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ハルケギニアの電気工事

作者:東風
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第32話:肥料作りと農業改革!!(その1:説明編)

 
前書き
さらなる改革案の説明回です。
アルバート君の説明の長いこと。お父さんも聞いてて理解できているのでしょうか? 

 
 お早うございます。アルバートです。

 この度の皇帝行幸の目的である、南方旅行の報告(資材調達及び火石確保等)も皇帝にたいして無事に済ませる事ができ、さらに領内改革の状況や問題点なども全て話す事が出来ました。また、精霊達の紹介と合わせて上級精霊の紹介も出来ましたから、目的については完遂出来たと思います。
 その後は、皇帝一家も静かに湯治や食堂での昼食、夕食を楽しみ、父上や母上とも沢山話しをして満足して帰って行きました。僕も皇帝と話しをしたり、母上と一緒に姫様達と話しをしたりして結構楽しむ事が出来ました。

 皇帝一家が大満足で皇城へと帰り、平穏(?)な日々が戻ってきた訳ですが、皇帝が行幸(湯治?)に来ていた間も領内改革は予定通り進んでいて、現在全ての村や町に公衆トイレの設置が終わった段階です。この段階で『施設課』から『管理課』と『清掃課』所属の人を分けました。
 『管理課』には本来の仕事である屎尿回収を公衆トイレ設置の終わった順に実施して貰い、一時貯蔵場所に集めて発酵といった肥料作りの作業に掛かって貰いました。4人で牛に引かせた荷車を移動させながらの作業ですから、時間も掛かるでしょうが頑張って欲しいものです。
 『清掃課』には、村などに散乱しているゴミや動物等の死骸を集めて、村の外で焼却処分にするように指示を出してあります。但し、各家庭で発生した生ゴミはその他のゴミと分別して収集して貰い、一カ所に集めておくように指示しました。此方は発酵させて肥料にしたり、家畜の飼料にも使えますからね。使えるものはなんでも使いましょう。
 『施設課』には今後公衆トイレの補修作業等が発生しますが、まだ設置したばかりで出番がないので現在は領内の街道整備について検討させています。特に、首都『ヴィンドボナ』と、隣接するツェルプストー辺境伯の間は、色々な都合がありますから早めに整備したいと思います。来年にはキュルケも生まれる事でしょう。

 こういった業務を行って、領民の健康面や村内の衛生環境が良い方向に向かっている事が解るにつれて、領内各所から色々な要望や改善に関する陳情書などの書類がどんどん送られて来るようになりました。『事務局』では大分書類整理になれてきた局員が、総出で書類の確認作業を行って、その中から決裁の必要な書類が毎日大量に僕の机に運ばれてきます。
 『事務局』チーフで、今ではすっかり僕の秘書的な存在になったゾフィーさんは、2時間おき位に『部長室』に書類を抱えてきて、帰りに決裁のすんでいる書類を持って行きます。でも、さっぱり書類の量が減らない机の上を見て、疲れ気味の僕にいつも労いの言葉を掛けてくれます。もっとも、それで書類の量が減る事はないのですが。
 ゾフィーさんはとても気の付く有能な女性で、僕の所に来る書類は一度彼女の所でチェックされ、僕の所に来るまでに殆どのミスは直されて、その上、書類の優先順位も分けられていますから、僕は簡単な確認をしてサインするだけでいいようになっています。これは凄く助かります。それに、僕があんまり疲れているような時は、肩を揉んでくれたりと気を使ってくれるので嬉しいような、恥ずかしいような複雑な気持ちです。しかし、7歳で肩こり持ちで秘書さんに肩を揉んで貰っている図って、どうよと思いますが。

