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ソードアート・オンライン~遊戯黙示録~

作者:マローン
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FILE83 奮い立てる人間と臆する人間

第二回リアルマネーゲーム、『地の底からのロッククライミング』8人から始まったこの命懸けのゲームは気が付けばあっという間に残り3人!―――オズマ、ザザ、ディンゴの三人だけが残るのだった。 by立木ナレ


ディンゴ「オ、オズマ君……も、もう……ど、どうしよう……どうしよぉ~……」

俺「冷静になれ!登るしかないだろ!」

残り3人となり、ディンゴは今にも崖から手を離してしまいそうな程に手が震えていた、俺は少し下に降りてディンゴの近くに寄り、何とかいざというときにディンゴの手を掴めるくらいの位置まで近づいた。

ディンゴ「オ、オズマ……君?」

俺「ほら、大丈夫だ。お前はまだ生きてるだろ、行ける、登るんだ!」

気が付けばまた、俺は以前の時と同じだった。目の前で何時落ちてしまうかも分からないような状態のディンゴを見捨てられず、手を差し伸べようとしていた。

ザザ「バカか、お前ら?」

俺「なに?」

が、そこに口を挟んだのは、俺達よりも数メートル以上は先に登っている赤眼のザザだった。奴は下を見下ろす事はしないまま、上を向いた状態で、まるで心底呆れたように言葉を短く切りながら言った。

ザザ「こんな、崖に捕まりながらの状態で、支え合ったり……そんな事が出来るわけがあるか……不可能だろ」

そんな事は言われるとも俺だってそうだと思っている。実際目の前でディンゴが手を離し、落下しようになり、俺がここで片手を放してディンゴを掴んだら、俺まで落下してしまうに決まっている。

ザザ「側に何人いようが、関係ねぇ……一人だ!助かりたきゃ……自力で登り切るしかねぇんだ……」

それだけ言い残した直後、ザザはそれ以上は何も言わず、最後まで振り向く事無く、ロッククライミングを再開して登り始めた。
そんなザザが先に登り続ける姿を見上げながら―――

俺「間違っちゃいねぇ――確かにそうだ、他に助かる道なんてあるわけがない……ディンゴ、登るぞ」

俺は改めて、この崖を登り生還を目指す為に自らの残りの気力を振り絞り、一番上まで登り切る事を決意した。

俺「このゲームには制限時間は儲けられちゃいないが、俺達の気力は精神は無限じゃない。それらがすべて底を尽きて、本当に落ちちまう前に登るしかねぇんだ!」

ディンゴ「オズマ君……僕はだめぇ」

が、ディンゴの口から出たのは、そんな諦めの弱気に言葉だった。

俺「何言ってんだよ……まだそうやって捕まってられてるんだろ?だったら―――」

ディンゴ「僕はもう、ダメなんだぁぁぁ!!」

眼から収まり様の無い涙を零し続けながら、ディンゴはそう叫んだのだった。

ディンゴ「さっき落ちて言った人たちの断末魔の叫びと表情が頭から離れない……足が震えて止まらないんだぁ……」

俺「落ち着け!余計な事を考えるな!死んじまうぞ!」

ディンゴ「あ、ありがとぉ……」

が、ディンゴが震えるからだと声から漏らしたのは、急に意味の分からない『ありがとう』の一言だった。
相変わらず震えたままのディンゴは消えてしまいそうな声で言葉を続ける。

ディンゴ「前の時も、自分のチャンスを手放してまで助けてくれて……今回もこうやって、何度も励ましてもらって……う、うわぁあぁぁっ!」

俺「ディンゴ、足をそこの岩の出っ張りに乗せろ!」

ディンゴの言葉は彼自身が右足を乗せていた岩の出っ張りから足を踏み外してしまい、体勢を大きく崩したことで途切れてしまい、代わりにディンゴは足をバタバタとさせながら両手で自分の身体を刺させる状態になっていた。


まさに断末魔の踊り!ガチャモンはこのディンゴの様子を見て、ディンゴの完全な終わりを予期した―――しかし! by立木ナレ


俺「いいぞ、いいぞ、ディンゴ」

ディンゴは辛うじて足を岩の出っ張りに乗せて、辛うじてばたばたとさせていた足をようやく静める事に成功したのだった。
その様子を見て、俺はまだ救える、まだ助かると見なし、ディンゴを鼓舞した―――だが、ディンゴは自分の懐にしまってあった金の延べ棒を、ソードアート・オンラインの第100層をクリアした後に、現実世界で1000万円を獲得できる権利の証である金の延べ棒を取り出して、俺に向けて伸ばしたのだった。

俺「え……?どうしたんだディンゴ――それは、お前の――」

ディンゴ「これを、オズマ君に託す……」

一瞬、ディンゴが何のつもりでそんな事を言いだしたのか、託すと言うのは具体的にどういう意味なのか―――俺は直ぐにその意図には気が付かなかった。

ディンゴ「虫のいい話なんだけど、これを僕の代わりに……手にして、いつか……現実世界に帰還した時に、1000万円にして渡してほしい相手がいるんだ……僕のせいで、僕のせいで……僕が情けないばかりにつらい思いをさせてしまった弟に……」

