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抜擢

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第三章

「御前がな」
「特にですか」
「よかった」
 こう言うのだった。
「最高の歌と演技だった」
「そうですか」
「本当に御前はな」
 まさにというのだ。
「最高の騎士だったぞ」
「俺が騎士なんて」
「騎士といっても剣とか持たないだろ」
「はい」
 ニュルンベルグのマイスタージンガーではとだ、祐貴も答えた。
「歌いますけれど」
「だから騎士でもな」
「それでもですね」
「いいんだ、御前が騎士でもな」
「そうですか」
「御前は童顔とソバカスのせいでな」
 彼のコンプレックスであるその二つのせいでというのだ。
「色々思ってるな、騎士なんて特にって思ってるだろ」
「それは」
「そうだな、しかしな」
「それはですか」
「実は違うんだ、そんなのはメイク次第でな」
 女子部員と同じことをだ、部長は祐貴に言った。
「どうとでもなるからな」
「だからですか」
「いいんだ、俺は御前の演技と歌を見てな」 
 そのうえでというのだ。
「決めたんだからな」
「騎士の役にですか」
「そしてその通りにな」
「俺は演じましたか」
「歌ってな、見事だったぞ」
「そうですか」
「御前がいたからだ」
 今回の舞台の成功、それはというのだ。
「抜擢と言われたけれどいい抜擢だった、だからこれから時々でもな」
「メインで、ですか」
「やってもらうからな」
「有り難うございます」
「お礼はいいさ、御前の実力に見合ったことだからな」
 それでと言ってだ、部長は祐貴の肩をぽんと叩いた。祐貴は肩に温もりと現実を感じた。これ以上はないまでに素晴らしい現実を。


抜擢   完


                 2018・10・16 
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