 『改革推進部』の食堂では、コックのモーリスさんが腕を振るって、ゲルマニア産の食材や近隣諸国で取れる食材ばかりか、僕がエルフの集落から貰ってきた魚や肉の干物やドライフルーツなども使って、素晴らしい料理を作ってくれています。料理の味は行幸に来ていた皇帝一家にも好評で、結局滞在期間中に昼食2回と夕食3回を食べていきました。特に食後のデザートは姫様達に大好評で、おかわりまでしていましたから、他人事ながら体重の心配をしてしまいます。母上も甘いもの大好き人間ですが、あの家系は太らない体質でも遺伝子に組み込まれているのでしょうか?
 家族持ちの局員は、家族寮が出来てすぐ、故郷の村や町から家族を呼んで一緒に暮らしていますが、家族の人達にも食堂の料理は人気らしく、良く家族揃って夕食を食べている光景が見られます。
 使われているエルフの食材は、2回の旅行でお土産に貰ってきた少量の魚や肉の干物しかありませんから、早急に保存方法を確立して鮮度の良い生の魚や肉類を輸送できるようにして、食堂で思いっきり使って貰おうと思います。出来れば刺身なんかも作れると嬉しいのですが、刺身にして美味しい魚って捕れるんでしょうか?前世の鯛や鮪、鮃なんかが捕れれば最高なのですが。

 あとは、新しい農作物を導入して栽培する事と、既存の農作物についてはこれから作られる肥料を普及すること及び品種改良していくことで、質の向上と栽培量の増加を図ります。それから飼料の改良と家畜の品種改良を行って、美味しい牛、豚、鶏の肉を供給できるようにします。また、酪農業を導入して牛乳の生産も行います。大量に牛乳を生産できれば、バターやチーズにヨーグルトといった乳製品も一般家庭で安価に購入できるようになり、良質のタンパク質を摂取する事が出来ますから、食卓も賑わうし健康にも良いはずです。それに夏場にアイスクリームなんか出来れば、みんなが喜ぶ事でしょう。勿論、イチゴやメロン味のシロップを作ってシャーベットやかき氷なんかも作りたいと思っています。
 ところで、タンパク質と言えば大豆などの植物性タンパク質が欲しいと思うのですが、ハルケギニアで納豆って食べて貰えるでしょうか?前世でも関西圏では食べる人が少なかったりする食べ物ですが、栄養価的には結構良いものだと思いますし、腸の働きを助けるナットウキナーゼなんか健康面では有効だと思います。その他大豆の加工食品では豆腐や味噌、しょうゆなども普及させたいので、今度タルブ村まで行って調査して麹なども確保したいと思います。頑張って味噌汁が飲めるようにしたいし、冬場の鍋物も絶対食べられるようにします。

「アルバート様。またボーっとして考え事ですか?」

 いつの間にかゾフィーさんが来ていて話しかけて来ます。時々改革の案を検討したりしていると、端からはボーとしているように見えるそうで注意されるのですよね。今回はかなり集中して考えていたようでゾフィーさんが来たのも解りませんでした。

「すみませんゾフィーさん。色々考える事があって集中しすぎました。所で何か有りましたか?」

「特に何かあった訳ではありません。お昼の時間ですので、みんなで食堂に行きますから、その事をお知らせしに来ただけです。余り根を詰めて考えずにアルバート様もお昼になさって下さいね。」

「ありがとう。もうそんな時間だったんだね。私もそうするよ。」

 今日はメアリーと約束していたので屋敷の方で昼食を取ります。昼食を取るのは大体『改革推進部』の食堂と屋敷の食堂とで半々位になっています。夕食は殆ど屋敷になりますが、これは父上への報告や情報交換などが必要なので、家族一緒にという意味も含めて屋敷で夕食というのが決まりみたいになっています。
 昼食後、一休みの時間を使って、今日考えていた事を父上に相談してみる事にしました。

「父上。今行っている領内の村や町の環境改善ですが、屎尿処理によって出来た肥料を農家に廻すだけではなく、家庭から出る残飯なども集めて、肥料や家畜の飼料にしようと思います。肥料の原料は出来るだけ多い方が良いと思いますから。」

「また、良く解らない事を言い始めたな。私ではちょっと判断できないことが多いから本当に困るんだよ。まあ、一番詳しいお前の思う通りにすると言い。ところで、農業改革と言っていたが、どういったことを行うつもりなんだ?」

