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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第266話 藍子と木綿季とチョコレート

 
前書き
~一言~

早めに投稿できたのはよかったのですが…… やっぱり短いです…… 無理矢理ねじ込んじゃった~って感じで、この話と前話で1話分! と考えていただければありがたいかな、と思ってます…… 苦笑

そしてそして~ ついに始まっちゃいました、SAO 第3期! Pohやらガブリエルやら 声優さん良い仕事してますね♬ ……やっぱり シノンがかわいいと改めて思っちゃったので あのシーズンする時、スポットライト当てちゃいそうですw


 そして―――あの世界に入る切っ掛けとなった事件。相打ちに倒れちゃいましたが、リュウキ君の場合はどうしようかなぁ、とまだ行けそうにないのに悩んじゃってる自分もいたり…… 苦笑

現実の肉弾戦もできてる! 足技、合気、いろいろと武術っぽいのをやってて、GGOではCQCまでかましちゃってるので、あ~んな ラリったイカれた不審者と相打ち………って想像できなくなっちゃってるんですよね………、かと言って、ならどーやってあの世界に入るのか? と問われればまた難しいと感じちゃってて……。

と、ともかく、ガンバリマス!

最後にこの小説を読んでくださってありがとうございます!! もうちょっと、もうちょっとで映画編なのですが、まだ お付き合いいただけたら幸いです! ガンバリマス!


                             じーくw
 

 

~其々のバレンタイン 藍子ver~



 バレンタインデーの日の横浜港北総合病院に隼人はいた。

 実は今日が特別……と言うわけではなく、定期的に隼人は この病院に訪れている。

 その理由は 仕事関係であったり、経過報告会に出席したり、用途は様々だが ほぼメインはお見舞い、というのが大きいだろう。いつもは 明日奈や玲奈、そして和人も共に来ることが多く、大所帯になる時だって多いが、今回は1人での訪問故に、仕事の比率の方が自然と多くの割合を占める形になるかもしれないが、それででも必ず、この病院で頑張っている藍子や木綿季のところへの訪問も忘れてはいない。


 そして、今日という日。本来であればもっと濃密な訪問を――と言うスケジュールにしていたのだが、渚の叱咤激励もあって、しっかりと見直した、というのはまた別の話だ。








 紺野姉妹の二人は日に日に元気になっていっている……。それは決して精神論だけでない。正直絶望とも思われていた病気の侵攻が完全に止まり、そして数値的にも改善していっているのだ。


 彼女たちは、決して口には出さないが、それでも何処か、すべてを受け入れていた。病気のこと、――寿命というものを。

 
 それは……彼女(サニー)を失ったときからより顕著に表れていた。
 でも、まるで導かれる様に 出会いを果たして、心からまだ生きたいと思う様になった。
 
 それが兆しになったといってもおかしくはないだろう。

 そんな彼女たちを見ると自然と周囲に笑顔がほころぶ。心から嬉しく思ってしまう。
 そして、日々良くなっていく光景を見ていく隼人は、この光景を彼女(サニー)と一緒に見たかった……と思わないといえばウソになる。
 でもきっとどこか別の場所できっと2人を見守ってくれているだろう、とその都度、隼人は思うようにしていた。



 そう――空を明るく、あたたかく照らす太陽のように。
 










「今日も宜しくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ。皆さん待ち焦がれていますよ」
「……あの、やっぱり そこまで歓迎されなくともと思うんですが……」
「ふふ。恒例ですよ。もうこれは。申し訳ありませんが、諦めてください。隼人君」
「そう、ですか……。仕方ない、ですかね? あははは……」


 隼人は、紺野姉妹の担当医の1人である古里先生と道中談笑をし、会議室へと通された。


 ただ1人の10代である隼人。それ以降が20後半~60代と幅広い年齢層。そしてその世界の重鎮とも言っていい経歴の持ち主。医師を志す者であれば、医師を目指す者であれば、誰もが名前を一度は聞いたことがあるであろう人物。

 その中にいる隼人は やはり異彩を放つ存在だといえるかもしれない。その中に何故、まだ発展途上。年端もいかぬ少年がいるのか? と初見であれば 疑問視する者もいることだろう。
 元々表舞台に出ることを拒み続けていた経緯がある為だ。その名を聞けば―――誰もが納得するから。


 でも、それでも歳下である事実には変わりないので、まずは先に挨拶。畏まらないで、という旨を恒例のように伝えてから始まる報告会。

 綺堂氏にしっかりばっちり英才教育は受けているのでそのあたりは問題なし、である。


   


