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人類種の天敵が一年戦争に介入しました

作者: C
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第16話

 
前書き

 遅くなりました。家を建てたり引っ越ししたりでゴタゴタしてます。年内にあと一話いけるか……? というゴタゴタ具合ですが、読んで頂ければ幸いです。

 

 
 パサリと執務机の上に報告書が落ちた。放り投げたのは執務机の主、ここ2日ほどで病的なまでに痩せてしまったマ・クベ中将である。もともと陰気な外見の男であるから、今の外見は死人に等しい。それでも声に力があるのは、痩せても枯れても一廉の将ということなのだろう。その声が、執務机の前で直立不動の少尉を打つ。

「少尉、喜べ。任務を与える」
「はい、司令官閣下。なんなりとお申し付けください」

 声を掛けられた少尉だが、この少尉はかなりアクの強い性格をしているため、相手が直属の上官であれば、やっと俺にも任務ですかい、くらいは言ったかもしれない。それだって少佐がせいぜいで――軍隊で三階級の差を屁とも思わないのは充分に問題児なのだが――さすがに中将閣下は一介の少尉が相手をするには偉すぎた。日頃の不遜な態度をおくびにもださず、新品少尉のような受け答えをするのも仕方ない。
 ガチガチに緊張している少尉には一切気を払わず、マ・クベは机越しに淡々と告げた。

「貴様は本日をもって新規編成中の独立重駆逐戦闘団へ配属となる。戦闘団でどのような役割が与えられるかはわからんが、貴様の活躍に期待する」

 貴様に拒否権はないと言わんばかりの態度である。実際、軍隊に拒否権は――それが明らかに間違った命令でない限り――存在しない。しかも今回の件は転属命令であり、部下にも上官にも疎まれて行き場がなく司令部付きとして席だけ置いている状態の少尉に拒否権など端から存在する訳が無かった。

「はっ! 謹んでお受けいたします!」
「戦闘団の人間が表に迎えにきているので、後は彼らから話を聞け。下がってよい」
「はっ! レンチェフ少尉、退室いたします!」

 カッチカチのレンチェフが退室し扉を閉める瞬間、マ・クベから声が飛ぶ。

「レンチェフ! 貴様は本日付で大尉だ。意味は解るな? 出る前に人事部から階級章を受け取っていけ」
「はっ! はいっ! 粉骨砕身して任務に当たります!」

 マ・クベはレンチェフ大尉に応えず、ただ手を振っただけだった。


「二階級昇進か……死んで来いってことかぁ?」

 大尉になって20秒、レンチェフは階段を降りながら呟いた。実際には死んで来いではなく、死ぬ気でやれということなのだろうが、昇進は昇進だ。戦時昇進だから戦争が終われば元に戻るだろうが、出先で功を立てればその限りではない。
 小隊長しか経験していない自分が大尉というからには中隊長だろうとレンチェフは目星を付けた。レンチェフは指揮も作戦立案も得意だが、何より自分のパイロットとしての腕前には自信があった。中隊長ならまだ前線で戦っていられる身分だ。連邦を叩き、出世もできる。出世はあまり興味はないが、階級が上がれば自分のやり方に文句を言う奴も減るだろうから、それは喜ばしいことである。
 ――陰険な官僚軍人かと思ってたが、遭遇戦で敵を叩きのめすだけあって、中将閣下はわかってらっしゃる。

 ウキウキと足取りも軽く基地の玄関を出たレンチェフは、外に出るなり目を細めた。故郷のスペースコロニーの人工照明とは違い、コントロールされていない暴力的な太陽光。手早くサングラスをかけたレンチェフは、自分を迎えにきたという戦闘団の人間を探して周囲を見渡した。未だに瓦礫の点在する駐車場には、連邦軍の残した各種車両が勢揃いしている。ジオン公国もそのまま使っているのだ。
 トラック、トラック、装甲車、戦車、トラック、装甲車、装甲車、装甲車、装甲車……見渡していると、一部の車両に動きがあった。連邦軍の軍用トラックではない。民間のファミリーカーだ。瓦礫と軍用車両で埋め尽くされた駐車場を縫うように走ってきたソレは勢いよく玄関に横付けすると、後部座席から二人の男を吐き出した。

「失礼ですが、貴方が独立重駆逐戦闘団に配属される方でしょうか?」

 丁寧に話し掛けてきた中年の男も一歩後ろで控えている若い男も軍服を着ていなかった。そこらの一般人の服装で、ファミリーカーから降りたことを考えれば当然だろう。しかし、悲しいかな、変装に全く詳しくないレンチェフの目から見ても、二人が堅気の人間でないことは明らかだった。口調こそ丁寧だが、身に纏う雰囲気は職業軍人というより傭兵だ。
 レンチェフの口角が僅かに上がった。レンチェフも行儀のよい軍人ではない。こういった暴力の気配を殺しきれていない輩は嫌いではなかった。行儀よく戦争がしたいなら統帥府にでも行けばいいのだ。新たな配属先へ期待を込めて敬礼する。

