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ツインズシーエム/Twins:CM ~双子の物語~

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ツインレゾナンス
  第20話 消せない灯火


「最悪……っ!」

 セレシアがフォンバレン家を飛び出して追っていた先は、フォンバレン家の裏にある少々大きめの森の中。薄暗い木々の合間を走りながら、セレシアは早くも自身の判断を後悔していた。


 痛手を負ったエースのことをすべてミストに任せ、自身は自らの大切な妹をさらった2人組を追いかけるという役割分担は、セレシアが1人で勝手に決めて出て来たものなので本来はその結果に愚痴や文句を言える立場ではない。

 しかしながら、森の中に入った時点で戦況がすでに相手の方にかなり傾いてしまっている今の状況を考えると、セレシアはどうしてもそう言わずにはいられなかった。

 その理由はいくつかあるが、まず挙げられるのは、早く追わなければお手上げになってしまう状況だったことから何も考えず窓から飛び出したことだろう。悠長に靴を履く時間など当然与えられなかったため、今は森の中を裸足で駆けていくしかない状態であり、地面にある石ころやでっぱりが時折スピードを緩めてしまう。結果として、セレシアは前方を走るローブ姿を追い続けるためには痛みをこらえるしかなかった。

 また、今のように逃走する人間を追う際には、少しでも相手のスピードを落とそうとするか自分のスピードを上げるかのどちらかを行うのが常識ではあるが、セレシアの炎属性魔法はどちらに関しても不向きであることも、理由としては十分に挙げられる。今自分たちがいる場所が森であることから延焼の恐れがある攻撃魔法を安易に使えず、炎属性魔法の中には加速魔法はない。

 相手よりも早く動くという点においては風による加速が可能なミスト、動きを止めるという点では氷による障壁が生成できるエースが最も適しているのだが、そのエースは魔力の流出によって痛手を追い、ミストはエースの看病に回ってもらっている以上、追う役目は消去法で一番不向きな自分が担うしかない。


 まだフォンバレン家にいた時に冷静に判断していれば、自分がエースの看病を行い、ミストが追跡を担当することで今セレシアが抱えている問題のいくつかは解決しただろう。

 にも関わらずそれが出来なかったのは、妹であるフローラがさらわれたからに他ならない。本人の意思とは関係なく遠ざかっていく妹の姿を見た時、他の誰かに任せたくない、これはあたしの仕事だと、そう思った自分の心を無視できるはずがなかった。

「待ちなさいっ!」

 そう言われて相手が待つはずもないことは分かり切っている。

 それでも、この声を出さずにいられない。足の裏に蓄積する痛みを振り切るように、その声を出す。

「待つと思うかい?」

 目の前を走るしゃべる方のローブ姿の人間が、セレシアの言葉への返答と共に一発の岩を投げてくる。魔法で作られたのであろうそれは間違いなく行動阻害のためのもの。回避したとしても、動きによるロスの分だけ阻害にはなる。

 本来ならば、炎属性の爆発魔法で砕けば済む話である。しかし、岩のある場所が進行方向と被るため、爆破した後の塵や破片をもろに浴びることになってしまう。それによる視界悪化は暗い森の中では致命的だ。

 その結果、ロスにはなるが横に避けるしかなかった。その動作の分だけ距離が開く。これ以上離されまいと立ち上がって再び相手を追うが、そこにある差は縮まる気がしなかった。

「待ちなさいっ!!」

 それでも追わなくてはならないのだが、言葉でしか威勢を張れず、次第に息が切れてくるようになる。このままではマズイという焦りが、心の中を埋め始める。

 すると、ローブ姿の人間が一人だけ立ち止まった。それは未だに目を覚まさないフローラを担ぐ方ではないので、セレシアはその視線をそちらから外して、フローラを担ぐ方にだけ再照準する。立ちふさがる障害を突破することも大事ではあるが、今の状況下でいちいち相手をしていては本当の目的からは一時的に遠ざかってしまう。

