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緑の楽園

作者:どっぐす
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第二章
  第12話 初めてのお参り +登場人物紹介

 
前書き
【登場人物紹介】第一章終了時点

大森 陸 /主人公
主人公。ごく普通の大学四年生。

クロ /大森家の飼い犬
三歳の紀州犬。

カイル /孤児院の職員
金髪の少年。孤児院の出身で、十三歳ながらタフな肉体と高い能力を持つ。

イチジョウ /町長
主人公が最初にたどり着いた町の町長。初老の男性で、親切かつ有能。

==========

エイミー /孤児院の院生
十二歳。赤毛ショートの女の子で院生のお姉さん的存在。

エド /孤児院の院生
十歳。ぽっちゃりした男の子で、おぼっちゃまカットの黒髪。

カナ /孤児院の院生
九歳。長い黒髪の和風少女。

レン /孤児院の院生
十歳。黒髪短髪でスポーティな風貌だがインドア派。

ジメイ /孤児院の院生
十一歳。坊主丸顔の昭和男子。


 

 
 今、俺達は首都行きの乗合馬車の中である。

 地図には、首都はセドティアという聞いたこともない名前が付いている。やはりトウキョウではなかった。
 俺のいた日本でいえば、川崎市あたりの場所だ。

 こちらとしては、乗合馬車で行ける距離に首都があって助かる。だが、埼玉のあたりに引かれている北の国との国境線に対し、あまりにも近すぎることが気になった。
 突然大兵力で攻め込んでこられたら危ないのでは? と思ってしまう。
 まあ、余計なお世話か。

「いやあ、しかしなあ。あんなに泣かれるとは思わなかった。嬉しいけど、まいっちゃったな」
「……」

「用事が発生してすぐ戻るかもしれないし、元の日本に帰る方法が見つかったとしても一旦挨拶しに戻るだろうから、遅かれ早かれまた会えるのに。
 なのにみんなビービ―泣くんだからなあ。カイルの奴とか俺の服で鼻水拭くから、裾がカピカピになっちまったよ」

「……お前はさっきから誰に話しかけているのだ」
「ん? クロ、お前にだよ」
「そうか……。続けろ」

 うわ怖。
 しかし半年のあいだ孤児院で鍛えた俺のメンタルは、こんなことではくじけない。

「でも孤児院の院長も優しいよな。特別な措置として、俺の孤児院での籍は残しておいてくれるってさ。
 万が一、元の日本に帰る方法が存在しなかった場合は、院生としての復帰が許可されるらしいよ。ありがたいことだよ」

「そのような話をしていたのか」
「あ、そっか。お前にきちんと通訳をしていなかった。ごめんな」
「気にするな」

 クロは本当にどうでもよさそうな感じに言う。

「そういえば。ジメイにさ、首都に着いたらまず神社に行けって言われているんだけど。どうしようかな」

 ジメイからは、まずは神社でお参りをしたほうがよいと言われた。
 例によって「神託があったから」とのことなのだが、理由がそれだけなので、あまり気が進んでいない。
 クロは少し沈黙したのち、答えた。

「行くべきだ」
「お。珍しく意見を出したな。根拠は?」
「私が確認しておきたいからだ」

 ああ、そうか。
 クロそっくりな犬が祀られているのだった。

 あの町では、結局一度も神社に行かなかった。
 ジメイには一度お参りを、と言われていたが、結局その機会はないままだった。
 そこまで興味がなかったというのが最大の理由だ。
 俺は初詣には毎年行っていたが、神仏の類はまったく信じていない。俺のいた日本でよくあるパターンだ。

 だが、ここでクロ本人が行って確認したいのであれば、行くべきだろう。

「つまり、いい加減に確認させろやコラ、というわけだな」
「そうだ」

 あ、はい。

「さて、そろそろ首都に着くな……」



 ***



 神社は首都のやや北西。独立した小高い丘の上にあった。

「いい景色だな」

 鳥居の前にある展望台からは、この国の首都が一望できる。

 西から流れてくる大きな川と、その河口デルタに位置する城。
 城は川の水を利用している堀に囲まれている。そして、堀の内側には立派な石の城壁。

 城壁に囲まれたスペースには、俺が知るような和風の天守閣はない。
 城の中央に見えるのは、おそらく木造だが洋風であり、巨大な教会のような建物。
 外見はシンプルで城らしくはないが、厳かで、かつ悠揚たる姿だった。
 足元で広がる芝生の緑とのマッチングも見事だ。

 前にテレビ番組の世界遺産特集で見た、ヨーロッパ某国の平和教会を思わせる。
 美しい。
 芸術の心得がまったくない俺でも、そう思えた。

 そして、城を中心に広がる施設や住居。
 背の高い建物はないが、圧巻の景色だ。

「あー。いい気分だ」
「そうだな」
「お前も景色がキレイとか、そういう感情はあるのか」
「ある」

 犬は色が判別できないとか、近視で遠くは見えないとか、そのようなことを聞いたことがあったが。
 一応風景を評価することはできるようだ。

「さて、気分がいいうちにお参りするか。それが終わったら宿探しをしよう」
「わかった」

 俺達は鳥居をくぐった。



 ふむ……。

 鳥居の中の景色は、限りなく俺が知る神社に近いものだった。
 境内はとても広い。全体像がつかめないほどだ。
 首都にある神社ということもあり、お参りに来ているとおぼしき人や、散歩とおぼしき人が結構いる。

 そのまま歩いていると、予想はしていたが、路上で有名歌手がゲリラライブをおこなったような騒ぎになった。
 クロは知らない人達に次々に話しかけられ、両手を合わせて拝む人や、涙を流す人までいた。
 「いや、違いますから」と説明するのは大変だった。



 神社の奥まで着いた。本殿がある。
 そして本殿の横には、少し小ぶりの祠。

「――!」

 そこに置いてある、白い像。
 紀州犬だ……。

 毎日掃除されているのだろう。目だった汚れもなく、きれいな白色をしていた。
 これは騒ぎになるのもうなずける。確かにクロにそっくりだ。

 紀州犬は、この国には基本的にいないらしい。
 「基本的には」って何だよ? と聞いたときには思ったのだが。俺のいた日本の紀伊山地にあたる場所で、山奥にひっそり棲息しているという言い伝えがあるのだとか。

 もちろん言い伝えなので、実際に見た人はいないのだろう。
 それが現れたら騒ぎになるのは仕方がない。ツチノコが見つかるのと同じようなものだ。

「クロ、どうだ」
「………………」

 クロはその像をじっと見つめていた。
 俺が話しかけても、動く気配はない。

 ……少し、そっとしておいてあげるかな。

 そう思った。
 俺はすぐ横の本殿でお祈りでもしていよう。

 知識があいまいだが、二礼二拍一礼……だったかな?
 鈴を鳴らし、二回おじぎをして、二回柏手を打って、もう一回おじきをした。

 お願いの内容は、もちろんこれしかない。
 元の日本に帰る方法が、早く見つかりますように――。

 ……。

 …………ん?

 突然、視界が少し薄暗くなった。
 何だ?

「ぐああああああ!!」

 全身に雷が落ちたかのような衝撃が駆け抜けた。
 そして、激しい頭痛。
 俺はその場で倒れて、のたうちまわった。

「うっ……ふがぁ…………うあああ!!」

 頭が……割れそうだ…………。

「ぐ……あ…………」

 人が何人か駆け寄ってくる足音。
 叫び声が遠のきながら聞こえてくる。
 クロが、何か叫んでいる気がした。

 そして俺の意識は途絶えた。 
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