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真ソードアート・オンライン もう一つの英雄譚

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インテグラル・ファクター編
  ユニークスキル


戦いは困難を極めた。当たり前だ。クォーターポイントと言われる層ではなくても此処は74層、そう簡単には突破は出来るわけではない。

「クソ!このままじゃジリ貧だぞ!」
「どうにか軍の連中の離脱には成功したようだけど、問題は今度は俺たちがどう離脱するかだな」

ボスの攻撃を受け止めながら考える。この盤面をどうやって離脱出来るか。体術スキル《八極》を使うか?いや、制限時間内にボスを倒せるとは限らない。もし時間内に倒せなければ行動不能の所を狙われる。そうなればひとたまりもない。

「アヤト、クライン。俺に考えがある。この状況を打破できるかもしれない。そのためには10秒でいい。時間を稼いでくれ」
「わかった」
「やるしかねぇか」

キリトの指示を受け、俺とクラインでヘイトを交互に変えさせながら戦う。キリトはメニュー欄から一本の剣を出す。キリトめ、遂にアレを使うんだな。なら俺も……

「クライン!すまない、一瞬でいい。ヘイトを任せる」
「ちょっ!?お、おい!」

俺は剣を仕舞いメニュー欄を開き、ボタンを押す。すると、背中の剣を仕舞い一本の槍が現れた。槍は深みのある藍色で先端には四方向に棘がついている。先端の刃の部分は平たくなっており両刃。《ライト・コンダクター》サチに作ってもらった《クラレット》と同等レベルの両手槍。武器のステータスだけでなく、追加スキルとして敏捷が約1.5倍上昇と破格のスキル持つ聖槍レベルの槍。
俺は背中のその槍を取り、構える。

「ふっ……!!」

俺は一気にボスの元に詰め寄る。

「はぁああ!!」

ボスの背中に一突きからの斬り上げ、そこから一気にソードスキル《ムーン・アサルト》を叩き込んだ。

「アヤト、おめぇさん……」
「話は後だ。今は目の前の敵に集中するんだ」

俺達は一気にボスに突っ込む。俺もただ武器を変えただけじゃない。悪いが、キリトの出る幕はないぜ!

「スプレディング・サン!!」

《ライト・コンダクター》が光る。ソードスキルによる発光。そしてクラインや他三人は目を見開く。アヤトの槍の動きがブレて見えるのだ。あまりの速さに、まるで二重に攻撃しているようだった。

「スプレディング・スタブ!!」

アヤトの攻撃は止まない。次のソードスキルがボスを襲う。攻撃は止まらない。ボスの反撃を赦さない。広範囲に何度も薙ぎ払い斬りつける。そのスピードと攻撃によって起こる飛び散るエフェクトは星屑のようだ。

「な、なによ……あのスピード。アヤト君が敵を圧倒している……?」
「アヤト……」

アスナとコハルが呟く。フロアボスを一人で相対出来るなどありえない光景なのだ。

「やぁあああ!!」

俺の最後の一撃でボスのHPは残り一本になった。削りきれなかったか……!すると、後ろから駆けてくる音が聞こえてきた。キリトだ。

「スイッチ!!決めろ!キリト!!」
「おう!!はぁああ!!」

俺はギリギリバックステップでキリトと交代する。スイッチをすると、どっと疲労が襲ってきた。くそ!倒れる……!

「アヤト!」

倒れこむ俺をコハルは受け止める。俺はボスとキリトの方を見る。キリトの手にはいつもの《エリュシデータ》だけでなく、もう一本剣を持っていた。翡翠色に輝く剣《ダーク・リパルサー》を左手に持ちボスに斬り込む。

「スターバースト……ストリーム!!!」

キリトの持つ二本の剣が光り出す。そしてそれは見るものを圧倒する剣技。どんどんスピードが上がっていく。ボスの反撃を食らっても上手く攻撃をずらし、的確に当てていく。

「うぉああああ!!」

キリトは最後の一撃を決め、ボスは砕け散る。剣を背中の鞘に納めると振り向いて俺にサムズアップする。
俺もサムズアップを返すと、俺達は同時に気を失った。













「アンタってホントに泣き虫よね。ほら、これあげるから元気出しなさいよ!」

「アンタの物はアタシのものなの!」

「……アタシさ、引っ越す事になったんだ。うん……ちょっとね。でも永遠の別れじゃない。必ずまた会えるよ。だからサヨナラじゃない。……またね!」

懐かしい……あの時は楽しかったな……。これは……走馬灯?いや、俺はまだ死んでない。目を覚まさないと……このままじゃいけない。帰るために目を覚まさないと。







「……ト!…ヤト!アヤト!」
「……ん、んん?」

コハル?あれ?こんな事前にもあったような……。というかコハルの顔が近い。
俺は首を横に向けると理解した。あ、膝枕だ。

「アヤト大丈夫?突然気を失ったからびっくりしたよ!」
「あー、すまん……」
「こんな無茶はもうしないでね。アヤトがいなくなっちゃったら私……」
「コハル……」

コハルの目から涙が出て俺の顔に落ちる。やはりコハルは強くなっても、女の子なんだなって思った。久しぶりに見たな……コハルの泣いてる顔は。元々強い女の子じゃないのに、強くなろうと努力して今や最強ギルドの一番隊隊長まで登りつめた。それからは中々一緒に居ない日が続いて……あれ?なんで俺はこんな事考えてるんだ?いや、それよりも。

