ソードアート・オンライン~遊戯黙示録~
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FILE108 ヒースクリフとエルダの語り
キリトにより正体を看破された血盟騎士団団長ヒースクリフ……彼の正体はソードアート・オンラインの開発者にして、1万人のプレイヤーをゲームの囚人と化し、実に4000人近いプレイヤーの命を奪った張本人たる茅場晶彦であった!
更に、そんな茅場に不意打ちを仕掛けたオズマであったが、それを遮ったのは何と同じギルドのエルダ……彼女の正体は沢井恵梨香。レイナの身内動画part2に登場したレイナの実の姉で、現実世界で茅場晶彦の助手を務めていた少女であった!更に彼女はキリトよりも早い段階で、ヒースクリフの正体に気が付いていたと言うのである! by立木ナレ
俺「エルダ、レイナの身内動画part2によるとだ。レイナの姉のお前がレイナをソードアート・オンラインにフルダイブさせたとか言ってたみたいだけどな、そりゃどういう事だよ?」
俺の質問に対してエルダは俺に対して明らかに敵意の籠った視線を一瞬向けるが、すぐに目を逸らした。
エルダ「茅場先生、渡しにしばらく話す時間をくれないかしら?」
ヒースクリフ「そうだな。状況を説明するくらいは構わないだろう」
エルダが隣のヒースクリフにそう問いかけるが、その視線はレイナを見据えたままであり、ヒースクリフもエルダの方を振り返る事無く答えた。
エルダ「今から3年近く前の事だったわ―――ソードアート・オンラインの正式サービス開始の一年近く前の時期ね。私の二歳年下の妹の玲奈が交通事故に遭ったのよ」
エルダは当時の事を振り返る様に――悲壮感を感じさせる表情を浮かべて語り始めた。
エルダ「その事故の影響で玲奈はベットで寝たきりの昏睡状態になってしまったわね……」
俺「レイナの身内動画part1でお前とレイナの親がレイナがフルダイブできるわけが無いとか言ってたけど、そう言う事だったのか……」
確かに、ベットで寝たきりの状態になってたんじゃフルダイブなどは出来ないはずだ、何故ならフルダイブするにはナーヴギアを被った状態で【リンク・スタート】と自分の肉声で発生しなくてはならないのだ。
エルダ「そこで私はせめて――玲奈を私の妹を仮想世界で目覚めさせることを考え付いたわ」
キリト「まさか……それでレイナを?」
エルダ「そう、私は茅場先生が当時開発中であったソードアート・オンラインにフルダイブさせる事を考えたのよ。幸いにも私は茅場先生の助手だったから、同じく茅場先生が開発したナーヴギアの内部構造に関する知識もあったから改造は……かなりの労を要したけど実現したわ」
そう語るエルダの表情は決して、苦労の末に目的を成し遂げた達成感とは裏腹に、むしろ自分の行いに関して後悔の念を感じているように見えていた。
そんなエルダに対してキリトが自分の考えを直にぶつけるのだった。
キリト「昏睡状態の人間を何かしらの手段を用いて、フルダイブさせる事か?」
エルダ「ええ、それで私は玲奈をソードアート・オンラインにフルダイブさせて、私自身もソードアート・オンラインにフルダイブする事で再会する事を考えて、それを実現したわ……」
俺「なるほどな、だがそれで姉妹揃ってソードアート・オンラインの囚人になっちまったわけか」
俺がそう口を挟むと、エルダは歯を食いしばり俺を睨み付ける、先程からエルダには妙に俺に対して何か恨みでもあるかのような感情があからさまに感じされる。
だが、エルダはそれを言葉にしてぶつけるような事はせず、冷静さを維持したまま話を再開する。
エルダ「そうよ、私は茅場先生がまさか―――ソードアート・オンラインをログアウト不可能なデスゲームにしてしまうだなんて予想していなかったわ……けど、そのせいで私は玲奈を捲き沿いにして……妹を死の危険の付きまとう世界に放り込んでしまったのよ……けど、私にとって更に計算外の事が起きたわ」
エルダの更なる計算外の事とは―――それは大方想像が付く。そしてレイナ自身もそれには心当たりがあり、自らエルダに問いかけるのだった。
レイナ「貴方は私が、その交通事故によって記憶喪失になっていた事に――このソードアート・オンラインの世界で私に会う事で初めて気が付いたのね?」
