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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第七章 C.D.の計略
  戦いの行き先

p
これまでの仮面ライダー電王は


久遠レイカにかざしたライダーパスを元に過去へと飛んだ良太郎たち

そこで見たのは、剣崎達と天王路の戦いの結末。
そしてそれを眺める久遠レイカ自身の姿だった。

だが、その久遠レイカは謎の仮面ライダーへと変身し、良太郎たちに襲い掛かってきた。


久遠レイカだった何者か。
その何者かの必殺の一撃であわや相打ちかというところで、彼らを救い出したのは蒔風だった。

敵のライダーの名前は、ファウスト

それだけを明かし、時の砂漠にて会話を終える蒔風。

だが、帰ろうという彼に、良太郎は質問を投げかけた――――


------------------------------------------------------------


「・・・・なに?」

「だからさ、君はどうやってここに来たの?」


野上良太郎は再度問う。

蒔風は確かにマスターパスを持つ。
それはいい。

久遠レイカに会いに行くということは、「EARTH」の病室に行ったのだから彼が知っていてもおかしくはない。
それもいい。

そして彼女にライダーパスをかざせばあの日付が出るのだろう。
彼はそれを元にここに来た。

そう、そこまではいい。
良太郎も、そこまではわかる。

だが、納得いかないのはその先だ、
彼はいかにして時を超えてあの場所に現れることが出来たのだ?



「君は、時の列車を持っていない。パスだけだよね。どうやってきたの?」

「・・・・」

「答えて」


次第に口調に険が出てくる良太郎。
それに対し「あー」とか「うー」とか言いながら肩や頭を捻る蒔風。

だが、しばらくして頭を掻き、振り返る。


「そこ聞く?」

「知りたいね」

「・・・・あーくっそ!!ここでばれるかチクショー!」

まいったよ、とでも言わんばかりに腕を広げてそんなことを叫ぶ蒔風。


いや、もし彼の推測が正しければ、彼は――――



「そう、お察しの通りだ。俺は蒔風舜じゃない」

「やっぱり―――」

「お、おい良太郎!こいつがイマジンだってのか!?」

「その通りだよモモタロス。俺は確かに、お前らの敵になりうるイマジンだ」


半信半疑気味に良太郎に聞くモモタロスだが、その返答は蒔風本人から来た。
彼が半信半疑で聞いたというのにも、理由がある。


モモタロスはイマジンを臭いでかぎ分ける。
犬か何かか?と思われそうなものだが、事実だ。

彼は理屈を抜きにして、本能だとかそういった部分でイマジンの存在を感知することが出来るのだ。
これまでの戦いにも、この感知能力ともいえる彼の力には結構助けられたところがある。

その彼が、同じ電車に乗ってあの時間からここに来たまでの間に、それに気付かなかったというのだろうか?


