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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第173話「天巫女の真髄」

 
前書き
ジュエルシード全ての魔力は未だに全快していません。それなのに、一気に魅了を解除する事が出来ます。つまり、現時点で司はSSSランクなんて目じゃない魔力量を持っている事に……。
そして、そんな魔力量を満タンの状態から空にまで持って行った第5章の戦いェ……。
 

 






       =out side=







「……私は、解くべきだと思う」

 最初に意見を口にしたのはアリシアだった。
 そのために、全員の視線がアリシアに向く。

「え、えっと、私見なんだけど……魅了されてる皆は、やっぱり思考において制限されてる節があるんだ。皆も知ってる通り、神夜に対して盲信的になってるからだろうけど……。とにかく、その思考の制限のせいでこれからの事に支障が出るなら、多少のリスクは覚悟で解くべきだと思う」

 それは、霊術を鍛える名目の下、優輝達と深く関わってきたからこその意見。
 視野を広く持つように鍛えたため、すぐにそう言った意見に辿り着いた。

『その意見も一理ある……けど、それを加味してもこれ以上の混乱を避けたい。僕としては、この機会を逃したくないのもあって半々だな……』

「そうなんだよね……」

 対し、クロノとユーノは魅了を解く事による混乱を問題視していた。
 ただでさえ事後処理の真っ只中だというのに、さらに何かを起こすにはさすがにタイミングが悪いと思ったからだ。
 もちろん、魅了に関しては解くべきだとは思っているため、解けるならば解きたいという気持ちも強く、どうしても断じる事は出来なかった。

「わ、私も解くべきだと思う!」

「っ、びっくりした……」

 そこへ、なのはが立ち上がってそう言った。
 隣で考え込んでいたアリサは、突然のなのはの様子につい驚いていた。

「何年も魅了されたままなんて……そんなの、フェイトちゃん達が可哀想だよ!」

「……なのはの意見も尤もね。あたし達は比較的早めに解かれたけど、それだけ魅了されてる皆の異常さを目にしてるんだから……」

「普段は大差ないから、日常ではあまり気にしないけど、それでもね……」

 なのはの言葉に続くように、アリサとすずかも呟くように言う。

「……魅了ってのは、言い換えりゃ人の心を歪め、書き換える代物だ。……そんなの、人道的に許せるはずがねぇ。他人がやっているのを目の当たりにして思い知らされたぜ。……だからこそ、エアに頼んでナデポとかを封印したんだしな」

「そうですね。普段は大した影響がないとはいえ、魅了というのは明らかに人の心を歪めている。こうして、“大した影響がない”と思っていても、いつかは……」

 帝とリニスも魅了に対して改めて考えを述べ、言外に今すぐ解くべきだという。
 なお、帝の最後の一言は誰にも聞こえない程小さな呟きだった。





「……じゃあ、今すぐ解くという事でいいんだね?」

「まぁ、解くに越したことはないからね」

『だが、相応の混乱が生じるのも確実だ。……各々、フォローを頼むぞ?特に、神夜への対応をな。何を仕出かすかわからん。一応、こちらで全員を集めてみる。頼んだぞ』

 その後、否定的な意見がなかったため、あっさりと魅了を解く事に決まった。

「じゃあ、準備が終わったら教えてね。私は、ちょっと魔法のために気を落ち着けてくるから。少しでも魔力を回復させておきたいしね」

 そう言って司は席を立つ。
 これ以上部屋に留まる必要もないので、他の皆も次々と席を立って行った。







『……では、手筈通りに頼むぞ。手回しはしておいたから、僕はこれ以上は事後処理に専念するからな』

「『うん。ありがとうクロノ君』」

 数時間後、手筈が整った事が司に知らされ、魅了を解くために動き出す。

「じゃあ、皆。隠れててね」

「了解!いざとなれば拘束すればいいんだね?」

「うん。霊術なら、皆にバレる事はないから」

 現在、司がいるのはトレーニングルームだ。
 司以外にも、あの談話室にいた者のほとんどがここにいる。
 クロノは事後処理に専念し、リニスはそれを手伝うために席を外していた。

