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人類種の天敵が一年戦争に介入しました

作者: C
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第12話

 
前書き
 まだ読んでくれてる人達がいるというのはありがたいことです。

 10話過ぎても第一次降下作戦が終わっていませんが、このままではガンダム出てくるまでどれだけかかるのやら……。 

 
 樽がそのずんぐりした腕を一番近くにいた61式戦車に向けて伸ばす。相変わらず、伸ばした手には何も握られてはいない。腕を伸ばしたまま高速で接近して殴りとばすのか、はたまたロケットパンチか。ジオン公国の人間が固唾を飲んで見守っていると、閃光と共に61式戦車が爆発した。

 手品や野良犬の超能力といった類いではない。種も仕掛けもきちんとある。元凶は、樽の伸ばした腕にあった。手には何も握られていなかったが、前腕部に取り付けられていた筒によるものだ。
 プラズマライフル。樽同様、変態企業による作である。
 プラズマライフルはその名の通りプラズマを放射するが、元々が密度の低いエネルギー体なので、いくら圧縮しようが電磁誘導で加速しようが、空気の壁を突破するのも容易ではない。つまり弾速は遅く、貫通力にも欠ける。
 空中放電で急速にエネルギーを失うため、遠くまで届かない。更に地球の磁場の影響を受けるため弾道がズレる。これにより、有効射程距離も短い。
 プラズマを作り出す媒体、媒体をプラズマに変化させるエネルギー、プラズマを放射するエネルギーが別々に必要で、エネルギー効率が悪い。
 プラズマ兵器とは遠い目標には届かず、仮に届いても避けられやすく、一発撃つ度に多量のエネルギーを消費する射撃兵装なのだ。強いて人間用の武器でもっとも近いものを挙げるなら、ヘアスプレーとライターを渡されたに等しい。……そもそもそれは武器か? という疑問があるが、蛍光灯よりはマシだろう。殴ることしかできないし、蛍光灯で殴るのは殴る側も危険だ。どちらにしても、そんなものを渡されて敵と射撃戦だと言われた日には、持ってきた技術者に一昨日来いと言って蹴り飛ばして塩を撒くのは紳士的な対応だろう。普通の神経をしていれば、最初の射撃目標はこいつの開発者となること請け合いだろうが、開発者が撃たれて蒸発したという話は聞かない。撃たれていないということは、プラズマライフルには欠点に目を瞑らせるだけの良さがあるのだ。

 ずばり、破壊力である。

 まともに当たりさえすれば、プラズマライフルの威力は同クラスの兵器の中では突き抜けている。製品規格の中で単純に数値化して比較すれば、火薬式ライフルの6~8倍、レーザーライフルの3~4倍、バズーカの2倍といった所だろうか。グレネードならプラズマライフルと同じか上回る火力を持つが、グレネードはプラズマライフルより弾速が遅く、総じて発射間隔も長く、炸薬を大量に使うため弾の単価が高く、命中精度も低い。そもそもグレネードは単一目標に撃つというよりは爆発や破片による範囲攻撃を旨とする兵装であり、他の火器とは分類を別けるべきであろう。したがって、使用感覚ということならバズーカ、同じエネルギー兵器ということならレーザーライフルと比べるべきで、どちらもプラズマライフルには及ばないのは先に挙げた通りである。
 カタログの目安としての数値ではなく実際の効果と言えば、先ほど撃破された61式戦車に残る破壊痕こそ特徴的だろう。プラズマの命中部分が綺麗にくりぬかれたようになっている。尋常ならざるエネルギー量にその部分だけ一瞬で融けて蒸発したのだ。まさに必殺。一発撃つのに多量のエネルギーが必要だが、そのエネルギーを直接叩きつけるプラズマライフルは凶悪なまでの破壊力を持つのだ。
 副次的なものだが、着弾時に電波妨害が発生するのもプラズマライフルの特長だろう。空気中に拡散して消えれば影響は小さいが、十分なエネルギーを残して着弾したプラズマは、そのエネルギーの全てを一瞬で解放する。無秩序に撒き散らされる電磁波が磁場をめちゃくちゃに引っ掻き回すのだ。プラズマの着弾点を中心に、狭い範囲で短い時間とはいえ、レーダーや無線も使えなくなる。それどころか十分なECM対策が取られていない電子機器は故障する可能性もある。プラズマの閃光で視界は白く染まり、レーダーも真っ白。無線も通じず仲間からの指示も聞こえないのはまだ良い方で、運が悪いと突然のシステムダウンに見舞われる。
 プラズマは射程距離が短い。近い距離で撃ち合う武装だ。つまり、言うまでもなく敵は近い。その近い距離で、突然数秒の空白を強要される。これをわずか数秒とは言えないだろう。致命的な隙となる。ECM対策が十分でなければ戦場で動けなくなる。こうなればもう隙も何もない。
 連邦軍もしっかりと隙を晒す羽目になった。61式戦車は運転手と砲手の二人乗り。これでは単体で周囲警戒できるはずもないが、本来の運用では味方とのデータリンクで相互にカバーし合う為に問題はないとされていた。だが、ジオン公国によって衛星は全滅しデータリンクは車載コンピューターによる最低限のもの。ミノフスキー粒子によって単体の索敵能力は更に制限され、そこに目眩ましを兼ねた電波妨害。これでは対応できる筈もない。たちまち一個中隊が消えた。

