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ソードアート・オンライン 穹色の風

作者:Cor Leonis
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アインクラッド 後編
  還魂の喚び声

 地を蹴り空気を裂いて飛び出した瞬間、二人の間に存在する空間は十メートル程度だった。マサキの敏捷値ならコンマ数秒で駆け抜けられる距離。そしてその刹那に、マサキの頭に予感めいた違和感が過ぎった。
 ジュンが構えた大太刀は、確かにリーチで言えば蒼風よりも長く有利かも知れないが、この狭い通路で振り回すには不適だ。彼の言葉が真実ならこの場所で対決することは織り込み済みだったろうに、そんな初歩的なミスをするものだろうか?
 その答えを、マサキはすぐに知ることになった。地を蹴り、踏み出そうとした足の甲が何かに引っかかったのだ。

「……っ!?」

 速く走っていればいるほど、バランスを崩した時の影響は大きい。速度に比例して膨れ上がった慣性が牙を剥くからだ。予想だにしていなかった抵抗を受けたマサキの身体は自分の身体を支えるための支柱を失い、頭から地面へ墜落していく。その先に、ジュンが操る大太刀の切っ先が待ちうける。
 マサキはあえて地面に向けて蒼風を突き出す。うっすらと青みがかった切っ先がタイル状に敷き詰められた石畳の境目に突き刺さり、その抵抗がマサキの進むベクトルを上方向へ変換、その瞬間に力一杯右手を押し込むことで身体を大きく天井へ向けてはね飛ばす。頭上からの一撃へ繋げるべく、天井に片膝をついて着地。蹴り飛ばしてジュンの頭部に迫ろうとしたマサキの身体は、しかし不意に急停止した。

「なっ!?」

 マサキの足が今度はがっちりと固定され、天井から動かない。トラップであることは明白だったが、天井に接触式のトラップが設置されていたという想定外の事実に、マサキの脳は珍しくパニックを起こした。そしてその結果、マサキは今直面している脅威であるジュンを視界から外し、自分の足の状態を確認することを優先してしまう。
 それは致命的なミスだった。自分の足に数本の鎖が絡みついていることを確認した刹那の間に、紫色の光を発しながら大太刀の刃が迫っていた。
 足が動かせない状態で回避できるタイミングなど、とうに過ぎ去っている。マサキは持てる敏捷値の全てを注ぎ蒼風を大太刀と身体の間に滑り込ませ、軌道をずらすと同時、必死に身体を反らして攻撃範囲の外へ逃れようとあがく。その試みは功を奏し、直接的な被害は顎の先を掠めた時の焦げ臭さと、いなしきれなかった衝撃と掠り傷による僅かなダメージ、そして視界中に撒き散らされたソードスキルの残光だけに留まった。が、間接的な被害がもう一つ。蒼風を握っていたマサキの両腕が頭上に弾かれ、マサキは痺れた腕を構えなおすまでの間、自衛手段を喪失してしまっていた。
 しかし、ジュンの攻撃は終わらない。地面スレスレの低軌道から斬り上げるカタナスキル《浮舟》は、それ単発で使うよりもコンボのきっかけとして使われることが多いソードスキルなのだ。
 ジュンは斬り上げた勢いのまま、大太刀を右頬の脇に引き絞るように構える。片手剣の《ヴォーパルストライク》にも似た構えから放たれるのは、カタナスキル上位重単発技《霹靂神(ハタタノガミ)》――

「……ッ」

 《ブラストウイングコート》の制約により防具を装備できないマサキにとって、攻略組レベルの重単発技は文字通り一撃必殺となりうる。その脅威を正しく認識したマサキは、今度は自発的にその剣閃から目を外した。ジュンの背後、がら空きになった空間を強く思い描き、《瞬風(ときかぜ)》を発動させる。すると次の瞬間には、マサキは今の今まで正面から見ていたジュンの、コートに覆われた背中を視界に捉えていた。
 マサキは《軽業》スキル派生Mod《スカイ・ラン》を使って空中を蹴る。スキル上位の、それも重単発技ともなればジュンには相応の技後硬直が課せられる。一撃浴びせてお釣りがくるほどの時間だ。マサキは急激な気圧の変化によって生じる乾いた音を追い抜き、ジュンの背後斜め頭上から肉薄。鞘に戻しておいた蒼風を鞘走らせ、風刀スキル単発重攻撃技《春嵐(はるあらし)》でジュンの背中を真横に切り払った――はずだった。
 蒼風の刀身が確かにジュンの体躯を切り裂いた感覚得たのとほぼ同時に、マサキは腹部に強い衝撃を受けた。