「クロノ君には私が皆を呼び出した事にしてるから、結界で隔離すると同時に魔法の行使。咄嗟に反応して逃げようとした人を、皆がすかさずバインドとかで拘束。いいね?」

「ああ」

「任せといて」

 簡単に作戦をおさらいし、準備は整う。

「……司?」

「あ、フェイトちゃん」

 皆が隠れて少しして、フェイトがやってくる。

「クロノに言われて来たけど……」

「フェイトちゃんが一番乗りだね。すぐに来てもらった所悪いけど、皆が揃うまで待っててね」

「……?」

 一体何の用なのだと、フェイトは首を傾げながらも了承した。

「(フェイト……騙して悪いけど、これもフェイトと皆のためなんだよ。……辛い目に遭うだろうけど、我慢してね……!)」

 疑う事もなく司の言う事に従うフェイトを見て、認識阻害で隠れているアリシアは申し訳なく思いながらも、その時が来るのを待った。





「……これで全員、かな」

 しばらく待ち、魅了されている人のほとんどが集まる。
 一部の局員は事後処理のために席を外せなかったが、フェイトたちと違って魅了を解く際の必要魔力も少ないため、後回しでいいと判断していた。

「……それで、こんな人数集めて一体何の用なんや?」

「用……って言っても、やる事自体にはあまり時間は掛けないよ」

 集まったメンバーに代表してはやてが司に疑問を投げかける。
 司はその疑問にはぐらかすようにして誤魔化す。

「(……神夜君はいない。クロノ君、上手く引き離してくれたんだね)」

 集まったメンバーに神夜が含まれていない事を内心安堵する司。
 神夜がいないのであれば、変に止められる事はないからだ。

「(でも、ザフィーラとリインちゃんは無理だったかぁ……仕方ないかな)」

 はやての護衛・家族としてついてきたザフィーラとリイン。
 二人は魅了とは無関係だが、引き離す理由がなかったらしく、ついてきていた。

「ただ、私の……天巫女の加護を、魔法を受けてもらいたいだけだよ」

「天巫女の……?一体、どんな……?」

「それにこんな大人数に大丈夫なんか?」

「うん。ジュエルシードがあるから。許可も取ってあるしね」

 嘘ではないが真実も言わずに誤魔化し続ける司。
 その言葉を疑わずに、ジュエルシードを取り出す司をただ眺めるフェイト達。

「じゃあ、始めるね……」

 ジュエルシード全てを取り出した司は、天巫女の装束を纏う。
 そして、その魔法を行使するための詠唱を始める。

〈天に祈りを捧げる巫女の願いを叶えたまえ……〉

「我、願うは汝らの清らかなる心。正常なる精神。何人にも侵させぬ、強靭なる加護を今ここに顕現させよ……!」

 いつもと違う、明らかに真剣な司の様子に、何人かが違和感を抱く。
 だが、まだ疑うというよりは、“何かがあった”程度に思うだけだった。

「汝らの歪められた心を、今こそ正常へ帰さん!!祈りの加護をここに!!」

   ―――“Ange lumtère(アンジュ・リュミエール)

 刹那、ジュエルシードと司が輝きに包まれる。
 司に対する違和感と、その輝きを見て、咄嗟に何人かが飛び退こうとするが……。

「ごめん、フェイト」

「っ、あ、アリシア!?」

「悪いけど、大人しく受けて。大丈夫、悪い事にはならないから」

 魅了による影響か、司の魔法に“嫌な予感”を覚えた内の一人、フェイトがアリシアの霊術によって避けようとした所を拘束される。
 同じように、他にも逃げようとした人が待機していたメンバーに捕まった。

