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ダンジョン飯で、IF 長編版

作者:蜜柑ブタ
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第十八話  ウンディーネのシチュー

 
前書き
ウンディーネ撃退編。 

 
「こっち見てる…。」
 塔の上から建物の中央の湖を見ると、ウンディーネが、水面の少し上に浮いていてそのまま動かない。位置からして、完全にこの塔にいる人間達を狙っていることが明らかだ。
「何をしたら、ああまで怒らせられる?」
「沸かした水を捨てたら、下にいたみたいで…。」
「ああー、そりゃいかん。これだからエルフは。」
「エルフは、なあ。」
「人種は関係ないでしょ!」
 エルフは、エルフはという言葉にマルシルが怒った。
「魔術を介さず精霊を鎮める方法はありますか? 私達、どうしてもこの先にいかなくては…。」
「それは簡単。」
 タンス曰く、ウンディーネは、極小の精霊の集合体。
 今構成している個体が寿命で死ねば、世代交代でより敵意は収まるそうだ。
 だが問題は、それがなるまでの時間だ。
 精霊一匹の寿命は、もって一週間ほどだと。
「そんなに待ってられないわ。」
「同感だ。ということで…。」
 タンスは、荷物を準備し始めた。
「我々は地上に引き上げる。調査の続きはまた先だな。おい、帰還の術の準備だ。」
「おい、ファリン。」
 するとチルチャックがファリンをつついてヒソッと話した。
「帰還の術だってよね。」
「…うん。」
 ファリンは、頷いた。
「タンスさん。お願いがあります。」
「ん?」
 そして…。

「私も地上に戻れって!?」

 マルシルが叫んだ。
「い、今更……、ここまで来て!?」
「マルシル。魔力切れはそう簡単には治らないよ?」
「平気だよ! 自分でも驚くぐらい元気なの。あ! レバーのおかげかも。」
「栄養がすぐに体調に現れることはない。」
「あとで聞くね。」
 センシの言葉を制した。
「いやもう! 本当に元気! 少し休んでる間に魔力も戻ったみたい!」
「でも、マルシル。見て、あなたの杖…、元気ないよ?」
 マルシルの杖は、魔力が通っていると先端の植物の芽の部分が起き上がっているのだが、今はしおれている。
「こ、これは…。」
 マルシルは、杖を握りしめて力んだ。だがそれで魔力が絞り出せるわけではない。
「ブーーー!」
 次の瞬間、ナマリが吹き出した。
「何笑ってるの!」
「あんたのそんな顔初めて見たから。」
 ナマリは、笑いを堪えながら答えた。
 だけどっとナマリは、言った。
 マルシルを除いた残りのメンバーで竜に立ち向かえるのかと聞いた。
 それにセンシに斧では竜の鱗に刃が立つとは思えないとも言った。
「……ナマリは、竜を何匹も倒したことがある…よね?」
「? ああ。」
「…じゃ、じゃあ…。」
「ダメだよ。マルシル。」
「ファリン?」
「そんなことしたら、ナマリのためにならないわ。」
「そうだぜ。」
 ファリンの言葉にチルチャックも同意した。
 こういった冒険者同士での噂は立ちやすい、ナマリがタンスに誘われた経緯だって、もとをただせば金銭面でのトラブルを聞きつけからだ。
 ここでさらに金を積まれてまたパーティーを抜けたとしたら、今度は金を積めばなんでもする奴としてナマリの噂が立ち、今後の生活に影響が出てしまう。
 お互いの今後を考えるなら、それは避けるべきだと、ファリンとチルチャックはマルシルを諭した。
 マルシルは、俯き…、だがやがて…。
「いや…、まだあるわ…。」
「マルシル?」
「私が魔力を取り戻す方法…。」
「? まさか…。」
「ウンディーネを、飲む!!」
「ええー。」
 ファリンは、信じられないと声を漏らした。
 センシもうげーっと声を漏らしていた。
「なんだその反応!! いつもの勢いはどうした!」
「だって、マルシル…。精霊の魔力は…。」
「それでもよ! でも試してみたいの。」
「どういうことだ?」
「精霊の魔力は吸収しにくいの。だからもし飲むんだとしたら…、たくさん飲まないと…。」
「ふむ…。」
 ファリンの説明を聞いたセンシは、少し考えた。
「ならば、料理に使ってみてはどうだ?」
「えっ?」
「吸収を助ける食品と共に摂るのは、栄養の基本だ。」
「センシ…、いいの?」
「だが問題は、どうやってアレを仕留める?」
「それは…。」
「ねえ、お鍋に入れて、熱しちゃえばいいじゃないかな?」
「えっ?」
「ウンディーネは、熱に弱いでしょ?」
「それよ! ファリン、ナイス!」
「けど、どうやって?」
 チルチャックは、センシが持っている大鍋を見た。
 これにウンディーネを入れるとして……。そのあと、火まで持って行くのはどうするのか。
「それにこんなボロ鍋じゃ、石柱を貫くウンディーネを閉じ込められるか?」
「…待て。」
 ナマリが駆け寄ってきてセンシの大鍋を調べだした。
「これは…、アダマントじゃないか! 信じられない…、武器となれば竜の骨を砕き、防具となれば竜の牙をも通さぬという…。前鍛冶屋が夢に見る金属のひとつ、アダマントが…、なんで鍋なんだよ!?」
「もとは盾だったが、使い道が無かったので…。」
「何やってんだよ勿体ねーーー!」
 センシが持っている鍋はとんでもない逸品だった。
「じゃあ、ウンディーネの攻撃にも耐えられる?」
「当たり前だ!」
「ちょうど鍋と蓋に分かれているし…、二人で手分けしてウンディーネを、挟むこんで…火にくべれば…。」
「焼き殺せる!」


