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永遠の謎

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144部分:第十話 心の波その二


第十話 心の波その二

「そうですね」
「はい」
 そしてだ。王もそれを認めた。
「今はです」
「ワーグナーの作品だとか」
「トリスタンとイゾルデです」
 王はその作品が何かを話した。
「それを上演するのです。このミュンヘンで」
「それはいいのです」
 母は上演自体はいいとした。しかしであった。
「ですが」
「ワーグナーのことですか」
「本当にいいのですね」
 怪訝な顔で我が子にまた問うた。
「彼をこのままミュンヘンに」
「彼は潔白です」
 王はこう母に返した。
「間違いなくです」
「潔白ですか」
「そう、潔白なのです」
「しかしミュンヘンではそれは」
「私はわかっています」
 確かにわかったうえでの言葉だった。
「ですから」
「そう言うのならいいです」
「有り難うございます」
「ただ」
 それでもだとだ。母は我が子を咎める様な目で見ながらだ。こうも告げるのだった。
「貴方は全てを見ていても」
「それでもだと」
「それでもあえて見えていないとすることがあるのですね」
「そう仰いますか」
「美しいものだけを見たいのですか」
「それは」
「この世には二つのものがあります」
 母だから言えることだった。
「美しいものと醜いものです」
「その醜いものは」
「それもまた人間です。それから避けてもです」
 王を見据えて。そのうえで告げていく。
「それは貴方の前に現れます」
「逃れられないと」
「王は。美醜を見るものです」
 その美しいものと醜いものの二つをだというのである。母は王たるものは背負わなくてはならないと考えていた。当然我が子もである。
 その我が子に告げた。美醜のことをだ。
「貴方はその美醜は」
「私は」
「やがてわかります」
 母は我が子が答える前に述べた。
「それもです」
「わかるというのですか」
「はい、それを告げておきます」
 子我が子にこうも告げた。
「よいですね」
「左様ですか」
「後は。そろそろですね」
 話を変えてきた。だが王にとっていい話でないのは同じだった。
「貴方も伴侶を」
「そのことですか」
「そうです。私も探しておきましょう」
 この辺りは市井の女と変わりなかった。そうした意味で王の母も女であった。女ならばだ。我が子のそうしたことを気にかけるものなのだ。
「よいのですね」
「はい」
 沈んだ声でだ。王は答えた。
「それでは」
「そうしたことをしてこそです」
「王だというのですね」
「貴方もわかっている筈です」
 母の言葉は厳しい響きがある。
「そうですね」
「はい、確かに」
「わかっているのならです」
 母はさらに言ってきた。
「これ以上は言いません」
「生涯の伴侶ですか」
「そもそも貴方はどういった女性がいいのですか?」
 王に対してだ。その女性の趣味も尋ねたのだった。
 
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