「ど、どういうことなんや司ちゃん!」

「……どうもこうもないよ。ただ皆を元に戻す。それだけ」

「だから、大人しくして、ザフィーラ、リイン」

「っ……!」

「ぅ……」

 はやての困惑した叫びに、真顔で司は返答する。
 それに続けるように、奏がザフィーラとリインの動きを止めながら言う。

「っ、ザフィーラ!?なぜ、抵抗しないのだ!?」

「……悪いがシグナム、ただ謀ろうとしたならともかく、“元に戻す”のであれば、俺に止める理由はない」

 司の言葉に納得したザフィーラは奏の言葉に従い、大人しくする。
 それに驚いたシグナムは問い質し、ザフィーラは正直にそう答えた。

「……なんで、ザフィーラ……」

「……申し訳ありません、主よ。二度も主を守ろうとすらできない不忠、守護獣としての名が廃りましょう。……ですが、今回は主のため。どうかご容赦を……」

 裏切られたのかと、はやてが絶望したように言う。

「司!ザフィーラ!どういうことなんだよ!説明しろよ!」

「………」

「司は祈りの真っ最中。代わりに私が答えるわ」

 ヴィータが拘束に苛立ちながらも司達に問い、代わりに奏が応答する。

「……簡潔に言えば、魅了の解除。それだけよ」

「魅了……どういう、事なの?」

「フェイトちゃん、私たちはずっと魅了されてたんだよ。本人も掛けている自覚がないから、気づかない人はとことん気づかないみたいだけど……」

「言っておくけどなのは、あんたの家族やプレシアさんとかは普通に気付いていたわよ。多分、あたしの両親や鮫島もね……」

 拘束とそれに対する抵抗を繰り広げられる。
 当然であるが、拘束に全力を注いでも大人数を抑え続けるのは難しい。
 故に、限界は近かった。

「ちっ……あたしの拘束じゃ、長く保たないわ!」

「司さん、早く!」

「これで……終わり!」

〈祈祷顕現〉

 拘束が解けると同時に、司の魔法が発動しきる。
 光に包まれた皆の魅了が解かれていく。

「………ぇ……?」

 魅了が解かれた者達が最初に感じたのは、小さな“違和感”。
 だが、その違和感は今までの事を思い出すと同時に急激に膨れ上がっていく。

「何、これ……?」

 自分のようで、自分じゃない。
 自分の姿をした別人を見るかのように、今までの自分を思い出していく。

「うっ……!」

 自分が自分じゃないような違和感。
 それはまるで今まで自分が操られていたようなもので……。
 それを認識した瞬間、多くの者が吐き気を催した。

「アリシアちゃん!」

「オッケー!アリサ達は気をしっかり持ってね!」

   ―――“衝心波(しょうしんは)

 このままにしておくのは危険だと司は判断し、即座にアリシアに声を掛ける。
 すぐさまアリシアは自身の霊力を一気に使い、衝撃波を放つ。
 その衝撃波は物理的な干渉はせずに、意識に干渉する。

「……っ、ぁ……」

「……危ない所だった……」

「一歩遅ければ、発狂しかけていたね」

 アリシアの霊術により、魅了が解かれた者全員が気絶した。
 平常であれば、少し気を強く持つだけで普通に防げるはずだが、それだけ魅了が解けた際の影響によって精神が弱っていたのだろう。

「……それにしても、人手、減らしちゃったね」

「あっ……」

 気絶した面々を見て、ユーノがそう呟く。
 それを聞いて、司は“しまった”と落ち込む。

「……やっちゃった……」

「まぁ、暴れられるよりはマシかな……さて、この次が問題だよ司」

「……わかってるよ」

 ユーノの言葉にすぐに気を引き締める司。
 考えられるものは全て想定している。
 故に、次に何が起きてもいいように、司達は備えていた。

「誰か、念話してそうな人はいた?」

「……俺にはわからなかった……が、エアが感知してくれたぜ」

〈個人までは厳しかったですが、確実に念話が使われたかと〉

「了解。じゃあ、まずは皆を安静にさせないとね」

 拘束されても、念話は問題なく行われる。
 それによる“特定人物”への助力の要求を、司達は予測していた。
 そして、その予想通りに念話が行われていた事が分かり、すぐに対応する。

