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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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遥かに遠き刻の物語 ~ANSUR~ Ⅲ

――Episode Rusylion Saintest Asgard 2

ヴィーグリーズにて行われる、過去ルシリオンと槍皇ラピスの決闘。

「私も・・・死ぬわけには・・・いかないんだ!!」

自分は死ぬわけにはいかない、という言外に語るラピスに、過去ルシリオンもそうは言い返した。しかしラピスの圧倒的な槍術の勢いに彼は後退を強いられる。

「はっ・・・!」

「ぅぐ――しまっ・・・!」

女の一撃とは思えない強烈な振り下ろしに耐えきれず、片膝をついてしまったルシリオン。ラピスはすぐさま“フォイルニス・ブルート”を縦に回転させ、石突きでルシリオンの顎を狙う。ルシリオンは一瞬とはいえ、攻撃が止んだその隙を狙い、全力で後退して直撃をから逃れた。

「その程度で私の攻撃範囲からは逃れられないよ・・・!」

――魔槍(トイフェル・ツー・シュトーセン)――

ラピスの正確無比、強力かつ高速の刺突がルシリオンを襲う。ルシリオンは反応するが完全には避けきれずに、右肩を深く裂かれることになった。

「っがっ・・・ぐぅぅ!」

――凶鳥の殺翼(コード・フレスヴェルグ)――

「っ! 足掻くのはやめなさい!!」

息を荒くしているルシリオンを中心として急激な気圧の変化が生じる。そして起こる無数の風の刃。ラピスはそれを肌で感じ、流れるような動きで回避していく。驚愕するルシリオンを横目に、ラピスはルシリオンを討とうと“フォイルニス・ブルート”を構えた。ルシリオンは本能的に死を感じ、距離が開いた隙に残りの神器群をラピスへと降らせる。

「遅い。真技・・・!」

真技。
魔術師の固有魔術の中でも鍛えに鍛え、究極の一にまで練度を高めた最高の固有魔術。その威力や効果は個人個人では違うものの、まず間違いなく当たれば必殺となる術式だ。

ラピスは神器群を回避し終え・・・

「終わりだ!!」

――腐壊浄槍(フェアヴェーゼン・シュラーク)――

“フォイルニス・ブルート”の解放された能力・“腐殺”と、魔術・“障壁貫通”を一体とした必殺の一撃を、ルシリオンへと放つ。

「目醒めよ、神槍・・・グングニル!」

ルシリオンは咄嗟に“グングニル”の神秘を解放する。そして両刃剣のような穂の腹でラピスの一撃を止めた。直撃の際の衝撃に吹き飛ばされはしたが、真技をどうにか防御することが出来た。両者の間合いが15mと離れる。ラピスは必殺の真技を防がれたことに驚愕し、ルシリオンは距離が開けたことに安堵した。

「距離を開けられたのはまずかったな、騎士!」

――第二波装填(セカンドバレル・セット)――

ラピスの前に現れたのは、先程と同じ数くらいの神器群。

「そ、そんな・・・!?」

勝利を確信していたラピスの心に重く圧し掛かるある怪物が生まれた。それの名は絶望。ラピスは、自分の死をここに来て感じ取ってしまっていた。

(どうすればいい!? こんなデタラメな魔術師なんて聞いた事が無い!)

宙空に浮遊し、放たれるのを今か今かと待ち続ける神器群を見て、ラピスはそれでも諦めずに必死に思考を巡らす。放たれてきた神器のそのほとんどが、ラピスの“フォイルニス・ブルート”のランクを超えている。つまりこれ以上、“フォイルニス・ブルート”で神器群を弾くという防御を取ると、体力より先に“フォイルニス・ブルート”が砕かれる。
それに、先程の解放された“神槍グングニル”との衝突。アレが致命的だった。あの衝突の所為で、“フォイルニス・ブルート”の全体にヒビが入っているのだ。良くてあと数回の攻撃で砕け散る。ラピスはそう判断した。

「ヨツンヘイムは必ず根絶やしにする。元はそちらが仕掛けてきた戦争だ。はぁはぁはぁ・・・それ相応の覚悟はあるだろう?」

「・・・化け物め・・・!」

ラピスの悪態。ルシリオンはそれを黙って受け止め、「消えろ、軍神の戦禍(コード・チュール)!」再度神器の雨をラピスへと落とした。しかし最後まで諦めないラピスは、魔力を全て身体強化に回し、神器群を回避、または弾いた。それを何度も繰り返したが、終わりは突然に起こった。

