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相談役毒蛙の日常

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三十三日目

「そのシリーズ好きなの?」

「ええ、この爽快感が病みつきになりますよ」

「あら、そう」

月の終わりごろの昼。

灯俊は美女と本を読んでいた。

「そろそろ昼食だけど、貴方はどうするの?」

「そこの自販機で買いますよ。カロリーメイトありましたし」

「恋人の所へいかなくていいの?」

「行ったらキリトの恋人の水着をさきに見ることになりますからね。
後でいったい何を言われる事やら」

「『誠実』なのね」

「そんな嫌味ったらしく言わず『チキン』ってはっきり言ったらどうです?」

「あら、詰られるのがお好き?」

「さぁ、踏んだ事も踏まれた事も無いのでなんとも」

「あら残念。貴方とは色々盛り上がれそうだったのに」

「アンタ絶対カウンセラー向いてないよ」

「あら、保険医と並んで美人カウンセラーと呼ばれてるわよ?」

「あんたサディストだろ? 昔の知り合いにサディストがいたからよくわかるぜ。
美人つったって『美人(S)』だろ」

「ええ、そんな意味でしょうね」

「貴方は昼食はどうしますか?」

「そうね、パサパサした栄養食を食べている貴方の目の前でお弁当でも食べようかしら」

「どうぞお好きに」

「土下座したらあーんして食べさせてあげるけど?」

「昔のこ…知り合いにも言われましたよソレ」

「貴方弄られやすい体質なの?」

「はっはー。そのお陰でアンタに構って貰えるってんなら嬉しいですけどね」

灯俊が席を立ち、カロリーメイトとカフェオレを買ってくると、本当に弁当を広げていた。

「おいここ図書室」

「誰も居ないからいいのよ」

「怒られても知らねぇぞ」

灯俊はごそごそとカロリーメイトの箱を開けて、パサパサしたクッキーっぽい何かを食べ始めた。

時折カフェオレで口を潤す。

「あー。この唐揚げおいしいわぁ。
最近は冷凍食品の方が美味しいのよね」

「アンタが料理下手なだけだろ。
俺でも冷凍食品以上の物作れるっつーのに」

「あら、料理男子ってやつ?」

「親が家をあけるの多いので」

「親御さんの職業は?」

「海自と看護婦」

「あら、何かあっても安心ね」

灯俊がスマホを弄る。

先と同じくトークアプリだ。

『美人カウンセラーと昼食なう』

『爆ぜろくそ蛙』

その返信に灯俊はクスリと笑った。









昼食を終え、再び読書を再開した灯俊。

その読書を邪魔したのは灯俊の携帯の着信音だ。

「あら、神崎エルザの新曲じゃない。もうアルバム出てたかしら?」

「ええ、まぁ」

それは昨日送られてきた白いディスクの中身だった。

「嘘ね。そのアルバムの発売日は四日後のはずよ?」

「はて、何の事やら」

灯俊はスマホを取り、フリックした。

「なんだよ、ハーレム野郎」

『ALO事件の話をもう一度聞きたいらしい。来てくれ相談役』

「はいはい…」

灯俊は本を戻し、図書室を後にした。











カウンセリング室

「入るぞ」

「待ってたよ灯俊君」

灯俊がキリトの隣に座る。

「それで、ただ二人だけの世界樹攻略者の片割れである君に聞きたい事がある」

「なんだ」

「君は世界樹の上で何を見た?」

「虚構を」

灯俊ははぐらかすように言った。

「俺達が斬り倒そうとしていた樹は、ただの虚構だった。
その為にゲームに心血を注いだ者、事情があって脱落した者。
須郷伸之は彼らを裏切った。俺はぜったいにあの男を許さない」

「………珍しいな。君がそんな真面目な顔をしてそんな事を言うなんて」

「そうかよ」

ケッと灯俊はそっぽを向いた。

「………俺だってさぁ、色々あったんだよ」

「色々とは?」

「彼女と別れたりとか…」

「「彼女!?」」

「うるさい叫ぶな」

灯俊は鬱陶しそうに言った。

「世界樹とか、それに関する構想とかで揉めてさ」

「え? は? 待ってくれ相談役。その彼女ってカールターナーさんか?」

「いや、慧奈は知らない。慧奈だけじゃなくて、葵も林檎も蜜柑も。
アイツとの事はだれにも話してないし話すつもりもない」

「お、おう、そうか」

「でー? ALO事件について他に何を聞きたいの公務員さん?」

「あー。うん。では………」








菊岡が二人にそれぞれのハイヴ攻略戦について尋ねた。

SAOサバイバーの視点とALO最古参プレイヤーの視点。

恋人を救いたかった者と真実を暴きたかった者。

「ところで、その攻略戦にはあの双子は出さなかったのかい?」

菊岡がふと尋ねた。

「あの時は後方要因だよ。メティとサンディは……うん…。あの時は出せなかったんだよ」

「理由を聞いてもいいかい?」

灯俊は顔をしかめた。

「あの二人には対人戦のトラウマがある。
エネミーがあそこまで人形で集団で襲ってくるのなら、外して当然だろう」

「無限PK……かい?」

「ああ。そうさ」

憎々しげに肯定した。

「「…………………」」

「林檎と蜜柑は今でこそ元気だが、あの当時はそれは酷かった。
俺と慧奈が報復を真剣に考え実行する程にな」

「具体的に、その報復を聞いていいかい?」

はぁ、と灯俊がため息をついた。

「いいぜ。話してやるよ」 
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