「まあお前が気付かないのも仕方なしだな。だって俺は蒔風本人だもの」

「はァ?」


まったく意味の分からないことを言う蒔風。
だが、良太郎は何となくだが、彼の言いたいことがわかっていた。

事実、あの疑問点さえなければ彼も蒔風と話している気分だったから。


「そう、俺は他者に化けることが出来る。それは姿かたちとか、違和感を感じさせるとかそんな偽者になるような軟なもんじゃないぜ?」

そう、このイマジンの能力は「変身」だ。
しかも、全くそうだと思われる、思わせるようなことがないほど「もう一人」になれる。

それほどのレベルの能力。


そしてそのためにすべてを得ることも可能だ。
癖や口調、ちょっとした仕草から、記憶や能力までをも網羅する完全なる「変身」である。

だが、その根幹に根差しているのはあくまでも彼自身である。



さっきの質問も、おそらく蒔風なら即座に答えただろう。
《翼人の世界渡航能力の応用で時間を超えたのさ》と

実際にできる出来ないは、正直なところわからない。
だが、答えるだけだとしても、そう言うだろう。


彼はそれが即座に出てこなかった。



答えは簡単。
彼は彼自身の時の列車でここに来たからだ。

人は、自分が経験したものを元に話を進めるものだ。
何を当たり前のことを、というが、これが隠蔽や偽称の際には厄介になる。

どんなに気を付けて、そうではないと取り繕っても、自分のとった行動を元についポロリと言ってしまう。


だから、彼も一瞬止まった。
しかしそんな答えをすれば自分は敵だと明かすことになる。

だから考えた。
考えた末にさっきの蒔風なら答えたであろう言葉も出てきた。

だが、遅かった。
蒔風本人が言葉を出すには、どもり過ぎた。


それは蒔風本人であった彼にも十分わかっており、故に彼はこうもあっさりとニセモノであると認めたのだ。

これ以上はごまかしきれない。
野上良太郎という頑固者の前では意味をなさないと、蒔風は知っていたからだ。



「じゃあさっき変身したのは」

「そう、俺だ。俺が久遠レイカに記憶を植え込むために見に行った時に俺自身が経験したことだからな」

こっち側の対応するのは難しくなかったよ、と半笑いで腰にライダーベルトを巻く。
同時に、蒔風だった姿が別人のものになる。

メガネをかけた、おとなしそうな男だ。
しかし、良太郎はその時点でやっと身構えたくらい。

ベルトを装着、姿が変わる、パスを手にしている。
それらの動作があまりにも自然で、あまりにも当然とした滑らかな動きだった。

目の前でそれだけの戦闘準備をしたというのに、良太郎に戦闘を意識させなかったのだ――――


「これが俺のもとの姿。つっても、契約した奴から奪った奴だけどな」

実体化したイマジン。
ということは、契約者の人間は時間を奪われすでにこの世にはいない。

「さて、こうなっちまったらお前を逃がせねぇ。ここで終わらせてもらう。変身」

「良太郎!!」


《lance foam》と、変身音が聞こえたのと同時に、デンライナーからキンタロスが思い切りライダーベルトを投げた。

同時に、紫の光がベルトと共に良太郎へと飛びつくように憑依する。
剛力の彼が投げたベルトは、良太郎へと駆けだした敵ライダーよりも早く彼のもとへと到達し、憑依したリュウタロスが即座にベルトにパスをセタッチさせた。


「変身!!」

《gun foam》

仮面ライダー電王ガンフォームへと変身し、その銃身で槍の振り下ろしを受け止める。
ギリギリと火花を散りながら鍔迫り合い、そこから足の力を抜いて踊るように後退しながら銃撃を放つ電王。

それを受けて、体勢を崩しながらも地面に槍をつっかえ棒のように刺して体勢整え、さらには槍を振り回してエネルギー弾を弾き飛ばす新たな敵。


そう、彼の名は
彼自身が言った、この仮面ライダーは


「仮面ライダーファウスト。無幻の世界からの(いざな)いだ」

槍を手に、軽く振るいながら向かってくるファウスト。
それに向かって、さらに銃撃を放つ電王。


戦いが始まった。

十一人目の仮面ライダー。
名前はファウスト。

その名はまるで、自らに実体は無いというかの如く―――――


------------------------------------------------------------


「よっ!はっ!えいッ!!」

「はは、当たらないねぇ!!」

仮面ライダー電王ガンフォームの銃撃を、槍を使って弾き飛ばしながら接近してくるファウスト。
それを、時の砂漠を駆けながら撃ち、相手と一致の距離を保とうとする電王。

しかし、相手のほうが早い。
ダンっ!!と一歩を強く踏み込み、一気に懐にまで入ってくる仮面ライダーファウスト。

ヒュンヒュンと、まるで鞭か何かのようにしなりながら刃が振るわれる。
それを、ブレイクダンスか何かのような動きで回避し、転がって更に距離を取る電王。

しかも、その回転運動のさなかにも銃撃を放つので、ファイストは一時とはいえ追撃が出来なくなる。


「良太郎!こいつ全然当たってくんない!!ムカつく!!」

「じゃあもっと近づいて来いよ!!」

「ヤダ!!」


バカンバカンと、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとでも思っているのか、とにかく撃ち始めた電王。
だが、正確に狙っても弾いて接近する相手だ。当然ながらそんなもの無視されるだけ。


