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悲劇で終わりの物語ではない

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特異点F 『炎上汚染都市:冬木』

 世界の滅亡は余りにも突然であり、残酷であった。

 人理継続保障機関・カルデアにより人類史は100年先まで安全を保障されていた。

 しかし、2015年、突如、近未来観測レンズ・シバによる未来の観測領域が消滅
 これが意味することはつまり─



─2016年人類滅亡─



 カルデアは急遽、人類滅亡の原因を探ることを決意
 
 観測できない未知の領域を探索すべく、未だ実験段階の第六の実験を決行する。
 過去に発生した特異点の原因を解明ないしは破壊することを目的とした禁断の儀式



─その名を聖杯探索(グランドオーダー)



 人類史の存続を確実なものとすべくカルデアは運命と戦うことを決意する。

 だが、第六の実験である霊子転移(レイシフト)を決行しようとした刹那、勃発した中央管理室を巻き込む大爆発
 世界中から集めたマスター候補生が数合わせの一般人を除いて全滅

 瞬く間に中央管理室は死が蔓延する地獄へと変貌を遂げる。
 真っ赤に染まるカルデアスを背景に中央管理室は業火に包まれ、人類史は何者かの手によって無残にも焼き尽くされてしまった。

「酷い……」

 息を切らし、48人目のマスター、藤丸立香が中央管理室へと足を踏み入れる。
 肩にキャスパリーグ、カルデアの不思議生物であるフォウを乗せながら

「これじゃ、この場の皆は……」
「いや、それは違うよ、立香君。恐らく……」







 遅れてこの場に居合わせたDr.ロマ二の声を皮切りに突如、中央管理室内に甲高い音が響く。

 コフィンの扉から腕が生え、否、力任せに突き破られ、コフィンそのものが粉微塵と化していた。
 ひしゃげたコフィンの扉を乱暴に引っぺがし、一人のマスター候補生がその姿を現す。

 放心する立香を他所にそのマスター候補生がコフィンから這い出てきた。
 天へと突き抜けるように白髪を揺らす長身の男性

 47人のマスター候補生の一人としてコフィン内でレイシフトに備えていた波風晃人、ウィスその人であった。
 ウィスはその紅き瞳で周囲を見据えている。


「甘いですね。この私がコフィンの爆発程度で死ぬと思っているのですか?」


 ロマ二は苦笑い、立香は驚愕に声が出てこない。
 本人は五体満足、爆発の影響を毛ほども受けていなかった。

 中央管理室は燃えに燃え、崩壊を続け、カルデアスだけが動き続ける。
 その後、原因の解明をすべくDr.ロマ二は中央管理室から離れ、藤丸立香とウィスは瀕死の状態のマシュの手を握り続けるのであった。







─システム 霊子転移(レイシフト)開始します。座標 西暦2004年 1月30日 日本冬木─







─『特異点F 炎上汚染都市 冬木』開幕─







「な、これは……」
「冬木の町が……。これが特異点の影響ですか……」
「フォウ……(こりゃ酷い……)」

 無事、霊子転移(レイシフト)にて過去へと跳んだ3人と1匹
 
 舞台は聖杯戦争が開催された2004年の日本の冬木
 彼らは今、文字通り過去の冬木の大地を踏み締めていた。

 日本の中枢として発展を遂げてきた冬木
 だが、既に近現代の煌びやかな都市の輝きなど存在せず、今や血と死者が蔓延する町へと変貌を遂げていた。
 至る場所が激しく炎上し、街並みは大きく崩れ、人ならざる者の気配が漂っている。

