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ソードアート・オンライン~遊戯黙示録~

作者:マローン
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FILE69 始まりの日・マオ編

 
前書き
今回はマオの視点でゲーム初期の頃の話です。 

 
西暦2022年11月6日。世界初のVRMMORPGゲーム、ソードアート・オンラインの世界に私はフルダイブした。僅か1000人しか当選しなかったベータテストにはあっさりと落選した私だったけど。
初期生産ロット10000本の正式サービス版は何とか購入する事に成功し、私は正式サービスの開始と同時にナーブギアを頭に装着し、『リンクスタート』の発して、瞬く間に電脳世界を始めて体験する事になった。そして――この時はこれが、長い、長い、命を掛けたデスゲームになるなんて思ってもみなかった。

ソードアート・オンラインの世界はまさに私にとって楽園だった。現実(リアル)では同年代の女子に比べて背が高くて、骨太で、おまけに顔はソバカスが目立ってて、外見で貶される事が多かった私にとって、この世界では自分の分身となるアバターを自分の手で一から設計して、自分好みの、自分があこがれている姿になる事が出来ただけでも、やってみて良かったと、フルダイブした直後から心の底からそう思った。

早速私はこのゲームの世界での真骨頂である、剣を手に自分の身体を動かして戦う戦闘をやってみる為に、はじまりの街の外に出て、何体も出現する弱小モンスターのブレンジー・ボアと一対一で戦ってみたのだったけど―――

私「うわっ……てあぁっ……わあぁあっ!」

自分でも呆れるくらいの情けない掛け声を上げて、私が振り回したスモールソードは空振り、直後に巨体の青いイノシシ型Mobのブレンジー・ボアの突進を受けて私は吹っ飛ばされた。

私「ったた、ソードスキルって難しいわね~……初動もモーションが重要らしいけどどうすりゃ良いってのよぉ~」

誰に愚痴るわけでもなく、そんな独り言を呟いていた私にこの世界で初めて話しかけてきたのは、スラッとした長身で、如何にも大人の男の人と言った色気を出している髪の長いお兄さんだった。

「良かったら、僕にアドバイスさせてくれないか?ベータテスト出身だから、初歩的な戦い方とか、第一層に出現するモンスターの事なら熟知してるつもりなんだ」

そのお兄さんは、華やかな外見に似合った気品あふれる笑顔でそう優しく申し出てくれたのだった。この顔は私のアバターと同じで、あくまで自作して作られた姿に過ぎないと頭では分かっていても、思わず目を奪われてしまうほどに凛々しかった。

私「そ、それじゃあ……よろしくお願いします!」

コペル「はは、そんなに畏まらなくても良いよ。僕はコペル、よろしくね」

私「あ、私はマオ、色々迷惑かけちゃうかもしれないけど、レクチャーよろしくねコペル」

そして、私はコペルと名乗ったお兄さんからソードスキルの基礎を教わった。コペルはベータテスターとだけあって既にブレンジー・ボア程度のMobは相手にならない様子で、私が一体倒すのに苦労している、青いイノシシを、短時間で何体もスラスラと倒していく姿は圧巻の一言だった。

もっと彼から色んなことを教わって、早く強くなりたい―――私がそんな事を思っていた矢先、鐘のような大きな音が鳴ったかと思うと、私もコペルも、それどころかSAOの全てのプレイヤーがはじまりの街の広場に強制転移させられていた。

サービス初日から何かのイベントでも始まるのかと思っていた私だったが、プレイヤー達の前に姿を現した顔の無い巨大なローブ姿の謎のアバターはSAOとナーヴギア開発の第一人者である茅場晶彦を名乗った。
そして、1万人のプレイヤーはこのゲームから自発的にログアウトする事が出来ないばかりが、ゲームの中でHPを失う、或いは現実世界で誰かがナーヴギアを無理矢理抜いた場合、その瞬間に私達の脳はナーヴギアによって焼き尽くされる―――すなわち現実世界においても死んでしまう事を告げられた。
更に、一通りのチュートリアルの後に配られた鏡によって、私たちの姿はゲーム開始前に自作した、理想的な姿のアバターの姿から現実世界の―――長身で骨太で顔のソバカスが目立つ、自分でも10秒以上は見ていたくない姿へと戻ってしまった。
強制転移後も私の隣にいてくれたコペルも、凛々しい大人の男の人の姿から一転して、私と同年代くらいの、何処にでもいる男子学生の姿になっていた。