俺「おい!何言ってんだよ!」

ディンゴ「何年も前から難病に侵されてて、治療するには莫大な治療費が……1000万円近い大金が必要なだよぉ……」

俺「お前、その為に―――」

ようやくディンゴのような気弱そうな、命懸けのゲームなんかとは縁の無さそうなディンゴが死と隣り合わせのこのゲームへ参加した理由を俺は聞く事になった。
難病に侵されている弟を救うために、自分の命を掛けて、ただでさえ死と隣り合わせのソードアート・オンラインの世界の―――より命懸けのマネーゲームに挑んででも救いたい相手なのだろう。
それを聞いたからこそ、俺は直ぐに金の延べ棒を受け取るわけにはいかず、改めてディンゴに対して言い放つ。

俺「だったら猶更だろ―――お前自身の手で崖を登り切るんだ!その金の延べ棒を持ったままアインクラッドクリアの日まで生き延びて、それで1000万円の治療費を渡してやるんだ!」

ディンゴ「オズマ君……僕には……僕にはわかったんだよ!人には二種類の人間がいるんだ……圧倒的な窮地の状況下で奮い立って立ち向かえる人間と……臆して立ち上がれなくなる人間が……」

俺の言葉を受けてもディンゴは奮い立つ事は出来ず、涙を零しながら、震える足を堪えながら語り続ける。

ディンゴ「僕は言うまでも無く後者だった……今はこうして、しがみ付いてるだけでギリギリだ……精一杯なんだよ!―――け、けどぉ、オズマ君は違うはずだ。オズマ君なら、立ち向かえる、奮い立てる人間のはずなんだ!だから、そんな本当に強いオズマ君になら、これを託せるから―――」

一旦言葉を区切り、ディンゴは一度、涙を拭い、声を絞り出し、その先の言葉を俺に対して告げる。

ディンゴ「僕の代わりに弟を救ってほしいんだ!―――――僕の名前は石田淳平(いしだじゅんぺい)で弟の名前は石田淳太(いしだじゅんた)……埼玉県の川越市にある病院で入院生活を送ってるから―――きっと頻繁にお見舞いに行ってる母さんに会って、治療費を渡して……お願いだぁ!」

俺「…………」

俺がこれを受け取るか否か迷ってすぐに、ディンゴは再び足を岩の出っ張りから踏み外してしまい体勢を著しく崩してふらつき始めていた。

俺「ディンゴ!?」

ディンゴ「は、早く!早くこれをぉ!」

俺「くそっ!」

尚もディンゴは自分の身の事よりも、俺にこの金の延べ棒を取る事を望み続けていた。俺は迷いの元となっている思考を断ち切り、すぐさまディンゴの持っていた金の延べ棒に手を伸ばし、それをひったくる様に取ったのだった。
だが、俺がこの金の延べ棒をとっても、ディンゴ自身の窮地が変わったわけではない。

ディンゴ「は、はぁ……」

にも拘らず、ディンゴは俺が金の延べ棒を手にしたのを確認すると安心した表情を浮かべて、未だに足を置く場所を失いふら、右足をふらつかせたまま安堵の息を突いていた。
そして、穏やかな表情を俺に見せたまま、落ち着いた声で言った。

ディンゴ「さあ、行くんだ……僕に構わないで」

俺「ディンゴ……」

ディンゴ「登るんだ君は……」

俺「―――っ!」

俺はそれ以上穏やかで、この先の自分に待ち受ける末路をほぼわかり切っていながらも、そんな恐怖心を表に出さないまま落ち着いた様子を無理やり装っているディンゴを見続ける事が出来ず、首を上に向けて、再び一歩、一歩とロッククライムを再開した。

ディンゴ「下を向かないで……そのまま登り続けるんだ。きっと僕はもうすぐ落ちるけど、僕が落ちる瞬間を君が見たらきっと君は動揺する――――君が二つの金の延べ棒を持ったまま登り切る為にも、そんな無駄な事はしちゃいけないよ」

俺が一歩一歩、登り続けていくにつれて、下から聞こえてくるディンゴの声が遠く、小さくなっていくような気がした。

ディンゴ「勝つんだ、オズマ君!……僕はまた負けた……絶対に勝たなくちゃならないこの勝負にすら負けて―――まるで無意味で無価値な一生だった……けど、オズマ君はこんな風になっちゃダメだ。オズマ君は勝てるはずだから……勝つんだオズマ君……」

本当にそうなのか?ディンゴの一生が無意味で無価値だなんて―――そんなわけがあるか?無意味でも無価値でもないだろ。
何故ならディンゴは今、祈れている。自分の一生の最後になりかねないこの時において、命が尽きる寸前に、自分よりも他人の成功と希望を祈れてたディンゴがクズだとか負け犬だとか―――そんなわけがあるか!

例え、勉強やスポーツが出来なくたって―――趣味のゲームですら上手くやれてなくたって―――ディンゴは称賛されるべき人間だったんだ!
もう、ディンゴは何時落ちてしまうか分からない……だからせめて俺は、この思いを言葉にしてディンゴに伝える為、最後に一度だけ下を振り向く決断をした。

俺「ディンゴ――――!?」

俺が振り向いたその時には、下で崖にしがみ付いていたはずのディンゴの姿は既にそこにな無かったのだった。
 
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