エルダ「ええ、第5層で初めてオズマ君やユッチ君と一緒にいた貴方を見た瞬間は不覚にも、貴方に対する罪悪感以上に、ちゃんと目を覚まして自分で動ける貴方を見た事に感極まってしまったわ―――けど、すぐに私は気が付く事になったわ。貴方が現実世界での記憶を……私の事も貴方自身の事も全てう喪失してしまった事にね」
俺「けど、お前はそれ以降も俺達と行動を共にし続けたわけだな。ユッチが言い出したことだが、ギルドを共に立ち上げる事で、レイナの側に居続けた」
俺の問いかけに対してエルダは俺に対して再び冷たい視線を向けて、冷淡な言葉を浴びせる。
エルダ「そうよ、私の大切な妹が……どこの馬の骨とも知れない男に誑かされて一緒にいるんじゃないかと思ってね―――そしてそれは後々現実になったわ」
俺「…………」
エルダが言っているのはまさか……迷宮区の31層の一件で俺がレイナに手を出して以降の事か?あの事は誰にも知られないようにしていたはずだが、仮にその事をエルダが何かしらの手段で知っていたのだとしたら、エルダが俺に対して敵意を向ける理由としては十分過ぎるな。
ヒースクリフ「そんな中、私とキリト君のデュエルが行われ、そのデュエルを観戦していた彼女は私の正体を真っ先に看破したわけさ」
エルダの説明を補足するようにヒースクリフがそう口にし、そんなヒースクリフを見据えながらキリトが言い返す。
キリト「そこだ。そこであんた達の間で一体どんなやり取りが為されたと言うんだ?少なくとも―――彼女はこの真実を誰にも、それこそ同じギルドのオズマやレイナにも一切話す事は無かったみたいじゃないか」
ヒースクリフ「簡単な事さ」
ヒースクリフは僅かに笑みを見せ、キリトと俺、そしてレイナを見渡してから更に語った。
ヒースクリフ「彼女は私に対してこう要求したのさ……『出来る限り妹と共に過ごす為に、このソードアート・オンラインがクリアされた暁には、妹を今もなお厳重に現存され、外部からの接触が不可能となっているベータ版のソードアート・オンラインにフルダイブさせる事……そして、自身もベータ版のソードアート・オンラインにログイン出来るようにロックを解除するキーコードを教える事』以上だ」
エルダ「勝手にそこまで喋ってくれちゃって……ま、それは私もこの場で説明するつもりでしたよ」
レイナ「……私をゲームクリア後も仮想世界にフルダイブさせ続けるのが、貴方の目的だったのね」
鼻で笑う様にエルダはヒースクリフの言葉を認めていた。ヒースクリフがエルダから要求された事はつまり、現実世界では寝たきりのレイナをもう一つのソードアート・オンラインとも言えるベータ版にフルダイブさせ、自身もそこにフルダイブする事でこの先もレイナと同じ場所で過ごし続けると言う事だった。
俺「んで、騎士団長殿はそれをあっさりと了承したって事か?アンタならエルダにどんなふうに脅されようが、システムの権限で幾らでもどうにでも出来るはずだろうに」
俺がヒースクリフに対して鋭い視線を向けながらそう聞くと、ヒースクリフは含み笑いを見せ、首を微かに横に振って言い返す。
ヒースクリフ「まさか……私の正体に最初に気が付いた彼女に敬意を表して、とある条件を満たす事でそれを認める事にしたよ」
俺「流石に無条件に何でもホイホイと聞き入れるほどお優しくは無いんだな」
そしておそらくそれが、エルダがヒースクリフの正体を秘匿し続ける決意をした一因のはずだ。その答えは、さっきとは逆に今度はエルダがヒースクリフに対するお返しと言わんばかりに答える。
エルダ「茅場先生の出した条件はね『私と玲奈が共に生存した状態で第100層まで到達し、そこでソードアート・オンラインをクリアする事』つまりソードアート・オンライン本来のクリア条件を姉妹で生存した状態で満たす事なのよ。そしてそれを達成するには、途中でこのゲームの根幹に関わる部分や、重大な秘密などが暴露されてしまい、事態が急変するような事態は好ましくなかったのよ……」
キリト「そうか、俺がたった今ヒースクリフが茅場であると言う事実を暴いたことで……エルダの目的にも支障がきたされようとしてるって事か……」
その時、一人の血盟騎士団のプレイヤーがゆっくりと立ち上がった。その細い目には苦悩の感情が宿っているようだ。