「しまっ・・・!」

“フォイルニス・ブルート”が粉々に砕け散ったのだ。神秘を打倒するにはそれ以上の神秘を以ってあたるべし。それが魔術師の鉄則だった。“フォイルニス・ブルート”の神秘を上回る神器群。それを弾き続けたことでついに限界を超えて壊れてしまったのだ。こうなると、ラピスに生き残る術はない。一斉に襲いかかる神器群を目に焼き付け、ハリネズミのように全身から神器を生やした彼女はその命を失った。

『う゛・・・!』

串刺しされ息絶えた1000人という死体を見て、なのは達は吐き気を堪え視線を逸らす。唯一の救いは、血の臭いが判らないこと。一種の夢の中であるこの世界。彼女たちに今ある五感は視覚と聴覚、触覚。それ以外は働いていないため、臭いが判らなくなっていた。それから1分ほどの沈黙が流れた。

「ねえ・・・さま・・・。姉様ぁ・・・。ゼフィ姉さ――ごふっ・・・げほっげふっ!」

死体の中でルシリオンは最愛の姉を呼び、吐血した。今の未熟な彼にとって、“グングニル”の完全解放は自殺行為だった。“グングニル”から担い手として認められていない内の完全解放。その代償として、ルシリオンの体内と魔力炉(システム)はボロボロになっていた。なのは達は無駄と知りつつ、跪いて泣き、吐血を繰り返すルシリオンへと近付こうとした。

『これが私の始まりだ』

なのは達の背後から声がした。一斉に振り返り、その声の主を目にする。

『ルシル・・・!』

そこには泣いているルシリオンより大人びた、なのは達の知るルシリオンが居た。その表情は何かを堪えるかのような険しい表情だった。

『ルシル。やっぱり君は、君たちは・・・』

『ああ。再誕神話。アレは実際に起きたことだよ、ユーノ。そして、私とシャルが生きていた時代だ』

そう言ってルシリオンは少年時代の自分へと近付いて行く。なのは達はそれを見ていることしか出来なかった。

『私が本格的に参戦するのはこの5年後、20歳のときだ。それまでは、友と魔術を磨き、捕獲したヨツンヘイム連合の主力兵器を改良した兵器などを造っていた・・・』

頭だけは良くてね、と呟きながら左手を振るうルシリオン。すると景色ががらり変わる。そこは、どこかの庭園のようだ。

『ここは・・・?』

『私の故郷、魔道世界アースガルド。セインテスト王領にある私の城、グラズヘイム城の庭だ』

はやての問いにそう答えるルシリオンは、なのは達は引き連れるようにその庭を歩く。綺麗な花畑のある美しいその庭を。

「はぁぁぁぁぁっ!」

「これでどうですっ!」

彼女たちの耳に、雄叫びと金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。ルシリオンは『行ってみるか?』と言い、音のしている場所へと歩いていく。なのは達もそれに続いて、庭園の奥へと歩いていく。そして庭園の奥、拡がる平地に彼らは居た。

『彼らが神話に語られる英雄、アンスールだ。あと2人居ないが、もう直に姿を現すはずだ』

ルシリオンの視線の先には、10人の人影があった。男はルシリオンを含めて4人。残り6人は全て女性――いや、まだ少女だった。

『あの人・・・フェイトさんにそっくりです・・・』

リインフォースⅡの視線の先、今のなのは達と同じ年頃と思われる少女が木陰で休んでいた。シアンブルーの長髪をツーサイドアップにし、その桃色の瞳でルシリオンを見つめる少女。足元まで隠す、装飾の施された白いワンピース、その上から白のクロークを着込んだ可愛らしい姿。髪と瞳の色こそ違えど、その外見はフェイトとそっくりだった。
フェイトはその少女を見て、ある1つの名前を口にした、『もしかして・・・シェフィ・・・?』と。フェイトの言葉に、ルシリオンを除くその場の全員が目を丸くする。思うことはただ1つ。どうして知っているのか?だ。

『・・・憶えていたのか、フェイト?』

『うん。10年前、初めて私とルシルが出会った時、ルシルは私を見てすごく驚いて口にしたよね。シェフィって。何となくずっと引っかかってたんだ』

ルシリオンにそう聞かれたフェイトが即答した。彼女にとって好意を持つルシリオンの口から出た女性の名前は、忘れえないものだった。

『・・・そう。彼女の名前はシェフィリス・クレスケンス・ニヴルヘイム。当時、氷雪系魔術師最強とされた少女。私の弟子のようなものかな。私と共に、戦天使ヴァルキリーを造り出したパートナー。そして、私の恋人だった』

