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Evil Revenger 復讐の女魔導士

作者:mst2018ver
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魔王

 魔王。
 私の祖父にあたるあの人とは、結局、今まで交わした会話はとても少ない。
 厳しく、兄とはまた違った恐ろしさを持っていたが、同時に、領民達には絶大なカリスマを誇っていたことは、当時の私でも感じ取れたことだった。
 あの人は、私のこと、父のこと、そして、兄のこと、どんな目で、どんな思いで見ていたのだろうか?
 王族の親兄弟は、領土を巡って殺し合うことも珍しくないという。
 私より遥かに長く生きていたであろう、あの人は、親族の争いを、達観した目で、割り切って見ていただけなのだろうか?
 きっと、私には一生、辿り着けない場所にいた人だろうと思う。

 ベスフル城を離れてから数週間後。
 私の姿は、薄暗い牢の中にあった。
 ここは、グレバス王国。
 かつて、ベスフル王国とは同盟関係にあり、今は魔王軍に従属、ベスフルと最前線で戦わされている国だった。
 国に着いた時も、街には活気がなく、どこか暗い雰囲気が漂っていた。
 ここまでの道中と、独房での生活で、私のドレスはすっかり薄汚れて、みすぼらしくなっていた。
 元の生活に逆戻りしたようだったが、毎日食事が運ばれてくる分、兄と2人だった時よりは、マシな気がした。
「俺は、グレバス軍に下る。お前は、人質だ」
 道中のガイの言葉を思い出す。
「元々、俺はベスフルの人間ではない。故郷を失った後、陛下に取り立てて頂いた身だ」
 もう、あの国に未練はない、と続けた。
「姫も、他の指揮官も、日和見主義の臆病者しか残っていない。あの国に未来はない。ヴィレント殿がどれだけ頑張ったところで、周囲があれでは、限界があるだろう」
 ならば、グレバスに協力し、少しでも早く戦を終わらせた方が良いと、語る。
 戦が長引くほど、犠牲は増えるのだ。
「今、あの国で唯一、脅威となるのは、ヴィレント殿の存在だ。妹の貴様は人質として、最後の切り札になる」
 貴様には気の毒だがな、と告げた。
 その時は、兄が私などを気にかけて戦いをやめるわけがないことを、必死に訴えたが、聞き入れられるわけがなかった。
 それが真実だとしても、ベスフルに引き返す選択肢があるわけがないのである。
 これからどうなるのかは、まったくわからない。
 牢に入れられて、数日が過ぎていた。
 戦はまだ続いているのか? 兄達はどうなったのか?
 牢屋にいる私には、何も情報は入ってこない。
 ただ、薄暗い壁と天井を見つめるだけの日々、時間だけが過ぎていった。

「出ろ」
 さらに数日が過ぎたある日、私は、牢から出された。
 私に出るよう命じたのは、青い肌をした男だったことに、私は驚いた。
 父も同じ色の肌をしていたことを思い出す。
 魔王軍の人が、何の用で、私の元へ来るのか?
 こちらから、何かを聞くことは、怖くてできなかった。
 彼は、多くは語らず、付いてこい、と私に言った。
 兄より少し小さく、スキルドより少し大きいその背を追って、私はゆっくり歩いた。
 かつて、父は、裏切り者として、魔王軍に粛清されたのだ。
 裏切り者の娘である私も、処刑されてしまうのかもと思うと、涙が出てくる。
 だが、服を着替えさせられて、私が案内された先は、街の外だった。
「乗れ」
 促された先には、大きめの馬車があった。
 馬車といっても、それは、貴族が乗るような豪華なものではなく、商人が使うような荷物を運ぶものに、人が乗る狭いスペースが設けられていた。
 戸惑いながら乗り込む。彼もマントを羽織った旅装束姿で、私を監視するように、対面に座った。
 馬車がゆっくり動き出す。
 グレバスの城下町が、少しずつ遠くなっていった。
 どこに行くのだろう?
 戦いの前線に連れて行き、兄達の前で人質として晒し物にされるのだろうか?
 黙って考えていると、どんどん気が滅入ってくる。
 彼の方も、一言も発さぬまま、じっと座っているだけだった。
 耐えられなくなり、遂に私は口を開いた。
「あ、あの…… 私は、何処へ……?」
 消え入りそうな声で、なんとか尋ねる。
「行先は、魔王領だ」
 ぶっきらぼうに、彼は言った。
「魔王様は、孫のお前に一度会ってみたいとおっしゃっている。だから、これから魔王様の元へお前を連れて行くんだ」
 魔王の元へ……?
 言われてみれば、馬車の向かう方向は、ここに来た時とは真逆であった。
 今更ながら気づく。
 魔王という言葉だけ聞くと、恐ろしい化け物を想像してしまうが、父と同じ人種であり、私にとっては祖父であった。
 そういえば、私と兄の肌に、父と同じ青い色が出なかったのは、たまたまだろうか?
 父が街に出る時に、服とマスクで、できるだけ肌を隠していたのを思い出す。
 ベスフルの周辺で、父以外に、肌の青い人は見たことがない。
 私達が青い肌で生まれてきたら、2人での生活は、さらに苦しいものになっていただろう。
 今から向かうのは、祖父の元。私の……お爺ちゃん?
 祖父の話など、父からまったく聞かされたことはなかった。
 考えてみれば、渡された服は、質素だが清潔で動きやすいし、今も、馬車の中で手枷などは嵌められていない。
 縄で縛られて連れてこられた時とは、大違いだった。
 敵中にいたとはいえ、王様の孫ゆえの待遇なのかもしれないと思えた。
 祖父とは、どんな人なのか、怖くもあり、少しだけ興味もわいてきていた。
 気が付くと、グレバスの城下町は、もう見えなくなっていた。