「司も休んでなよ。今のでまた魔力を使い果たしたでしょ?」

「……そうだね。帝君も一応下がった方がいいんじゃないかな?」

「……確かにターゲットにされそうだな。だけど、その時はその時だ」

 気絶させた全員を部屋の端の方に安置し、来るであろう人物に備える。
 司も魔力を使い果たしたため、気絶させた皆と一緒に休むことにした。

「なっ……なんだこれは!?」

「(来た……)」

「(問題は……)」

「(ここからどう収めるかだ!)」

 やってきた人物を見て、全員が気を引き締める。
 本番はここからだと、やってきた人物を見据える。

「っ、お前か帝!!」

「(やっぱ俺に矛先を向けてくるか!)」

 やってきたのは神夜。
 気絶しているフェイト達。その傍で魔力切れを起こしている司。
 それらを見た後、彼は真っ先に帝へと敵意の矛先を向けた。

「(ユーノとザフィーラは“原作キャラ”だからって理由で違うと判断したんだな。……で、あいつはいないから次点の俺が下手人だと思った訳か)」

 敵意を向けられる帝は、冷静に神夜が何を思って敵意を向けてくるから分析する。
 彼もまた優輝に鍛えられたため、その程度では動じなくなっていたのだ。

「お前が皆をやったのか!」

「どんな思考をしてそう判断したのか知らんが、まずは経緯を知ろうとしろよ。第一、こんな短時間でフェイトたちを倒せる程俺は強くなっちゃいねぇし」

 実際に違うのだから、決め付けられた帝は堪ったものじゃない。
 また、かつての自分も同じような決め付けをしていた事を思い出させられて、嫌な気分にさせられて帝は自然と言葉を鋭くなる。

「嘘をつくな!お前以外にやるような奴なんて……!」

「っつ……てめぇ……!」

 余計な事をさせないためか、神夜は帝に対してバインドを使う。
 その状態で問い詰められ、帝も動こうとして……。

「―――私だよ」

 司が、発言をする事でそれを止めた。

「……え?」

「やったのは私だって言ってるんだよ」

「気絶させた張本人は私だけどねー」

 とぼけた声を出す神夜に、もう一度言う司。
 続けるようにアリシアが気楽そうに言う。

「まぁ、ただ単に気絶させただけだし、その時倒れた衝撃以外は怪我はないはずだよ。そこは安心しなよー。……さて」

「“どういうことなのか?”とでも言いたげね」

 神夜にとっては信じられない言葉が発せられ、思考が追いつかない状態になる。
 アリシア達の後ろの方で、ザフィーラが気絶した皆を看ている事も頭に入らない程に、神夜は困惑していた。

「いきなり親しい人達が気絶していれば、立っている人を疑う気持ちも分からなくないわ。むしろ、余程冷静じゃないならそうするのが普通ね」

「でもね、神夜。……そもそもの原因は、神夜にあるんだよ」

 奏とアリシアが代表して神夜の前に立って説明を始める。
 なのはやアリサ達は、それを見守るように少し離れて見ていた。

「『司さんは魔力回復に努めて頂戴。後は私がやるわ』」

「『でも……ううん、無理は良くないか。任せるよ、奏ちゃん』」

 司ももう少し頑張ろうとするが、念話で奏によって止められる。
 “頼ってばかりは嫌だ”と意固地になるよりも、無理しない方がいいと司も判断し、素直に魔力回復のために引き下がる。

「私たちが……と言うより、司がやった事は、皆に掛かっていた“魅了”の解除。せっかくジュエルシードが手元にあるんだから、この機会にやるべきだと思って強行したんだよ。……まぁ、ちゃんとクロノには許可をもらったけどね」