なのは達の何度目かの驚愕。しかしフェイトは察していたのか、驚愕ではなく悲しそうに、ただ辛そうに顔を伏せた。なのは達はフェイトの気持ちを知っているために何も言わず、ただ目の前の光景を見ていた。

「さすがEXランクの魔術師。やることなすこと常軌を逸していますね」

「何を言う? ジーク。あなたのその魔眼も十分に常軌を逸している」

オレンジ色の短髪に、光を映していない盲目であろうバイオレットの瞳をした男が、過去ルシリオンに声を掛けた。

『ジーク・・・。もしかして、雷皇ジークヘルグ・・・ですか?』

『ええ。ジークヘルグ・フォスト・ニダヴェリール。雷撃系最強の魔術師にして、スキルとしての魔眼“千里眼“を持つ、ニダヴェリールの現皇帝です』

騎士カリムにそう答えるルシリオン。

『その隣、呑気にお茶を飲んでいる2人組。右から地帝カーネル・グラウンド・ニダヴェリール。そして冥祭司プレンセレリウス・エノール・スヴァルトアールヴヘイムです』

ルシリオンの指差す方、そこには休憩中だろうか、胡坐をかいてのんびり紅茶を飲んでいる男2人がいる。ココアブラウンの短髪に、ニダヴェリール皇家特有のバイオレットの瞳をしたカーネル。そしてウルトラマリンブルーの長髪をポニーテイルにしたプレンセレリウス。先程なのは達が見ていた記憶の中に出てきた少年が大人になった姿だった。その彼のオレンジ色の瞳には、彼の姉でもある少女が映っていた。

『不機嫌そうで、どこか眠たそうな顔をした娘は、プレンセレリウスの姉にあたる呪侵大使フォルテシア・アウリアス・スヴァルトアールヴヘイム』

次いで紹介されたのは、ウィスタリアのセミロングに、オレンジ色の瞳を持つ少女、フォルテシア。彼女もまた、大人となっている姿だった。そんなフォルテシアはひとり黙々と自身の武装、魔造兵装“宵鎌(ショウレン)レギンレイヴ”を振るい続けている。

「独りで訓練していてもつまらないでしょ? フォルテ。私が付き合ってあげるよ」

「・・・あ、ありがと。それじゃ、お願いセシリス」

『フォルテシアに声を掛けたのは、炎帝セシリス・エリミング・ムスペルヘイム』

ムスペルヘイム王家特有のカーディナルレッドの長髪をサイドポニーにしているセシリス。神造兵装“煉星剣レーヴァテイン”を片手に、フォルテシアと実践訓練を始めた。

「セシリー! ここはルシルの家なんだから、出来るだけ壊してもいいわよーーーっ♪」

「お前は馬鹿か!? 何を勝手ほざいているんだステア!?」

過去ルシリオンに怒鳴られているのは、カーディナルレッドの長髪を背中辺りで結っている少女だ。頭頂部から生えている2本の触覚のような髪が、彼女が笑うたびにユラユラと揺れている。

『ステア・・・。白焔の花嫁ステアのことだね』

『ああ。何かと私をからかっては遊びたがるムスペルヘイムの王女、ステア・ヴィエルジェ・ムスペルヘイムだ。彼女にはいつもからかわれて、何度死にかけるような思いをしたか判らない』

心底げんなりしたルシリオンの説明を聞くなのは達。その背中の曲がり具合から、よほど大変な目に遭ったんだろうと察する。

「ステア様! そういうことは嘘でも言ってはいけないと思います!!」

「その前に! ここはわたしの家でもあるのですが!?」

そんなステアに詰め寄り猛抗議するのは、キャロのような小柄な少女2人。

『見て判るように、片方は私の妹。拳帝シエル・セインテスト・アースガルドだ。あの外見で、私との修業のおかげもあり、肉弾戦だけでは魔術師最強だ』

ステアに抗議する間、シエルの銀髪を頭の両側で結っている赤いリボンが揺れまくる。同時にツインテールもまた揺れまくり、小動物を思わせる。中身は猛獣だが・・・。

『そしてもう片方。殲滅姫カノン・ヴェルトール・アールヴヘイム。あの子もまた私の弟子の1人で、砲撃戦特化の固定砲台魔術師だ』

セミロングのプラチナブロンド、ライムグリーンの瞳が揺れる。彼女カノンは、この場に居る王族(ぜんいん)に対し必要以上に敬意を払っている。そんな彼女自らもアールヴヘイムの王女ではあるのだが、敬意を払い過ぎて他のメンバーに抗議するような発言だけで、失神しそうになるのが彼女だった。

