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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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13話:謁見と内々の話

 
前書き
・三点リーダー修正 2018/10/08 

 
宇宙歴753年 帝国歴444年 1月下旬
首都星オーディン ルントシュテット所有車内
ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット

俺たちは今、地上車で新無憂宮に向かっている。非公式とはいえ陛下に拝謁するので、父上も同乗している。個人的にはおばあ様にも来ていただきたかったが謁見自体が一つのステータスなので、基本は当主のみであり今回は俺が主役なので、当主の父上が付き添うというわけだ。

話は少し戻るが、グリンメルスハウゼン邸での話し合いを終えた後、ルントシュテット邸はいくつかの驚きに包まれた。両親やおばあ様からすると、まだ6歳の子供が手掛けたお酒が自分たちも気に入ったとはいえ、既に御用達としての取り扱いが確定しており、さらに後継者争いからは一歩引いているとはいえフリードリヒ殿下にご差配頂けることに驚きの声を上げていた。

レオの命名の経緯を話した際は、おばあ様は涙ぐんで喜んでくれた。あまりにべた褒めしてくるので少し照れ臭かったが、今となっては俺の一番の理解者だし、胴元でもあるわけだ。俺も嬉しかったし、期待に応えられてホッとした部分もあった。

まだ、仲間内での呼び名で、殿下と呼び合っている件は両親とおばあ様にはバレていない。
とは言え兄上たちには兄貴と叔父貴の正体は伝える事にした。反応は面白いくらい別れた。
堅物こと長兄ローベルトは恐れ多い事をなどと呟いていたが腹黒こと次兄コルネリアスは皇族とあだ名で呼び合う関係をむしろ楽しみにしている様子だった。
ここは、正式な場で会う際は長兄に。非公式な場で会う場合は次兄に同席をお願いする事にして適材適所を意図しようと思っている。

というのも、レオに関して後ろ盾を頼む以上、兄貴や叔父貴との面会は定期的に必要になる。ただ、ここでルントシュテット伯である父が前面に立つと、派閥を持っていなかった兄貴が、当家を軸に軍部に近い貴族たちを糾合して新しく派閥を作ろうとしていると取られかねない。
なので、縁ができたルントシュテット家の子弟と遊んでいると誤認させる意味も含めて、父上には一歩引いてもらう形で事業を展開していくつもりでいる。まあ要相談って所だろう。

そんなことを振り返っているうちに新無憂宮の後宮に近い裏口に到着した。今回の謁見はあくまで非公式なものなので謁見の間ではなく、後宮から近い応接室で行われることになっている。父上に続いて、先導する狐顔の男性についていくと、かなり豪奢な一室に案内された。

部屋に通される際に、なにやら胡散臭げな視線を狐顔から向けられた。門閥貴族の血縁だろうが、なんでこんな子供が非公式とは言え拝謁を?とでも考えているのだろう。非公式とは言え謁見を許したという事は陛下が称賛したい労いたいと考えているわけで、内心はどうであれ、それを客に気づかれる時点で、俺ならクビにするか配置換えだな。

しばらくすると、前触れがあり陛下が入室された。
父上を真似てひざまずいて控えていると、

「非公式の謁見じゃ。楽にしてよい。ルントシュテット伯、久しいな。レオンハルトの事は余も残念に思っておった。こうして話す機会が持てた事、嬉しく思っているぞ。」

「はっ!もったいなきお言葉。また非公式とは言え三男ザイトリッツに謁見を賜りましたこと、真に有り難く、恐悦至極に存じます。」

映画で見たようなやりとりが目の前で始まった。
しばらくおとなしくしていると、

「そちらに控えておるのが、良き物を作ったザイトリッツじゃな。苦しゅうない。発言を許そう。」

「はっ!若輩者ゆえ至らぬ点があるやもしれませぬがご無礼をお許しください。ルントシュテット伯が三男ザイトリッツでございます。」

「うむ。さすがルントシュテット家じゃ。しっかり養育しておるようじゃな。あのレオとやらの命名の経緯も聞いておる。家族思いの良き心根でもあろう。今から将来が楽しみじゃな。」

