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永遠の謎

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166部分:第十一話 企み深い昼その八


第十一話 企み深い昼その八

 そして気付いたふりをしてだ。そのまま続ける王だった。
「そちらの方は」
「はい、ビューロー夫人です」
「リヒト氏のご令嬢でしたね」
「常に私に。よくしてくれます」
 コジマをだ。こう話したのだった。
「素晴しい女性です」
「そうですね。それは私にもわかります」
「ですから。この方との間には」
「何もありませんね」
「はい、ありません」
 ワーグナーはまた嘘を言った。王もだ。その『真実』を受け入れたのだった。
 そのうえでだ。王はこう言った。『真実』を元に。
「わかりました。それでは」
「それではですか」
「私が言いましょう」
 微笑んでだ。こう言ったのだった。
「貴方達は潔白です」
「公に言って頂けるのですか」
「はい、その通りです」
 はっきりとだ。本人に告げた。
「そうさせてもらいます」
「何と、そこまで」
「芸術に。誹謗中傷はあってはなりません」
 これは王の考えそのものだった。
「何があろうともです」
「美しくなければならない」
「はい、だからです」
 己のその考えを見ながら。王はワーグナーに話す。
「だからこそです」
「有り難うございます。それでは」
「そしてです」
 王はここでさらに述べた。
「劇場の件ですが」
「そのことですか」
「やはり築かれるのですね」
 こうワーグナーに問うた。
「我が国に」
「はい、バイエルンに」
 それは間違いないとだ。ワーグナーは今度は真実を話した。
「築かせてもらいます」
「わかりました。それではです」
 王はワーグナーの言葉を受けた。そのうえで、であった。
 あらためてだ。彼にこう告げた。
「資金のことですが」
「そのことは」
「何も心配されることはありません」
 こう告げるのだった。
「貴方はそのことについてはです」
「何もですね」
「そうです。貴方が御気にされるべきか」
 それは何なのか。王は穏やかな声で話していく。
「それは芸術のことだけです」
「そのことだけですね」
「そうです、そのことだけです」
 これが王がワーグナーに告げることだった。
「他には何もありません」
「有り難うございます、そのことも」
「私は最後まで貴方の最も親しい友人なのですから」
 ワーグナーだけでなくだ。自分自身への言葉でもあった。
 その言葉を告げながら。王は考えていた。
 そうしてそのうえでだ。また話した。
「今はいい時ですね」
「夜はですか」
「はい、夜はです」
 その夜についての言葉だった。
「昼は憂いに満ちています」
「この世のあらゆる憂いがですか」
「そうです。しかし夜には」
「そういったものは何もないと」
「人々、噂を話す人々が全て眠り」
 王はそうした人間達への嫌悪も見せていた。
「この世のあらゆるものが眠ります」
「しかし起きているものは」
「トリスタンとイゾルデです」
 あのオペラの主人公達の名前をだ。ここでも出したのであった。
 
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