そうして接近してきたところで、電王はまた転がり動いて距離をとるだけ。
そんなことが何度か続いて、段々とファウストもイラついてきた。


「おい!!逃げてばっかじゃどうにもなんねぇだろうが!!」

「じゃあ当たれ!!」

「お前がな!」

もはやガキの喧嘩である。
そんな言い合いをしていると、ファウストがフゥッと呼吸を込める。


すると、敵の装甲に銃弾が命中したダガガン!!という音が気持ちよく響いた。

「やった!」

イェイ!と喜ぶ電王。
だが、あたりはしたもののそれは数発。

つまり

「気合い入れて飛びこみゃ、我慢できないダメージじゃねぇんだよ―――!!」

着弾の衝撃を踏みとどまり、ファウストが一気に電王の真正面へと躍り出た。
それは、まるで幽霊が煙のように風に乗って接近するかの如く揺らめいて―――


「ダァッ!!」

「フゥンッ!!」

接近し、踏み込みと共に突き出された槍。
両手でつかみ、思い切り、体重を乗せて。


《ax form》

だが、相手もまたそれを掴んでいた。
リュウタロスが飛び出し、キンタロスが飛び込む。

そして、相手が突っ込んできたタイミングでベルトにセタッチすれば変更可能だ。
あの一見むちゃくちゃだった銃弾も、キンタロスが飛び込むのを隠してくれるのに一役買っていた。

そう、つまりはこのための・・・・


「ちょっとクマちゃん!!いきなり来ないでよー!!」


ではなかったようだ。
だが、見事なカウンターである。

アックスフォームへとチェンジした電王は、槍を掴むと同時にその掌底をファウストの腹部にぶち込んでいた。


ヨロリ、と身体が後ろにぐらつくファウスト。
これを好機とばかりに、デンガッシャーアックスを握り、振り上げる電王。

しかし、ファウストがこれだけで終わるわけもなく


「ハァッ!!」

ドォンっ!!と、凄まじい風がファウストを包んだ。

一体何が起こったというのか。
風に弾き飛ばされる電王だが、良太郎はこの光景を見たことがあった。


「まさか――――!!」

「開・・・翼・・・!!」

バサァッ!!と、翻された翼が、ファウストを包む風の幕を払い飛ばした。
その場にいたのは、見紛うことなく銀白の翼。


蒔風舜へと変身したファウストが、その手に水の塊を浮かべてニヤリと笑った。


「まず」

「圧水砲!!」

電王が身体をこわばらせるよりもさらに早く、蒔風の放った圧水砲が胸を打った。
到底水とは思えない、鉄球か何かが叩き込まれたかのような衝撃が胸を打ち、電王のフォームの中でも随一の耐久力を持つアックスフォームが吹き飛んだ。