「は!陛下にそのようなお言葉を頂ければザイトリッツの励みになりましょう。真にありがとうございます。」

「はい、父上。若輩者ではございますが、このザイトリッツ陛下のお言葉に恥じぬよう、努めてまいります。」

父上は少し恐縮気味だったが、嬉しそうだ。陛下と爺様との関係はよくわからないが、知らない仲では無かったのだろう。すこしお疲れ気味の顔色だが笑顔だ。陛下が言葉を続ける。

「それとな、褒美の件でも話は聞いておる。レオに関しては承知しておるだろうが御用達とした。余も気に入っておるし、愛飲するつもりじゃ。
捕虜交換の件は、確かにルントシュテット家の名誉に関わる部分もあるが、帝国軍にも関わること。褒美とするには益が少なすぎるようにも思うのだ。もし他に何かあれば考慮するが如何じゃ?」

父上に目線を向けると、迷うような表情をしていた。どうやら想定外のようだ。こういう時は公益につながることをお願いすればいい。ルントシュテット家は既に利権を手に入れている。何事も食べすぎは良くない。太るし胃もたれが起こる。

「陛下、若輩者ゆえ事情は良く存じませぬが先の大戦から既に6年近くの時が流れ、戦死した者や心ならずも捕虜となった者の家族が農奴に落ちているとかいないとか。
折角の陛下の恩情で帰還が叶っても家族がそのような状態では悲しみましょうし、本人たちも叛徒に囚われていたのです。少しは身体を休める期間も必要でございましょう。
そのあたりもご配慮いただければ、当家としてもさらに面目が立ちますし、帰還した者たちもより陛下のご恩情に感謝し、励むと存じますが如何でしょうか?」

陛下は少し考え込んだが

「よかろう。そちが褒美として望むのであればそうすることとしよう。そちは無欲じゃな。」

というと、引き続き励むようにとの言葉を残して部屋から出て行った。こうして初めての謁見が終わったが、まあこんなものかというのが感想だ。

現帝オトフリート5世は、よく言えば締まり屋。悪く言えばドケチなのだ。門閥貴族どもが軍の利権を狙った背景の一つとして、陛下が予算を絞り過ぎた為に今までの利権の旨味が減ったことがあげられる。別に門閥貴族に理解を示すつもりはないが、使い切れない程お金をため込むなど不経済でしかない。陛下には悪いが、俺はそこまで好印象を持っていなかった。そして再び狐顔に先導されながら、裏口にもどり地上車に乗り込む。

父上はルントシュテット邸に戻るだけだが、明日には領地にもどる俺にはもう一つの用事がある。幸い、フランツが従者として同乗していたのでお供も揃っている。帰路の半分まで来たあたりで俺は切り出した。

「父上、明日には領地へ発ちますが、確認せねばならないことがございます。幸いフランツもおりますので、父上をお送り次第、出かけてまいりたいと存じます。」

というと、

「わかった。お前の事だから私に報告すべきことはきちんと報告してくれると信じているぞ。謁見での態度は立派なものだった。おばあ様もカタリーナも話を聞きたかろう。晩餐には遅れぬようにな。」

というと、屋敷に着くなり地上車を降りて行った。俺が向かうのは飲み屋街のマスターの店だ。今日は午後から休業にしてもらい貸し切りにしている。ただし宴会をするわけではない。マスターの店につくと二階の個室に向かう。申し訳ないがフランツにはドアの外に控えてもらう。

「おお、ザイ坊、先に始めておるぞ。」

部屋に入ると兄貴と叔父貴が料理をつまみながら酒を飲んでいた。まだ始めたばかりって感じだ。

「兄貴、さすがにあの知り合い方で実は殿下でしたは演出が効きすぎだよ。まあ叔父貴が誰の侍従武官か位は調べておくべきだったけどさあ。」

というと兄貴は嬉しそうに

「そうか、ザイ坊を出し抜くことができたとは。私も捨てたものではないな。」

と言いながら、叔父貴と上機嫌で笑い出した。領地に戻る前に話がしたい旨を伝えたとき、ここを指定してきたのでお忍びの関係で時間を取りたいのだろうと思ったが、その認識でよかったようだ。