現実世界なんてつまらない事ばかり、嫌な事の方がずっと多いと思っていた私にとって、ソードアート・オンラインの世界は理想郷のはずだったのに……理想郷は一転して死と隣り合わせのデスゲームの舞台と化し、私はそこに囚われてしまったのだった。
絶望に押しつぶされそうになった私が真っ先に縋ったのはコペルだった、姿こそ中学生化高校生くらいの男の子になってしまったけど、ベータテスト時代に培った経験で私をレクチャーしてくれた彼は、第一層のモンスターの事は熟知していると自ら言っていた。
そんな彼がそばにいれば、この世界を生き残れるはず!そう思い、私は彼の名を呼びながら顔を上げた。

私「コペル、これからどうすれば――――い、良いの?」

だが、ほんの数分前まで確かに隣にいたはずのコペルの姿は何処にもいなかった。一万人ものプレイヤーが一箇所に集まってるもんだから、見失ってしまったんじゃないかと私は思い、周囲を見渡してみたけどコペルの姿は何処にも見当たらなかった。

私「コ、コペル……どこ、何処にいるの?私は、マオはここだよ!聞こえたら返事をしてぇ―――!!」

私は半狂乱気味になりながら、コペルの名前を呼びながら叫んだ。既に周辺は、唐突に訪れた異常事態、非日常に怯え、慌てふためく人たちの叫びや怒りの声が飛び交う状態になっていた

「全員、静かにせぇい!聞くんや、皆!この状況で生き残るんには、奴らが、ベータテスターからのアドバイスが重要や!」

そんな中、姿は見えないけど、関西弁で喋る男性の濁声が周辺のプレイヤー達に向けて、ベータテスター達からのアドバイスを求める意見を口にしていた。

「よぉ、考えてみーや!1万人中の千人がベータテスターなんやで、こぉん中にもぎょうさんおるはずなんや、ベータテスト時代に第一層で危険な場所とか、受けた方ええクエストとか、モンスターの戦い方とかぎょーさん知っとって詳しいベータテスターがおるはずやろ!?」

「そうよ!ベータテスターの人達から、まずは第一層で特に覚えておいた方が良いことを教えてもらいましょう!そうすれば生き残る可能性が高くなるわ!」

「それだよ!ベータテスター一人当たり、9人の一般プレイヤーの面倒を見てくれれば、それで第一層での生存率はぐっと上がるんだ!」

そうだ、関西弁の人が言ったように、ベータテスターの人達の力を経験や知識を、私達みたいな一般プレイヤーに分け与えて、常にベータテスターの人達が傍にいてくれればそれだけで危険度は大幅に下がるはず、だから私は直ぐにコペルを見つけないといけないのに、コペルが全然見つからない!

「自分がベータテスターやっちゅうモンは手ぇ挙げて名乗り出てくれや!アンタらが第一層の美味い狩場やら、クエストを教えて、ワイらに付いてくれれば、生き残れる確率があがるんや!」

関西弁の男性の声が、ベータテスターの人達に手を上げて名乗り出るように言い聞かせていた。この中にコペルがいるはずだから、コペルが手を上げて声を上げたら、私は真っ先にそこに向かおう―――だけど、どれだけ待ってもコペルの声が聞こえてくることはないばかりか、誰一人として手を上げる人は皆無だった。

これだけのプレイヤーが集まってるんだから必ずベータテスターはいるはずだと言うのに、10人に一人がベータテスターのはずだと言うのに、誰一人として名乗り出る人はいなかった。

「な、なんでだ?こんだけ大勢いるんだからいるはずだベータテスターが!何の何で誰も名乗り出ねーんだよ!?」

「お願いだから、早く名乗り出てよ!今は貴方達の助けが必要な時なのよ!」

「クソったれ!どーなっとんねん!あり得へん……こんだけぎょうさんのプレイヤーがおるっちゅーののにベータテスターが誰もおらんとかあり得へんやろうが!一体、どーなっとんねん!!」

一向にベータテスターとして名乗り出る人が現れずに、次第に苛立ちと焦りが周囲を支配していく気がしていた。
そして、私もこの時、考えたくも無い悪い予感を感じていた。そして、それを確定させる言葉が次の瞬間、誰かも分からないプレイヤーが発したのだった。

「お、俺見たんだ……ベータテスター同士で組んでた奴らが……チ、チュートリアルが終わってすぐに、この騒ぎの中で、まるで見向きもしないで……はじまりの街の東門に向かって出てくのを、俺は見たんだ!!」

その叫び散らす言葉の直後、周辺一帯に寒気が迸り、一時的な沈黙が訪れていた。そして、それに追従するかのように、今頃になってそれに同調する意見があちらこちらから発せられるのだった。

「そ、そーいや俺も見たぜ!黒髪の小僧と、変なバンダナ付けた二人組がスグに人垣から抜け出て行ったのを!」

「も、もしかして―――ベータテスターの人達はもうほとんど、はじまりの街を出て行ったって事なの!?わ、私達を見捨てて!?」

私「―――――――!!」

女性の言葉の最後の部分は、私が絶対にそんなはずが無いと思い続けていた……そう思いたかった事を、真正面から否定する一言だった。

私「コペルが……私を見捨てたの?」

あれだけ親身に私に色々と教えてくれて、次々と青イノシシを倒して見せたコペルが……このソードアート・オンラインがデスゲームになった事を理解した途端に私を躊躇なく見捨てて一人で行ってしまったって事?

