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戦国異伝供書

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第十四話 北陸へその六

「危うかったです」
「お主を失っては大事であったわ」
 信長はこのことを真剣な顔で述べた。
「まことによかった、しかしその猿夜叉にしてもな」
「お父上がでしたな」
「妙な者が近寄り操っておった様であるし」
「公方様につきましても」
「何故わしの敵にはよく何かが付きまとう」
 怪訝なものを感じずにはいられなかった。
「おかしいのう」
「確かに。何かが動いているのでしょうか」
「わからぬが」
「それでもですか」
「この度もな」
「どうしてもですな」
「用心しておこう」
 幕府即ち義昭のこともというのだ、それで都を守る信行に文も送ったうえで本軍を率いて加賀に向かった。そしてだった。
 加賀に入り手取川に向かう途中でだった、報を聞いてやはりとなった。
「そうなったか」
「はい、何とか軍勢はです」
「手取川の南に退けたな」
「ですが」
「多くの兵が死んだか」
「上杉の軍勢に攻められ川にも落ち」
 その手取川にだ。
「そうしてです」
「そうか、しかしじゃな」
「軍勢の九割程が逃れることが出来」
「権六達もじゃな」
「どの方もご無事です」
「ならよい、敗れたことも仕方ない」
 謙信が相手ならというのだ。
「それもな、それよりもじゃ」
「大事なことは」
「これからのことじゃ、それではな」
「これよりですな」
「軍議を開く、権六達もじゃ」
 敗れた彼等もというのだ。
「呼んでじゃ」
「そうしてですか」
「軍議を開くぞ」
「わかり申した」
 こうしてだった、信長は柴田達も呼び軍議を開いたが柴田達の謝罪はよしとしてそのうえで行った。そしてだった。
 軍議の夜にだ、彼は柴田達にこうも言った。
「生きておって何よりであったわ」
「我等がですか」
「うむ、多くの兵が死んだことは無念じゃが」
 それでもというのだ。
「お主達も九割の兵が生きていることもな」
「どちらもですか」
「まことによかった、ではな」
「あらためてですか」
「戦うぞ、しかし上杉家じゃが」
 信長はこの家のことをこうも言った。
「武田家、毛利家も共にな」
「まさかと思いますが」
 丹羽が信長に問うた、彼の言葉を聞いて。
「どの家も」
「うむ、わしの家臣にしたい」
「そうお考えですか」
「どの家も優れた者が多い、だからな」
「優れた者をですか」
「全て用いてじゃ」
 そうしてというのだ。
「天下統一とその後の政にな」
「用いたいですか」
「わしは源氏の様なことはせぬ」
 身内同士で殺し合い功臣の粛清も行ったあの家の様なことはというのだ。
「そうしてはじゃ」
「やがてはですな」
「何もなくなるわ」
 だからだというのだ。
「優れた者ならばな」
「誰でも用いられ」
「家の中もな」
「源氏の様にはですか」
「なってはならぬ」
 決してという言葉だった。 
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