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ソードアート・オンライン~遊戯黙示録~

作者:マローン
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FILE57 蘇生アイテムの噂

西暦2023年12月。SAO開始から一年と一ヶ月。二度目のクリスマスを目前と控え、アインクラッド中ををある一つの噂話が駆け巡っていた。
一月ほど前から、各層のNPCが、こぞって同じクエストの情報を口にするようになっていた。

曰く、ヒイラギの月―――すなわち十二月二十四日夜二十四時ちょうど、どこかの森にあるモミの巨木の下に、背教者ニコラスなる伝説の怪物が出現する。

そして、もしそれを倒す事が出来れば、怪物が背中に担いだ大袋の中にたっぷりとつまった財宝が手に入るだろう―――。

普段であれば、迷宮区の踏破にしか興味の示さぬ攻略組の有力ギルドも、今回ばかりは色めき立っていた。財宝とやらが巨額のコルにせよ、レアアイテムにせよ。フロアボス攻略の大いなる助けになるのは明らかであったから出る。

ギルドMBTを率いるオズマも、当初はその噂に興味を示し、来たる12月24日に備えて、討伐の計画を考えていたのであった。――――だが、そんなオズマの興味をそぐようなNPCからの情報が広まったのは二週間ほど前であった!

ユッチ「オズマさぁ~ん。本当にクリスマスイベントのボス戦は中止しちゃうんっすか~?」

俺「ああ、止めだ止めだ。あんな噂を聞いたおかげで一気に胡散臭くなりやがった……」

そのNPC情報を知っても、尚も背教者ニコラス討伐を惜しむユッチに対して、俺はあくまで、討伐から手を引くと言う意見を変えずにそう言い放った。

レイナ「……私も、あの話は流石に信憑性に欠けると思う」

ユッチ「そんな、レイナさんまでぇ~。もっと夢を見たっていいじゃないっすかぁ~」

ユッチは未練がましさを感じさせる表情で、レイナの方を見ながら情けない声を上げるが、レイナは無表情のままユッチの方を向いて、容赦なく言い放つ。

レイナ「……私は、あの蘇生アイテムの噂に夢なんて感じない」

俺「全くだ、このデスゲームで過去に死んだプレイヤーを生き返らせるアイテムなんざ―――あるかそんな話!」

それは、NPC達の会話によってもたらされた情報だった。『ニコラスの大袋の中には、命尽きたものの魂を呼び戻す神器さえもが隠されている』。俺を含めて多くのプレイヤーは、それをがセネタとして見なし、それまでクリスマスイベントに興味を惹かれていた攻略ギルドの者達も、その噂を聞いたのを機に、俺と同様に手を引く者たちが後を絶たなくなっていた。

レイナ「……多分、SAOが大元の、普通のVRMMOとして開発されてた時に組み込まれていたNPCの台詞が、デスゲーム化した後もそのまま残ったと考えるのが妥当」

俺「だよな。そもそも本来のSAOは死んでも、デスペナルティを払ってはじまりの街から復活できる仕様だったんだ。そんでもって、噂の蘇生アイテムとか言うのは、そのデスペナルティを免除して復活させてくれるアイテムだったとかだな」

デスゲームと化したこのSAOでのデスペナルティは言うまでも無く、プレイヤー自身の命そのものだ。現実世界で死んでいる以上、ゲーム内で生き返らせることなどあり得ないのだが、ユッチはなおも食い下がるように一つの仮説?を口にしてきたのだった。

ユッチ「け、けどオズマさん……この世界で死んだら、その後実際にどうなるのかなんて、知ってる奴なんてここには一人もいないじゃないっすか!だから、もしかしたら―――」

俺「もしかしたら、実際にゲーム内で死んだら、現実世界で目覚めて、実は悪質なドッキリだったなんてオチか?」

ユッチ「そー、それっす!もしかしたらそんなこともあるんじゃないかと―――」

ユッチの考えそうなことは俺にも簡単に予想が付く。そして、それが見当はずれな考えである事も分かり切っていた。

俺「だったら、死んだ連中がそれを現実世界ですぐに知らせて、今頃は直ぐにプレイヤー全員のナーブギアを剥がしてSAOからみんな仲良くおさらばしてるはずだろ?」

ユッチ「そ、それは―――」



ユッチもオズマの的確な指摘に反論の言葉を見出す事は出来なかった!まさに八方塞がり!事実、死んだプレイヤーはその直後に現実世界で目覚めると言うのであれば、一年以上もの間、オズマ達生き残っているプレイヤー達が未だにアインクラッドの攻略に勤しんでいる事などあり得ぬ話!現実世界の者達がプレイヤー達の頭から強制的にナーヴギアを剥がさぬと言う事、それはすなわち―――ゲーム内で死んだ者たちが、現実世界でも実際に死んでいると言う事を示している他ならないのであった!! by立木ナレ



