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ゲーテの創作

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第一章

                ゲーテの創作
 ゲーテは鉄の手を持ったゲッツ=フォン=ベルリヒンゲンという戯曲を書いた、その作品は発表されるや忽ち話題になった。
 ゲーテはこのことに気をよくしていた、だが彼と親しいある貴族が彼と食事を摂っている時に怪訝な顔で言った。
「あの作品は面白いがね」
「しかしですね」
「私が言いたいことはもうわかっているか」
「はい」
 ゲーテはその貴族に聡明な顔で答えた。
「先程発表した戯曲のことですね」
「あの主人公だが」
「ゲッツ=フォン=ベルリヒンゲンは」
「君は随分と恰好よく書いているな」
「正義と自由を愛する勇敢な騎士として」
「実は違うな」
「右手首がなかったことは事実です」
 このことはというのだ。
「ランツフートの戦いにおいてです」
「あの継承戦争だな」
「彼は確かに右手首を失っています」
 戦争の負傷だ、戦争では付きものことだ。
「そして甲冑鍛冶に精巧な義手を造らせています」
「以後それを使っているな」
「彼がまだ若い時のことです」
「そこから鉄腕ゲッツという仇名になっているな」
「このことはその通りです」
「そうだな、しかしだ」
 ここでさらに言う貴族だった。
「彼はその後ドイツ農民戦争に参加している」
「その通りです」
「しかし君はそこで彼を死なせているな」
「騎士として美しく」
「そうだった、しかしだ」
「実際の彼はといいますと」
「それからも生きている」
 ドイツ農民戦争以降もというのだ。
「牢屋に入れられたり閑居したりしてな」
「そしてまた戦い」
「随分と色々あった」
「しかも長い人生でしたね」
「一四八〇年に生まれてだ」
「亡くなったのは一五六二年です」
「随分と長い」
 八十二年に渡る生涯である。 
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