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永遠の謎

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126部分:第八話 心の闇その十六


第八話 心の闇その十六

「気付かれぬ筈がない」
「しかしそれについて何も仰らない」
「それはどうしてなのでしょうか」
「あの人間性について何も」
「忌まれることはないのでしょうか」
「あの方は。気付いておられなくとも気付かれないふりをする」
 ビスマルクはそうしたこともわかっていたのだ。王と会ったのは確かに一度だけである。しかしその一度でだ。そこまで見抜いていたのだ。
 それでだ。王について語るのだった。
「そうした方なのだ」
「しかしそれではです」
「何の解決にもなりません」
「違うでしょうか、それは」
「それでは」
「そうだ」
 実際にだ。その通りだというのだった。
「あの方はワーグナーの人間性には何も仰ることはない」
「ワーグナーを止められるのはあの方だけであっても」
「それでもですか」
「一切止められない」
「そうなのですか」
「そうだ、止めるようなことはされない」
 決してというのである。
「とてもな」
「ではやはりこのままでは」
「あの方にとってよくない結果になる」
「そうなってしまうのではないでしょうか」
「そしてあの方は」
「周囲の誰かがそれに気付けば」
 ビスマルクは述べる。
「それで大きく違うが」
「あの方を理解される方」
「その方が」
「今ドイツには三人しかいない」
 ビスマルクは溜息と共に。悲しい響きの言葉を出した。
「私とオーストリア皇后、そして」
「他ならぬワーグナー」
「その三人だけですね」
「あの方の傍に。一人だけでいいのだ」
 ビスマルクはまた言った。
「あの方を理解し、支えられる者が」
「せめて一人だけで」
「それでいいと」
「そうなのですか
「ローエングリンがいれば」
 そしてだった。白鳥の騎士の名前も出した。
「あの騎士があの方の傍にいれば」
「あの騎士ですか」
「あの方に必要なのは」
「あのオペラの主人公ですか」
「そうだ、あの騎士なのだ」
 また言うビスマルクだった。
「あの方を理解し包み込んでくれる存在。あの方のお傍に」
「ですか」
「そうだと」
 周りもだ。ビスマルクの言葉を聞いて述べる。
 そしてそのうえでだ。ビスマルクはまた言うのであった。
「それではだ」
「はい、それでは」
「シュレスヴィヒ及びホルシュタインのことですね」
「手は次々と打つ」
 落ち着いた声でだ。彼は言うのだった。
「そしてそのうえでだ」
「オーストリアとですね」
「あの国と」
「そうだ、戦う」
 そのことをだ。絶対としているのだった。
「そしてそのうえでだ」
「勝ち取るのですね」
「ドイツ帝国を」
「その国を」
「その通りだ。だが私は血は好まない」
 それはというのだ。ビスマルクは戦争は求めていてもであった。
 
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