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ダンジョン飯で、IF 長編版

作者:蜜柑ブタ
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第十六話  ケルピー肉の焼き肉

 
前書き
ファリンとマルシルの過去話は省きました。

ウンディーネと、焼き肉編。 

 
 ファリンの食あたりもおさまり、彼女がぐっすり寝ている間に、マルシル達は、これからの段取りを話し合った。
 タイルの床に地図を広げ、チルチャックが地図の一部を指さした。
「現時点がココ。…オークから聞いたレッドドラゴンの出現場所がココだ。二日もありゃ着くか。」
 なんだかんだ色々と寄り道したり、立ち止まる事はあったが、確実に目的のレッドドラゴンまで近づいていた。
 レッドドラゴンが出現した位置まで近づいたが、向こうは魔物。ジッとしてない。
 だがセンシが言うような習性があるのなら、そう動き回ってはいないはずである。
「野営もあと、二回におさめたい。中間地点で一度。レッドドラゴンの手前で一度。ロウソクのが消えたらファリンをたたき起こす。用事は済ませとけ、次の休憩まで少し遠いぞ。」
 すると、マルシルが挙手した。
「身体、拭きたい。」
「…どこで?」
「部屋の隅でやるから。」
「……手短にな。」
 そしてマルシルが床に魔方陣を書き、火を起こして小鍋にお湯を沸かした。
「じゃあ、外に出てるから。」
 そう言って出て行こうとするチルチャックとセンシ。
「え? いいよ。服のままやれるから。そこにいて。危ないし。」
「…あ、そう。」
 そして、二人が背中を向けている間にマルシルは、お湯でぬらしたタオルで身体を拭き始めた。
 少し前まで、男女比率は、半々だった。
 だが今は、一人は抜け、ファリンは、寝ている。
 マルシルは、抜けてしまったメンバーである、ナマリのことを思い出し、ムカムカとした。
 生活がかかっているのは分かるが、何もあんな時に脱退することはないだろうと。

 やがて、ロウソクの火が消えた。
「ファリン、起きろ。」
「うぅ…。」
 ペシペシと叩かれ、ファリンは、呻きながらゆっくりと起き上がった。
「マルシルもいいか?」
「うん。あ、湧かしすぎたわ。」
 そう言ってマルシルは、鍋の湯を捨てに湖の方へ行った。
 そして鍋の中の湯を捨てた。

 すると、水面が波打ち。
 水の球体が宙に浮かび上がった。

「…う…。ウンディーネ!?」
 次の瞬間、プクッと膨れた水の球体が弾けて、水を弾丸のように飛ばしてきた。
 水の精霊・ウンディーネだ。
 間一髪で水の弾丸を避けたマルシルは、通路を転がった。
「杖…!」
 運の悪いことに愛用の杖を持っていなかった。
「何事!?」
 騒ぎに気づいたチルチャック達が顔を出した。
 水の弾丸は壁に突き刺さり、そこからジョロジョロとウンディーネがあふれ出て、再び球体になった。
 そしてまた弾丸をマルシルに向けて飛ばしてきた。
 強固なタイルの強度を一瞬にして切断する水流から逃れるため、マルシルは、湖の方へ飛び出していた。
 水から顔を出し、慌てて水中歩行の魔法をかけて立ち上がろうとしたとき、後ろの方でウンディーネが元の形に戻りつつあった。
 ウンディーネは、水の精霊であるため攻撃のたびに水に戻り、元に戻るのを繰り返す。
 その習性故に隙は大きいが……。
「武器はダメだ…。火が無いと…。」
 そう、弱点が限られており、なおかつ不定形であるため…。
「マルシル! 一人でなんとかしろ!」
「そう言われても……。」
 しかも杖がない今のマルシルでは、不定型なウンディーネを狙って爆発させるのは難しいのだ。
 マルシルは、両手をかざし、連続して爆発魔法を繰り出した。
 爆発により、通路の柱と壁が崩れ、ウンディーネが散った。
 そして静寂がおとずれた。
「マルシル! 何ボーッとしてんだ!」
 声をかけられハッとしたマルシルがチルチャック達の方へ走った。
 その直後。マルシルの足を、ウンディーネの水の弾丸が貫いた。
「っーーーーー!」
「マルシル!」
「やめろファリン! おまえの魔法じゃどうにもできねぇ! 距離が遠い!」
 不定型なウンディーネ相手では、切り裂く魔法は効き目がない。しかもマルシルとの距離があり防御魔法も使えない。回復させてやりたくても接近しないとできない。
 水の上で膝をついたマルシルを、ウンディーネが元の姿に戻りながら見おろす。
 そこを狙ってマルシルが爆発魔法を当てた。ウンディーネは、散り、水に落ちた。
「やったか!?」
「ダメ! 水に逃げたわ! マルシル、立って!」
「…っ…、ど、どこ!?」
 マルシルは、闇雲に水に向かって爆発魔法を当てた。
「どこ!? どこ!?」
 そして背後から撃たれた水の弾丸により左肩を貫かれた。
「っ!!」
 ギッと背後を見たマルシルが、爆発魔法を後ろの水面に当てた。
 爆発により水しぶきが振ってくる。
「ああ…、すっとろくて見てられない!」
「待て! 今、火を起こす!」
「間に合わないわ…。待っててマルシル!」
「行くな!」
 駆け出そうとしたファリンをチルチャックが止めた。ここでファリンまでやられてしまったら、お終いだから。
 マルシルは、左肩を押さえて激しく呼吸を乱していた。
 もう魔力は少ない。次の一撃でなんとかしないと死ぬ。
 何か、何か変化があるはずだと、マルシルは水面を見た。
 その時、変化は起こった。
 わずかにマルシルの血が入ったことで水の色が違い、そこが動いている。
「そこ!!」
 そしてマルシルは、そこに向かって最後の爆発魔法を当てた。
 マルシルがの身体が吹き飛び、その身体は通路の方へ飛んだ。それをファリンが受け止めファリンはその重さで倒れた。
「マルシル!」
「回復はあとだ! 逃げろ!」
 そうこうしているついに再び球体になったウンディーネが、水の弾丸を飛ばしてきたので、ファリン達はマルシルを抱えて逃げ出した。