 それ故に、次の瞬間には、セレシアの意識からもう片方のローブ姿は消えていた。

 すると、どういうことが起こるのか。

「!?」

 これまでは視界に入っていたために何をするのか分からなくとも身構えることが出来ていた攻撃に対し、全く反応できなくなるのだ。

 背中に衝撃を受けたかと思うと、セレシアの視界は回転し始めた。驚く暇もないままに地面に這いつくばる体勢になるが、目の前で遠ざかっていく姿を見失うまいという気持ちが強いため、セレシアは全く気にせずに再び立ち上がって走りだそしていた。

 だが数歩進んだところで再び背中に衝撃を受け、セレシアは前に倒れこんだ。

 それでも諦めまいと、三度視界に捉えようと前方を見るが、その姿はすでに闇夜の森に紛れていた。どうやら見失ってしまったようだ。

「なんというか……無様ですねぇ」

 先ほどから地面に這いつくばっている時間が長くなったセレシアのことを、背後からそう酷評する男。振り向くことで見えたローブ姿の下の顔のマスクがより不気味に見える。

「何があってフローラをさらうの……?」

「そうですねぇ。さらう、というよりは、一時的に隔離すると言った方が、いいかもしれないですね。いずれは返します」

「は……?」

 相手としてはそれが質問の答えなのだろうが、セレシアには全く分からない。分かるはずもない。一時的に隔離する意味が全く理解できないのだから。とりあえず立ち上がってからも、理解には至らなかった。

 そんなセレシアの戸惑う姿に、目の前のローブと仮面に隠された顔の口角が上がり、ねばつくような笑みを作り出す。悪意はその本性を現し、次の瞬間には鋭い牙を剥いていた。

 ギリギリのタイミングで間に合ったセレシアの鞘から抜かれてない剣が、相手の短剣を防いだ。鍔迫り合い状態になっている刃を挟んで、問答が交わされる。

「邪魔だからここであたしを殺そうってわけ?」

「……だとしたら?」

「死ぬわけにはいかないでしょ!」

 セレシアが刀身に魔力による炎を纏わせ、気合いをこめるように押した。いつもなら相手によってはパワー不足でびくともしないのだが、今回は相手がその押しに逆らうことなく後ろへと下がったことで、結果的には距離を取ることに成功した。

「『アーデ・ロックショット』」

 相手の詠唱の後、目の前から岩石砲が放たれる。今度は目の前であるため、視界に捉えるのも、身体に命令するのも容易に出来ることだった。

 しかし、行動まではそうはいかなかった。痛んだ足のせいでコンマ数秒反応が遅れ、その結果岩石砲をもろにくらったセレシアは、後方に大きく吹き飛んだあと木に激突した。

「ぐふっ……」

 頑強ではない身体に強烈な一撃は、相応のダメージがくる。口から血を吐き出したセレシアはその場に膝をつきながら、前に視線を向ける。

 なおも敵意を失わずに見つめる視線の先には、ローブ姿の男が立っている。先ほどよりも不気味さが増したように見えるその相手は、明確な敵である。

 その口から、語られてはならない言葉が語られる。

「もう一度、生きて会えるといいですね、妹に」

「!?」

 それは、決して世の中に出てはならない秘め事。知っているのは先ほど明かしたエースとミスト、それに両親と一部の親戚、あとは校長だけである。親しい友人にも言っていない。

 にも関わらず、何故その事実を目の前にいるローブ姿の人間が知っているのか。その驚きが、セレシアの目を大きく見開かせる。

 相手の方は、その姿が非常に愉快であるようだった。

「今日の夕方、君の荷物持ちをしたんでしたっけね。あの時、一緒に一枚の紙を入れたんですよ。そのおかげで、僕は簡単にあそこにたどり着けた。尾行魔法とでも言いましょうかね」