「魅了解除による思考と記憶の混乱。それによって皆は困惑したわ。だから、アリシアが咄嗟に霊術で皆を気絶させた。……平静であれば、効かなかったはずよ」

 自分たちがやった一連の事を簡潔に説明する。
 要点のみとはいえ、わかりやすい説明なため、神夜もすぐに理解する。

「魅了だって!?一体、誰が……」

「……単刀直入に言うわ。織崎神夜、貴方よ」

「前から何人かが何度も言っていたよね?」

 誰が魅了をしたのか、神夜が聞く。
 それに呆れたように溜息を吐き、奏はあっさりと神夜が掛けたのだと言った。
 ちなみに、アリシアが補足した通り、今まで優輝やアリシアだけでなく、司や奏、アリサ、すずか、なのはなど、魅了を知る者は何度か間接的、または直接神夜に魅了の事を指摘していた。
 ……尤も、それらの指摘は全て“優輝が皆を騙している”(優輝の場合は“お前がやった”)などと見当違いな事を言って認めようとはしなかったが。

「それはあいつが勝手に言っている事だ!司達こそ、あいつに騙されて……!」

   ―――ガードスキル“Hand Sonic(ハンドソニック)

「しつこいわ」

「っ……!」

 そして今もまた、優輝のせいだと主張して認めようとしなかった。
 瞬間、奏が刃を突き付け、その主張を遮る。

「否が応でも認める事になるわ。魅了を解いたのは司さん。貴方が元凶だと言っている優輝さんは現在気絶して部屋で安静にしているの。……目が覚めた皆に話を聞いてみなさい。その時こそ現実を認めざるを得なくなるわ」

「かな、で……」

 有無を言わせず、奏は神夜に事実を突きつける。
 かつてを見せなかった殺意に似たその冷たい眼差しを受け、神夜は息を呑む。

「『帝、忘れていたけど、魔力を回復させる手段があったら司さんに使って。……魅了を解いても、魅了を防ぐ手段がないとダメだわ』」

「『っ、それもそうだな。ちょっと待ってろ、今探す』」

 それを尻目に、奏は帝に念話を使い、司の魔力を回復させるように促す。
 ジュエルシードの魔力が尽きたとはいえ、司の魔力だけなら回復させる手段を、帝は“王の財宝”の中に持っているからだ。

「『待って、皆に祈りの加護をするには、魔法でやるより霊力の方がいいよ。そっちの回復とかはできないかな?』」

「『霊力回復……霊力って生命力に通じてたよな?何かよさそうなのあるか……?』」

「『それなら、アリサとすずかに協力してもらった方が早いわ』」

 魔法ではなく霊術で天巫女の力を使った方がいいと、司が指摘する。
 それに応じて、帝は探す対象を変え、奏がアリサとすずかに霊力を分けてもらった方が、手間がかからないと念話で言う。
 その間、アリシアと奏は神夜の動きを見逃さないように注視していた。

「お、俺がやったって言うのかよ……奏も、アリシアも……皆!」

「そうだよ。私も奏も以前はかかってた」

「魅了されてなかったのは、この中だと司さんだけだわ。……帝は男だから除外ね」

 未だに信じられない様子の神夜に、淡々と二人は事実を告げる。
 “無自覚に魅了していた”。その事実に二人も怒りがない訳じゃない。
 そのため、今この場において、二人は後先考えない怒りが再燃していた。
 ……故に、ここまで無情に神夜にとっての残酷な真実を伝えていた。

「魅了されていた人が何を思うかわかる?……理不尽に対する怒りと憎悪、悲しみだよ。心を歪められ、気づかない内に魅了した人を好きなっていた。盲目的になっていた。……その事実に気づかされた時は、心が張り裂けそうだったよ」

