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永遠の謎

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120部分:第八話 心の闇その十


第八話 心の闇その十

(ワーグナー氏だ)
(陛下をたばかっておられる)
(わかっていて)
(そして陛下も)
 王自身もだというのだ。王を見ながら思うのだった。
(わかっておられる)
(御存知でない筈がない)
(間違ってもだ)
(御承知だ)
 勘のいい王がそれを察しない筈がないというのだ。それも誰もがわかっていた。
 そのこともだ。巷で言われるのだった。
「陛下は何を考えておられるんだ?」
「全くだ。あの男は陛下をたばかっておられるんだぞ」
「陛下をたばかりビューロー夫人との関係を続けている」
「陛下は御存知の筈」
「それでどうしてだ」
「二人の関係を否定されるのだ」
「まさか」
 ここでだ。あらためて言われるのだった。
「陛下は」
「陛下は!?」
「というと」
「どう考えておられるんだ」
「御存知のうえであえて」
 王が知らない筈がないと。誰もがわかってのことだったのだ。
「ああしてワーグナーを傍に」
「あの男をか」
「そこまでワーグナーに入れ込んでおられるのだ」
 こう考えられていくのだった。
「どうやらな」
「それではこのままでは」
「陛下はワーグナーにたばかられたまま彼を傍に置くのか」
「全てがわかっていて」
「そのうえで」
 こう考えていくとだった。ミュンヘンの中にさらに不穏なものが宿っていった。
 それでだ。彼等はさらに話すのだった。
「やはり。これでは」
「あの男をミュンヘンに置いていては駄目だ」
「危険だ」
「バイエルンの財政問題だけではない」
 ワーグナーのその浪費だけではないと。彼等は思いだしていたのだ。
「陛下をたばかり何を続けるか」
「わかったものではないぞ」
「やはりあの男、このままでは」
「ミュンヘンに置いていては」
 王への忠誠も彼等をそちらに向かわせていた。彼等は確かに王を想っていた。しかしそれは決して王の望むところではなかった。
 だが彼等はそれに気付かずにだ。さらに言っていくのだった。
「ワーグナーはバイエルンにいてはならないぞ」
「絶対にな」
「駄目だ」
「何があっても」
 この流れをだ。政府も宮廷も見逃さなかった。それでだ。
 首相と男爵はだ。食事を摂りながら話していた。そこでだった。
 まずはだ。男爵が言うのだった。
「いい流れですな」
「そうですな」
 首相も満足した顔で男爵のその言葉に頷く。二人は今目玉焼きを乗せたハンバーグを食べている。ビスマルクの好物でもあるそれをだ。
「ワーグナー氏は焦ってマスコミへの攻撃をはじめているが」
「それもまた思う壺」
「このままいけば」
「彼はさらに追い詰められます」
「後はです」
 今度は首相から言った。
「彼が陛下の下に参上する時にです」
「仕掛けるのですね」
「そうします」
 フォークでハンバーグを切りながら話す男爵だった。
 
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