 そして、紺野姉妹のいる病室にて。

「…………」

 藍子はじっと手元に置かれた小さな包みを眺めていた。
 数秒後 机の引き出しに、そっとそれを仕舞う。

 その後は 小さく足を揺らせる藍子。
 どうにも気後れしているのか、怯んでいるのか……、逃げ腰になってしまっていると言うか、それらが当てはまる藍子。木綿季はそんな姉をいつまでも見ていたい、なんて思うわけない。

「ねーちゃん!! 覚悟決めなよ! もう、昨日からずっとだよー? それに、意気込んでた時もあるじゃん!」
「ぅ……。わ、わかってるよー」
「ほんとにもー、リュウキの前じゃ完全に乙女になっちゃってる姉ちゃんも、たまには良いかも~とか思ってたけどさ。ここまで弱腰になっちゃってる姉ちゃんはやっぱ見たくないよ。ほーら、ボクも一緒に渡すんだから、がんばろ! 誘ったのねーちゃんでしょ?」
「……うん」

 藍子がなぜここまでになってしまっているのかも当然木綿季はわかっている。
 以前まで、なんだかんだと否定気味に話していたのだが、もう隠せれてないと言うか、バレバレと言うか、別に悪いことをしてるわけじゃないし、普通の感性だ、と美樹先生にも背中を押されて ちゃんと木綿季の前でも認めちゃっていた。

 
 まだよく判ってない部分もある。それにきっとこれは、憧れの気持ちの方が遥かに強い、と藍子に力説されたが、にやにやと笑う木綿季。 そんな妹に、実力行使で納得させた(らしい)。

「もうすぐ、隼人君が来ますよ。どうやら仕事も終わったようです」

 美樹先生にそう告げられて、元々仄かに赤く染まっていた頬が更に赤く、熱くなる藍子。
 木綿季も、ただチョコを渡すだけじゃ~ん! と楽観的だったのだが、やはり いざその時が迫ると、やっぱり女の子。照れくさくなってしまうのも無理はない。
 以前の27層のBOSS攻略の時に、颯爽と助けてくれた隼人のことを忘れていないのだから。

「……は、はい」
「えへへ。なんだかドキドキするねー。男の子にチョコ渡すのなんて、もういつ以来だったかな?」

 それでも、やっぱり木綿季。この状況をもどこか楽しんでいる。藍子は 手のひらに何度か《人》を書き、飲み込んだ。

 そして、扉にノック音が響き、美樹が入室を促す。がらっ と開けられた先には、意中の人物がいた。

 いつもなら、明日奈や玲奈、和人もいて1人だけでやってくるというのは、今回が初めてだったかもしれない。

「こんにちは。2人とも調子はどうだ? 大事ないか?」
「いらっしゃーーい! もっちろんっ 元気だよ!」
「……だな。見た通り。心底感服するよ」

 木綿季が笑顔で握りこぶしを作る仕草を見て、隼人はそっと息を吐いた。
 書面上で大丈夫である、という結果報告を聞いても、やはり本人を実際に見て安心したかったから、という理由が大きい。

「ん? ラン?」
「…………」
「大丈夫か?」
「ひゃっ!! だ、大丈夫ですよ! 私も元気です!」
「ん。その様だな。……安心したよ。2人とも」

 藍子が少し上の空な様子を見て、隼人はやや心配性が顔に出たが、すぐに安心できたようだ。藍子も木綿季も笑顔だったから。

「えへへ。なーに心配してんのさ。ボクたち、ALOでいっつも元気なところ、見せてるでしょ?」
「それはそうなんだが、やっぱり現実(ここ)。実際に会った方が安心するから」
「リュウキは心配性だなー。大丈夫だよっ! ボクたち頑張るから! ぜーんぶやっつけて、次のステージに行くんだ! 負けないからね。ねー、姉ちゃん」
「……ええ。そうよね。はい。リュウキさん。私たちは、勉強も頑張ってます。次は私たちが力になりたいので。出来ることならなんでもするつもりです」

 きゅっ、と手を握る藍子と木綿季。

「ふふ。でも、あまり気負いはし過ぎるなよ?」
「ここまでしてくれてるのに、それは正直無理かなー。だって、すっごく力入っちゃうからさ。それに今のボクたちなら、2人でフロアボスをやっつけれそうな勢いなんだよ?」
「ふふ。リュウキさんには申し訳ありませんが、私もそれは無理そうです。頑張ります。頑張らせてください」
「………わかった。2人とも頼む。現実(こっち)でも、ALO(向こう)でもな」


