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人類種の天敵が一年戦争に介入しました

作者: C
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第14話

 
前書き

 おはようございます。(現在21時35分)

 作者です。
 風邪をひいていました。咳も鼻水も酷いのですが、特に酷いのは関節痛です。何か骨の病気じゃないかと疑うくらい痛くて痛くて……そして熱は全く無し! 辛い……何が辛いって熱が上がらないから大したことないと思われてるのが辛い。

 暖冬だなんだと言ってますが、冬は冬です。皆さんもお気をつけて。 

 

 マ・クベの乗るザクⅠの胴体に銃口を向けながら、つまりザクⅠの装甲越しにマ・クベに銃口を向けながら、野良犬の操るスモウレスラーはするするとザクⅠから距離をとった。そのままゆっくりとザクⅠの周囲を廻る。護衛のザクⅡの射線に背中を向けたまま入って来たが、総司令官に銃を向ける野良犬を撃つ部下はいなかった。
 完全に、間違いなく、野良犬は撃たれた後に回避した。弾丸が届くまで数秒という長距離ではない。撃ってから当たるまで1秒を切る。撃たれたことを認識し、機体に回避動作を入力し、機体が動き、弾丸を避ける。これを1秒以内にこなすのだ。
 生身なら、まだわからないではない。考えるより早く、咄嗟に、反射で動く、反射で避けるということも、あるかもしれない。だが、機械は人間の反射では動かない。パイロットが反射的にかわそうとしたところで、それは狭いコックピットの中でかわそうとするだけの動きに過ぎない。コックピットの中で身体をぶつけるのが関の山だ。パイロットがコックピットの中で身体を動かしても、動作を入力されていないモビルスーツは立ち続ける。
 一方で、野良犬は、スモウレスラーは避けた。撃たれたことに気付いた野良犬の反射神経と、その反射を体現できる機体の追従性と、回避を可能とする、見た目のドスコイ感からは想像も出来ない敏捷さ、瞬発力。

――何もできない――

 01の独走で露呈した彼我の戦力差は、連邦軍の戦車大隊が壊滅した衝撃以上にその場にいたジオン公国の軍人を打ちのめした。
 護衛が動けない――動かないのは、まだ良い。動けばマ・クベ中将が二階級昇進でマ・クベ上級大将かマ・クベ元帥になるだけだ。ジオン公国軍には上級大将も元帥もないから大将で止まるだろうが。動けなくとも、動かなくとも、どちらであっても事態を見守る選択は正しい。つまり人質状態のマ・クベは独力で状況を打破しなくてはならない。
 この場合、アクションを起こすということ自体がリスクである。お互いに兵器に乗っていて、しかも生殺与奪は相手にある。迂闊な動きは死に直結するだろう。だからこそ護衛は動かないが、マ・クベはこの一見すると詰みにしか見えない状況は逆にチャンスと捉えていた。
 彼我の戦力差が有りすぎるからだ。あまりにも相手が強すぎる。強すぎるから、今、現在、マ・クベは生かされている。マ・クベが、あるいは護衛が何かしたとしても、何をしようと対応可能だからこその相手の余裕なのだ。そうでなければ01に続いて蒸発していたに違いない。
 マ・クベが生かされている理由はもう一つある。野良犬はマ・クベに用があるということだ。何の用かまではわからないが、何かがある。でなければさっさと皆殺しにするか、無視して飛んでいってしまえば良い。どちらを選ぶのも野良犬の自由で、どちらを選んでもマ・クベの側に阻止する力はないのだ。どちらも選ばず、マ・クベの周囲を回るだけ。野良犬がマ・クベに未だに……殺されかけたにもかかわらず、未だに価値を見出だしているということに他ならない。
 戦闘能力で圧倒的な野良犬が支配しているように見えるこの場だが、人生経験と対人経験ではるかに勝るマ・クベは主導権を握っているのが自分であることを理解していた。
 何をされても返り討ちに出来るほど実力差があるが故に、野良犬は待ちの姿勢になっている。マ・クベの出方を窺っている。01を瞬殺してマ・クベを人質に取っているように見えてその実、自分ではここから先に進めることが出来ないのだ。
 まさに好機。これを好機と言わずしてなんだというのか。狂犬の首に首輪をつけることができるかもしれないのだ。首輪に手綱を付けることは流石に無理だろうが、鈴をつけるだけでも大分違うのだ。

