る由もなかったが、大門や他の門が閉じられた時、各地に妖は残っていた。
 門が閉じられたため大きく弱体化した上に、現地にいた魔導師や退魔士によって殲滅されたが、確かに悪路王と同じように消える事なく残っていた。
 ちなみに、京都周辺は大門の守護者が“禍式”を使う際に、瘴気として吸収してしまったため、妖が残る事はなかったりする。

「それって……大門がきっちり封印されいないとか?」

「あの子がそんな愚を犯すとは思えないけどね……。幽世の神もあの子の抜けてる部分を補うような性格に見えたし……」

「だからこそ、確かめに行く……と」

「さすがに明日に改めるけどね」

 “まずは回復を”。そう考えて、調査と再召喚は明日にすると鈴は言う。
 優輝たちもそれに異論はなく、了承した。

「午後に調査と準備。再召喚は夜に行うわ。時間帯もちょうどいいからね。午前は自由にしてちょうだい。学校とかへの連絡もあるでしょうし」

「わかった」

「了解!」

 明日の予定を大まかに決め、話は終わる。
 再召喚できるという可能性が出てきてから、司は終始喜びが声に出ていた。

「じゃあ、また明日ね」

 部屋から出ていく優輝たちを、鈴は見送る。
 一人になった鈴は、安堵の息を吐いた。

「……朗報ね。皆にも伝えておくべきね」

〈そうだね。それにしても、下げてから上げるなんて、君もSだね〉

「なんの話よ……。いえ、確かにしっかり確かめる前に二人が死んだと伝えたのは、いらない悲しみを与えたとは思っているけども……」

 マーリンと軽口を交わしながら、鈴も部屋を出て式姫達が待つ部屋へと帰っていった。













 
 

 
後書き
会話中、ほとんど参加しない優輝が不気味に思えてきた……。
口を挟む必要がないと思った会話は、悉く聞き専になるのが今の優輝です。

中途半端な終わりですが、とりあえずこれからに備えて今日を過ごす、といった感じです。
展開が久しぶりに進みにくくなってきました……。 
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