「そうですね。私がこのゲルマニアの国内で普及させたい農法は輪栽式農業といいます。場所によっては(主に生前のイギリスなどでは)ノーフォーク農法とも呼ばれていますね。
 この農法の特徴は、農地を纏めて管理し、小麦等の冬季に栽培出来る穀類→カブ・てんさい等の春物→大麦・ライ麦等の夏季に栽培する穀類→クローバー等の地力を回復する性質を持つ牧草と、四季を通じて順番に耕作します。まあ、このように順番に廻して耕作することから輪裁式というのですが、この農法を行うことで根葉類やマメ科植物の作付が増加することになり、特にカブなどの栽培を導入することにより飼料不足が解決され、冬季に沢山の家畜を飼育ことが可能となります。その結果、家畜の堆肥と牧草による地力回復が期待でき、休耕地を無くすことができるのです。輪栽式農業導入により食料生産が増加すれば、領内の人口増加も見込め、また税収の増加も見込めますよ。」

「お前が言っている家畜とは、農家などで飼っている牛や豚や鶏などを指しているのだろうな。確かに冬場は餌が少ないので家畜を沢山飼うのは難しいが、そういったことが改善されるというのだな。」

「はい。食肉としての家畜は、飼料を変えるだけで肉の味や脂肪の付き具合なども変わります。美味しい肉が取れるように品種改良した家畜を『ヴィンドボナ』で宣伝して、皇城や有力貴族の所で使って貰えるようになれば、ブランドとして名前を覚えて貰えます。そうしてブランドによって肉の価値が変われば、生産する農家もより価格の高い質の良いものを作ろうと競争する事になります。
 鶏にしても飼料や飼い方で取れる卵の質や量なども変わってきますから、此方も競争を行わせる事が出来るでしょう。それぞれの農家が、より良いものを作っていく為にはこうしてモチベーションを上げることも必要だと思います。
 それから、食肉だけでなく、牛や山羊などを使った酪農も普及させたいと思います。」

「酪農とは初めて聞く言葉だが、どんな仕事なのだ?」

「酪農とは、牛や山羊などを牧場で多数飼育し、乳や乳製品を生産する為の畜産をいいますが、私は主に乳牛を使った畜産を考えています。美味しい乳を出す牛を品種改良して生み出し、繁殖させたいと思っています。
 乳牛を飼育するには冷涼な高地が向いているので、領内の山の方に牧場を作ります。そして、この牧場の経営は領の直轄とします。これは、飼育する乳牛の数が数百頭と多くなる為、領民の資金力では無理だと思うからです。牧場で数百頭の乳牛を放牧したり畜舎で飼育したりすることが目標となります。
 もっとも、乳牛1頭1頭から人の手で乳を搾らなければならないので、沢山の作業員を雇用する必要が有りますから、領民も充分な収入になると思います。牧場は年中無休で、1日2回朝と晩に搾乳を行うのが一般的ですが、それ以上の回数で搾乳する場合は作業員も増やして交代制なども考えないといけないでしょう。
 搾った生乳は牛乳缶と呼ばれる40リーブル位入る金属製容器を作って集めます。牛乳缶に集めた生乳は、生乳を冷やすための冷蔵タンクに集めて冷やして一時的に貯蔵し、その後、同じ敷地内に建設する予定の牛乳加工工場へ運んで飲むための牛乳やチーズなどの乳製品に加工します。
 乳牛は種付けして、出産後一定期間しか乳が出ないので、たとえ繁殖の必要が無くても、牝に定期的に種付けする必要が有ります。この方法もハルケギニアでは確立されていないので検討が必要です。
 乳牛に食べさせる飼料は牧草や飼料用とうもろこし等と穀類を中心とした配合飼料が使われます。牧草は乾燥させた乾草をサイロという乾草用の倉庫のようなものに入れて発酵させて与えます。緑色のままの牧草だけを食べさせると牛乳が青臭くなるので、これを無くすためにも乾草も食べさせなければなりません。それに牛乳にコクを出すためには、飼料にたんぱく質を多く含む大豆、米、麦、トウモロコシなどを混ぜる必要があります。こういった飼料も開発しないと行けません。
 いずれ、牛乳からアイスクリームという冷たいお菓子を作るための冷却設備や保存施設なども作ったり、牛乳を発酵させたヨーグルトなども作る事を考えています。」

「牛を使う事だけでも、色々な事が出来る物だな。牛の乳など飲んだ事が無いが、美味いのか?それにアイスクリームとかヨーグルトといった新しい言葉が出てきたが、それも食べものなのか?」

