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83部分:第七話 二人の仲その八


第七話 二人の仲その八

「食堂で結構な」
「椎名もね」
「それでも食べる」
 クールに言う椎名だった。
「人間食べないと死ぬから」
「うん、じゃあ一緒に」
 月美は微笑んで応えた。そのうえで椎名のすぐ後ろにいる彼を見た。そしてそのうえで頬を少し赤らめさせてこう言ったのであった。
「陽太郎君、御願いします」
「あっ、言うのは俺なんだ」
「駄目ですか?」
「あっ、じゃあ俺でよかったら」
 陽太郎は戸惑った顔を赤くさせていた。目も見開かれ口も開けてしまっている。しかしすぐにその月美に言葉を返したのだった。
「二人で」
「待って」
 しかしすぐに椎名が言ってきた。
「二人じゃないから」
「あっ、そうか」
「私達がいるから」
「そうだよな。二人だったよな」
「おいおい、俺達を忘れるなよ」
「そうよ。親友なのに」
 狭山と津島が今度は彼に対して言ってみせた。
「ちゃんといるんだからな」
「忘れてもらったら困るわ」
「僕もいるよ」
 一番後ろから赤瀬の声もした。彼が持っているパンが一番多い。
「それじゃあ皆で」
「食べよう」
 最後に椎名が言った。こうして皆木陰に移りそこで円になってだ。皆で食べはじめた。
 その中でだ。月美は陽太郎の左隣にいた。そこでサンドイッチを食べながら言うのである。
「実はですね」
「実は?」
「このパン購買のパンじゃないんです」
 そのサンドイッチを食べながらの言葉だった。
「私が行く駅のすぐ傍にあるパン屋さんのパンなんです」
「そうなんだ、そのパンって」
「凄く美味しいんですよ」
 そしてまた話してきた。
「もう生地が最高で」
「えっ、そんなに美味いのかよ」
 それを聞いて声をあげたのは狭山だった。その声はうわずったものだ。
「そんなに美味いんだったら一回食ってみたいな」
「じゃあお一つ」
「ああ、それはいいから」
 月美がここでサンドイッチを一切れ差し出そうとしたがそれは断った。
「西堀さんが食べなよ」
「けれど今」
「自分で行って買って食うからさ」
 だからいいというのである。
「そんなに美味いんだったらさ」
「そうよね。それで西堀さんのお家って最寄の駅何処?」
 今度は津島が尋ねた。
「そのパン屋さんの場所知りたいんだけれど」
「ええと、確か」
「ああ、津島よ」
 にこりと笑って月美の問いに返した。
「津島青美っていうのよ」
「そうでしたね、津島さんでしたね」
「そうよ。宜しくね」
「津島っていえば」
「どうしたの?」
 月美から話を変えてきた。津島もそれに乗る。
「あれですよね。太宰治の本名と同じですよね」
「そういえばそうね」
 津島も太宰の本名は知っていた。それで月美の今の言葉にも頷けたのだ。太宰治というのはペンネームであるのだ。有名な話であるが。
「津島修治だったよね、本名は」
「はい、そうなんですよ」
「青森の大地主の家の人で」
 これも有名なことである。太宰は津軽の大地主の家に生まれそうして五男だった。この三つが太宰治の人生のかなりの部分を占めているのだ。
 
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