「かは……ッ!?」

 身体をくの字に折られ、図らずもその衝撃が加えられた自身の腹部を目にすることになったマサキは、大太刀の柄が自分の鳩尾に沈み込んでいるのを見た。そしてその柄は、ソードスキルが発動していることを表す白いライトエフェクトを纏っている。
 ――有り得ない。
 《霹靂神》の技後硬直は、こんなに早く終わるようなものではない。次のソードスキルはおろか、ソードスキルを使わない単なる攻撃でさえ間に合うようなタイミングではないのだ。しかし、マサキの視線の先にある大太刀は、ソードスキルを発動した証拠であるライトエフェクトを間違いなく放っている。
 そしてマサキの知る限り、柄での後方殴打から始まるカタナスキルは一つだけだ。カタナスキル二連撃技《雪蛍(ゆきほたる)》。続く二撃目は、振り返りざまの逆袈裟斬り――。
 マサキは崩れおちかけていた足腰に精一杯の力を込めて左へ跳ぶが、追いすがるように振るわれた大太刀の刃はマサキの胴を深々と切り裂いた。
 受身も取れず、肩から石畳に落下したマサキは、追撃を警戒して素早く立ち上がり蒼風を構える。幸いにもジュンにその場から動く気配はない。今の技後硬直を無視したかのような動きを使えば更に攻撃を続けることは簡単だったはずだが、それをしなかったのは自分が圧倒的優位にいるという確信故の油断か、あるいは綿密に計算されたトラップ網によって守られたあの位置を離れるリスクを嫌ったのか。事実、この着地ポイントはマサキが回廊結晶によってこの通路に降り立った場所であり、唯一トラップがないことが確認されている場所でもあった。
 チラリと視界の端に目を向ける。今の二連撃をまともに受けてしまったマサキは、その前の《浮舟》をいなしきれず受けた分も含め総HPの約六割に相当するダメージを受けてしまっていた。ただし、直撃を食らった《雪蛍》がそこまで威力の高いソードスキルではないということを加味すれば、この残HPはまだマシな方、という結論になるだろう。ジュンも《春嵐》の直撃によってダメージを受けてはいたが、削ることができたのは三割といったところ。ダメージレースにおいて、マサキはかなりの劣勢に立たされていた。

「どうしたんですか? この程度じゃないでしょう、『先輩方』を何人も、一瞬のうちに殺して回った《穹色の風》の実力は」

 愉快そうに笑うジュンを睨みながら下唇を噛む。安い挑発に乗せられるわけではないが、エミが人質に取られている以上悠長に見つめ合ってもいられない。しかし、壁や天井を含めたそこら中にトラップが設置されていて迂闊に動くことさえできない。

「早く僕を殺さないと、《モノクロームの天使》がどうなっても知りませんよ? それに、せっかくマサキさんのために《罠設置》スキルなんて地味なスキルの熟練度上げ作業をして、時間掛けて準備したんです。もっと色々引っかかってもらわないと、骨折り損なんですよ」