「私に至っては、優輝さんの事を……恩人の事を忘れさせられていたわ。その恩義すら、貴方に対するものに改竄されていたわ」

 普段は寡黙な奏さえも、語気を強くする。

「「この理不尽、どうしてくれるの?」」

「っ、ぁ……」

 ここぞとばかりに捲し立てる。
 “心を歪めていた”と言う魅了による事実は、二人をそこまで怒らせたのだ。

「落ち着け、二人とも」

「っ、帝?」

「普段のお前ららしくねぇな。ま、自分の心を歪められてたんなら無理ねぇか」

 そこで、帝が二人の襟を掴んで勢いを止める。

「司の方はどうしたのさ?」

「一応、生命力を回復させる霊薬は渡しといたぜ。後はアリサとすずかが協力した方が効率がいい。俺は霊術はからっきしだしな」

「……そう。とりあえず、落ち着いたわ」

「……ホントか?」

 冷静を装う奏を見て、帝は本当なのか訝しむ。
 実際、落ち着きはしているが、さっきの様子から信じられないようだ。

「……司……?」

「……皆の心を守り給え……!」

   ―――“Wish come true(ウィッシュ・カム・トゥルー)

 司の名前が聞こえたため、神夜はふと司の方を見る。
 そこでは、司が霊力による魅了防止の加護を気絶している皆に掛けていた。

「一体、皆に何を……!」

「魅了を解いた所で、防ぐ手段がなけりゃ、意味がないだろ?そのための魔法……今回は霊術か?まぁ、天巫女の祈りによって、てめぇの魅了を防げるようにしたって訳」

「今更だけど、天巫女の力って滅茶苦茶便利だよね……」

「優輝さんも、そういった分野では頼りにしてたわ。……尤も、肝心な精神的な分野ではほとんどの人に頼らなかったけど」

 今更ながらのアリシアの感想に奏が便乗する。
 なお、その直後に肝心な分野は頼ってくれなかった事に、奏は若干落ち込んだ。

「……あー、奏も司も、優輝が倒れたにしてはやけに張り切ってると思ったら、そういう事かぁ……なんか、納得」

「………」

 その様子を見て、アリシアはなぜあそこまで二人が躍起になっていたのか悟る。
 奏はその際の呟きが聞こえたからか、恥ずかしそうに顔を逸らす。

「あいつマジで幸せモンだな……苛立ちより甘酸っぱさのがつえーや。……にしても、あー、なるほどなぁ……」

 奏が言った内容に、帝もどこか合点が行く。
 帝も、優輝が他人の能力の“便利さ”を頼る事はあっても、その人物そのものに頼るなんて事がなかったのを理解したのだ。

「非常に歯がゆい感じがするけども、今はこっちだな」

 しかし、今は後回しだと、帝は神夜へと視線を戻す。

「(……そういや、自覚無しの魅了ってどういう事だ?こいつの性格的にそんな能力を特典には望まないだろうし、前世から持ってたのか?)」

 ふと、そこで帝は疑問に思う。
 魅了の力は、一体どこから持ってきたものなのか、と。

「『おい、お前、前世でやけに異性に好かれていると思った事はなかったか?』」

「『……ある訳、ないだろう……』」

「(だよな……)」

 つい神夜のみに対する念話で聞いてしまう帝。
 まともな返答が返ってきた事に若干安堵しつつ、だからこその疑問を抱いた。

「(こいつの性格からして、今のに嘘はないだろう。第一、今まで散々認めまいとしてきたしな。……だとしたら、一体……?)」

 いつ、どういった経緯で魅了の力を付与されたのか。
 ……その疑問に、帝は辿り着いた。……辿り着いてしまった。

「ッ………!」

 それは、以前になのはと奏の天使の姿を見た帝だからこそ行き着いた“答え”。
 自覚もない状態で魅了してしまう程の存在など、帝はある存在しか知らない。
 すなわち、“神”であると。

「(こいつには、後で色々聞かねぇとな……)」

 確かめておきたい事が出てきたと、帝は思う。
 同時に、血の気が引くような、冷や汗を掻くような感覚に見舞われていた。
 “もしかすれば、もしかする”と、漠然と恐怖していた。

