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永遠の謎

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2部分:前奏曲その二


前奏曲その二

「よいな」
「わかりましたと申し上げたいですが」
「ここは」
「とりあえずコーヒーでも飲むことだ」
 王自ら勧めたのだった。
「そして菓子でもどうだ」
「菓子ですか」
「それもですか」
「何か飲み食べれば落ち着くものだ」
 少なくともこう考えられる余裕が王にはあった。
「だからだ。どうだ」
「わかりました。それでは」
「そうさせてもらいます」
 周りの者は王の言葉に従った。そのうえで宮殿にいる者達にコーヒーと菓子が出された。太子もまたそのコーヒーを飲み菓子を食べた。彼は席に座りそのうえでチョコレートをふんだんに使ったケーキを食べる。その中でこう言うのであった。
「そういえば今日は」
「はい、聖ルイの日です」
 傍にいた将校が彼の言葉に応えて述べた。
「そしてそれと共に」
「父上の生まれられた日だったな」
「我がバイエルンにとっては目出度い日であります」
「だからだな」
 太子はそれを聞いて納得した顔になった。
「それで父上は落ち着かれているのか」
「そうだと思います」
「成程な。確かにな」
 そしてだった。太子はそこに納得するものを見た。
「それもそうだ。今日はよき日だ」
「はい、そうです」
「では。ここは神の御力を信じよう」
「神をですね」
「神は、そして聖ルイは」
 ルイの名も出すのだった。
「必ずやバイエルンを守護して下さる」
「だからこそこの国は今もあります」
「そうだな。ハプスブルクやホーエンツォレルンよりも古くからな」
 それぞれオーストリア、プロイセンの王家の名前である。ただしオーストリアは皇帝であるので皇室になる。その違いはあった。どちらもかつて神聖ローマ帝国と呼ばれたこの地域において権勢を振るっている。その両国の主達である。
「その御守護を信じるとしよう」
「そうされますね」
「そうする。それではだ」
「落ち着かれますね」
「もう一杯くれ」
 コーヒーを一杯飲み終えての言葉だった。
「そうしてくれ」
「はい、それでは」
 このコーヒーが落ち着く為のものであるのは言うまでもなかった。そしてだ。
 正午になった。その時だった。
 声が聞こえた。それは。
「あれは」
「そうだ、あの声はだ」
「間違いない」
「産声だ」
 誰もがその声に顔をあげた。
「では」
「そうだな、間違いない」
「産まれられたのだ」
「御子が」
 まずはこのことを喜んだ。そしてだ。
 次にだ。このことも考えらた。
「そしてどちらなのだ」
「御子息か。それとも御息女か」
「どちらなのだ」
「御子息ならば」
 その場合が最も大きかった。それならばだ。
「将来の御世継ぎだ」
「バイエルン王になられる方だ」
「やがてこの国を背負われる方になられる」
 やはり男の方がいいとされていた。そしてだ。
 医師がその部屋から出て来てだ。そのうえでまず王の前に出て来てだ。恭しく一礼してからゆっくりと口を開いて述べたのだった。
「王子です」
「そうか」
 王は医師の言葉に笑顔になって述べた。
 
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