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永遠の謎

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124部分:第八話 心の闇その十四


第八話 心の闇その十四

「あの方もまた王の御心をわかっておられるのだが」
「しかしあの方は旅を続けられています」
「それでは」
「このままでは不幸な結末になる」
 憂慮も見せるビスマルクだった。
「願わくば祝福を」
「神の」
「それの」
「それを願う。私がこう願うのは」
 ここでさらに語るのだった。
「プロイセン王、そしてこの国と」
「あの方」
「それだけですか」
「そうだ。あの方には幸せを願う」
 リップサービスではなかった。その証に王は今ここにはいない。それで辛辣な人間評で知られる彼がそんなことを言う筈がなかった。
「まことにな」
「では我等にできることがあれば」
「できるだけ」
「したいものだな。本当にだ」
 また言うビスマルクだった。
「あの方は。後世にまで残るドイツの宝なのだから」
「宝ですか」
「まさにそれだと」
「それを今わかる者は僅かだ」
「今はですか」
「僅かですか」
「そうだ、僅かだ」
 こう周りに言うのであった。
「愚か者は経験に学ぶ」
「ですがそれができる者もです」
「少ないですが」
 その経験に学ぶ者ですらというのだ。実際にその通りである。人は中々学ぶことができない部分がある。だから経験ですらなのだ。
「それができぬ者は」
「一体」
「取るに足らない輩だ」
 ビスマルクの持ち前の辛辣な人物評が出た。
「そうした輩はな」
「左様ですか」
「所詮は」
「そうだ、だが」
 このことを話してからだ。ビスマルクは本題に入った。
「賢者は歴史に学ぶ」
「それにですか」
「歴史に」
「そうだ、それに学ぶ」
 他ならぬだ。その歴史にだというのだ。
「このドイツの統一も同じだ」
「歴史に学びですか」
「そのうえで」
「ドイツ帝国は神聖ローマ帝国の次の帝国なのだ」
 かつてドイツにあったその国だというのである。千年に渡って存在した。しかしその国はナポレオンによって解体されているのである。
「だが。完全な神聖ローマ帝国ではない」
「後継であり別である」
「そうした帝国ですね」
「中央の権限はさらに強い」
 まずはそれを言う。
「多くの君主達がその中にいるが中央は強くなる」
「そして軍もですね」
「それもまた」
「そうだ、中央集権国家なのだ」
 それこそがだ。ビスマルクの目指すドイツ帝国だった。中に多くの君主を内包していてもだ。それでも中央と軍は強いというのだ。
「かつての神聖ローマ帝国の失敗は犯さぬ」
「だからですか」
「生まれる新たなドイツは」
「それが歴史に学ぶということだ」
 こう話すのだった。
「そしてだ。あの方だが」
「バイエルン王は」
「どうなのでしょうか」
「歴史においてああした方はいないだろう」
 ビスマルクですらだ。知らないというのだ。
 
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