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ハルケギニアの電気工事

作者:東風
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第33話:一旦改革は任せて??調査旅行に行きましょう!!

 
前書き
色々やることはあるのですが、どこかでエアポケットのような暇な時間もできるものです。
そんな時は、普段できないようなこともやってみたりして。
そんな訳で、いつも以上に遠くまで行くことにしました。 

 
 お早うございます。アルバートです。
 父上に農業改革や酪農について説明をして、今後の改革の方向についての承認を貰った後、馬車の改良と街道の整備について検討を行って昨日は終わりました。

 今日の昼前に『管理課』の人たちが肥料の発酵所まで来たと連絡がありました。公衆トイレを最初に設置した村から汲み取りを初めて、3つの村を廻って瓶が一杯になったので、一旦屎尿を投入する為に来たそうです。
 発酵所は、各村の位置からほぼ均等な距離になるように検討して、全部で6ヶ所設置する予定です。地形的には出来るだけ東、北、西の3方を小高い丘に囲まれた盆地状の場所を選んでおきました。建物の構造は大きな平屋で高い排気塔があります。建物の中には直径5メール、深さ10メールの穴を掘って、その穴の壁面を練金でセラミック状にして屎尿が地中に浸み込まないようにしてあり、その穴の上にお椀を逆さまにしたような半球状の鉄の蓋をかぶせたような形状になっています。この中に屎尿を貯めて発酵させる、所謂大きな肥だめですね。
 完全密封状態に出来上がっていますので、通常は臭いが外に漏れる事はないのですが、屎尿を中に投入する為に投入口を開放した際にどうしても臭いが外に出てしまいます。また、万一事故があった場合など予期せずに臭いが出てしまう事も考えられるので、人家に近い所に作ると苦情が来そうですから、各村から少し離れたところに作りました。3方を囲む丘も、万一の場合に臭いが拡散する事を防ぐ役割があります。
 さらに建物の壁を厚くして少し高い位置にある窓ははめ殺しになっています。入口も2重のエアロック方式になっていて、内部の臭いが外に漏れる事がないようになっています。換気については壁の地面近くに吸気口が設けてあり、ここには防塵用のフィルターを設置してあります。外から見えた高い排気塔は気圧差を利用して室内の空気を吸い出し、その分壁の吸気口から新鮮な空気が入ってくるようにしました。動力式の換気システムにすると故障した時が大変ですから自然換気型にした訳です。『シルフィード』にも協力してくれるように頼んでありますから、これで充分な換気が出来るでしょう。
 入口のエアロック内には中で作業する人用に防毒マスクが配備してあります。

 屎尿の入った瓶は荷車に乗ったまま建物の中に搬入され、レビテーションで持ち上げられて投入口まで運ばれます。投入口は鉄蓋の南側(入口側)に蒸気機関車の石炭投入口をモデルにし、テコと滑車を使って人力で簡単に開閉できるようにしてありますから、作業員が一人で紐を引いて開けるようにしています。この投入口を開けて、瓶を投入口の上で回転させ、中の屎尿を投入します。その後さらに水を使って瓶の中をざっと洗い、汚れた水も投入口から中に捨てられます。この過程はゴム手袋、ゴム長靴、ゴム前掛けに防毒マスク着用となります。
 この中で屎尿が発酵し堆肥となる訳ですが、時々土メイジが魔法で発酵を促進してあげます。そして、この過程で発生するメタンガスは、そのままにしておくと爆発の危険が有るので、鉄蓋上部に設けられたパイプを通して外にあるタンクに送られ貯蔵しておきます。メタンガスも上手く使えば立派な燃料になりますから、大事にしないといけません。勿論、建物の周囲20メール以内は火気厳禁にした上で、鉄蓋や建物の金属部分は接地を施して、静電気による引火などが起きないように注意しています。
 この設備は、公衆トイレの設置が終わった『施設課』が担当して作っています。僕は図面を作って渡しただけなのでちゃんと出来るか不安があったのですが、立派な設備が出来たと報告がありましたので一安心です。今のところ2棟が完成しているそうで、残りも建設中となっています。

