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緑の楽園

作者:どっぐす
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第二章
  第25話 帰還と再会

 四日間の入院後、俺とクロは首都に帰った。

 最初から三日~四日の入院と言われていたので、予定通りの回復だと思う。
 撃たれた怪我は完治しているわけではないが、痛みを我慢すれば動ける。臓器にも大きな損傷はなかったようで、食事を取ることも特に問題はない。
 かなり幸運だったようだ。

 国王は多忙の身ゆえに、一足先に首都に帰っていた。女将軍も同様である。
 そして暗殺者については、遺跡での事件以降あらわれていない。
 護衛が厳重になっているためか、もう暗殺する意味が薄くなっているのか。理由は不明だ。

 俺とクロが帰城したとき、門の前で少し待たされた。
 そして「どうぞ」と中に通されると、国王以下、城の人たち勢揃いでの出迎えが待っていた。

 RPGのエンディングのような展開でビックリしたが、今回俺は国王の身代りに撃たれたかたちなので、よくやってくれたという意味だったらしい。
 女将軍には肩をたたかれ、「また期待している」とか言われた。そろそろ本気で勘弁してほしい。

 さて。
 やるべきことはてんこ盛りだ。どんどん片づけていかないと。



 ***



「あの、今回の遺跡の事件に関して、報告書の作成を求められて――」
「わかった。教えよう」
「……まだ最後まで言ってませんが」
「言わんでもわかるぞ。どうせ『書き方がわかりません。教えてください』だろう?」
「参りました。宜しくお願いします」

 爺は完全にお見通しのようだ。

「ふふふ、おぬし顔はいいのに何も知らぬからな」
「顔は関係ないような気がしますが」
「おお、そうだな。はっはっは」

 このノリは何なんだろう、というのはまあ、おいといて。
 こういうことを人から教えてもらえるということは、本当にありがたいことだ。それはこの世界――未来に来て、初めて理解したことでもある。
 感謝の気持ちで、しっかり教わらなければならない。

「あ、そうだ」
「何だ?」
「陛下には『出せ』と言われているだけで、期限を切られていないんですが。陛下にそのように言われたときって、いつまでに出すのが目安なんですか?」
「ふっふっふ。『報告』だからな。今日帰ってきて、今日が無理なのであれば、明日には欲しいなぁ」

「明日の夜とかでも?」
「そう来たか。道理に暗いおぬしらしい」
「ということは、ダメってことですね」

「ふふふ、『日付が変わるまでは〝その日〟です』というのは通用せんぞ? 明日欲しいということは、相手が明日読めるように出すべきだ。できれば午前中に出したほうがよいだろうな」
「……」
「はっはっは。まあそんな顔しなさんな。頑張れ」

 あっそう。怪我人に徹夜させるのね。
 鬼。



 翌日の午前。

 報告書は爺に預ければ渡してもらえるかな? と思っていたのだが……。
 俺が直接渡したほうが国王が喜ぶとのことで、単身突撃することになった。

 国王の執務室には、初めて入った。
 広さはさほどでもないようだ。
 壁には絵画があり、机や椅子、その他家具もアンティーク調で、天井にはロウソクを沢山立てるタイプの照明がぶら下がっている。
 どれも古そうなので、先代国王が使っていたものをそのまま使っているのだろう。

「おい、リク……。なんだこれは」

 国王が呆然とした表情で、俺の書いた報告書を眺めている。

「あれ? おかしいですか?」
「いや、報告書の体裁はまったくおかしくないのだが」
「?」
「お前、いつもこんな字を書いているのか。下手すぎる」
「あー……すみません。それが精一杯です。いつもはもっと下手かと思います」
「……」

 パソコンがあるので手書きをする機会がほとんどないせいか、ずっと下手なままだ。
 冠婚葬祭の芳名帳で恥をかかないことがない。

「お前、顔はなかなか端正なのに字は醜いのだな」
「申し訳ありません…………が、顔は関係ないかと」
「ははは、そうだな」

 爺と同じようなことを言わないでほしい。

「もしかして、書き直しでしょうか?」
「いいや、命の恩人が睡眠時間を削って書いたものを突き返したりはせぬ。読めなくはないし、書いてくれた内容はこの国にとって貴重な情報となるだろう。余と部下一同で読ませてもらう。ありがとう、リク」
「ありがとうございます。でも寝る時間を削ってって、よくわかりましたね」
「ああ。どうせお前のことだ。書き方がわからず教わるところから始めたのではないか? それだと寝る時間までには終わらないだろ」

 思いっきりバレている。
 まあ……報告書の書き方以前に、文の書き方すらよくわかっているとは言い難い。仮に報告書の書き方を知っていたとしても徹夜だっただろう。
 卒論でさえもコピペを軸に進めていた俺に死角はない。

 ちなみに、提出した報告書の内容については、大きく二つに分かれている。
 前半は、遺跡自体についてのこと。後半は、暗殺未遂事件についての考察になっている。

 前半部分はあの遺跡――さいたまスーパーアリーナについて、自分が知っていることや、このまま発掘が進めばどのようなモノの出土が期待できるかなどを、細かく書いた。
 「書け」と直接求められていたわけではないが、今回の事件の性格を考えると、書かないわけにはいかない。

 後半部分は、事件の概要と、暗殺者及びそのバックにいるであろう団体について、現段階で推測できることを書いている。
 拳銃についても触れざるをえないので、知る限りを書いた。



 無事に報告書は出せた。
 疲れた。眠い。

 このあと打ち合わせがあるけど、それまでちょっとだけ仮眠するか。このままだとまた気を失いそうだ。
 そう思い、宿泊していた部屋に戻った。

 ……。

 ……え?