 その言葉が告げる事実は、あまりにも現実離れしすぎているように思えた。

 しかしながら、それは目の前のローブの下から現れた顔によって、現実そのものであることを決定づけられたのだった。

「なんで……あなたが……?」


 仮面を外したことで現れたのは、フローラのクラスの生徒であるエアード・ヴィラノローグの顔だった。セレシアは声こそ聞かないものの、フローラのクラスにはよく出入りしていることから姿は知っていた。

「おやおや、絶句してますね。ならもっとすごいことを教えてさしあげましょう。2週間ほど前に妹さんを襲ったロープ姿も僕です。まぁ、それ以前の生徒襲撃も含め、僕は全く殺す気はなかったんですけどね。あくまでもミスディレクションのためでしたから」

 またしても驚愕の事実が突きつけられる。セレシアの頭は次々明かされる事実に消化不良を起こし、次々積み重なっていく疑問に思考回路をショートさせられながら、どうにか考えようとする。

 相手は、そんなセレシアに次々と現実を突き刺していく。

「話を戻しましょうか。尾行魔法のおかげであの家にたどり着けた僕が聞いたのは、あなたとフローラさんの会話と、その後のエース・フォンバレンとフローラさんの会話。非常に有益でしたし、何より予想が現実に変わった」

 自分に酔うように語るエアード。頭は十分に働かないながらも耳から情報を取り入れ消化不良を起こし続けた結果、最もたどり着いてはいけないものに、セレシアは最初にたどり着いてしまった。

「じゃ、じゃあ、今回さらわれたのは……」

「そう。君のせい。君が気づかなかったおかげで、僕はあそこに余裕をもってバレずにたどり着けたんです。つまり妹がさらわれる手助けを君がしていたってことなんですよ。いやぁ、非常に助かりました。手間が色々と省けましたし」

「え、うそ……だよね…………違うよね…………?」

 その事実に行き着いておきながら、なおも否定したい気持ちが上回ったために恐る恐る聞いたセレシア。足元がおぼつかない状態の彼女に対してエアードから容赦なく突きつけられた事実は、精神をごっそりと削り取っていく。

 その結果として出来たのが今の構図。口角が上がり、獲物を狩るのが楽しみで仕方がないとでもいうような様子のエアードと、脆くなった精神状態のまま満身創痍で構えるセレシア。

「さて、種明かしもしましたし、そろそろよろしいですかね?」

 これまで仮面の下に隠していた牙が、すべてを知った絶望に沈みゆく少女に容赦なく襲い掛かる。

 月光が差し込み神秘的な光景の広がる森の中に、黒に塗られた鮮血と、静寂をかき消す悲鳴が広がっていく。

 
 

 
後書き
物語はどんどんと終わりに近づいていきますね。もうそんなとこまで来てるのか、という何話か前からの言葉を今も思いつつこの後書きを書いてます。こんばんは、KZMです。

今回のお話ですが、前回の終わりにフローラが誘拐され、誘拐犯の2人をセレシアが追っていくお話となっております。靴を脱ぐ習慣があるからこそ、室内に入ってしまうと悠長に靴を履く準備が出来ません。加えて、魔法って言っても事実としてそこにあるのですから、炎をむやみやたらに放ってしまえば避けられただけで自然災害にもなり得るわけです。だからこそ、セレシアは今回のシチュエーションには最も向いていない。けれども追わなくてはならなかった、という感じですね。今の時点ではかなり不利に動いています。

そして犯人のうち1人の顔も分かりましたね。まさかまさかではなくやっぱりか、な人が多いと思います。そうです。エアード・ヴィラノローグですね。苗字だけ見れば悪者だって分かる親切設計ですハイ。何故彼がこのようなことをしているのかは後々ちゃんと分かります。

さて、どんどんとシリアスになっていくツインレゾナンスですが、ほぼ間違いなくあと6話ほどで終わります。すでにクライマックスへと動き出しているこの物語、一体どうなるのか、今後もご愛読してもらって確かめてください。以上、KZMでしたっ! 
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