 アインクラッドに存在するトラップには、大別してダンジョンやフィールドに元々設置されているものと、プレイヤーがスキルを使って設置したものの二つが存在する。そして後者に関しては、設置した本人が罠から一定以上離れた場合罠自体が消滅する――設置した罠をそのままにして、他のプレイヤーが引っかかるのを避けるためだと考えられている――ため、この場の罠はジュンが設置したか、あるいは近くにもう一人、罠を設置した人物が潜んでいるかの二つが考えられたが、今の発言が真実ならばこれらは全て彼が設置したものだということになる。
 しかし、ソロで活動するマサキの《罠看破》スキルはかなり高い水準にあり、アインクラッドに存在する罠の殆どは視界に入れただけで見破ることができる。そのマサキでさえ看破できないということは、《罠設置》スキル熟練度の完全習得(コンプリート)はもちろん、派生スキルModで《罠隠蔽率増加》を選び続けなければならないが、《罠維持範囲広域化》や《同時設置上限数増加》等他の便利Modを切り捨なければならず汎用性に劣るため、一般的ではない。それゆえの油断とも言えるが、特に先ほど天井に仕込まれていたのは何者かが踏んだ場合に起動するタイプで、つまりは「天井を走る」ということを予め想定していない限り絶対に設置できない。先ほどの技後硬直を無視したとしか思えない《雪蛍》といい、一見不利とも思える大太刀といい、全てがマサキという特殊なプレイヤーを殺すために練り上げられた策であることは明らかだった。

「……『この日の為に』ってのは、嘘じゃないみたいだな」
「本当は、もっと早く潰すつもりだったんですけどね。マサキさんの振りをして中層プレイヤーを襲い、その目撃情報と噂を攻略組に流す。殺人犯(レッド)の烙印を押されて攻略組から追放され、《モノクロームの天使》からも見放されたあんたを笑いながら殺すのが当初の計画でした。それまで味方だった攻略組に見捨てられ殺された仲間のようにね。……しかしまあ、まさかあんな方法で破られるとは思ってもいませんでしたけど」
「あの一件も、お前の差し金だったということか」
「ええ、まあ。計画の立案と調整にはヘッドの力を借りましたけど、実行は全部僕です」

 あっけらかんと自らの殺人を明かしたジュン。その誇らしささえ垣間見える態度にマサキは上下の歯列を僅かばかり擦り合わせた。
 気が付けば、太陽のように笑うエミを記憶から浚い反芻していた。これまでずっと冷たくあしらい続けてきたくせをして、こんな時ばかりその笑顔に縋りつき、助けを乞おうとするなんて、酷い話もあったものだと自分でも思う。麻酔のようなものだ。こうして都合のいい思い出に浸り、溺れ、目を逸らし。助けるためなんて恰好つけた理由を大声で叫んで、目と耳を塞いでしまう。そうすれば、少しは自分を麻痺させることができるかもしれない。
 最早「あわよくば捕縛」などと考えていられる余裕はない。エミを助けるには、眼前の男を殺す他ないのだ。マサキは左手で、震える右手ごと蒼風を握り締めた。



 こんなにも辛く、苦しい一秒があることをわたしは知らなかった。呼吸をすればするほど苦しい。干からびた喉は仮想の空気が通るたびヒリヒリと痛み、唾さえ呑みこむことができない。自分を落ち着かせようと深呼吸を心がけたら、吐息が小刻みに擦れ、震え。ひ、ひ、ひ、と何度も引きつるように喉がつかえた。もういっそ気を失ってしまえば、なんて囁きが蜜のように甘い官能を滴らせる。それは意味が異なる二つの諦念だった。この世界で純潔を失ったとしても現実世界のわたしの身体に傷が残るわけではなく、このまま殺されるのならば、貞操の心配をしたところで意味が無い、という。
 それでも、と、わたしは唇を引き結ぶ。マサキ君は来てくれる。根拠の無い希望的観測ではなく、これまで近くで彼を見てきた経験から、わたしは確信を持っていた。だからこそ負けられない。ここでわたしが音を上げて奴らの手にかかるようなことがあれば、きっと後でマサキ君は悔やみ、自分を責めるだろうから。勝手におせっかいをやいた挙句人質になるなんて間抜けを晒したわたしだけど、このまま終わりたくないって、マサキ君の力になりたいって願ったから。絶対に負けてなるものか。無傷でマサキ君に助けられることが現状のわたしにできる最大限の抵抗であり、わたしに残された最後のプライドだった。

