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戦国異伝供書

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第十話 朝倉攻めその六

「実にです」
「立てておるな」
「それがしが見ましても」
「そうであるな」
「それでもですか」
「公方様はどうも静かな方ではないな」
 ここでだ、信長もこう言った。義昭のその気質について。
「そして誇り高い方じゃ」
「公方様として天下を」
「意のままに治めたいと思っておられてな」
「殿があれこれ言われ天下を仕切られることを」
「望まれておらぬ様じゃ」
「そう言いますがもう」
 既にとだ、平手は信長に述べた。
「幕府は」
「もう何の力もない」
「左様ですな」
「応仁の乱からの戦国の世で幕府の力は完全になくなったわ」
「山城一国をかろうじて治めていましたが」
「先の公方様がな」
 松永と三好三兄弟に弑逆されてだ。
「今に至る」
「最早都の一角に留まるのみ」
「それではな」
「残っているだけで、です」
「精一杯じゃ」
「もうそうした有様だというのに」
「公方様はわかっておられぬ」 
 幕府の置かれた立場だとだ、信長は袖の中で腕を組み無念そうに述べた。
「そのことがな」
「そうしてですな」
「勝手をされては」
「困りますな」
「全くじゃ、これではな」
「我等としても」
「どうもな」
 これがと言うのだった。
「支えるにしても」
「支えるのがかえって危うくなりますな」
「御旗は勝手に動くものではない」
「朝廷の様にして欲しいですな」
「うむ。わしは朝廷についても同じじゃ」
「擁立するならば」
「全力でお支えする」
 信長はまた言った。
「銭も人も惜しみなく出して」
「そうしてですな」
「全力でお支えする」
「実際にそうしていますな」
「しかしじゃ」
「公方様については」
「ああしてじゃ」
 まさにと言うのだった。
「どうにもな」
「勝手ばかりされる様になった」
「しかもその勝手が過ぎて織田家を脅かしかねぬ」
「どうしたものか」
「前から思っておったことじゃが」
 ここでこうも言った信長だった。
「もう幕府の命運は尽きておるか」
「既に」
「応仁の乱の時でな」
「前の公方様弑逆の時ではなく」
「既に応仁の乱の時でな」
「実質山城一国だけになった時に」
「もうな」
 まさにこの時でというのだ。
「幕府は終わっておったか」
「では我等は」
「もうただ名前だけのな」
「そうしたものを支えている」
「しかも生半可に権威があって勝手に動く」
「頭だけはありますか」
「しかし身体はない、そうしたものをな」
 こう言うのだった。 
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