 残りの35両は樽を一度突き放すことに決めたようだった。一斉に急速後退しながら煙幕を散布。同時に幾つかの車両が閃光弾を発射することで、閃光弾によって煙のスクリーンに樽の影が浮かび上がる。煙で見えないのはお互い様、電子的に見えないのもお互い様だが、煙の中に浮かぶシルエットの違いは一目瞭然。樽と車両では間違えようもない。その影目掛けて1両につき砲がニ門、計70門が一斉に火を吹く。煙の壁を突き破り、樽を目掛けて砲弾が殺到する。
 連邦軍の戦術は決して悪い手ではない。瞬間移動のような回避の存在を連邦軍の戦車大隊は知らなかった――まだ昨日の生存者が回収されていないのだ――が、図らずも破壊された仲間の戦車が逃げ道を塞ぐ形で機動力を封じていた。
 普通なら必勝と言っても良い状況だが、それでも野良犬には通じなかった。その理由は――

「昨日見たな」

 野良犬にとって初見ではなかったということだろう。樽の周囲に緑色に輝く球状の幕が生まれる。
 プライマルアーマー。
 コジマ粒子と呼ばれる重金属粒子を機体周辺に還流させるバリアで、殆どの攻撃は弾かれるか反らされてしまう。野良犬が昨日の大戦で死地を脱することができたのもプライマルアーマーによるところが大きい。その時はプライマルアーマーで一瞬の時間を稼ぎ、瞬発力にものをいわせて脱出したが、今日の野良犬の選択は違った。展開されたプライマルアーマーが明滅、収縮したかと思うと爆発的に膨張し、周囲一帯を薙ぎ払った。
 アサルトアーマー。ジェネレーターに負荷をかけてコジマ粒子を過剰供給し、プライマルアーマーを圧縮、コジマ粒子の爆発という形で解放する。主に自機の周囲を攻撃するために使うが、通常のプライマルアーマーでは防げない攻撃すら無効化できるため、緊急回避に使われることもある。ジェネレーターに負荷をかけた過剰供給の反動で、使用後は一定時間プライマルアーマーが展開できないというデメリットもあるが、使いどころさえ間違わなければ強力な一手となる。
 戦車大隊は、それを間近で浴びるはめになった。樽に近い順に8両が爆散、17両が大破、横転。まだ10両が残っているが、モニターは焼けついて外を映さないし、レーダーも真っ白。その上、難を逃れたように見える10両の内、8両が機関不調に陥っていた。戦力として計算できるのは2両だが、慌てて真っ直ぐ下がったのが仇になり撃たれて終わった。

 最後の2両をプラズマライフルで潰した野良犬は機関不調になった8両に止めを刺すと、ジオン公国軍の待機している稜線を振り向いた。

「……とまあ、こんなものですね」

 渾身のドヤ顔だったが戦闘の影響で通信は繋がらなかった。仮に通信が繋がったところで、野良犬の側はコックピット内部の映像を相手に送る機能はないので、全く意味のないドヤ顔ではあったが。結局、野良犬はジオン公国軍が待機しているはずの稜線に向けて、樽を操作して手を振ってみた。

「終わったよー」

 くらいのつもりであったが、野良犬のゼスチュアがまずかったのか、受け取り手の解釈が違ったのか、真っ先に待機場所から飛び出してきたのは野良犬にとって予想外の人物であった。
 マ・クベでもなく、直衛の01や03でもなく、まさかの技術者である。元々は会談中に野良犬の機体のデータを集めるべくマ・クベが選抜した技術者達で、全員がジオニック社からの出向組だ。マ・クベが野良犬案件で怪しいツィマッドに隔意を抱いているわけではない。むしろ聞きたいことが山ほどあって連れてきたいのだが、マ・クベの手元にいないのだから仕方がない。ジオニック社の連中は単純にザクの整備や改修の為に技術者が来ていたので、その中から選んだだけだ。ツィマッド社の技術者もキシリアと相談した上で派遣要請をするつもりでいる。マ・クベが徹底的に締め上げる予定だ。
 ジオニック社の連中も、ツィマッド社にかけられている疑惑に薄々勘づいているようだ。そのためライバル社のいない間にということでもあるのだろうが、解き放たれた技術者達がサンプルに群がる様は、的に放たれた矢の如くであった。

 
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