「ッチ、おっせェなァジュンの野郎ォ。もうくたばったんじゃねぇのかァ?」

 小刻みに床を何かが叩く音が聞こえる。畳んだ膝元に固定されていた視線を眼球だけを動かしてそちらへ向けると、シュシュを奪われたことで垂れ下がりブラインドのようになっていた前髪の隙間から、腕組みをして踵で何度も床を打ち鳴らすジョニーブラックの姿が見えた。今この部屋にいるのはわたしと彼だけで、Pohはコートの人影に続いて出て行った。

「つか、こんなでっかい祭りだってのに、俺一人だけ女のお守りたァどういうことだよ、クソッタレ!」

 彼の苛立ちは次第に肥大化していき、やがて壁を蹴り始める。今は彼を刺激せず、大人しくしているべきだと考え目線を元に戻そうとしたのが、運悪くその寸前で目が合ってしまった。慌てて逸らしたが、耳には反響する足音が届き、見下ろしていた視界に薄い影が伸びてきた。わたしはジョニーがすぐそこにいることを悟り、奥歯をぎゅっと噛み締める。

「何見てやがんだ、よッ!」

 目を瞑った次の瞬間、わたしは顔面に強い衝撃を受けて背後の壁に頭を強く打ち付けた。ショックが体から抜けた後に目を開けると、ジョニーが振り上げた脚を下ろすところで、わたしが蹴られたのだと分かった。何てことはない。ペインアブソーバが機能している限り、どれだけ暴力を受けたところで痛くも痒くもないのだから。蹴られたダメージでHPが減りはしたが、ソードスキルを使わないただのキックで受けるダメージなんてたかが知れている。

「へっへ、お前もあんな奴と仲良くならなきゃ、まだ楽しく行きてられたかもしれないのになァ。……そうだ、いいこと思いついた」

 ジョニーは私の髪を無造作に掴み持ち上げて目を合わせると、その行動と見た目からは似つかない子供のような声で言った。

「お前、俺様の女になれ」

 わたしの全身を凄まじい嫌悪が駆け巡り、末端に至るまでがぞわぞわと震えた。

「《穹色》が来たら、『私は見も心もジョニーブラック様のものです』って言え。そしたら俺がアイツに『お前が今ここで死んだらコイツは助けてやる』って言うから、続けて『わたしのために死んでくれ』とでも言えよ。あいつが惨めに死にたくなるように演技できたら、命は助けてやってもいいぜェ」

 一方的に叩き付けられる宇宙語みたいな言葉の意味を理解した瞬間、わたしは耐えられなくなって目を伏せた。全身の筋肉がブルブルと悲鳴をあげ、奥歯がぎりぎりと軋む。それはわたしがこの場で初めて感じた猛烈なまでの怒りだった。
 ――ふざけるな。
 胸のうちで煮えたぎったマグマが噴き上がる。一体どれだけ自分勝手になればこんな考えが浮かぶのだろう。勝手に捕まった女のために、かつて親友の命を奪った奴らのアジトに乗り込んでくるマサキ君の気持ちを想うと、今にも胸がはちきれそうだった。

「イッヒヒ、面白くなってきたぜ。目の前でダチ殺した次は助けに来た女に死ねって言われるんだからなァ。クク、あのお高くとまった陰険野郎にゃピッタリの最期だ――」
「…………でよ」
「あァ?」
「ふざけないでよ――!」

 限界を超えた怒りが火山弾の如く噴出すると共に、わたしは顔を上げて目の前の頭陀袋を睨む。両目部分に穴が空いたそれは輪郭が滲んでいて、わたしの頬を煮えたぎった何かが伝い落ちたが、わたしは気にも留めなかった。

「あんたがっ、あんたなんかがっ! マサキ君の何を知ってるの! 何がピッタリよ! なにっ、何も分かってないくせに!! ……不器用で、無愛想だけど、それでもわたしを救ってくれた! 今だって、こんなわたしのために一生懸命になってくれてる! それ、を……っ、あんたたちみたいな奴が馬鹿にするな! マサキ君をっ! 語るなぁっ!!」