結局、ユッチはこの話を諦めたようで、トボトボと歩いて去って行ったのだった。だが、俺の元にまたしてもクリスマスイベントの話を持ち掛けられてきたのは、その僅か2日後だった。


※ ※ ※



俺「その依頼、達成できる見込み0としか思えねーんだよな……ミリオン」

ミリオン「そんなの、依頼してきた子だって分かった上での事よ。ただ、どうしても僅かな望みに賭けたいのかしらね?」

俺の前で椅子に腰かけながら話しているのは、同じMBTのギルドメンバーのミリオンだった。目が常に半開きで眠たそうにしている女性プレイヤーのミリオンは、ギルド内では主に行商や、他のギルドやプレイヤーからの依頼の仲介を担う存在だった。
そして、この日、ミリオンは俺の元にレイのクリスマスイベントで得られると噂される蘇生アイテムを代わりに入手するようにとの依頼を預かってきたのだった。

ミリオン「せめて、蘇生アイテムの真偽だけでも確かめたいそうよ。蘇生アイテムが本物だったら手に入れて自分の元に届ける事。やっぱりガセネタだったんなら、蘇生アイテムは諦めるそうで、結果がどっちになったとしても、報酬はちゃんと払うと向こうは言ってるわ」

レイナ「……報酬は何?」

肝心な報酬の話をレイナが問うと、ミリオンは半開き状態の目を少し大きく開いて、口元をニヤリとさせて、アイテムストレージからその依頼品として預かっているアイテムをオブジェクト化させた。

そのアイテムを見て俺は、目を一瞬疑ってしまった。

俺「回廊結晶……だと!?」

ミリオン「どう、やる気出たんじゃない?」

回廊結晶は集団を任意のポイントに移動させることができる唯一のアイテムだった。これは、1フロアを攻略する間に、攻略組全体で一つドロップするかどうかと言う超希少アイテムで、大手のギルドの殆どは最重要物資としてストックする程の代物だった。

俺「何者なんだ、その依頼人?」

ミリオン「単なるソロプレイヤーね。実力的には中層のプレイヤーとしてはハイレベルだけど――攻略組連中には及ばないってところだわ」

回廊結晶と言えば、攻略ギルドからして見ても、最重要アイテムだってのに、中層の、それもソロプレイヤーにとっちゃこの回廊結晶は途轍もない、途方もない価値の宝物だ。

俺「こいつを売り飛ばせば、かなりの金になって、高値の装備を買いそろえられるかもしれないって程なのに、それをみすみす手放してまで、何であんな胡散くさい蘇生アイテムが必要だと思ったんだろうな?」

レイナ「……どうするの?」

正直、俺にとってはかなり得な依頼だった。正直俺は、蘇生アイテムの噂何て信じちゃいないが、依頼人は蘇生アイテムがガセだったとしても、その事実を確かめるだけでも報酬をくれると言っている。回廊結晶と言う、結晶アイテムの中でもダントツで最高の値打ちを誇るアイテムを。

俺「んじゃ、俺にとってのクリスマスイベントのお宝は、いっその事その回廊結晶だと思って、引き受けてみるとするか」

ミリオン「分かったわ、依頼人に報告しに行くわね」

俺が依頼を引き受けることを了承すると、ミリオンは依頼人にメッセージを送信していた。俺がこの依頼を引き受けた事を知らせたのだろう。
ミリオンはそれだけ済ませると、行商に向かったのだった。



※ ※ ※


依頼を引き受けてから数日が経過していた。ここは現在のアインクラッド最前線である第49層よりも三階層下で、大アリのモンスター達が出現する洞穴だった。

そして、俺の目の前で大顎で襲い掛かってきた、二体の大型のアリモンスター二匹のHPを同時に0にしていた。

俺がつい先日習得した片手直剣のソードスキル『ヴォーパルストライク』は片手直剣スキルの熟練度が950に達した際に剣技リストに出現した新たな単発重攻撃ソードスキルだった。
技後の硬直時間がやや長いのがネックだが、それはパーティーメンバーとのスイッチで十分カバー可能で、刀身の倍以上のリーチと、高い威力はかなりの使い勝手だった。