「っ……」

 アリシアや奏に感づかれないように、帝は深呼吸し、気を落ち着ける。
 今は目の前の事。それを意識して思考を切り替える。

「(……あいつとの特訓がなけりゃ、こんな冷静ではいられなかったな)」

 自身の成長を実感しながらも、帝は改めて神夜の様子を見る。
 念話した時点で感じ取っていたが、既に神夜は正気でなくなりかけていた。

「………」

「(……こいつは……)」

 だからこそ、帝はどうなるか予測出来た。
 また、アリシアと奏も神夜の様子に気付く。

「何……?」

「何か、呟いている……?」

 ぶつぶつと何かを呟く神夜。
 何を言っているか聞こえない程だったが、徐々に聞き取れるようになっていく。

「……そうだ。あいつだ。あいつが、俺を追い詰めるように仕組んだんだ。そうじゃないと……そうじゃないとおかしい。あいつが……あいつが……!」

「(認めざるを得ない状況で、それでもなお“認めようとしない”となれば、その者が行うのはただ一つ……)」

 血走った目で口走る神夜を見て、帝は何が起きているのか見当がつく。
 それは、まともな精神状態じゃない者が陥る、一種の錯乱状態。

「あいつが……あいつのせいだぁあああ!!」

「(すなわち、“思い込みによる認識改竄”だ……!)」

 息を荒くし、大声で神夜は叫ぶ。
 その声に司達も視線を向けてくる。

「あいつだ!全部あいつが仕組んだんだ!俺を追い詰めるために!陥れるために!」

「っ、世迷言を……!」

「また優輝君の事を悪く……!」

 神夜の言葉に奏と司が過剰に反応して、それを帝が止める。

「(一種の暴走状態。俺が踏み台だった時も何度かなった奴か?少なくとも、それに似た状態だな。なら、これを手っ取り早く止めるには……)」

「……帝?」

「ここは俺に任せてくれ。後、出来れば皆を運んで、クロノに一応伝えてくれ」

 帝が前に出て、そう宣言する。
 ただの暴走。故に奏達の手を煩わせる必要もない。
 そう判断して、帝が矢面に立った。

「(……暴れられない程に、ボコせばいい!)」

 かつての自分の暴走っぷりと重ねたからか、帝は決意を固めて正面に立つ。
 邪魔をすると認識した神夜は、真っ先に帝へと襲い掛かった。

     ギィイイイン!!

「ぐぅうっ……!」

「帝!!」

「早く行け!こいつの暴走程度、俺で十分だ!」

 デバイスのアロンダイトから繰り出された一撃を、帝はデバイスのエアで受け止める。
 力負けにより後退するが、何とかその一撃を受け止めてアリシア達に催促する。
 その言葉を聞いて、アリシア達は気絶した人達を運び出しに行った。

     ドドドドドッ!!

「さて……覚悟しろよ、誇大妄想野郎……!」

 “王の財宝”による射出を回避させることで間合いを確保し、帝は戦闘に身を投じた。













 
 

 
後書き
Ange lumtère(アンジュ・リュミエール)…“天使の光”。祈りの力を上げた司による浄化の魔法。精神異常を始めとしたあらゆる状態異常を解除できる。今回は精神異常に特化させたため、さらに効果は強力。

衝心波…意識に干渉する衝撃波を放つ霊術。干渉する事で対象を気絶させる事ができる。範囲を広げると効果が弱まるが、精神状態が不安定な場合はそれでも効く。


ようやく魅了関連解決。司達が取った手筈としては、全員の魅了を一気に解除し、念話などで駆けつけてきた神夜の無力化及び説得です。なお、その説得の手段は問わない模様。

最後の帝のセリフに“Megalomania”とルビを振りたい(Undertale脳)。あっちは“MegaloVania”だけど。
というか、途中から帝が主人公みたいになってる……(´・ω・`)
まぁ、第6章は主人公以外に焦点を当てまくるから仕方ないんですけどね。 
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