 それは原色の絵の具を調色せずキャンバスにぶちまけたような啼泣(ていきゅう)だった。涙で声は掠れるし、口は変に引きつっていて思ったとおりに動きやしない。その上喉と肺が自分勝手に呼吸したがるから、変な場所でしょっちゅう息継ぎが入って単語の切れ目は分からないわ、少しでも上ずると自分で自分の声と分からないほどの金切り声になるわで、言葉を他人への意思伝達手段だと捉えるなら、こんなのは小学校の国語でだって落第点だ。いつの間にかわたしは両目を瞑っていたけれど、ジョニーブラックが何かを言うことはなかった。やがて使える言葉が底をつき、わたしは滲む視界を肩ごと上下させて深呼吸を繰り返すと同時に目の前の頭陀袋を睨みつける。頭陀袋に覆われていては表情も何も読み取れないが、予想外の抵抗に呆気に取られているような佇まいだった。

「テメェ……」

 魂の底から染み出したような低い声。ジョニーの右拳がゆっくりと持ち上がり、じっとそれを見据えていたわたしの眉間を激しく打擲(ちょうちゃく)した。

「ナメてンじゃねェぞ! 自分の状況くらい、弁えろってンだよ! ア゛ァ゛!?」

 手なのか足なのか分からない殴打が何発も続けて飛んできて、わたしの身体中を激しく打ち据えるが、そんなもので与えられるのは少々の酩酊感とやかましい光、音くらいのもの。攻撃が止んだ途端、前髪を揺することもせず抵抗の意思を込めてジョニーに向けて眉を寄せると、それがよっぽど気に入らなかったのだろう、遂に得物であるダガーを持ち出した。

「チッ、どうせ後で全員殺すんだ、多少順番が入れ替わっても大したことじゃねェよなァ!」

 真上に振りかぶったダガーが、わたしの正中線に向けて振り下ろされる。その瞬間、わたしは咄嗟に右肩を引き、左肩をその軌道上に差し出した。毒々しい緑に濡れた細身の短剣はわたしの左上腕を、肩口と肘の丁度中間点辺りでいとも容易く両断した。胴体から離れた左腕はすぐにポリゴンの欠片と化し、青い光を伴って消失する。その瞬間、わたしを拘束していたロープが縛り付ける対象の半分を失い僅かに緩んだ。
 ――いける。
 一年半以上に渡って鍛え続けてきた直感が大音量で叫ぶ。緩んだロープから右腕を引き抜くと、脚に最大限の力を込め、目と鼻の先にある頭陀袋へ向けて身体ごと頭を突き出す。

「あぐっ!?」
「せ――っ、はぁっ!」

 額に何か硬いものがぶつかった感触。間髪入れず目線の先にあった両脚の間を蹴り上げつつ目線を上げ、よろめき後ずさるジョニーの頭を掴み引き寄せながら、そこへ膝を叩きつける。右拳を力一杯引き絞り、へぶぅ、と変な声を上げる左頬に追撃の右ストレートを見舞う。

「やあぁぁぁぁぁっ!!」

 景気良く吹っ飛ばされ壁に激突したジョニーの腹を壁に向かって踏みつけるように前蹴りを放つと、ジョニーは体をくの字に折って地面に倒れこんだ。わたしは念のため両肩を膝で押さえつけ馬乗りになって、ストレージから取り出したロープと猿轡で拘束。HPバーを見ると、さきほどのダガーに毒が塗られていたのだろう、かなりの速さで減少していたため、解毒結晶と回復結晶を贅沢に使って一気に回復。欠損していた左腕も元通りになった。
 もぞもぞともがくジョニーブラックに注意しつつ装備を整えていくと、その途中で一つのアイテムに目が止まった。画面の中でそこだけが強烈な光を放っているような、予感めいた響きが脳裏を巡る。

「……行かなきゃ」

 わたしはリズ作の直剣を腰にさし、ここを目指しているだろうマサキ君を探しに走った。 
 

 
後書き
 エミさんがここまで情け容赦ないとは作者も思ってませんでした() 
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