俺が倒した大アリの抜け殻が四散するのを、横目で見ていると、すぐに後方に構えていた大型のアリモンスターに対してエルダが細剣ソードスキルの『スター・スプラッシュ』を発動していた。
中段3連突き、下段切り払い攻撃を往復、斜めに斬り上げ、上段2連突きの計8連撃を誇るこのソードスキルも、現在エルダが習得している細剣ソードスキルの中でも最強の技として使われていた。

僅かにHPを残している大アリはレイナが巨大な両手剣をすぐさま大胆に振り下ろして、止めを刺していた。

俺達が今、狩りをしているこの穴場は、現在知られている中では最も経験値稼ぎの効率が高い人気スポットだった。
周囲のガケに幾つも開いている巣穴から次々と湧き出す巨大なアリたちは攻撃力は高いがHPも防御力も低いと言う、典型的な攻撃一辺倒のモンスターで、敵の攻撃を上手く避け続ければ短時間で何体も倒す事が出来る。
前述通り人気スポットであるがゆえに、1パーティーにつき一時間までと言う協定が貼られている。

エルダ「オズマ君、後1分になったわよ」

俺「早いもんだな、そろそろ次のパーティーと交代しなくちゃな―――と言っても、ソロプレイヤーだがな」

俺は巨大アリ達を狩るのを順番待ちしているパーティーの行列を見て、次の自分の番を待っているソロプレイヤーを見て、そう呟いた。
決してソロ向きとは言い難い、この狩場にソロでたった一人並んでいるのは、攻略組でも一匹狼者の黒の剣士、キリトだった。

時間になり俺、レイナ、エルダは狩場から切り上げて、すぐに交替で狩場にやって来たキリトと入れ違いですれ違う。
お互いに軽く目を合わせた程度で特に会話は無く、そのままキリトはすぐさまソロでのアリ狩りに入っていた。

エルダ「嘲笑が嫌悪に変わった……わね」

俺「集団行動第一の最強ギルドの連中からは『最強馬鹿』とか『はぐれビーター』とか、すっかり笑者扱いだなアイツ」

このまえ、クライン率いる風林火山の連中と会った際に、リーダーのクラインから聞いた話に寄るよ、キリトもまた蘇生アイテムの噂に便乗し、背教者ニコラスを倒してそのアイテムを得る事を狙っているのだと言う。
しかも、その背教者ニコラスとの戦闘すら確実に自分自身が蘇生アイテムを手に入れる為に、ソロで挑むのだと言う。

アルゴ「やれやれ、全く無茶な事ばっかりしてるなアイツは~、絶対に早死にするタイプだナ」

俺「んでもって、相変わらず神出鬼没だなアインクラッド一の情報屋さんは」

どうせまた、隠匿スキルで身を隠していたのだろう。情報屋のアルゴは唐突に俺達の背後から姿を現した直後に、キリトの危険な戦いぶりを見て、他人事のような言い方をしたのだった。

アルゴ「にゃはは、これくらい出来なくちゃ情報屋は務まらないんだナ。それよりもオズ坊。ニコラスが出て来るっていう第35層の迷いの森のモミの巨木までのルートが記されたマッピングデータが手に入ったゼ」

俺「間に合ったか、仕事が速くて助かる」

背教者ニコラスが出現する第35層の迷いの森は、一つのエリアに踏み込んでから一分経つと東西南北の隣接エリアへの連結がランダムに入れ替わってしまう設定故に、俺はそこが最前線だった時は、脱出するのに散々苦労させられて、第35層のクリア後は一切あの場所には踏み入れていない、あまりいい思い出の無い場所だった。

アルゴ「さてと、もう一人の依頼人にも同じのを私に来たんだけどナ。丁度オズ坊達と入れ違いだったか。こりゃここで1時間待ちぼうけだな~」

そう言いながらアルゴはその場で床にぺたんと座り込んだ。

レイナ「……もう一人のマッピングデータを欲しがってる依頼人はキリトだったのね」

エルダ「12月24日当日は、彼と蘇生アイテムの奪い合いになるかもしれないわね」

俺「ま、そんな事になる事はまずないだろ。それ以前に、その噂の蘇生アイテムとやらで、過去に死んだプレイヤーを生き返らせられる可能性すら0なんだ」 
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