 こうして、ウンディーネを飲む作戦が練られた。
 そんなファリン達の様子を、ナマリがハラハラと見ていた。





***





「いやいや、無理だぞ?」
「筋力を強化する魔法を使ったし、なんとかなるよ、きっと。」
「いくら魔法で一時的に強化したって、お前は後衛なんだぞ?」
 センシとファリンが鍋と蓋を持ってウンディーネに挑むのだが、チルチャックが心配して声をかけてきた。
 いくら強化したとはいえ、後衛であるファリンに、ウンディーネの強力な攻撃を止める力があるはずがないのだ。
 しかし、圧倒的に前衛がいないこのメンバーでは、マルシルとチルチャックの次に筋力があるとしたらファリンしかいないのだ。
 だから、それしかないのだ。
 センシとファリンが鍋を手にし、ウンディーネが待ち構えている通路へとソロソロと出た。
「表面が歪んだら構えて。なるべく取りこぼさないように…。」
 そして、次に一歩進んだとき、ウンディーネが動いた。
「来る!」
 次の瞬間、ウンディーネの水の弾丸が飛んできた。
 それを鍋を盾にして受け止めるが…。
「きゃあ!」
 センシは、ともかく、ファリンが壁に背中からたたきつけられた。
 ビリビリと手が痺れる。
 そうこうしているうちにウンディーネが元の姿に戻りだし。
「くっ…。」
「どけーっ! ファリン!」
「えっ!?」
 そこへナマリが走ってきた。
 ナマリは、ファリンに体当たりし、鍋の蓋を奪い取った。そしてウンディーネの攻撃でファリンと鍋の蓋を持ったナマリが分断された。
 ウンディーネが壁に入り、チョロチョロと出てくる。
 ナマリとセンシがウンディーネが元に戻るのを待った。
 そして、ウンディーネが球体に戻った直後。
「今だ!」
 全速力で同時に走り出した二人が、鍋と鍋の蓋でウンディーネを閉じ込めた。
 鍋の中でウンディーネが激しく暴れる。
 筋肉隆々であるドワーフの二人の筋肉が浮き出し、血管が浮く。
「いいぞ! そのまま、踏ん張れ!」
「火に!」
 慎重にだが、急いで、火に向かう。
 そして、鍋を火の上に置いて、鍋を二人がかりで押さえつけた。
 ウンディーネは、ずっと暴れ続けている。
 だが、火にかけ続けると、やがて暴れなくなっていき、そして…。
「あっつ!」
「あっちーーーー!」
 鍋が完全に熱されたときには、ウンディーネは、完全に沈黙した。
「すごいすごい!」
「信じられん。なんちう馬鹿力じゃ。」
「センシ、ナマリ! 本当にありがとう!! あ、ファリンも大丈夫?」
「う、うん…。」
「図体の割に貧弱なんだよ、トールマンは。」
「はっ、そうだ! センシ!」
「うむ。調理を始めよう。」