『カノンは根が真面目で、アールヴヘイム王族の反対を押し切って自らこの不条理な戦争に出てきた。だから彼女には、自分の身を守るための必要最低限の事を教えたんだが、気付けば砲撃戦では私と同等の力を得ていた』

懐かしそうに、本当に懐かしそうに目の前で繰り広げられている騒ぎを見つめるルシリオン。なのは達は何も言えなかった。そんな表情をするルシリオンを見るのが初めてだったからだ。

「随分楽しそうですね。私も交じらせてもらってもいいですか?」

そこに1人の少女と、付き添うように側に控える1人の女性が姿を見せた。彼らは一斉に動きを止め、この場に現れた少女に向かって「フノス様!」と、呼ばれた少女に身体を向ける。

『フノス。英雄アンスールを率いる大英雄。神に愛されし子、だね』

『ああ。フノス・クルセイド・アースガルド。全ての魔術師の頂点に立つ存在。アンスール設立の立役者、魔道王フノス。それがあの小柄な少女だ』

陽の光に輝く流れるような銀髪。総てを見透かすようなコバルトブルーの宝石の如き瞳。穢れを知らないきめ細かく雪のように白い肌。その笑みは、全てを包み込むかのような女神の笑み。繊細かつ病弱そうな雰囲気を持つそんな彼女、フノスに見惚れるなのは達。

「そんな畏まらないで! 私だってみんなの仲間なんだか――っ!?」

そう言って走り出そうとしたフノスは何もないところで盛大に転んだ。ドベシャッ!という擬音が目に見えるほどの見事な転びっぷりだった。

『そういう肩書を持つあの子だが、それは神がかり的なドジっ娘だった。正にドジ神さまに愛されし子、というわけだ』

「フノス!? ルシル! 今すぐ治癒魔術、コード・エイルをフノスに!」

転んで起き上がろうとしないフノスにいち早く駆け寄るのは、彼女の側に控えていた女性だった。すぐに過去ルシリオンへと指示を出し、「急ぎなさい!」と吼える少々過保護な女性。

『アレが風迅王イヴィリシリア・レアーナ・アースガルド。風嵐系最強の魔術師。義理の妹であるフノスには過保護すぎな愛情を注ぐ、私にとってもう1人の姉とも言える存在だ』

「だ、大丈夫。少し転んだだけだから。ルシルの魔術を使うまでもな・・・」

むくりと上半身を起こし、イヴィリシリアに大丈夫と告げるフノスの鼻から赤いものが滴り落ちた。

「あ、鼻血です」

「血ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

フノスの手に付いた鼻血を見てイヴィリシリアがパニックを起こす。そのまま過去ルシリオンの襟首をわしっと掴んで揺らしまくる。

「早くフノスを治療しなさい!!」

「そ~の~ま~え~に~は~な~し~て~~~~・・・!」

全力で揺さぶられる過去ルシリオンの目が危なくなってきたところで、止めに入る他の“アンスール”メンバー。無駄な騒ぎを起こしつつ、日々大戦終結のために魔術の腕を磨いていく“アンスール”。そんな懐かしい光景を見ていたルシリオンの右手が再度振られる。それを合図とし、なのは達の視界に映る光景がまた変わる。

『ここは?』

『我々アンスールの初陣の戦場。ヨツンヘイム連合に組し世界グリュートナガルダル』

ユーノにそう答えるルシリオン。彼らの視線の先、一万は優に超す大軍勢がそこにはいた。

『ヨツンヘイム連合軍のほんの一部だ。その上連合主力の居ない、な。アースガルドへと繋がる唯一の道がある世界、ビフレストを攻めようとしているんだ』

魔道世界アースガルド全体には強固な障壁が張られている。それゆえにビフレストにあるアースガルドへと繋がる転移門を通らなければ、アースガルドに侵攻することは不可能だった。それを知るヨツンヘイム連合軍はついにこの日、ビフレストを陥落させようと動いた。

