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水幽霊の仕事

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第二章

「どうでしょうか」
「そうか、こうすればか」
「式は解けます」
 数学のそれはというのだ。
「こうして」
「そうだったのか」
「はい、では」
「この式は優れた数学者の耳元で囁いてな」
「そうしてですね」
「解く様にしよう、そうしてだ」
「僕の解読をですね」
「世の中に役立てよう」
「それでは」 
 今度は老人の幽霊が数学者に囁いてだった、無事に泉樹の今回の活躍も世の為人の為に貢献した。そうしてだった。
 彼は人の世に戻ってだ、弟にこんなことを言った。
「いや、幽霊も結構」
「忙しいっていうんだな」
「幽霊の世界に行くとね」
「色々頼みごと受けてだな」
「それでね」
「忙しいだな」
「これでね」
「言ってる意味がわからないな」
 どうにもとだ、弟は兄に首を傾げさせて言うばかりだった。
「俺はまだ生きてるからな」
「だからだよね」
「ああ、幽霊の世界のことはな」
 このことはどうしてもというのだ。
「わからないさ、けれど幽霊もか」
「これはこれでね」
「忙しいんだな」
「うん、何かとね」
「それで兄貴も忙しくか」
「働いて」
 そうしてというのだ。
「世の為人の為に頑張ってるよ」
「そうしてるんだな」
「そうだよ、まあ生まれ変わったらそれはそれで働くことになるだろうけれど」
「人間は死んでもか」
「忙しいものだよ」
「そのこと覚えておくな」
 弟は泉樹のその話を聞いて今はこう言うだけだった、実感としてどうにわからないので曖昧な返事を以て。
「俺も」
「そうしておいてね、じゃあまた幽霊の世界に行って」
「そうしてだよな」
「働いてくるよ」
「それで世の為人の為にか」
「頑張って来るよ、それで今は」
 弟の傍にいる今はというのだ。
「ちょっと休むよ」
「そうするんだな」
「またあっちに行ったら忙しくなるからね」
「身体はなくても疲れるんだな」
「身体の疲れはなくなっても心の疲れはあるから」
 魂のそれはというのだ、心即ち魂がある限りはだ。
「だからね」
「心の疲れを癒す為にか」
「今は休むよ」
「そうか、じゃあな」
「ちょっと寝るよ」
 心をそうさせると言ってだ、泉樹は今は目を閉じた。そうしてそのうえでまた働く時の為に休むのだった。
 そして目を覚ましてだ、弟に言った。
「また行って来るよ」
「今日もか」
「うん、幽霊の世界にね」
「頑張って来いよ」
 笑顔で彼に行ってだ、そしてだった。
 彼はまた幽霊の世界に行って自分の頭脳を働かせた、そうして人知れず世の為人の為に働くのだった。


水幽霊の仕事   完


                  2018・10・21 
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