「貴様……貴様が……。俺達の忠誠……希望を……よくも……よくも……」
巨大なハルバードを握り締めて、
「よくも――――ッ!!」
絶叫をあげながら地を蹴り、ハルバードをヒースクリフへと振り下ろそうとした。だが、その攻撃はエルダによって防がれる―――。
事すらなかった、ヒースクリフはウインドウを出現させ素早く操作したと思うと、ハルバード使いの身体は空中で停止しついで床に音を立てて落下した。
俺「麻痺させやがったのか!」
HPバーにグリーンの枠が点滅しているのを見て俺がそう叫んでいる最中にも、ヒースクリフは更にウインドウを操作し続ける。
アスナ「あ……キリト君……っ」
レイナ「……私達も……麻痺っ」
振り返ると、アスナとレイナも、それどころか俺とキリトとヒースクリフとエルダ以外は全員が不自然な恰好で倒れて麻痺状態となっていた。
キリト「……どうするつもりだ。この場で全員殺して隠蔽する気か……?」
ヒースクリフ「まさか。そんな理不尽な真似はしないさ」
ヒースクリフが微笑を浮かべたまま首を左右に振る。
エルダ「やっぱりこうなってしまったわね―――あの時私がキリト君の攻撃を防げてれば……!」
そのヒースクリフを見て、エルダが歯痒そうに表情を曇らせながらそう漏らしていた。
ヒースクリフ「こうなってしまっては致し方ない、予定を早めて、私は最上層の紅玉宮にて君達の訪れを待つ事にするよ。九十層以上の強力なモンスター群に対抗し得る力として育ててきた血盟騎士団、そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが、何、君達の力ならきっと辿り着けるさ。だが……その前に……」
ヒースクリフは言葉を切ると、キリトを見据えていた。そしてエルダの方は俺を見据える。
ヒースクリフ「キリト君、君には私の正体を看破した報奨を与えなくてはな。チャンスをあげよう。今この場で私と一対一で戦うチャンスを。無論不死属性は解除する。私に勝てばゲームはクリアされ、全プレやーがこの世界からログアウトできる。……そして、分かっているね恵梨香君?」
エルダ「ええ、私はオズマ君と戦えば良いのでしょう?」
ヒースクリフに声を掛けられたエルダがヒースクリフの方を振り向く事無く、細剣を俺に向けていた。
ヒースクリフ「そうだ、君がオズマ君に勝てば――君の大切な妹はこのゲームがクリアされるまで君のホームから出られないようにする―――つまり、このソードアート・オンラインで死ぬ可能性は消えると言うわけだ。無論、第100層でゲームがクリアされれば当初の予定通り妹をベータ版のソードアート・オンラインにフルダイブさせよう」
ヒースクリフとエルダは恐らく前々から、不測の事態に陥った場合の方針についても定めていたのだろう。
特にエルダにとって重要なのはレイナの処遇……レイナの安全を確保しつつ、レイナをベータ版にフルダイブさせると事だ。
アスナ「だめよキリト君……!貴方を排除する気だわ……。今は……今は引きましょう……!」
アスナは麻痺状態で動かない体を必死に動かし、キリトの腕の中で首を横に振っていた。
レイナ「……オズマもそんな勝負しちゃダメ……例えエルダが私の姉でも……そんな事の為にオズマを殺すなんて許さない」
そしてレイナは、同じ様に麻痺状態で不自由な身体で、自ら姉である事を明かしたエルダに対して、その要求を真っ向からエルダのやろうとしている事を否定する。
そんなレイナに対して、姉のエルダは悲しみの色を浮かべた目付きをレイナに向けて、穏やかな口調で言った。
エルダ「分かって頂戴玲奈……貴方をより安全に、そして新しい世界で貴方と会う為にも……私の手でこのオズマ君を倒して、そして―――」
エルダはヒースクリフに対して、明確に敵意の籠った視線を向けて宣言した。
エルダ「第100層で私がヒースクリフを殺すわ……!今でこそ私は茅場先生の手の内で踊ってやるけど……最後はこの剣で貴方を葬って、私は玲奈と共に新しい世界で共に過ごす!」
ヒースクリフ「そうか……その時は容赦なく私を殺しに来ると良い」
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