「グゥ・・・・!!」

『キンタロス!!大丈夫!!?』

「ああ、心配あらへん・・・しかし、まるで蒔風やな!!」

「はっ、さっきも言ったろキンタロス。俺は蒔風だっての。まるでとかそっくりとかそういうんじゃないの!!」


ドパン!!と、さらに追撃をはなってくる蒔風。
電王の姿が水流に呑まれ、水煙に見えなくなる。

が、直後にその中から黄金の斧が飛び出して来た。
ブン投げられました、と言わんばかりの回転をしながら、それは蒔風へと一直線に伸び


「はっ!!」

ガキン!と、横に振るわれた「麒麟」の一太刀で弾かれてしまう。


「オイオイ、そいつまで使えんのかよ」

『ますます舜だね・・・』

水煙が晴れた先。
そこにいたのは、斧を投げた姿勢のキンタロスと、武器を構えた電王ソードフォーム。

しかし、斧を投げつけることができたとはいえ、隣のキンタロスは肩で息をして体力の消耗が激しい。
それはつまり、良太郎の体力もかなり限界に近付いているということだ。


イマジン憑依による電王のフォームチェンジの戦闘。
それに慣れてきた彼らは、その疲労ダメージをイマジンが引き受けて離脱するまでできるようにはなっていた。

だが、それにも限度はある。

事実、これ以上のダメージは戦闘続行不可能になることを、モモタロスも良太郎も悟っていた。



「じゃあ冷静に攻めてくるかって?いやいや、お前に限ってそれはないよな?モモタロス」

「おう。わかってんじゃねーか。いいか?俺は最初から最後まで、徹底的にクライマックスだ!!」


そう言って、蒔風へと突っ込んでいく電王。
それに対し、圧水砲で迎撃する蒔風。

しかしこともあろうに電王は、真っ向から圧水砲に剣を振り上げ


「ッオラァッ!!」

それをぶった切って、突っ込んできたではないか。


「うっそマジかよ!?」

「驚いてる暇ぁねぇぞ!!」

ブォン!と振るわれる剣を、蒔風はファウストへと姿を戻して回避する。


槍をトン、と肩にかけ「これはだめか」と肩をすくめる。


スクエア(アイツ)のときはこれだけで十分に仕留めたんだがな。さすがに手のうち知ってるやつ相手だとやりにくいか」

そう言って、ライダーパスを取り出すファウスト。
必殺技を繰り出そうと、ベルトにセタッチさせてフルチャージを発動させる。

それに対して電王もまた、フルチャージをして武器へとエネルギーを充填する。


と、そこでファウストが口を開く。

「さて、お前の必殺技はあれだ。その刃が飛び出して俺を切り裂くんだろ?」

「おう、自分のやられ方がよくわかってんじゃねーか」

電王、お前の技はよく知っている。
まるでそう言うかの如く、宣言をしてくるファウスト。

たいして、それがどうしたと豪語する電王。

それを踏まえて、ファウストは自身の武器を強く握りしめた。


「ハッ!!」

バシュウ!!と、ファウストの槍の先端が柄の部分から離脱した。
ブォンと振られて地面に切り込みを入れるが、そんなことをしなくてもわかっている。

――――リーチは、あっちの方が段違いで長い。


「お前と戦うのはもう少し後だと思ってたからな!!このタイミングってのはちとビビったが、問題はねぇ!!お前を倒して、その力を旦那のとこに持ってくぜ!!」

「良太郎!!」

『いくよ、モモタロス!!』


《《full charge》》



鳴動する、二人のフルチャージ。
エナジーが電光のように走り、各々の武器の先端へと向かっていく。


これで終わらせる。
その意思が、ありありと見て取れるほどの光がそこには蓄えられていた。



先に動いたのは、ファウストだった。

ブォン、と振られた槍が、真っ直ぐに電王へと向けられる。
そして、電王はまるでその槍に突き刺されに向かうかの如く突っ込んでいった。


「ハハッ!!何が行くよだ。お前らがいくら力を合わせたところで、強力な個にはかなわない!!力を合わせるだのなんだの言ったところで、十把一絡げのお前らじゃあの力にゃあ及ばねぇのさ!!」

『そんなことはない!!僕は、どんな敵にも負けなかった!!みんなが、モモタロスがいたから!!』

「おうよ良太郎!!見せてやろうぜ!!オレ達のクライマックス!!」


その言葉を最後に、ファウストの刃が電王へと迫った。
フルチャージされたエネルギーが電撃のように爆ぜ散り、まっすぐに突っ込んできたファウストの必殺技「ドリルホーンブラスト」がその胸に迫る。

その切っ先を、電王は刃の面で受けた。
ガバチィ!!と凄まじい音と閃光がして、電王の上半身がその光の中に消える。


が、ファウストはその手応えから感じ取っていた。

(やれてないな)

そう、電王はまだやられていない。
面で受けた瞬間に、左へとそらし、いなす。

だがその衝撃は尋常のものではない。
電王のもつデンガッシャーソードの赤い刀身が、その一撃で粉々に砕け散ってしまったほどに。





ここで明かすことになるが、ファウストの正体は「ゴートイマジン」である。
固有の能力は先にも述べた「変身」だが、それをは別にイマジンには時折、自身の姿のモチーフになった「童話」を元にした能力を得ることがある。


このゴートイマジンのモチーフとなったのは「三匹ヤギのがんがらどん」である。

主人公はがん、がら、どんという名の、三匹の山羊。
彼らは大中小、というような体の大きさの山羊たちだ。

渓谷にかかる橋を渡ろうとする小山羊を悪魔が食べてしまおうとするも、山羊は「後から来る山羊の方が大きくて食べごたえがある」と悪魔をやり過ごす。
次に来た山羊も同じことを言い、欲張った悪魔は大きな山羊を食べようと襲い掛かるも、橋から突き落とされて谷に真っ逆さま。