『確か、再誕神話にはこの戦いが書かれていましたね』

カリムがそう告げると、ルシリオンは微笑を浮かべて『勝敗は知っていますよね?』と返すと、カリムは『はい』と真剣な面持ちで答えた。

「往くぞ! まずはビフレストを落とし、アースガルドを攻め落とす!!」

この大軍勢の指揮官であろう男が、拡声魔術で全隊の士気を上げ始めた。地鳴りが起こるほどの「おおおおおお!!」という雄叫びに、この場の全員が耳を塞ぐ。

『ここから先は、スバル達には残酷そうだ。君たちだけでも帰るか?』

ここから先の出来事は、スバル達には刺激が強過ぎると判断したルシリオン。だが、スバル達は残ることにした。最後まで見たかった。ルシリオンという男の生涯を。ルシリオンはそんな彼女たちに『辛くなったらいつでも言うように』と優しく声を掛けた。そして、この戦場に遥かに遠き時代の英雄“アンスール”がその姿を現し、ヨツンヘイム連合軍をなぎ倒していった。

「食らえぇぇぇぇぇぇっ!!」

――圧戒(ルイン・トリガー)――

シエルは自慢の重力操作魔術で連合兵を空高くまで殴り飛ばし、そこに追撃をかける。重力を操作し、空まで吹っ飛ばした連合兵に9倍の重力をかけ、地面に叩き付けていった。

『シエル。支援攻撃、行きます・・・!』

『いつでもいいよ、カノン!』

近距離の拳帝シエルと遠距離の殲滅姫カノンのコンビ、“戦場の妖精フロントフェアリー”の連携が今始まる。

――殲滅爆撃(ルフト・アングリフ)――

戦場から遠く離れた丘で、カノンはルシリオンから授かった黄金の神器、“星填銃オルトリンデ”と“グリムゲルテ”を両手に、シエルの周囲に居る連合兵へと何千発という魔力弾を一斉に放つ。連合兵が空から降り注ぐ魔力弾に対処している間に、シエルがその小さな身体を活かして魔力弾の雨の隙間を縫うように駆ける。

「その目に刻めっ。フロントフェアリーの連携を・・・!」

――圧壊拳(フェアリー・バイト)――

隙だらけの連合兵のわき腹を、重力を纏わせた拳で殴打していくシエル。呻き声を上げながら吹っ飛んでいく連合兵。

「シエル、任務完了です。予定通り、次の戦場へ移動しよう」

「ん、了解♪」

無傷のシエルがその場から歩き去っていく。彼女の背後、そこには500人を超す連合兵が斃れていた。その光景に、なのは達は絶句するしかなかった。あまりに圧倒的な戦力差。シエルやカノンは、エリオやキャロと大して変わらない歳だというのに。
連合兵は決して弱くない。それはなのは達も、シグナム達も、リンディ達も判る。そう、連合兵の実力は、まさに今のなのはやフェイトといったS+魔導師並――いや、それ以上だ。だが、それを短時間で無傷で――カノンの支援射撃があるとはいえ、たった1人で全滅させたシエル。

『我が妹ながらに凄まじいよ・・・』

なのは達はここで知った。魔術師のランクというモノを。現代とは違い、当時はSSSランクを超えるランクがあり、アンスールや連合の主力は全員SSSを遥かに超えた魔力を有すると。
そして次々と戦場が変わっていく。地帝カーネルが大地を操作して戦場を分断し、雷皇ジークヘルグがその上から無数の雷撃を落とす光景。炎帝セシリスの炎と、風迅王イヴィリシリアの風で起こされた炎の嵐により、連合兵が容易く殲滅される光景。

『これが・・・魔術師・・・!』

『凄まじいな・・・』

アースガルド同盟軍の総司令官・魔道王フノスと、彼女の護衛兼“アンスール”参謀の白焔の花嫁ステアが、離れた地にキャンプを張り前線組に指示を飛ばす光景。蒼雪姫シェフィリスが、彼女とルシリオンの子供とも言える完全自律稼働人型魔道兵器・“戦天使ヴァルキリー”の数体と共に戦場を駆ける光景。冥祭司プレンセレリウスと呪侵大使フォルテシアが、この大軍勢の主力の1つへと突貫していく光景を見、なのは達の口は開きっぱなしだった。

「アースガルドは、アースガルドに味方してくれる世界を決して陥落させることはない。憶えておけ、ヨツンヘイム連合。我らアンスールが存在し続ける限り、お前たちの敗北は絶対に揺らがない」

