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戦国異伝供書

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第十七話 大返しの苦労その四

「出雲に向かわせてな」
「出雲から石見」
「あの国の銀山も手に入れて」
「毛利家をさらに追い詰める」
「そうもしていきますか」
「出来るなら安芸に入る、備中辺りでな」
 この国でというのだ。
「戦を終わらせたい」
「そしてですね」
「すぐに東にとって返して」
「東国の戦ですな」
「それにかかりますな」
「猿夜叉も大返しでじゃ」
 山陰の彼もというのだ。
「北ノ庄城に入ってな」
「そしてそのうえで」
「上杉家に備えて頂き」
「我等はですな」
「殿のお考え通り武田家ですな」
「あの家となる、飛騨も上杉家と接しておるが」
 この国はというと。
「山ばかりで攻め入ることも攻め進むことも出来ぬ」
「はい、あの国はです」
「まさに山の中にある国」
「それは出来るものではありませぬ」
 稲葉と安藤、氏家が信長に言ってきた。
「三木殿が降ったので当家の国となりましたが」
「しかしです」
「あの国への行き来は今も不便です」
 織田家の領地となったがだ、かろうじて美濃から道を築いてそれで行き来が出来てはいるがその道は険しい山道だ。
 それでだ、彼等も言うのだ。
「あの国はです」
「上杉家も兵を向けませぬ」
「当家からも攻められませぬし」
「だからあの国はよい、越中に接しているが」
 それでもとだ、信長も言う。
「しかしな」
「越中には攻めさせず」
「そのままですな」
「兵を置くだけですな」
「それだけでいい、あの国はな」
 あくまでというのだ。
「兵は北ノ庄城に置いてな」
「浅井殿に入って頂き」
「そうして守って頂き」
「最悪でも越前で上杉家を止めて」
「我等は武田家と戦いますな」
「それから上杉家ですな」
「そうする、しかし猿夜叉もいてくれて助かるわ」
 信長はここでこうも言った。
「留守に爺、都に勘十郎がおってな」
「浅井殿もおられて」
「何かと助かるわ」
 羽柴にも言うのだった。
「今もそう思っておる」
「そうですな、確かにです」
「爺と勘十郎、そして猿夜叉がおってじゃな」
「当家はかなり助かっております」
「まことにな。若し三人がいなければ」
 信長はしみじみとした口調で述べた。
「わしはもっと辛かった」
「全くですな」
「若しもです」
 ここで言ったのは秀長だった。
「浅井殿が長い間敵だったなら」
「厄介であったな」
「朝倉家も容易に降せずに」
「本願寺や竹田、上杉との戦にも邪魔になってな」
「大変なことになっておりました」
「そうだったであろうな。そう思うと」
 しみじみと思って言った信長だった。
「浅井家を早いうちに降せてな」
「猿夜叉殿にも当家に戻って頂いて」
「よかったわ、今も浅井家が裏切った訳はわからぬが」
「浅井の大殿が騙されたとのことですが」
 どうかという顔でだ、黒田がこのことを言ってきた。 
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