 馬車は、途中、何度か宿場町を経由した。
 その時には、1人部屋を与えられ、夜はベッドで眠ることができた。
 一応、監視らしきものはついているようだったが、何やら、丁重に扱われている雰囲気は伝わってきた。
 やがて、馬車は山道に入る。
 ここから先は、もう宿場町はないようで、毛布を渡され、馬車の中で眠った。
 馬車には屋根もついていて、ふかふかのベッドほどとはいかなくとも、充分快適に眠ることができた。
 そして、山脈を越えたところで、馬車から見える景色の向こうに、遂に、岩山に囲まれた巨大な城が姿を現した。
「あの場所が……魔王の……?」
「そうだ」
 戦の知識など皆無に等しい私だったが、それが、遠めに見ても、とても堅牢で、攻められにくい作りだということは、なんとなく理解できた。
 大勢の兵士を率いたまま、この山を越え、あの城を攻め落とすなど、その時は、とても現実的とは思えなかった。
 兄は、本当にあそこまで攻め上るつもりなのだろうか?
 山道は、ここからの下りも険しい。
 到着には、もうしばらくかかりそうだった。
 下りの道に入ると、あちこちに小さな家や集落なども見え始めた。
 この辺りから、もう魔王領の中なのだろう。
 周辺は、夜でもないのに、人影は殆どなく、静まり返っていた。
「この辺りは、土地が痩せていて作物があまり育たない」
 外を眺めている私に、彼が説明してくれた。
「いずれは、この土地を捨てて、他へ移住しないと、この国に未来はない。魔王様はそうおっしゃっていた」
 見える山々は、殆ど岩肌で、土が少なかった。
 彼らはこんな土地で、ずっと暮らしてきたのか。
 事情を知ると、彼らはただの恐ろしい侵略者ではなく、私達と変わらない人々なのだと思える。
 父がそうだったのだから、当たり前のことだった。

 大きな金属の門が、音を立てて開かれる。
 門を抜けると、石造りの街があり、住民たちが行き交っていた
 山の上から見えた巨大な城は、そのまま街も含んでいたのだ。
 街を、丸ごと高い城壁が覆っている。
 城塞都市と言うらしい。
 大通りの先に、目的の城が見えた。
 街の方は、山で見た集落ほどではないが、こちらもあまり活気がなかった。
 そういえば、グレバスの城下町も似たようなものだったか。