大きい山羊を食べたかった悪魔は、自身より強い山羊を相手にして負けてしまったのだ。
そして、三匹は無事に渓谷を超えましたとさ、という話。


この話から得た、ゴートイマジンの能力。
とどのつまり、こいつは「出会う度に強くなる」のだ。




よって、この必殺技の攻防の先に、電王へと軍配が上がることはない。

先の戦いで、見たところでは電王とファウストの必殺技は同程度の威力だった。
ならば、今回はファウストのほうが強くなっている、というのは当然のこと。

如何にフルチャージ同士のぶつかり合いとはいえ、電王のほうが不利なのは必然。


だが、良太郎は知ってか知らずかそれを乗り越えると言って駆けたのだ。
この男がそうする、といった以上は


「ああああぁァアアア!!」

必ず、それを実行する。
決して揺らがぬ、固い信念を持ってそれを実行するのだ。


とはいえ

相手の一撃を受け、何とか左に逸らして前進したものの、代償は大きい。
大きすぎる。

武器の刀身は砕けて使い物にならない。
しかも、そうまでして逸らしたにもかかわらず、その衝撃で体勢は大きく崩れた。

逸らしたとは言う物の、電王自身は弾かれたような感覚を味わっていた。
左側に逸らし、対して自身は反時計回りに回転し、左脚を踏み込んだ。

今の電王は、さらに右足を前へと踏み出している。
身体は右に傾き、それを支えるために右手は地面に付いた。


倒れ込みそうな姿勢だが、その傾きを利用して前に進んでいるようだ。
おそらくは二、三歩で体制は整うだろう。


もしかしたらその間にもう一度フルチャージを実行し、ライダーキックくらいはブチかませるかもしれない。

何度かの戦闘でこちらの方が強くなっているとはいえ、まともに一撃を喰らえばこちらの動きは封じられる。
そこから倒れるまで何度も喰らうか、メチャクチャにフルチャージしてとんでもない一撃をかまされる。

(確かに!!)

そして、仮面ライダーファウストは内心でそれを肯定する。
もしこのままであれば、あの男はその通りにし、モモタロスはこの俺を撃破できるだけのエネルギーを纏った蹴りをブチかますだろう。

そう、この時点での電王の勝利は普通ならまず動かない。


だが、この男がそんな冷静な思考をしているのには理由がある。




ファウストの放ったフルチャージ「ドリルホーンブラスト」は、確かに電王によって、その刀身を犠牲にしながらも逸らされた。

だが、決して地面に当たって止まったわけでもなければ、刀身を砕いた程度でそのエネルギーを使い果たしたわけではない。
少し軌道を逸らされただけで、放たれた槍の先端はまだ生きている。



ファウストの思考が、現実に追いつく。

目の前で、電王が一歩踏み出している。
槍を左に逸らし、回転。
左脚をつけ、さらに右足で踏みとどまるも、体勢はまだ崩れている。右手でなんとか支えている。


ファウストのよそうなら、ここから二、三歩でこちらに到達する。


(三歩・・・いや、二歩目で大きく、飛び出すように飛び出してくると見た!!)


そう見積もったファイストの手の中で、槍の柄がクンッと手前に引かれる。
電王の左後方、ファウストから見ると右前方方向で、向こうに向かって飛んでいた槍の先端がビクン!と一瞬で反転し、その切っ先を電王の背中に向けた。


電王の上体が起き上る。
地面に接地した右手が即座に動き、手首の力だけで崩れた上体を起き上がらせる。
同時に、次の足が前に出る。電王の左腿が上がる。


狙いを定めた槍の先端。
電王の背中に狙いを定め、折り返すように飛び出した。
ファウストに迫る電王の後を追うような形だ。


その電王は、上げた左ももが降り、足が地に付いたところ。
一歩だ。

次の一歩で電王は跳ね、一気に自分のもとへと飛び掛かってくる。
現に今、右足が動きながらその左手にはライダーパスを握っている。
踏み込みながら、前へ。


(大した奴だよまったく)

思考は一瞬。
そんなことを、ファウストは感じていた。
考えるまでもなく、そういった思考を抱いていた。


槍の先端は進む。
後を追うために多少は進ませるが、そこまでだ。

むしろ、このままのタイミングがいい。
自分に蹴りかかろうと、その右足を踏み込み飛び出したところを、ちょうどよく刃で背中から撃ち抜く。

ファウストの予想通りに、電王は右足を踏み出し、地面を蹴る。
槍の先端は、背中ギリギリまで到達している。



その後、左脚は地に付かず、右足はその全駆動力を駆使して身体を跳ねさせ、一瞬で決められたフルチャージの電工を纏ってファウストへと迫る。
だが残念。
その跳躍の直後にお前は背を貫かれて墜ちるのさ。