 各村や町の中は、『清掃課』の働きですっかり綺麗になって、廃棄物などの嫌な臭いもなくなりました。撤去されたゴミや動物の死骸などは、全て構外の一カ所に纏められ、火メイジの魔法で焼却されて、灰などは深い穴を掘って埋められました。
 清掃された後は隅々まで消毒薬を撒かれ、更に消臭剤も散布されたので、今まで廃棄物からの臭いで解らなかった周囲に咲いている花の香りや川から運ばれてくる水を含んだ風の臭いなどを感じる事が出来るようになりました。
 人々はすっかり異臭がしなくなった事に驚き、今更ながら花に香りがある事や風の臭いに気が付いて感動しています。
 これで伝染病の発生をある程度予防する事が出来るでしょう。これからはこの状況を維持するように領民自ら働いてくれると思います。勿論定期的に『清掃課』が巡回し、出来る限りのサポートをしていきますが、一番大事なのは領民1人1人が『整理』、『整頓』、『清掃』及び『清潔』の所謂『4S』を実践していく事だと思います。この辺はこれからの教育に掛かっているのでしょうね。

 さて、こうして『保健衛生局』の活動が軌道に乗って、それぞれの局が順調に活動を始めたので、堆肥が出来るまでは僕が当面『保健衛生局』で行う仕事はなくなりました。しばらくはよほどの事がない限り各課長に任せておいて大丈夫でしょう。
 屎尿が集まるのに少し時間が掛かりそうなので、肥料を作るのはまだ先になりそうですから、今のうちに新しい作物の入手を考えたいと思います。
 今のところ考えているのは米や豆類、根菜類などで地球での自生地域や栽培地域からハルケギニアで栽培または自生している場所を推測して探しに行こうと思います。今回の調査では、最低限、根菜類、特に馬鈴薯やさつまいもなどを見つけたいと思っているのですよ。おそらく地球の地理的には『ロバ・アル・カリイレ』辺りに行けば米なども見つかるのではないかと思いますが、闇雲に東に向かって飛んでいってもたどり着けるかどうか解りませんからホイホイと出かける事も出来ません。差し当たって南方の調査がてらエルフの集落で情報収集を行って見ようと思います。此方には情報が無くてもエルフの老評議会に合う事が出来れば必要な情報が得られるのではないかと思えるので、その場合は紹介状でも書いてもらうつもりです。エルフの老評議会に紹介して貰えるだけでも、後が楽になるでしょうからね。
 今までの2回実施した調査旅行は、どちらも期間を5日間と決めて行っていましたが、そう言った訳で今度は特に期間を設けずに行こうと思います。目安としては2週間位と考えていますが、状況によっては更に日数が掛かる事になるかもしれませんので、連絡用の鷹便を2羽用意しました。
 まず、最初にエルフの集落まで行って情報収集後、更に遠くまで行こうと思っていますが、南に行くにしても東に行くにしても、未踏の地に踏み込む事になるので、情報を集める事から始めないとどうにもなりません。幻獣などの危険については『ヴァルファーレ』が居る限り安全だと信じられますが、その土地特有の自然現象や病気まではどこまで対処できるか解りませんから、少しでも情報を集めてから進みたいのです。

 その他の目的としては、既に発見している「ケイアップル」や「アガベ・アスール・テキラーナ」について、きちんと植え替えを行うつもりです。それぞれ、ある程度の数を揃えないと満足な収穫が望めないので、調査を続けてもっと沢山見つけ出して「ケイアップル」の果樹園や「アガベ・アスール・テキラーナ」の畑を作るのが目標になります。一度形が出来てしまえば、接ぎ木、挿し木、株分け又は種からと増やす方法は色々ありますから、管理方法を確立して確実に増やしていけるでしょう。
 ゴムもこれから先需要が増えると思いますから、果樹園の管理と共に、ゴムの樹液採集地や此方の果樹園など、管理させる為の人を常駐させたいと思っています。その為の宿泊施設なども作ろうと思いますが、これはエルフの管理する地域に作る事になるから、エルフの集落に行って代表にお願いしないといけません。多分、共用する事が出来る宿泊施設のような物を作れば、アルメリアさん辺りは調査の為にちょくちょく来て利用する事になるのではないでしょうか。そちらの方向から案外簡単に納得してくれるかもしれません。
 後は、正式に当家と交易して貰えるようにお願いして、了解が貰えたら経路の途中に中継点を何カ所か設定する必要もあります。いくつかの候補地は見つけてありますが、運用を開始できるまでは、またしばらく南方の調査旅行に出る事になるでしょう。