 誰もが目の前に広がる惨状に言葉が出なかった。

「フォウ、フォフォウ!(それにしてもマシュの姿はドスケベだね!)」
「フォウさん、私に何か言っているのですか?」

 キャスパリーグがこんな状況でもあるにも関わらず、けしからんことを述べる。
 マシュは理解できずに首を傾げていたが

「ファッ、フォウ─!?(なっ、やめろ─!?)」

 キャスパリーグのモフモフの頬が左右に引っ張られる。
 キャスパリーグはウィスの縛りから逃れようとジタバタと暴れるが、当の本人はガッチリと掴み離さない。 

 ウィス達は荒れ果てた荒野と化した冬木の町を散策することを決意した。
 今なおキャスパリーグはウィスに掴まれたままの状態であったが







─今、未来を取り戻す物語が始まる─















 カルデアの所長、オルガマリー・アニムスフィアが逃げ惑う。
 大量のスケルトンの群れが彼女へと肉薄し、命を刈り取ろうとしていた。

「何で、私ばかりこんな不幸な目に遭うのよ!」

「レフ、レフはどこ!?いつだって貴方が私を助けてくれたじゃない!?」

 ガンドを放ち、命を刈り取るべく襲撃するスケルトン達を破壊する。
 多勢に無勢な状況でも彼女の目は死んでいなかった。

「アキトもこの場にいるのなら私を助けなさいよ!」

 既にコフィンの爆発で息絶えたであろう少年の名をオルガマリーは叫ぶ。
 それ程までに彼女は精神的に追い詰められていた。

「マシュ・キリエライト、助太刀に入ります!」
「マシュ!?」

 そんな絶体絶命の危機に駆け付けるはデミ・サーヴァントと化したマシュ・キリエライト
 彼女はその手に有する巨大な盾で瞬く間にスケルトンを粉砕し、破壊し、叩き潰していく。

「オルガマリー所長、ご無事ですか!?」
「貴方は一般人枠の……!」

 48人目のマスター、藤丸立香もその場に現れる。
 後方にはカルデアの謎の生物であるフォウを肩に乗せ、悠々と足を進めるアキトの姿もあった。



「フォウ、ンキュ?(ウィスは何かしないの?)」
「そうですね、援護でもしましょうか」

 キャスパリーグの言葉を受け、ウィスがマシュ達を助太刀すべく動き出す。

 親指を突き立て、両手の人差し指と中指を前方へと向け、照準を定めた。
 指先に集束するはガンド特有の紅き魔力



─スカサハ直伝ガンド─



 次の瞬間、前方で奮闘するマシュを援護すべくスカサハ直伝ガンドが火を噴いた。
 ガンド、それは対象を指差すことで体調を崩させる効果をもたらす呪いの一撃

 とある平行世界ではその身に宿る魔力の高さが影響し、物理的ダメージを与えるとされるフィンの一撃にまで昇華した少女もいたが、ウィスが放つガンドは一線を画していた。

 それは正に暴風、ガンドの名を被った別の何か
 指先からガンドが放たれた瞬間には、既に対象に到達しその身を破壊している。

 打って、打って、打ちまくる。
 手加減することなく、手心を加えることなくただひたすら打ち続ける。

 この数秒の間に放たれたガンドの総数は数百、数千、いやそれ以上
 尽きることのないエネルギーから生み出されるガンドの嵐は辺り一帯を即座に更地へと変えた。

 骸骨の兵士達は為す術なくその身を崩壊させ、否、ガンドが直撃した瞬間に爆散する。
 一体、また一体とオルガマリーを包囲していた骸骨の群れは瞬く間に塵と化していった。

「ファ──ww(ちょ、やりすぎww)」

 ウィスは無心にガンドを射出し続け、まるで作業の様に破壊し続ける。
 至る場所にクレーターが出来上がり、爆風と爆煙が生じ、汚い花火が生まれる。
 
「ちょっとアキト!私達まで殺す気!?」
「マシュ・キリエライト、離脱しました!」

 オルガマリーを抱えたマシュが戦線離脱することに成功する。
 マリーはヒステリーを起こしかけていたが

 見れば感情を有さないはずの骸骨の兵士、スケルトン達が撤退を始めている。
 だが此処で奴らを逃がす理由など存在しない。

「流石になかなかの逃げ足の遅さですね」

「ですが此方に敵意を向けてきた相手をおめおめと逃がすと思いますか?」

 ウィスが右手の人差し指の指先を天へと掲げ、莫大なエネルギーを一点に集束させる。
 膨大なエネルギーが一点に凝縮・集束し、圧縮されていく。

 その絶大なる破壊の閃光が天へと届く勢いで膨れ上がり、巨大な球体へと変化する。
 驚愕を隠せないマシュ達を他所に、ウィスはその破壊の一撃をスケルトン目掛けて振り下ろした。 