だが


「ゥおらぁ!!」

電王がとった行動は違った。

電王は右足を踏み出し、地面を蹴る。
槍の先端は、背中ギリギリまで到達している。

そこまではいい。

左脚は地に付かず、右足はその全駆動力を駆使して身体を跳ねさせた。

確かにそうだ。
今、そいつはその通りの行動をとって、ファウストに掴みかかろうと飛び出して来た。



モモタロス、のみが




「んだと!?」

「逃がさねぇぞヤギ野郎!!」



ファウストの予想通りに動いていたのは、モモタロスのみだった。

電王の身体から飛び出し実体化した彼は、そのままの姿でファウストへと飛び掛かっていった。

当然、装備も何もないのでフルチャージもくそもない。
ただ飛び掛かり、ファウストの両肩を正面から鷲掴みにしてくる。


そして、本体の良太郎はというと。


彼が蹴った方向は前ではなく右だった。
ほんのわずかな右。
それにより、電王の身体が左に向けられる。

しかも、モモタロスが抜けた彼の姿は、一瞬にしてライナーフォームへと変わっていた。
これこそが、誰のものでもない「良太郎」の電王の姿。


そして、右手には刃を失ったデンガッシャーソード。
左手には、まだライダーパスを握っている。

彼の前を、左から右へと進んでいく刃。
本来ならば自身を、そしてこのままならば、モモタロスの背を貫くであろうものだ。


それに向かって、電王はデンガッシャーの柄を伸ばす。
向かっていく刃の尻の部分に向かってだ。


デンガッシャーという武器は、組み替えることで様々な武器へと姿を変える。
そして、その結合性は無類。

ならばできる。
例え敵の武器の一部でも、この一瞬くらいなら自分のフリーエネルギーで拾って見せる――――!!!


「バカなお前」

「は、あばよ!!」

モモタロスがファウストに掴みかかったのは一瞬。
彼の役割は、彼をその場にとどめることと、目隠しだ。


フッ、と実体化を解き半透明となったモモタロス。
そしてそれを抜けて、自分が差し向けた刃と、それに仕込まれたエネルギーと共に仮面ライダー電王が突っ込み


「がフッ!!」


エネルギーを纏った刃が、ファウストの身体を貫いた。


仮面ライダーファウストは、幾度かの戦闘を以って電王を超えていた。
だがしかし、自身の力で貫かれたとあっては、こうなることは自明の理。

さらに

《full charge》

「ハァッ!!」

「ぎっ」


電王のフルチャージもそれに乗っかる。
突き刺したデンガッシャーソードを横に向け、電王が右へと刃を振るう。

そのころにはソードの刃は復活し、中心から右へとファウストの腹を掻っ捌く。
そして、反対に左側へとはファウストの槍の刃が引き裂いた。


ズバァッ!と装甲ごと身体を上下に分かたれ、ファウストの身体が爆発する。

その爆発を、剣を振るった勢いで背を向けて前に出た電王が背負うように立ち上がる。

「ぉおう」

爆風によろけながら。



「ったく、良太郎!!そこは最後までしっかり立ってろって!!」

「ご、ごめん・・・でも、勝ったよ」

「・・・おう!!」



仮面ライダーファウスト、撃破。
聞きたいことはいくつかあったが、これで無事に――――



「ダァッ!!!」

「な」

「に!?」


終わらない。


「終われねぇよなぁ!!もし俺が負け釣ってんなら、それ相応の仕事はしねえとよ!!!」

ファウストが、上半身だけで変身を解いた良太郎の身体を掴んでいた。

一体如何なる力を使っているのか。
下半身がないというのに、上体は何事もないように浮いている。


「がフッ!!」

とはいえ、もう最期であることは変わらないらしい。
つまり、これはこいつの最後の足掻き。

「たとえ負けるにしても、俺は最後まで仕事はこなすぜ!!旦那!!!」


変身していない良太郎は、こう言っては何だが、非力だ。
ファウスト―いや、もはや変身も解けかけゴートイマジンとなっている――が、良太郎をそこに停まっていたデンライナーに向かってブン投げた。