***





 通路の先にある建物中に避難し、マルシルを壁に寝かせた。
「マルシル…、具合はどう?」
「血は止まったけど…、魔力が足りない…。」
 傷は癒やしたが、失った魔力は戻らない。
「どうすんだ、これから? 魔力切れの魔術師を連れてはいけないぜ? 水中歩行はファリンがいるからなんとかなるが…。」
「…通りがかった冒険者が、魔力を回復できる魔力草を分けてもらえればいいんだけど。」
「そう都合良く他人の面倒を見る冒険者が通るかよ。取引できるようなもんねーだろ? しいてケルピーの肉程度だ。相手が餓死寸前だといいが…。」
「迷宮で、この栄養源は希少だ。」
「栄養の話をしてねえんだ。」
「…肉……。」
 ファリンは、考えた。
 肉…、栄養…、鉄分?
「センシ! レバーはある!?」
「無論だ。」
「栄養補給させよう!」
「おいおい。」
「やらないよりはマシだよ! 魔力回復の糧になるかもしれないし!」
「よし、決まりだ。」

 そして、調理が始まった。

 と言っても…、肉と野菜を切るだけなのだが…。

 そう、焼き肉だ。切って焼くだけ!
 超簡単。
 ケルピーの焼き肉。

「マルシル。起きて。」
「うぅん?」
「いいものがあるよ。」
 火を起こし、その上に置いた網の上の肉をセンシが必死になって焼いていた。
 やがて、肉が焼けた。
「モモ。」
 取り皿に焼けたモモの部分を置いた。
「レバーは?」
「内臓はしっかり火を通さんといかん。」
「ごめんね、マルシル。先に食べるね。」
 そして実食。
「…あー、ちょっと筋っぽいが、旨い。」
「うん。クセがないね。馬の味に近いのか…、海獣に近いのか…。わかんないなぁ。」
「バラ。」
「脂が甘い!」
「柔らかいな~。」
「マルシル。レバーが焼けたぞ。」
 そして焼けたレバーをぐったりしているマルシルに食べさせた。
「ヒレ。」
「口の中でとろける!」
「俺、これ好き。」
「はい、レバー。」
 マルシルは、レバーを食べた。
「テール。」
「美味しい!」
「なんか不思議な味だな?」
「野菜も食うのだぞ。ほれ、マルシル。レバーじゃ。」
 マルシルにレバーがどんどん渡された。
 ムグムグと食べていたマルシルだったが…、やがて…。
「ほ……。」
「ほ?」
「他のとこも食わせろ!!」
 大声を張り上げて、そして、ぐったりと倒れそうになったのでファリンが支えた。
「少し元気が戻ったみたいだね! レバーすごい!」
「さておき…。」
 チルチャックが言った。
 魔力不足はどうするのかと。
「なんでバジリスクに魔力草詰めたよ?」
「最善だったと思っている。」
 そういえばローストバジリスクの調理の際にセンシは、魔力草を持っていた。
 それが今あれば…っと思ったが、後の祭りである。 
 

 
後書き
馬肉の焼き肉は美味しいと聞きますが…。 
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