「はい、せーのっ!」
「ありがとうございましたー!」

 エイミー、エド、カナ、レン、ジメイ、そして職員のカイル、孤児院の子供たちが勢揃いしていた。
 そしてなぜか、俺は彼らから、一斉にお礼を言われている。

 ……どうなっているんだ?

「あれ? みんな久しぶり、というほど久しぶりでもないかな? けど何でいるんだ?」

 混乱している俺に向かって、子供たちが寄ってきた。
 そしてみんな抱きついてくる。
 く、苦しい。

「ちょ、ちょっと待った。く、苦しい……あ、右わき腹は怪我が……痛っ!」
「あら、リクが苦しそうだわ! 一斉ではダメね。カイルさん先頭で、年齢順に一列に並ぶわよ!」

 ——いや、まずこちらの質問に答えてくれ。
 そう突っ込みたかったが、エイミーの仕切りにより、瞬く間に列ができあがった。
 相変わらずの強引さだ。

「兄ちゃん……オレ……うっ」
「ほらほら。カイルは泣くなっつーの。別に俺は消えたわけじゃないからな?」
「うう……うっ」

 ダメだこりゃ。次いってみよう。

「リクは頼りないから心配だったわ!」
「うおっ……あの、ケツ揉まないでくれます?」
「いやよ!」

 抱きついていると叩けないせいか、代わりに揉まれた。やめてほしい。
 まあ、死にかけたのはあったけど、元気だよ。エイミー。

 というかコレ、全員と会話しないといけない流れだろうか。
 以下同文とか言ったら、子供たち怒るかな。

「リク兄さん。神社には行ったの?」
「ああ、行ったよ。祈ったらなぜか気分悪くなって失神したけどな。あははは」
「リク兄さんが神さまに祈っていたとき、神さまもリク兄さんに祈っていたんだよ。神さまは何か願い事があったんだね」

 ニーチェ? 相変わらず意味不明だ。ジメイは。

「リクさん、少し髪が伸びたね」
「あー。切るヒマなかったからなあ。そういうエドはまた少しふっくらしたんじゃないか?」
「ふふふ、抱き心地いいでしょ?」

 確かにふわふわのクッションで悪くない……という問題ではない。ダイエットしろ。

「リク兄ちゃん、だいぶ傷があるね」
「そうだなあ。戦に行ったときの傷はもう治っているけど、遺跡に行ったときの擦り傷はまだ治ってないな。あとは右わき腹にちょっとひどい傷が」
「どれどれ……」

 レンに服をめくられて、右わき腹の傷を触られた。わざわざチェックしなくていい。

「お兄さん元気そうで何よりだわ」
「そっちも元気そうだな。というか、カナが最年少だったんだな。ちょっと意外だよ」
「あら! そんなに老けて見えるの?」

 そうじゃないけど、見かけがどことなく和風で落ち着いているからね。

 ふう……全員終わった。
 と思ったら、エイミーは「次はクロよ」などと言い出し、今度はクロの前に列を作りだした。
 クロが状況を理解しているのかどうかは不明だが、おとなしく抱きしめられているようである。

 曜日の感覚などはとっくになくなっていたのだが、今日は土曜日だった。
 なるほど。孤児院は休みだからみんな来られたということか。
 だが、なぜ来た?

 ……と思ったところで、背後に気配を感じた。
 国王だ。
 ちょうど、部屋の前の廊下を歩いてきたところだったようだ。

「お、イチジョウのところの孤児院のみんなか。着いていたのだな。久しぶりだ。よく来てくれた」
「陛下! お久しぶりです。さっき着いたところです!」

 エイミーをはじめ、それぞれから国王への挨拶が飛んでいる。
 国王は、孤児院の子供たちと面識があったようだ。
 町長は国王にも剣術を教えていたららしいから、町長つながりで会ったことがあるのだろう。

「ん? 何かやっていたのか?」
「一人ずつリクとクロを抱きしめていたところです!」
「ほう。では余もやらせてもらおうかな」
「どうぞ!」
「ああ、悪いな」

 なぜ勝手にオーケーを出すのか。

「リク、今回は世話になったな。無事に帰ってきてくれて嬉しい」
「いえいえ。生きていてよかったですよ。俺も、陛下も」

 これは本当にそう思う。
 国王はクロのところにも向かい、抱擁している。

「おい、エイミー。そろそろ今日なぜ来たのかを教えてくれ」

 気になっていたことを、再度問う。
 本来は職員のカイルに聞くべきなのだが、まだ完全に泣きやんでいないので指名は避けた。

「孤児院にものすごい寄付をくれたでしょ? そのお礼のあいさつよ!」

 ああ、なるほど。
 すっかり忘れていた。

「そうか。どういたしまして、かな。でも、もしかして、みんなこのためだけに来たとか?」
「そうよ? でも今日すぐには帰らないわ。リクと一緒に寝るんで全員ここに泊まる予定よ。ねえ? 陛下」
「ああ、イチジョウから話は聞いている。準備はさせてあるぞ?」
「ま、マジですか……」

 俺、今日は寝させてもらえるのだろうか。徹夜あけなのだが。
 すでに嫌な予感しかしない。

「……じゃあみんな、このあと俺とクロは城の人との打ち合わせがあるんで。終わったらまたここに戻って来るよ」
「いってらっしゃい! 私たちはお城の見学してるわ」

 結局、仮眠もできなかった。
 眠い。 
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