 瞬く間に、スケルトンの軍勢は塵と化し、消滅する。
 同時に、冬木の大地そのものが震撼し、見渡す限りの大地が消失した。
 


 その日、日本の冬木にてハルマゲドンが如き大爆発が起き、見渡す限りの大地が消失するのであった。














 無事、オルガマリー所長と再会することに成功した立香達

「ご無事で何よりです、所長」
『てっきりあの爆発を受け、亡くなられたとばかり……』
「勝手に私を殺さないでくれるかしら、ロマ二?」

 Dr.ロマ二は殺気溢れるマリーの迫力に押され、口を閉ざす。

「そ れ よ り も!」 

「"波風晃人"って絶対に偽名でしょ!?」
「……?」

 詰め寄るマリーに対してウィスは首を傾げる。

「白を切る気!?どこの世界に瞳が紅くて白髪の日本人がいるのよ!」

 マリーの言及は止まらない。

「それに、他のマスター候補生が瀕死の重傷にも関わらず、何故アキトは五体満足なの!?」
『あの、所長。非常に申し上げにくいのですが、本人はコフィンを突き破って出てきたんです……』
「ハァァァアア──!?」

 甲高いマリーの絶叫が響く。

「あと、さっきの神代級のガンドと宝具級の魔術についても説明して頂戴!」
『まあまあ、落ち着いてください、所長』
「ロマ二は黙っていなさい!」
『ひぇ……』

 Dr.ロマ二、あっけない。

「ドクター、この聖晶石を遣えば良いんですよね?」
『そ、そうだよ。召喚に応じてくれる英霊は完全にランダムだけどね』
「頑張りましょう、先輩!」
「ちょっと、そこ!所長である私を差し置いて、何勝手に英霊召喚を行おうとしているのよ!」
『うわ、不味い!所長に見つかった!?早く英霊召喚を執り行うんだ、藤丸君!』
「ロマ二は黙ってて!」
『ひぇ……』
「気付いてますか、マリー?貴方、既に死んでいますよ?」
「ハァァァアア──!?」

 マリーの絶叫と驚きは止まらない。

『凄いぞ、立香君!これは確実にトップサーヴァントの反応だ!』

 向こうでは召喚陣が光り輝き、周囲に途方もない魔力の本流が吹き荒れている。
 世界に浸透する程の魔力、間違いない。
 全英霊中、トップサーヴァントの反応だ。







「影の国よりまかり越したスカサハだ。お主をマスターと呼べば良いのか?」

 黄金比の肢体を包むは全身タイツ
 口元は黒いマスクで覆い隠され、表情を窺い知ることは出来ない。
 彼女の王者としての覇気が周囲を圧倒している。

 彼女こそ影の国の女王、スカサハ

『凄いぞ、藤丸君!一発であの影の国の女王であるスカサハを引き当てるなんて!』
「凄いです、先輩!」
「フォウ、ンキュ……(いやこれは立香の運と言うより、ウィスの……)」

 だが、当人であるスカサハはマスターである立香やマシュを見てなどいない。
 スカサハは終始、マリーと戯れるウィスを鋭い眼つきで射抜いていた。
 彼女の殺気に当てられたマシュ達は冷や汗ダラダラだ。

「私が折角、現界したというのに他の女性と呑気に話しているとは、良いご身分だな」







「ウィス!!」

 一息でスカサハはウィスとの距離を詰め、その紅き朱槍を手加減することなく振りかざす。
 頬にゲイ・ボルクの直撃を受けたウィスはその場から消え、その姿を虚空へと消失させた。

 時を同じく、キャスターとして現界したとある猛犬が途轍もない速度で飛来したウィスの直撃を受け、悲鳴を上げる。
 流石、幸運D

 最奥の洞窟には黒き騎士王、反転したブリテンの王が待ち望む。
 人類最後の光、カルデア最後のマスター、藤丸立香を待つのは光か、闇か
 それはまだ、誰にも分からない。
 
 人理を崩壊させ、カルデアを爆破した下手人はほくそ笑む。
 その身に危険が迫っていることに気付くこともなく、人理の崩壊を嘲笑うのであった。

 特異点F 『炎上汚染都市:冬木』の消滅まであと僅か
 
 

 
後書き
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