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戦国異伝供書

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第九話 天守その八

「ならばな」
「それぞれの家のことも考え」
「そしてですか」
「生きていけというのですか」
「そうじゃ、そうしていくのじゃ」
「殿、それがしはです」
 信長に頼んで何とか今川家の家老にしてもらった朝比奈が言ってきた。
「これまで通りです」
「麿に仕えてくれるか」
「はい、そうさせて頂きます」
「そうか、有り難い」
 氏真はその朝比奈に礼も述べた。
「ではな」
「これまで通り」
「しかし他の者達は自身の道を歩め」
 朝比奈以外にはこう言うのだった。
「そしてじゃ」
「天下の為にですか」
「働けと言われますか」
「左様じゃ」
 こう言ってだ、彼等に自分達がしたい様にせよと言った。そうしてその城主の座で満足するのだった。
 その話を聞いてだ、羽柴は言った。
「いや、今川殿もな」
「はい、かなりの方ですな」
「全くじゃ」
 秀長にもこう言った。
「わしはそう思った」
「それがしもです」
「桶狭間では捕まったが」
「それでもですな」
「出来た方であることはな」
 そのことはというのだ。
「間違いないな」
「全くです」
「あの方ならばな」
「これからも今川の家を」
「続けていかれる」
「左様ですな」
「思えばじゃ」
 羽柴はこうも言った。
「今川家は敗れたがな」
「そして領国も失われましたが」
「滅びるべきかというと」
「そこまで至りませぬな」
「治部殿はよく国を治めておられた」
 義元、彼もというのだ。
「そしてあの御仁もな」
「決して暗愚ではありませぬし」
「邪心のある方でもない」
「何でも徳川殿は」
「お主も聞いておるな」
「今川家におられる間随分よくしてもらったとか」
「あの方にもな」
「その様ですな」
 氏真は人質として今川家に来た家康に常に優しく接していたのだ、義元自身彼を自分と同じ師である雪斎につけて学ばせており雪斎も彼を大事に教えていた。
「かなり厚遇され」
「現に重臣にもなっておったし」
「よい風でしたし」
「戦国の世とはいえな」
「滅びるべきでない方、家はですな」
「やはり残るべきじゃ」
「だから殿も残されたのですな」
 信長、彼もというのだ。
「そうされましたな」
「うむ、そしてじゃ」
「今川家は大名として」
「これからも残っていくであろう」
「四位殿はその下で、ですな」
「万石取の家としてな」
 守護、つまり国持大名ではなくなったがというのだ。 
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