車内には突っ込んだものの、ギリギリでキンタロスが受け止めなければ大怪我になっていただろう。
その彼を心配し、モモタロスらも車内に乗り込む。


「おい大丈夫か良太郎!!!」

「な、なんとか・・・」


そんなやり取りをするが、ファウストはその隙にライダーパスを空に掲げた。

直後、クラシックのような音がして、時の列車「ファウストライナー」が姿を現した。
しかし、その姿も変身者の姿と同じように、消えかかっている。


そのファウストライナーが、強引にデンライナーと連結し、空へと昇っていく。
当然、デンライナーもそれに引きづられて空へ。

見ると、向かう先には穴が開いていた。
時の砂漠の空に開いた、時空の穴。


そこにファウストライナーが、消えかかっているとは思えないほどの馬力で一気にデンライナーを連れ去っていく。


「おい止めろ!!」

「物凄い力だよ!!」

「この~!止まれ!!止まらんかい!!」

デンライナーの操縦室では、イマジンたちがマシンデンバードのハンドルを強引に引くが、全く受け付けない。



空に消えていくデンライナー。
それが消えていった時空の穴が閉じると、今度はゴートイマジンが現実世界への扉を開けた。

その姿は変身していた久遠レイカや蒔風、その他何人もの姿に変わり続けている。
ライダーパスを握り締め、上半身だけになったその化物は、現実世界に向かってそれを投げ飛ばす。


直後

「へっ」

と、それだけ零して、ゴートイマジンは砂となって消えた。
砂は時の砂漠に混ざり、解け、すぐに判別がつかなくなってしまって消滅した。


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現実世界。
正確には、午前4時44分44秒。


電王が調査を始め、久遠レイカと病院で会った翌日の早朝。
まだ太陽は地上には出ておらず、ほんのりその光を空の向こうに感じさせる程度だ。


そんな時間に、小さなマンションの扉が開いた。
向こう側には不思議な光が見えたが、すぐに扉は閉まる。

その少しの間に、ポスンと、ライダーパスが地面に落ちた。



そしてそれを拾う老人。

「果てたか・・・」

それだけ呟き、ライダーパスを握り締める。
老人が再び手を開くと、そこには指輪が。

仮面ライダーファウストのマスクが取り付けられたそれを腰の袋に入れ、その場を立ち去る老人。


「九つは我が手に。あと、四」



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時空の穴に飛び込まさせられ、どこに向かっているのか。
ファウストライナーはすでに消え、デンライナーだけがここに残されている。

「とりあえず進んでますが・・・・」

オーナーの声も心なしか不安そうだ。

彼は進んでいる、とは言っているがそれも定かではない。
走行の際にいつも現れるレールがないのでは、確かに判別もつかないだろう。


操縦室では、電王に単独変身したモモタロスが何とかかじ取りをしていた。
無論、先に話した通り進んでいるのか、どこに向かっているのかも定かではないが。



そうして、短気なモモタロスの癇癪が切れるころ。
目の前に飛び込んできた者がいた。

そいつはデンライナーの顔に当たる部分にべしゃりと当たり、張り付いたのだ。


「おいおいおい!!マジかよ――――蒔風じゃねぇか!!」


それは、両手を縛られて目を瞑ったままの蒔風だった。

何事かと操縦席に入ってきた良太郎たちもそれを見て驚く。
何とか中に入れてやらないと。


だがそうする前に、デンライナーの正面が激しい光に包まれて視界が白に染まる。


どうやら、時空間の穴から出たらしい。
直後、ドスン!!という轟音と震動と共に、デンライナーが地面に落ちた。

上空から落ちたわけではないのが幸いだ。
地面に近い距離だったらしく、土を抉る程度で済んでいる。


脱出を喜ぶ間もなく、デンライナーから飛び降りる良太郎。
おそらく、蒔風はファウスト――ゴートイマジンに邪魔だと判断され、あの空間に捨てられていたのだろう。

出会えたのは偶然か。
とにかく弱っている。早く助けないと。


そう思って飛び降りた彼だが、直後に足が止まった。
見えた光景が、思わず彼の足を止めたのだ。



場所は「EARTH」。
その敷地内にデンライナーは滑り込むように落ちたらしい。

そして、目の前にはどういっていいかわからない現象が起こっていた。


直角三角形の定規。
そんな形に、ぼこぼこと山のようにせり上がる大地。

その頂点に立つライダーは、稲妻を背に立ち地上を見下ろしていた。
一人ではない。三人もいる。

稲妻も、竜巻を伴って激しく暴れ、大地は逆に稲妻のように逆巻き立っていた。


まるで天変地異。
それを従えるような三人のライダー。

それに対峙するのもまた、三人のライダーだ。


目の前で、最終決戦が起こっていた。



「いきなりクライマックス過ぎるよ・・・・」



これは、この物語の行く末。
彼らは、その場面まで一気に飛ばされてしまったていたのだった。





to be continued
 
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