***





 そしてウンディーネの水を使った調理が始まった。
 まず、じゃがいも、ニンジン、タマネギ、テンタクルスの皮を剥く。テンタクルスは、毒針があるのでタオルで持ちながらフォークを使って皮を剥く。
 それらを適当な大きさに切る。
 次にケルピーの肉に、塩・コショウ。
 それをフライパンで焼き、表面を焼く。このとき出た肉汁は、ブラウンソースに使う。
 タマネギ、ニンジンを加えて炒め、ウンディーネの中に入れる。
 灰汁をよく取り。
 じゃがいもと香辛料を加えていく。
 そしてしばらく煮込んだら……。
 最後に味見。
 マルシルは、味見をして笑った。
「完成~!」

 こうしてできあがったのが、ウンディーネで煮込んだテンタクルスとケルピーのシチューである。


 やがて別の塔の調査に行っていたファリン達が戻ってきた。
 タンス以外はみんな顔や身体が腫れていた。テンタクルスで。
「あんな大繁殖してるとは…。」
「片付いてよかったわい。」
「あ、ねえ。一緒にご飯食べてかない?」
 そして全員にシチューが配られた。
 マルシルが、ちょっと抵抗しつつシチューをガツガツと食べた。
 そして杖を握ってみると。
 わずかに杖の先の芽が起き上がった。
「やった! 少し魔力が回復してるみたい!」
「やったね、マルシル!」
「ほら、ファリンも食べなよ。ファリンだって魔力結構使ったでしょ?」
「うん!」
「……ずっとこんなことしながら、ここまで来たのか?」
「うん? そうだよ。」
 それを聞いたナマリは愕然とした。
 仲間を抜けたことで誹られる覚悟はあったが、こんな姿を見る羽目になるとは思わなかったからだ。
 これもある種の罰かと思いながら、シチューを口にする。するとその味に目を見開いた。
「旨っ!」
「美味しいでしょ?」
「鍋の性能か? アダムマントは、鍋にも適しているのか?」
 ナマリは、ブツブツと言った。
 そしてセンシの方を見た。
「センシっていったか…。その…斧のこと馬鹿にして悪かったな。」
「構わん。わしが鍛冶全般に興味が無いのは事実だ。鉱石の見分けもつかず、昔の…、仲間にもよく呆れられた。」
 そうセンシは語った。
 すると、タンス夫妻がシチューを食べずに置いた。
「ナマリ。わしらは地上に帰る。」
「えっ?」
「お前はここに残ってもいい。」
「! …何言ってんだよ!」
 ナマリは、おかしそうに笑った。
「一口くらい食ってみろって! 食感はアレだが結構いけるから。」
 そう言ってナマリは、タンスにシチューを食べさせた。
「……信じてくれとは言いにくいけど…。報酬のやりとりだけじゃなく、私をあんた達の仲間にしてほしいんだ。頑張るからさ。」

 そして、全員で仲良くシチューを平らげたのだった。

「正直なとこ、チルチャック。あんたは真っ先にに抜けると思ってた。無報酬の仕事なんて絶対受けないタイプだろ?」
「当然。」
 チルチャックは返事をした。
「だから前払いでなきゃ仕事はしない。ま、それだとこういう時抜けられないのが難点だが。」
「えっ、仕事だからとどまってくれたの!? 仲間だからとか、友情だからじゃなくて!?」
「あのな、マルシル。いいことを教えてやろう。」
 驚いているマルシルに、チルチャックが語った。
「見返りはいらないとか抜かす奴が、この世じゃ一番信用ならないの。」
「もう、……そういえば、シュローは?」
 マルシルがナマリに聞いた。
「別のツテがあるみたいだぜ?」
 ナマリがファリンを見た。
「なに?」
「いや…別に…。なあ、あいつが抜けてなんとも思わねーの?」
「別に…。」
「そうか…。まあ、お前らも…、ライオスのことが大事だろうが…。ちゃんと地上に戻ってこいよ。」
「うん。ナマリこそ気をつけて。」


 そして、ファリン達とナマリ達は別れ、それぞれの道を進み出した。 
 

 
後書き
最後のほう、微妙に展開が違います。
ファリンとシュローの関係は、後々。 
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