「牛の乳、牛乳は搾ったままを飲むと濃すぎてお腹を壊す人が多いと思いますから、適当に薄める必要が有ります。こうして調整した牛乳は、冷やしても温めても美味しいもので、料理にもよく使われます。ただ、冷たい牛乳を大量に飲むと、やっぱりお腹をこわす事があるので飲み慣れない人は注意が必要です。
 バターは食べ慣れている食材だと思いますが、作り方は、まず絞りたての牛乳を加熱殺菌した後、放置しておきます。そうすると牛乳の上に塊ができます。これがクリームといわれるものですが、これを取り出して激しく撹拌すると水分と分離されて乳脂肪分の塊が出来ます。これを取り出して、塩を加えて味を調えたものがバターとなります。パンに塗って食べたり料理に使ったりしますが、お菓子などを作る場合は塩を入れていない無塩バターの方が良いと思います。
 アイスクリームとヨーグルトも牛乳の加工商品です。
 アイスクリームはバターを作る途中で出来るクリームに砂糖などで甘く味付けして、ゆっくり撹拌しながら冷やして固めた食べ物です。冷たくて口に入れるととろける感じがとても美味しいものです。夏場の暑い時には最高だと思います。
 ヨーグルトは牛乳に乳酸菌を入れて発酵させて作る食品です。酸味がある為、苦手な人は砂糖で甘くしたりして食べますが、発酵させる事で乳酸菌が増えて、これがお腹の中で働いて、お腹の調子を良くしてくれるといった、身体に良い食べ物です。
 また、肉の繊維を分解する効果があるので、ヨーグルトに肉を一晩程度漬け込む事によって肉が非常に柔らかくなります。
 一般的に牛乳の加工品としてはチーズがありますが、牛乳には色々な使い道があって身体にも良いものですから、ぜひ普及させたいと思っています。」

「牛乳とはそんなに良いものだったのか?酪農では山羊の乳も使う事があるようだが、そちらも同じような物か?」

「山羊の乳は牛乳よりも栄養価が高いと言われています。ただ、牛乳よりもクセがあるのでちょっと飲みにくいと思います。ですから、まず牛乳を普及させて、その後、受け入れて貰えるようであれば山羊の乳も考えようかと思うのです。」

「なるほど。解った。他には何か有るか?」

「栽培したい植物で、まだ見つかっていないものがあるので、機会が有れば見つけに行きたいと思います。米という穀類を取る為の稲といわれる植物や大豆、小豆、そら豆等の豆類、大根やゴボウ等の根菜類など、欲しい植物が一杯あります。
 あとは、エルフの集落との交易のための中継点を作る事と、椰子の実やゴムの樹液の採集を定期的に行う為の作業員と、「リュウゼツラン」と「ケイアップル」の栽培の準備や実際に栽培を行う作業員の確保等ですね。南方という特殊環境で長期間の住込みで働く事になりますから、希望者が居るかどうか心配です。近くにいるのはエルフと幻獣位ですからかなり根性が必要になりますし、護衛する為の戦闘要員も必要になると思いますから。」

「確かに難しそうだな。少し時間が掛かりそうだが、出来る所から順番にやっていくしかないだろう。実施項目が多すぎるから、しっかりと計画を立てて焦らずに頑張りなさい。もちろん、途中報告は忘れないようにな。」

「解りました。」

 父上とも話しをして承認を貰いましたから、順番に進めていきましょう。これからはさらに人を使う事になると思いますから、時期を見て、また人集めをしないとならないでしょうね。
 今の『保健衛生局』の仕事が軌道に乗って、順調に進むようになってから考えればいいと思いますが、計画は形にしておかないといけませんから、結構忙しいと思います。
 街道整備についても『施設課』で検討中ですが、出来るだけ石畳で整備して、雨が降ってもぬかるんだりしないようにします。余り整備してしまうと、他国に攻め込まれた時に利用されてしまうので問題もあるのですが、それよりも自分たちで利用した時の利点を考えて、しっかりと整備しようと思います。
 後は馬車の足廻りと座席を、もう少し改良して振動を抑えるように出来れば、馬車での高速移動も出来るようになるでしょう。そのかわり馬の蹄には辛いかもしれませんから、蹄にはかせる靴のようなクッション材も開発してあげないといけませんね。
 まだまだ、研究が必要なものが一杯あって大変ですが、考えるのが楽しいって良い事ですよね? 
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