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永遠の謎

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141部分:第九話 悲しい者の国その十四


第九話 悲しい者の国その十四

 そしてそのうえでだ。問わずにはいられず実際にそうしたのだった。
「あの、同じなのですか」
「あの英雄達はですか」
「全て」
「そうなのでしょうか」
「そうだ、同じなのだ」
 また言う王だった。
「それはわかりにくいか」
「私はそうは思いませんが」
「私もです」
「それは」
「いや、若しかして」
 ここで青年達のうち一人が言った。
「あれでしょうか」
「あれとは?」
「何かあるのか?」
 周囲はその彼の言葉に顔を向けて問うた。
「同じだという根拠が」
「それが」
「ヘルデンテノールだから」
 その青年はそこに根拠を求めた。ワーグナーのテノールの特徴だ。バリトンに近い響きでそれでいて輝かしい声を出す。それがワーグナーのヘルデンテノールなのだ。
「全ての役がそうだからでしょうか」
「いや、それを言えばどの作曲家の役もそうではないのか?」
「モーツァルトにしても」
 他の青年達は彼の言葉にこう指摘を入れた。
「モーツァルトのソプラノやテノールも同じ存在なのか?」
「絶対に違うと思うが」
「それでは」
「ワーグナーだけだろう」
 その青年はあくまで彼の音楽だけだというのだった。
「それは」
「ワーグナーだけが違う」
「ヘルデンテノールは特別なのか」
「それでか」
「そうだ、ヘルデンテノールは特別なのだ」
 また言う彼だった。
「それはな」
「ヘルデンテノールはそうなのか」
「特別なのか」
「全て同じ存在なのはそれでか」
「ヘルデンテノールだからこそ」
 青年達がそれぞれ言っていってだ。そうしてだった。
 王に顔を戻してだ。あらためて問うたのだった。
「陛下、それでなのでしょうか」
「ヘルデンテノールだからこそでしょうか」
「彼等が同じ存在だというのは」
「だからですか?」
「いや、同じ存在だからこそのヘルデンテノールなのだ」
 ところがだった。王は逆のことを述べた。同じ存在だからこそのヘルデンテノールだとだ。彼は青年達にそう語ったのだった。
「それでだ」
「逆ですか?」
「同じ存在だからですか」
「ヘルデンテノールなのですか」
「そうだ。同じ存在だからだ」
 だからだとだ。王はまた言った。
「ワーグナーは彼等をヘルデンテノールとしたのだ」
「何故同じ存在なのか」
「それでしたら」
 青年達も考えていく。真剣そのものの顔でだ。
「それぞれ違う世界、違う国にいるというのに」
「それでも同じ存在とは」
「それは」
「彼等は乙女の心を救い愛による救済を受ける者だ」
 王は彼等をそうしたものだと述べた。
「そして同じ人格だ」
「そういえばどの英雄達も性格は同じですね」
「言われてみればそれは」
「ほぼ全てが」
 青年達も王の今の言葉で気付いた。
 
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