「独立重駆逐戦闘団に配属を命じられたレンチェフ大尉だ」



「おー、君が新入りか。私が独立ナントカカントカの……」
「独立重駆逐戦闘団」
「……の指揮官をしているストレイドだ。リーダーでも団長でもストレイドでも好きに呼んでくれ。階級はなんだっけ?」
「中佐」
「だそうだ。中将とか中佐とか、ここではあんまり意味無いから気にしないでくれ。私もすぐ忘れる」

 ファミリーカーに乗り込んで暫く走り、ファミリーカーごとトレーラーに積まれて更に移動して連れ込まれたのは、おそらく地下施設。独立重駆逐戦闘団の基地らしいが、待ち受けていたのは行儀の悪さに定評のあるレンチェフをして、これはない、と思わせる一団だった。
 引き合わされた独立重駆逐戦闘団の指揮官は外見こそ平凡な青年だったが、自己紹介はざっくばらんを通り越していい加減だった。だいたい軍服も着ていない。シャツ、スラックス、スニーカー、どこにでもいる兄ちゃんだ。傍に控える女性兵士――これも普段着だ――がいちいち訂正を入れるものの、あまり効果があるようにも見えない。

――こりゃあ、とんでもないところに来たな。本当に軍隊なのか?

 呆れと共に視線を走らせると、指揮官を名乗る青年と目が合った。途端にレンチェフの全身に汗が浮かぶ。

――ヤバい。こいつぁとんでもねぇ、完全にイっちまってやがる。

 レンチェフの勘が全力で警報を鳴らす。何が『ヤバい』のかを言語化することはレンチェフにはできなかったが、強いて言うなら『格が違う』というところだろうか。不良には不良の流儀があり、不良にとっては腕っぷしよりも格付けの為の人物鑑定眼が大事、という時がある。喧嘩を売る相手は選べ、ということなのだが、レンチェフはストレイドという男の目を見たときに気付いたのだ。この男が誰かは知らないが、安心と信頼と実績の大量殺人者だということに。
 レンチェフも相当のツワモノだが、目の前の青年は桁が違う。レンチェフは自分の流儀や感覚が真っ当なものだとも普遍的なものだとも考えていない。理解されない、されにくいことは残念に思うが、上下から疎まれて部隊から離される程度の軋轢で留めておくくらいには良識もある。少なくとも、レンチェフは軍規を逸脱したわけでも軍組織そのものを逸脱しようとしたわけでもない。法的にグレーの部分が真っ黒だったりはするが、軍の掲げる白と黒の基準に公然と逆らったりはしていない。部隊を取り上げられても大人しく従った。レンチェフは確信犯の過激派不良軍人だが、軍人を辞めてはいない。そのレンチェフの感覚から言えば、目の前の青年は明らかに一線を越えていた。超が3つも4つ付く危険人物。レンチェフを迎えに来た連中とは比較にもならない。青年の気配そのものは一般人なだけに、その瞳の奥に潜んでいるモノがなおさら恐ろしい。

 萎縮したレンチェフの内心を知ってか知らずか、のほほんとしたストレイドは続ける。

「ま、とりあえず好きに座ってくれ。そうだな、マ・クベ司令官からどう聞いているかわからないが、私達は軍隊ではない。反地球連邦組織だ。リリアナ。聞いたことくらいはあると思うが」
「リリアナ! あんた達が!?」

 リリアナ。その名前はレンチェフも基地にいた頃に耳にしたことがある。今次大戦に便乗して活動を激化させた反地球連邦組織のうち、破壊活動の過激さで群を抜くテロリスト集団。

――地球に暮らす皆さん、地球連邦を支持するとこうなります。死ねっ!

 そう言ってウィーンの街を民間人ごと核爆弾で吹き飛ばしたのは彼らだという。
 連邦軍のオデッサ奪還作戦が頓挫したのは、公式発表によると付近の廃坑から旧世紀の核廃棄物が大量流出して奪還作戦どころではなくなっためであり、延期であって失敗ではないとされている。だが、嘘か真か、リリアナが連邦軍の先鋒を核兵器で皆殺しにしたからだという話もある。そもそも、オデッサ制圧が予定以上に上手く進んだのは、既に地元の反地球連邦組織によって基地が陥落寸前まで痛め付けられたからだとも聞く。
 その過激派の指導者が目の前の平凡な狂人だというのには驚くばかりだが、独立重駆逐戦闘団の中身がリリアナだという事実には更に驚かされる。
 一番驚かされたのは大尉となった数時間後にはテロリストの一員にされてしまっていたことだが。
 
 

 
後書き

 レンチェフ登場でござる。
 モブ以外であまりオリキャラを出すつもりはないので、野良犬のサポートをしている女性兵士? もガンダムのキャラクターにいます。オリキャラではありません。誰だろう。

 あの人出して等の声を頂くことがありますが、ノープランで話が転がっていくので、頑張りますくらいで許してください。ガルマを助けてとかも、頑張りますくらいしか言えません。ノープランなので。
 ただ、声の多い方に傾きやすいのは確かなので、誘導次第では原作死亡キャラも生存するかもしれませんね。 
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