「野良犬」

 マ・クベは自分の声に震えが混じらなかったことに安堵した。100%安全とわかっているが、数字で語れないから狂犬なのだ。恐怖も不安も拭いきれない。そういった負の感情が声から伝われば、纏まる話も纏まらなくなる。

「野良犬、まずは、改めて詫びよう。すまなかった」
「お、おぉ」
「先にも言ったが、奴は私の部下ではなかったようだ。後ろにいるのが誰かはわからないが、二度とこのようなことが起こさせないと誓おう」
「……誓ったところでなぁ……」

 野良犬のぼやきは当然だ。口でならなんとでも言える。行動が伴わなくては意味がない……と誰もが思う。野良犬も思うだろう、当たり前のことを当たり前に思うに違いない。だからこそ、次の一手を防げない。

「そこで、提案がある。しばらくは直接会わない方が良いと思う。どこにモグラがいるか分からないし、組織を洗い直さなくてはならないからな」
「んー……」
「とはいえ、私とお前の間に通信に絞ったところで、互いが互いの組織を知らないままでは事故に繋がりかねないだろう。そこでだ」
「うん」
「こちらから人を遣ろうと思うのだ」
「?」

 スモウレスラーが首を傾げる。

「つまりだな、そちらに専属の担当者を置いて、そちらのことを学ばせる。軍組織を精査するのには時間がかかるが、一人二人ならすぐにでも送れるだろう」
「ふーん?」

 わかったような、わからないような、という雰囲気を隠しもしない野良犬にマ・クベは続ける。

「モグラを掃除しながら互いのことを知っていく。そうすれば協力する準備も滞りなく調うだろう」
「人が来るのは構わないけど……私たちの拠点はコジマ粒子を扱うから危ないよ? 指示に従わないとこうなる」

 そうしてスモウレスラーが指差す先には、比較的損傷の軽い遺体が転がっている。警告を無視して死んだ技術者だ。遺体が傷ついているのはコジマ粒子の侵食作用によるものではなく、クイックブーストの爆風で吹き飛んだからだ。

「KOJIMA粒子……?」

 死んだ技術者が身体を張って生み出している前衛芸術よりも、マ・クベは言葉そのものに食い付いた。聞き覚えがない粒子である。

「野良犬、KOJIMA粒子とはなんだ?」
「そっち側にはない物質……かな。生身で浴びれば良くてアレ。完全遮断は難しいから、こっちに来る奴には健康被害があるかもしれないってのは覚悟しといた方が良いな」

 放射線のようなものだろうか? マ・クベは頭の中のメモ帳にKOJIMA粒子を追記した。

「だが、お前達は大丈夫なのだろう?」

 KOJIMA粒子とやらが危険だとしても、スモウレスラーはそのKOJIMA粒子を扱う機体なのだ。ジオン公国のモビルスーツとて反応炉で稼働するが、発生する放射線はミノフスキー粒子によって造られるIフィールドで完全に封じ込められている。宇宙空間を飛び交う放射線はいかんともしがたいが、機体由来の被曝はあり得ない。宇宙世紀に生きるマ・クベの感覚でいうなら、普通に考えてスモウレスラーもKOJIMA粒子に対する安全性は担保されているはずである。安全が担保されない機体に乗るなど気が狂っているとしか言いようがない。が、相手は野良犬である。

「大丈夫なもんか。私達は短命だと聞いた」

 狂っていた。 
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