 最後は3人で笑いあった。

 それを傍から微笑みながら見ていた美樹は、気付かれないように病室を後にしたのだった。














「それでさー、ボク前から聞きたかった事なんだけど、キリトとリュウキって デュエルとかするの?」
「ん? ああ、たまにだが。でも、あくまで練習としてだ。システム的な決闘(デュエル)はほとんどしないかな。圏内戦闘、模擬戦を基本としている。主に内容はシステム外スキルの研究や、新スキルの確認と披露、といった感じでだ。……あぁ、あとは 魔法もたまに」
「ふふ、それはリタさんと一緒にいる時が多かったと記憶してますが」
「ああ。ランの言う通りだ。魔法に関しては、あの世界で随一。その上ストイックだからな」

 話の内容はALO内での事になっていた。

 現在話題性抜群なのは間違いなくユウキやランだ。
 事《強さ》という領域において異彩を放ち続けているのは絶剣、剣聖の2人だと言えるから。2人が樹立した怒涛の88人抜き。その記録は皆の記憶に新しい。

 だが、当の本人たちはというと 自らよりも直ぐ傍にいる男たちの方に釘付けだった。
 その2人とは 勿論 ブラッキーとマスターブレイブ。つまり キリトとリュウキの2人だ。

 それもその筈。

 ユウキは確かにキリトを負かした。だが、ユウキの中では キリトにはまだ本当の本気というものがある、とどこかで確信している様だった。
 その確信の材料の中にキリトが以前のBOSS攻略の際に助けてくれた時に使っていた二刀流、そして魔法破壊(スペルブラスト)と言った システム外スキルの存在がある。

 キリト本人は、きっと負けは負けと認め、本当の本気? みたいなのをあまり認めたりしないと思うが、それでもユウキはいつか全部。全力の全力を出したキリトと剣を交えてみたいと思っている。

 前回は確かに勝てたが、ユウキがキリトの戦いの事、また戦ってみたい事を話してる表情はまるで、挑戦者(チャレンジャー)のようだった。

「あー、でも ボクはやっぱリュウキと戦いたいかもだね」
「ん? オレともか?」
「そーだよ。だって、姉ちゃんが負けちゃってるし~、カタキウチ、しないとじゃん!」

 えいっ、やーっ と剣を振る仕草をするユウキ。どうやら、キリトの話題からリュウキの話題へと変わったようだった。

「姉ちゃんもリベンジ~ とか考えてないの?」

 負けず嫌いじゃん? と言わんばかりにユウキはランに聞いていた。
 仲間内のバトル等で常に全戦全勝と言うわけではないが、ユウキやランは秀でていて勝負の際には勝つことが多い。
 ユウキの事を後ろで見守る事が多いランだが、やっぱり勝負には勝ちたい、と言う基本的で当たり前な欲求はあるから、負けた後は虎視眈々……と言うのがパターンだった。

 そして、一度よりも二度、三度と精度を上げていくから次回からは更に強くなっていく―――と言う何処の主人公ライバル系のキャラですか? とジュンがツッコミを入れる事もあったりした。

 ユウキの言葉を聞いて、ランは パタパタと手を振った。

「一度経験できただけで充分よ。それだけ凄く濃密な時間だったから。……本当に」

 ふふっ、とランは笑った後 目を瞑って天井を見上げる。
 きっと、サニーもこんな気持ちだったんだろう、と感じながら ランはつづけた。

「それに、リュウキさんはとても優しい人なのは知ってるでしょ ユウ。だから、……勝負事をするとしたらデュエル以外でお願いします」

 ランはパチっとウインクをした。
 リュウキはその意図を察したようで、頭を二度、三度と掻いた。

「へへ~ そーだったよねー。女の子には最後までは出来ない、って言って剣納めちゃったよね? く~ カック良い~んだから~」
「って、からかわないでくれよ。ユウキ」
「えへへ。ごめんごめん。あっ、でも ボクはほんとに戦ってみたいからねー。今度 大きな大会あるみたいだし、リュウキ! ぜーーったい出てよ? そう言うの出ない、って聞いてるけど。出てよーー!」
「………考えとくよ」

 ユウキが言っているのは 中旬に開催される予定の統一デュエル・トーナメントだ。今回で4回目を迎えるかなり大きな大会で第2回から《MMOストリーム》で生中継をされる仕様になってしまった(・・・・・・・)のが、隼人……リュウキが参戦に心なしか意欲が失せてしまう結果になってしまったのだ。