 城の前に着くと、馬車を下ろされ、彼の案内に従って、城の扉を潜った。
 扉の左右に立つ衛兵は、ベスフル城の衛兵たちよりも一回り大きい。
 街で見かけた人々も、皆、大柄だったことを考えると、生まれつき私達より大きな体を持っているのだろう。
 父や、目の前を案内する彼は、魔王領の中では小柄な方にあたるようだった。
 城の内装は、華やかだったベスフル城に比べると、どこか冷たく厳格な印象だった。
 階段をいくつか上がり、扉を潜ると、ついに、謁見の間にたどり着いた。
 そこは、ベスフル城のように絨毯などは引かれていない。
 石の床の上を、彼の後ろをついて歩いた。
 その先には、玉座に腰かけた、魔王の姿があった。
 傍らには、側近と思しき人間が、右に2人、左に1人立って、こちらをじっと睨んでいた。
 魔王自身も、おそらく兄より大柄であったが、そのすぐ右隣に立っている鎧の男は、さらに大きかった。
 側近たちの視線も鋭かったが、それ以上に、魔王の放っている威圧感が、私の心を締め付けていた。
 案内の彼が跪くのを見て、慌てて私もそれに倣う。
「ただいま戻りました」
 震える私とは対照的に、彼は落ち着いた声で言った。
「ご苦労だった。面を上げよ」
 彼と魔王のやり取りなど、まるで頭に入ってこない。
 早く休みたい。ベッドで横になりたい。
 強く、そう思った。
「聞こえているのか。貴様もだ、顔を見せよ!」
「!?」
 自分に言われているのだと気づいて、慌てて顔を上げる。
 魔王がこちらを睨んでいた。
 冷汗が止まらない。とても、まっすぐ視線を合わせられない。
「チェントと言ったな」
「は、はい……」
 震えた声で答える。
「始めに言っておく。貴様の父、スーディは裏切り者として裁く必要があったが、娘の貴様にまで、罪を問うつもりはない」
 魔王は、そう前置きした。
「だが、この魔王領に住む以上は、この国に貢献してもらう。それが私の血族であってもだ。ネモよ」
「はっ」
 跪いていた彼が答えた。
「その娘は、貴様に任せる。戦場に立てるよう、戦士として鍛えてみせよ」
「承知いたしました」
 そのやり取りは、私を戸惑わせるばかりだった。
「どうした、チェント? 自分が、戦場になど立てるわけがないと言いたげな顔だな」
 魔王の言う、まさに通りだった。
 自分は兄とは違う。剣を持っても、あんな風に戦えるわけがない。
「なら、貴様は何ができるのだ? 何か特技があるのなら、聞いてやろう」
 そんなものあるわけがない。
 兄のように戦うでもなく、自分で仕事を探すでもなく、ただ生きてきただけの私には、本当に何もなかった。
 何も言えずに黙っていると、魔王が口を開いた。
「その男、ネモはな。他人の能力を見極めて伸ばすことにかけては、領内でも、突出しておる。事前に資質を見るという意味も含めて、貴様を迎えにやらせたのだ」
 私の能力……? そんなものがあるだろうか?
「ネモに師事して、何の成果も上がらない時には、貴様の処遇も再検討してやろう」
 これ以上話すことはない、と魔王は言葉を切った。
「てば、失礼いたします。行くぞ」
 彼──ネモは、立ち上がって一礼すると、出口に向かって歩き出した。
 私は、戸惑いながら、慌てて彼の背を追った。

「ここがお前の部屋になる」
 謁見の間を出て、案内された先は、城の一室だった。
「明日から訓練を始める。今日は体を休めておけ」
「あ、あのっ……」
 言うだけ言って、立ち去ろうとする彼を思わず呼び止めた。
「なんだ?」
「わ、私に……あの……」
 私に才能なんてあるのかな? と聞こうとして、
「……なんでもない。ごめんなさい」
 聞けなかった。
 お前に才能などない、お前には何もない。
 そう言われるのが怖くて。
 自分に何もないことは、充分、自覚しているつもりだった。
 だが、あらためて、他人の口からそう聞かされるのは、怖かった。
 彼は、黙って踵を返し、立ち去った。

 部屋の中は、ベッドと小さなテーブルがあるだけの飾り気のない所だった。
 ベスフル城にいたころとはかなり扱いは違うが、それでも城内の一室があてがわれるということは、やはり、王族として、それなりに特別扱いされているような気もした。
 ベッドに横になり、石の天井を見て考える。
 私は、これからどうなるのか?
 牢屋の中でも、同じような自問自答ばかりを繰り返していた気がする。
 どうなるのか、ばかりで、どうするのか、と考えたことはない。
 ただ、流されるまま生きてきた結果が、これだった。
 不安は消えることはなかったが、長旅で疲れていたせいか、その日は、天井を見つめたまま、いつの間にか眠りに落ちていた。 
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