「嘘だろおい!ま、まだいるはずだよな……出て来いよベータテスター!俺達を見捨てる気かよ!?」

「どーしてなの?なんでなのよ!?なんで私たち一般プレイヤーを見捨てるのよ!?」

「なんやねん……なんやねんクソったれが!強いもんが弱いもんを導かへんと、この状況下を生き抜けるかいな!それともなんやぁ!自分らだけ生き残って、はよー強くなれたらそれでええって事かいな、クソビーター連中はぁ!?」

私は、いつの間にかベータテスター達に対する怒り、恨み、憎悪の声が飛び交うようになった広場を力の無い足取りで離れて、そのまま宿屋に向かった。
こんな大騒ぎの状況下でもNPC達は関係なく自分たちの役目を忠実に果たし続けていて、私がカウンターに来ると、律義に部屋を案内し、私はその一晩をそこで過ごす事になったわけだけど、その日は殆ど満足に寝る事が出来なかった。

そして、その宿屋の部屋に籠り続けて一週間が経過した、初期のコルも宿屋に一泊、一泊と泊っているうちに徐々に減り続けて、何れは私は宿代も食事代も払えなくなってしまう。
金銭的に息詰まるのが先か、外部からの助けが来るのが先か、そんな焦燥感を感じていた矢先にアイツらが……マスコットキャラクターを自称するガチャモンとモックが現れた。
ガチャモンは私たちプレイヤーの事を、ゴミと罵り、アインクラッドの最下層をゴキブリの這いずり回っているとまで罵倒、それに反発して石を投げつけたプレイヤーを呆気なく処刑し、私達は奴らに一切攻撃を食われる事が許されないのだと言う事を思い知らされた。

そして、その日も私は宿屋の部屋に籠り続けていた。

私「いつまで……何時までこんな事が続くのよ!もう一週間も経つのに、どうして外部からの助けは無いのよ!警察は?アーガスは?政府は何してるのよ!?」

一人きりの部屋で、当たり散らす相手もいない状況下で私は喚き散らしていた時だった。奴らは不躾に現れた。

ガチャモン「全くもぉ~、あんだけ色々と言って上げたってのにま~だ宿屋に引きこもりっぱなしの人が沢山いるなんて、日本の将来はどうなっちゃうんだろうね~?」

モック「あの~、マオさんでしたっけか?何度も聞いたと思いますが、このゲームからログアウトしたくば、やはりアインクラッドを第百層までクリアするしかありませんので、ここは心機一転してみてはいかがですかな!?」

姿を現した途端に私を見下し、冷笑するガチャモンと、気を使っているような素振りで、実際の所、私の反応を見て楽しんでいるのが丸わかりのモックに対して、私の怒りの矛先は当然奴らに向かった。

私「黙れぇぇぇ!!アンタ達、外部からログインしてる人間なんでしょ!?茅場晶彦と関係のある奴なんでしょう!?アンタ達が私をログアウトさせないから、こんな事になってるんじゃないのよぉ!!」

辛うじて、コイツ来向かって暴行を加える事だけは我慢できていたけど、それも何時まで辛抱できるか分からないほどに私は焦りを感じていた。
そして、ガチャモンはあっさりと私の焦りの理由を見抜いて、嘲笑うような声で語り掛けてくる。

ガチャモン「どっちにしろさ~、残りのコルが底をつかない内に、何とかして稼がなくちゃマズいんじゃないの~?モタモタしてると詰んじゃうよ?」

モック「ぐほほっ!いざ、狩りに出る決意を決めた矢先に、金銭難でポーションの一個も買えないなんて事になれば―――生存率激減のサバイバルになりかねませんですなぁ~」

私「――――――――!!」

それは私が懸念していた事だった。私の手持ちのコルはこの時点で一週間宿に泊まり続けて、減る一方で、今の手持ちでは装備を買う事もままならず、ポーションを数個買うのですら危うい状態にまで追い込まれてしまっていたのだった。 
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