 今更目立つも何もないだろ! と回りから何度か言われるのだが、MMOストリームでの中継は全国、否 ザ・シード連結体(ネクサス)に広く、深く、響いてしまう影響力を持っている。

 今まで偉業を成してきてるリュウキだが、元々の仕事はよく考えてみれば裏方が基本。日々の仕事をこなしていくにつれて、表方に出過ぎ。と思ってしまったのも無理はなく、第1回大会には出場したが、2~3回の大会には出場してなかったりする。

 表向き? は仕事が多忙である、と言う理由で棄権したのだがその真偽は本人にしか解らず、詩乃あたりが綺堂氏にコンタクトを取り、裏を取ろうとしたりしたが、無言の微笑みを返されたとのことだった。
 色々と協力してくれて皆から慕われ、頼られている綺堂氏だけれど、やっぱりまだまだ隼人の味方なのだろう、と当たり前だが詩乃は改めて納得したのだった。



「やったねー! 今からもう楽しみだよ!」
「でも、ユウキ。デュエルくらいなら別に空いてる時なら、いつでも付き合っても良いんだぞ」
「えへへ。それは嬉しいけどさ。リュウキとは大きな舞台でやった方が良いって思うんだー。ほら、姉ちゃんと戦った時みたいにさ?」

 ユウキは、白い歯を見せながら 笑い ランとリュウキは逆に首を傾げた。

「って、ユウ。あれは ただの辻デュエルだったじゃない」

 ランは呆れるているような表情をしていたのだが、実の所、あの時の事は鮮明に覚えている。本当に偶然。……運命に導かれた、サニーが導いてくれたんだとも思えていたから。
 少し惚けてしまったランだった。いつものユウキだったら、そんな様子のランにすぐに気づくのだけれど、そこは似た者姉妹。ユウキがいっぱいなのは リュウキとのバトルの事だ。

「リュウキとバっトルっ♪ バっトルっ♪」
「そこまで喜んでもらえるのは嬉しい……かもだが。あれは確かに当時は話題性もあったけど、比べるものがデカすぎると思うぞ。と言うより あの統一トーナメントと比べたら、殆どのものが霞むと思うし、そもそも以前にランが言う通り、辻デュエルなら……正直オレは大きいとは思わないな」
「そんな事ないよーっ! 何せ みんなと出会えた切っ掛けだったじゃん。……やっぱりボクたちにとっては特別だよ。あれ以上のものは無いって思ってるからさ」

 いつも元気いっぱいなユウキ。天真爛漫なユウキ。
 《特別》と口にした時のユウキは、何処か儚くも美しい花の様な、そんな表情をしていた。

「……そう、だな。オレにとっても同じだ。……皆に会えたんだから」

 リュウキも深く、ゆっくりと頷いた。
 目を細めて笑っているユウキの頭をそっと撫でて、また笑った。
 ランもユウキの傍を離れない。すぐ傍でただただ微笑んでいたのだった。
 



「さぁ、これからまだまだ大変だぞ、2人とも。頑張れるか?」
「もっちろん!」
「はい。……頑張ります!」


 力強く頷く2人を見てリュウキも同じく頷いた。
 そして、席を立とうと腰を浮かせた時だった。

 もうリュウキが帰りそうな気配はそれとなく感じていたラン。時間が経つにつれて、そわそわと世話しなく手を動かし、揉み合わせていた。
 いつ切り出すのか、とユウキも気付いていた様で、リュウキが帰ってしまう前に素早く立ち上がって前に出た。

「わーちょーーっとまってリュウキ!」
「っと、どうしたんだ?」
「ほーら 姉ちゃん! 一番大切な事忘れてるじゃん!」
「っ……」

 突然呼び止められた事にリュウキは驚くが、それ以上に体を震わせたのはランの方だった。

「にっしし~ はい、リュウキ。これ」
「……これは」

 ユウキは にっこりと笑って、そして差し出してきたのは 小さな桃色の包装紙と赤いリボンで包まれた箱だった。
 そして、それを見たリュウキは直ぐに判った。ここに来る前に幾つか学校で貰ったから。
 渚に事前に教えて貰ったから。想いを伝える一大イベントだと。