過去ルシリオンが、この大軍勢の指揮官にそう告げる。

「何がアンスールだ!! この男を殺せぇぇぇぇぇーーーーッ!!」

――多層甲冑(ゴスペル)――

指揮官を始めとする連合兵200人の同時魔術攻撃。しかし、その攻撃は過去ルシリオンに届くことは無く、全てがキャンセルされていた。

ルシリオンの固有魔術・多層甲冑ゴスペル。
何重もの不可視の対物対魔力障壁で身を包む術式。XXランク以下の魔術は全て効果を問わず無効化。高位神器による攻撃以外全てをキャンセルするという超反則術式。その反面、滅茶苦茶な魔力消費だが、まさに無限の魔力を持つとも言えるEXランク魔術師であるルシリオンにとって、大した問題にはならなかった。

「真技・・・!」

過去ルシリオンが“グングニル”を完全解放し、真技を放つ準備をした。その彼から発せられる強大な魔力に連合兵たちは言葉を失い、一斉に逃げに転じた。

神断福音(グロリアス・エヴァンジェル)・・・!!」

同盟世界の魔法陣で構成された砲塔から放たれる“グングニル”。そのたった一撃で、その場に居た何百という連合兵が文字通り消滅した。グリュートナガルダルにおけるアースガルド同盟軍最終戦力“アンスール”と、ヨツンヘイム連合軍の一万以上の大軍勢の戦いは、アンスールの圧倒的勝利で終結した。

『この戦いで、私たちアンスールは同盟・連合両方に其の名を知らしめた。ここから大戦終結の地ヴィーグリーズ決戦まで約1年半。私たちは全力で生きた。護るために・・・・』

ルシリオンが、再誕神話の書籍を手にする。開かれているページにはこう書かれていた。

―――再誕神話 新世界再誕戦争 第一章『神徒アンスール降臨』

止め処無き魔の波により 力無き生命はただ蹂躙され 駆逐せる
民は己が無力さに 泣き苦しみ絶望す
世の空 ただ暗く 悲哀が満ちるとき 天の支配者 挙兵を決定す

神住まう世界アースガルドの王フノス 御使いたる徒、アンスールを地へと降ろす
天の最果て 神の地より 魔を滅すがため来たる輝ける波より 先駆けるものあり

その行く手を疾駆するは“拳帝シエル” 見えざる力を用いて 邪魔せし者を蹂躙する
黄金砲台なる“殲滅姫カノン” 遥か彼方より閃光放ち 魔を掃討す

我ら止めるべくもがく魔の波を討つ“風迅王イヴィリシリア” 其の絶大たる嵐で蹂躙するは 正に神徒の力なるかな
民の希望を更に高めんと策を講じるのは“白焔の花嫁ステア” 死した盟友と会話せし者“冥祭司プレンセレリウス” 其が業にて先駆けし者を助く
魔の波逃れうる時 それを追撃し 更なる報復を与えし煌く闇“呪侵大使フォルテシア” 復讐に猛るその心の力 魔の波 其れを前にして 永久なる苦痛をその身に刻む

氷神の加護を受け 闇天に流るる魔の波凍らす 其は“蒼氷姫シェフィリス” 蒼き神秘を纏い 戦場翔けるその姿は 真に美しく 魔を魅了す  
真を見通す瞳持つ“雷皇ジークヘルグ” 命を石とする瞳持つ“地帝カーネル” この両の者の瞳に映されしもの 果て無き死の恐怖に平伏すものとす

遥かに古き帝の炎を受け継ぎし“炎帝セシリス” 全て灰燼に帰すは原初の業なり 光満ちたる天の奥より来たるは 輝けたる“神器王ルシリオン” 無限が如き力の滴を降らし 魔の波を粛清せし者 彼の後には断罪されし骸のみかな
神器王がさらなる奥 神徒を統べりし 神なる意志の代弁者 其は“魔道王フノス” 神位の玉座にて 己が友たちの無事なる帰還を ただ祈り望み続ける 
   
魔の波に蹂躙されし民は再びの希望を得、神徒と共に戦いに赴くこと決意す 此処に千年続きし戦の終局へ向けて 強大たる波々の衝突始まりになるかな――

『・・・さて、次は・・・・』

ルシリオンの姿が消え、代わりに現れたのは・・・

『今度は私の始まりを見せるよ』

シャルロッテ・フライハイトだった。剣神の二つ名を持ち、この大戦の最終決戦で命を落とした誇り高き騎士だった。
 
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