 そのようなことを決めてから1週間程掛けてウイリアムさんやキスリングさん、ギュンターさんといった『保健衛生局』の各課長と今後の打ち合わせを行いました。基本的には現在の状況を維持していく事になりますが、街道の整備については僕の居ない間にも進めていって欲しいので、ウイリアムさんにはそちらの事をお願いしました。
 ゾフィーさんとは各地から来る嘆願書の処理について、『事務局』の対応を話し合いました。僕が不在中に業務が滞らないように、綿密に調整をしておかないといけません。特に緊急を要する件が発生した場合は、各課長と調整して対処して貰う事と、父上への報告を行う事を確認しました。勿論、父上や母上にも相談して了解を貰うのと一緒に、僕が居ない間の事業のフォローも頼んでおきました。また、メアリーに拗ねられましたけどね。
 次に必要な事は、皇帝に相談する事です。今日は休みではありませんが皇城まで行く事にしました。朝一番で鷹便を皇城に飛ばして、1時間後にそれを追う形で出発です。『ヴァルファーレ』に乗って、いつもよりのんびりと皇城まで飛んでいきました。何時の時代でも大事なのは’報’、’連’、’相’ですよね。今まで2回の調査旅行でも行く前に相談していましたから、今回の調査旅行についてもちゃんと相談しておかないと、後で何を言われるか解りません。相手は一応国のトップですからね。下手に拗ねられても困ります。
 まあ、結果だけを言えば、「頑張ってな。怪我するなよ。」だけで話は終わった様な物でした。あれ?手紙でも良かったかな?

 皇帝からの了解も貰えた事ですので、早速準備に入ります。いつもより長い期間の調査になりますからその分持っていく物も増えます。まず、エルフの集落へ持って行くお土産ですが、この前持って行った時に感じたエルフの人たちの喜び方から、持っていく物を選びました。やっぱり、貰って嬉しいと思ってくれる物を持って行きたいですよね。その他にもまだ持って行った事のない物もいくつか入れて、お土産の選定は終わりです。結構な量になりましたが、モッコ(:前にも使いましたが、大きな網で作った篭の様な物です。)の大きさに入るので良いとしましょう。
 後は自分の生活用品です。食料は勿論、前回の倍以上用意しました。ただ、保存食になるので、どうしても飽きるんですよね。出来るだけ現地調達を考えていますが、食べられる獣とか木の実などが都合良く取れると良いのですが。海があれば魚も捕れると思いますが、内陸に入ってしまうと獲物を探すだけでも大変かもしれません。そういう時は『ヴァルファーレ』の探知能力に頼る事になるかもしれませんね。
 連絡用の鷹便2羽とその餌も持ちましたが,その他に今回、初めて持っていく物として、交易中継点を決めた時に、その場所に設置する目印があります。後からもう一度来た時に解らなくなると意味がないので目印を置く事にしたのですが、かといって偶然他の誰かに見つかっても困りますから、余り目立たない目印にしました。『ヴァルファーレ』なら、かなり上空からでも見つける事が出来るのは確認してありますので問題無いでしょう。
 そんなこんなで、この週は準備で終わり、虚無の曜日はゆっくりと休んで、メアリーの相手をしてあげました。

 さて、休みも明けてユルの曜日です。今日も良い天気ですね。最近丁度良い具合の雨が降るだけで嵐になる事がありません。これって『ジン』と『クウィンティ』が守ってくれているからなのでしょうか?この領内では干ばつもないし、疫病などの被害も発生していません。こんなに穏やかな日が続くのは珍しいのだそうですから、『ジン』や『クウィンティ』以外の『ラサ』や『サラマンディア』も同じように守ってくれているのでしょう。
考えてみれば4体の上級精霊に守ってもらっているような土地って、他にあるのでしょうか?
 少し早起きをして、もう一度装備の確認をしておきます。それから家族で朝食を食べて出発の最終準備に入りました。訓練場まで荷物を運んでモッコに詰め込みます。やっぱり前よりも多いですね。モッコが膨れあがっています。しっかりと荷造りをして確認が終わりました。保存食も『王の財宝』に格納しました。さあ、『ヴァルファーレ』を呼び出しましょう。

「『ヴァルファーレ』、おいで!!」

 前回の旅行から帰ってから2、3回呼び出して羽を伸ばして貰いましたが、仕事で呼び出すのは3週間ぶりになります。いつもの事ですが、青く晴れた空が一瞬雲でかき曇り、大きな裂け目が出来て『ヴァルファーレ』が咆吼を上げて飛び出してくる様は、下手な3D映画よりもずっとスペクタクルです。CG抜きでこんな事が出来るんですから、映画にしたら凄いでしょうね。

「『ヴァルファーレ』。お早うございます。調子はどうですか?」

[我の調子は上々じゃ。大荷物のようじゃが、エルフの所にでも行くのかえ?]