「ふふ。ボク頑張って選んだんだよ? チョコ上げるのなんてすっごく久しぶりで ドキドキしちゃったよっ」
「そうか。ありがとう。嬉しいよ」

 ユウキは仄かに顔を赤く染めて、歯を見せながら笑っていた。
 ランは 先を越されちゃって、少し慌てていたが ユウキは ぱちんっ とウインク。

「さっ、姉ちゃん! ……ボク、ちょっと行ってくるね?」
「んん? どうしたんだ? 何処か行くところがあったのか?」
「もー、ボクだって女の子なんだぞー。そういうの聞く? リュウキってば デリカシーないぞ。トイレ、行くのー」
「あ、ああ。そうだったのか」
「へへー、りゅーきのえっちー」

 んべ、と舌を出して、そのまま外へと出て行った。
 立ち上がって、ちょっと行く、と言ったので 行先を聞いた。……間違いだったのだろうか、とリュウキは傾げた。

「むぅ。やっぱり難しい、かな……」

 いろいろと。
 それを見たランはと言うと。

「い、いえいえ。ただのユウのいたずらですから。あまり深く考えないで良いと思います。突然行く、と言われたら私も聞いちゃいますし」
「んー」

 それもそうか、とリュウキは納得した様で、ランも安心し……そして、机の引き出しの中から箱を取り出した。ユウキと同じようにコーティングした小さな箱を。

「リュウキ、さん。私からも、良い……でしょうか?」

 おずおずと差し出す小さな箱。
 想いを込めたチョコレート。

「……勿論。ありがとう」
「私たちは、リュウキさんにたくさん、たくさんいただいてますから……」

 ランの言葉を聞いて、リュウキは左右に首を振った。

「オレも2人には貰ってる。沢山、貰ってる。オレにとって毎日は、まだまだ新鮮で、それに勉強だから。だから、沢山貰ってるのはオレの方も同じなんだ」
「同じ……、私たちと、同じ?」
「ああ。……オレもまだまだ勉強勉強。大変だけど、……楽しくて仕方ない、かな。勉強って」
「ふ、ふふ……。はいっ。私もそう思います」

 チョコレートを渡せた事にランはほっと一息。
 そして、チョコレートは想いと共に、伝えたい想いと共に包み、差し出したんだ。

ほっとし、ランは手を胸にあてた。




――この気持ちの正体はいったい何なのだろう。


 
 ずっと考えていた事でもある。
 周りが、一目ぼれをした、と囃し立てているが そう単純ではない事は自分でもよく判っていた。好意は好意だとわかる。でも根幹の部分がまだはっきりとは判らない。

 初めて出会った時、心に響いてきた。サニーから彼の事を誰よりも聞いていたから、なのだろうか。聞いただけで実際に見たわけじゃない。普通なら、言葉だけで思い出を聞いただけで、その人を当てるなんて事は出来るわけがない。 

 だから、出会えたのは奇跡。導いてくれたんだと思えた。

 そして、それだけでなかった。一緒にいると心が温かくなる。いろいろな事が重なりに重なって、今がある。


 ちょっぴり妬いちゃう事だってあるけれど、それでもリュウキが言う様にランも毎日が勉強で、そして楽しい。
 
 
『リュウキさんと一緒の学校で勉強して、遊んだりしてたら、きっと毎日が輝いてる。周りの皆さんの様に』
『リュウキさんの様な恋人さんが、彼氏さんが、旦那様がいたら、毎日ドキドキし過ぎて、大変そう……だよね。玲奈さんもきっとそう』
『あ……、もし、私に、私たちにお兄さんがいたとしたら……。きっと リュウキさんの様な感じかな? 今度、ユイちゃんやリーファさんに聞いてみようかな……。理想のお兄さんですか? って』




 いろいろな感情が湧いて出てくる。
 親愛だったり友愛だったり、愛情だったり。言葉にすれば少ないかもしれない。でも 言葉にならない思いが無限にさえ思える程湧いて出てくる。

 想いをそっと胸に抱いていたその時だった。


「へへ~~ たっだいまーー。ちゃーんと姉ちゃん渡せた?? リュウキ! もらえた??」

 元気良く病室の扉をがらっと開けてユウキが飛び込んできた。

「ああ。ありがとう。2人とも」


 リュウキはユウキを笑顔で迎え、改めて2人に感謝を伝えていた。


 リュウキとラン。2人きりの時間は、ほんの数分間程度だった。
 体感的には、もっと長かったのか、短かったのか、正直判らない気もしたが、時計を確認するとやっぱり短い、と思ってしまう。
 もうちょっと2人の時間にしてくれても良いのに、と思いながらも、らしくない気を使ってくれて 時間をくれた妹には感謝を送ろう。





「ありがとね。ユウ」


 
 
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