「大丈夫。もうこんな事はしないから」
「本当?」
「ああ、こんな無茶はしない。死にたくないしな」
「うん。そうだね。……ねぇアヤト、覚えてる?あのデスゲーム開始のチュートリアル後の初めてのクエストの時のこと」
「確か《ダイアー・ウルフ》の討伐だったか?それがどうかしたのか?」
「その時アヤトが掛けてくれた言葉は今も覚えてるんだ。『二人で最後まで生き抜く為に!』ってね。血盟騎士団に入ってアヤトと離れても、辛いことがあってもこの言葉が私を励ましてくれたんだよ」

俺は静かに聞き続ける。いや、聞かなければならないと直感的に理解する。

「アヤト……私、君のことが好きだよ」

コハルは涙を浮かべた目で俺を見つめる。コハルの体は震えていたが、目はしっかりと俺の目を見据えていた。

「コハル……ありがとう。でも、今はまだ答えは出せない。ごめん」
「……そうだよね。あはは、私こそごめんね?突然こんなこと言って迷惑だよね?」
「そんな事はない!……ただ、今は考えがまとまらないというかなんというか……。でも必ず答えは出すから!それまで待っててくれないか?」
「……うん。約束だよ?」

俺とコハルは小指を出し、絡める。

「ふふっ」
「ふっ」

俺たちは自然と笑顔が溢れた。何故かは分からないけど温かい。そんな気がした。
その後、キリトも目を覚まして一件落着となった。













「私たち、血盟騎士団を離れようと思うの」
「今日の軍もそうだったけど、クラディールの件もあって、最近ギルドの方針が少し変わって来てる気がするの。今の血盟騎士団を客観的に見てどうなのかを見ておきたい」

アスナとコハルは帰り道にそう言って来た。確かに最近、最前線のギルドは新メンバー集めに力を入れている。当然血盟騎士団も例外ではない。中層プレイヤーからの入団者が増えていた。例としては最初あった一番隊と二番隊だけでなく今では三番隊、四番隊まで出来たほどだ。

「離れるならヒースクリフにも言わないとな」
「うん。団長、認めてくれるかな?」
「わからない。団長はいい人だけど、なんていうか底が知れない人よね」

ヒースクリフ。血盟騎士団団長にして唯一無二のスキル、《神聖剣》の習得者である。そのカリスマ性で瞬く間に血盟騎士団をトップギルドに伸し上げたプレイヤーで、コハルとアスナをスカウトしたのも彼だ。
アスナはヒースクリフにメッセージを送る。

「ところでよ!キリトのそのスキルはなんだよ?剣を二本使えるなんて聞いた事ないぞ?」
「これは《二刀流》ってエクストラスキルだ。恐らくヒースクリフの《神聖剣》と同じユニークスキルと呼ばれるやつだと思う。アヤト。お前のそれもじゃないのか?」

キリトの一言で全員が俺の方を見る。俺は全員を見渡すと口を開いた。

「そうだよ。スキル名は《無限槍》。槍のソードスキルを反動の硬直なしで連続で使えるようになるスキルだ」
「それで連続でソードスキル使えてたのか!……そういえばあの時、アヤトの攻撃が二重に見えたんだがあれはなんだよ?」
「それも《無限槍》のおかげだな。《無限槍》はさらに敏捷が1.5倍上がるんだ。この槍の装備時の能力と《無限槍》の追加スキルで敏捷の合計が3倍になるんだよ。そうすると、俺の敏捷値が《無限槍》の特殊スキルの発動条件をクリアして通常の2倍攻撃出来るようになるんだ。さっきのソードスキル《スプレディング・サン》と《スプレディング・スタブ》は通常8連撃だったところを16連撃になったんだよ」
「そんな無茶苦茶な……キリトの《二刀流》といい、羨ましい限りだぜ」

クラインのぼやきを聞き流す。確かにここまでは欠点のないように見える。が、このユニークスキルには大きな欠点があるのだ。そう、攻撃中の隙が多いのだ。俺の場合、今回こそ攻撃中に怯んでくれたからこそ一気に攻め込めたのが、もし守りに徹しられていればこんなに上手くはいかなかっただろう。これはキリトの《二刀流》にもあてはまることで、現にキリトのHPは後一撃食らっていれば死んでいたであろう程の反撃を貰っていた。

「あ!団長からメッセージが返ってきたわ!なになに……キリト君とアヤト君と会って話がしたいですって!?」

アスナのその一言で場の空気は一気に引き締まった。 
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