「はい。第一目標はエルフの集落です。でも、今回はもっと遠くまで行く予定ですから、よろしくお願いしますね。」

 そういって、モッコのロープを『ヴァルファーレ』の足に括り付けます。次に座席を着けて『ヴァルファーレ』の準備は完了です。今回も何があるか解りませんから座席は2人用にしました。この座席も少し改良して、後部席の後に収納庫を作りました。あまり量は入りませんが飛んでいる最中でも簡単に取り出せる様になっていますから、飲み物や食べ物など欲しい時に重宝すると思います。作って貰ったお弁当もしっかり入っていますよ。

「それでは、父上、母上、準備も出来ましたから出発します。」

「そうか。気をつけて行くのだぞ。くれぐれも無茶はしない様にな。」

「そうですよ。『ヴァルファーレ』も居る事なので、余り心配もないと思いますが、お前は屋敷を出ると何をしでかすか解らない所があるのでそれだけが心配です。無事に帰ってきて下さいね。」

「解りました。出来るだけ自重しますので、心配しないで下さい。」

「兄様、行ってらっしゃい。大人しく待っていますから、お土産忘れないでね。」

「解ったよ。また珍しい物を探してくるからね。父上や母上の言うことを良く聞いて楽しみに待っているんだよ。」

「はい!!」

 そして、『ヴァルファーレ』に乗り込んで、いざ出発です。
 訓練場には屋敷の執事やメイドさん達や『事務局』のゾフィーさん達も見送りに来てくれています。みんなに手を振って『ヴァルファーレ』に合図しました。
 『ヴァルファーレ』の大きな羽根が羽ばたくと、まるで重力がないかの様にふわりと浮き上がります。はじめは、足に着けたモッコのロープが張るまでゆっくり上昇し、モッコが地面を離れると、少しずつ加速しながら上昇を続けます。大体20メール位まで上がった所で、南に向けて上昇しながらの飛行に入りました。少し振り返って手を振ると、訓練場のみんなも手を振ってくれたのが見えましたが、それもすぐに見えなくなりました。
 やがて、いつも通りに高度5000メールまで上昇し、時速800~900リーグの速度で水平飛行に入ります。時々下を雲が流れていきますが、概ね快晴で順調に飛行を続けることになります

 一時間位経って、ガリアの東側の国境からさらに東に10リーグ付近を飛んでいます。ここで一度降下して、前に目を付けていた中継地候補に着陸しました。ここは、ガリアの国境から少し離れていることもあって、周囲10リーグに人気がありません。小高い丘の様になっていて余り高い木も生えていないので、中継地に良いと思います。『ヴァルファーレ』にも幻獣などが近くにいないことを確認して貰い、目印を設置しました。
 この後、最初に調査旅行に来た時に立ち寄った海岸まで移動して、そこにも目印を設置し、さらに海岸線を東に飛んで、はじめの中継点とエルフの集落との経路下に、もう一つ目印を設置しました。
 人の来ない場所で、幻獣も近くに生息していない所としてはこれ位になりますか。後は、ベースキャンプと果樹園の候補地に目印を設置すれば良いので、此方はエルフの集落に行ってからで良いでしょう。
 その後は寄り道することもなく、エルフの集落に向かいました。

 結局3ヶ所寄り道をしましたが、3時間も掛からずに第一目的地のエルフの集落に着くことが出来ました。
 風竜に乗ったエルフの戦士に挨拶をして、草原に着陸します。すぐにモッコのロープを外して『ヴァルファーレ』に自由にして休んでいる様に言うと、荷物をレビテーションで浮かべて集落の中に持って行きます。すっかり勝手知ったる集落の中を歩いて、アルメリアさんの家まで来ると、ドアをノックしました。すぐにドアが開けられ、アルメリアさんが顔を出します。

「はい。どなた?って、アルバートか。久しぶりだな。元気だったか?」

「こんにちは。私は元気ですよ。3週間ぶりですが、アルメリアさんも元気そうですね。」

 アルメリアさんの家にお邪魔して、お土産を渡して皆さんに分けて貰える様にお願いしてから、今回やって来た訳を説明しました。
 色々聞いて欲しいことがありますから、ちょっと時間を貰ってじっくりと説明しましたが、更に遠くまで調査に行くというとアルメリアさんの目がキラリと光った様に感じました。 
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