「兄貴と叔父貴のおかげで謁見もうまくいったよ。ほんとにありがとう。で、今後の事で話がしたかったんだ。まあ飲みながら相談にのって欲しいんだけど......。」

「うむ。ザイ坊が酒が飲める歳なら一緒に楽しめるのだが、お主がいくら早熟とは言えいささか早すぎるからのう。」

おれは兄貴と叔父貴にお酌しながら話を進めた。

「今後の事についてだけど、大きくは2点あるんだ。まずはレオに関してだけど、兄貴に差配もお願いする前提になるけど、誰にどんな瓶に詰めて、いくらで売るのかまで兄貴に差配してほしいんだ。その代わり利益配分は売上を折半でお願いしたいと思ってる。
俺は領地に戻るし、父上と頻繁に会うのは兄貴が派閥を作ろうとしているように見えるから危険だし、堅物と腹黒は商売についての知識は無いから、なら全部兄貴にお願いしたほうが手間が少ないと思うんだけどどうだろう?」

「うーむ。後ろ盾と差配を引き受けたとはいえそこまで私に任せてしまって良いのか?」

なんか兄貴はビックリしているが、これはお互いにとっていい話なのだ。

「兄貴のおかげでレオは御用達って裏書付きで世に出る事が出来たし、狙いたいのは高価格帯での販売だからさ、レオを飲んだことがないのは半人前だとか、レオを置いてない店は潜りだみたいな認識にしたいんだよ。
俺の知っている人の中で、それが出来そうなのは兄貴だけだし、どうせ門閥貴族も欲しがるでしょ?今まで兄貴に調子に乗っていた分を含めて、しっかり踏んだ食って欲しいんだよね。領地に戻ったら量産体制を整えるけど、レオは長期熟成もできるから、無理に量をさばく必要はないしさ。」

「そこまで当てにされては断ることはできぬな。」

兄貴は叔父貴に笑顔で視線を向けながら引き受けてくれた。これで本来予定していた用事は完了だ。

「ザイ坊よ。話は2つと言っておったな。レオの件は予想しておったがもう一つは何かな?」

「うん。今日の謁見で、陛下から褒美として弱いからもう少し望みはないかっていわれてさ。噂に聞いた位なんだけど、捕虜になったり戦死した兵士の家族が農奴になってるらしくて、そこへのご配慮と、捕虜たちも叛徒に囚われてた訳だから身体を休める期間も必要だろうからご恩情を願い出たんだよ。」

「うむ。お主は本当に無欲じゃなあ。」

兄貴は嬉しそうにうなずきながらグラスを傾けている。
俺はお酌をしながら続けた。

「兄貴、言葉を選ばずに言うと、兄貴の周りが強欲すぎるんだよ。で、心配なのがこの強欲な方々なんだよね。勅命に表立っては逆らわないと思うけど、書類をごまかして農奴を解放しなかったり、一時金をかすめ取ったり。そういうことをすると予想してるんだ。
だからその辺の進捗を監視してもらえないかな?兄貴と叔父貴ならその辺の伝手もあるだろうし。」

兄貴と叔父貴は少し目を合わせて何か確認しているようだったが、しばらくすると

「ザイ坊よ、勅命がきちんと果たされれば良いが、ごまかしたり逆らったりした者が出た場合はどうするつもりじゃ?」

「その辺りは、陛下のご判断じゃないのかなあ。一番やりそうなのは、派閥を作って好き勝手してる連中だろうしね。」

そこまで言うと、今まで黙っていた叔父貴が話し始めた。

「ザイ坊よ、殿下が後ろ盾になられるにあたって、事前に調査をさせてもらった。お主の乳母の事も殿下はご承知じゃ。お主は門閥貴族を潰すつもりなのか?」

叔父貴の目線は今までになく強かった。この2人に嘘をつくつもりはない。

「兄貴、叔父貴。乳母のカミラは実の母親同然だった。普通に詫びるならともかく、変な圧力までかけてきて、いつか俺に実力が付いたら潰してやろうと思ってたよ。」

俺はそこで一旦言葉を区切る。

「でもね。領地経営に関わって、考えは変わったんだ。軍に近い伯爵家ですら泣かされてる。あいつらに泣かされてる人間は多いよ。たぶん俺が潰すまでもなく、あいつらは自滅する。
だけどあいつらが潰れても領民が残るだろ。あいつらが潰れるのは自業自得だけど、領民には関係ない。だから領地経営を頑張るんだ。混乱して生活の見通しが立たなくなった臣民をうちで受け入れられるようにね。去年だけでも1000万人はさらに養える成果が出せたしレオも兄貴の力添えがあればかなりの収益が出せるはずだ。今、考えてるのはそういう事だよ。」

俺がそこまで話すと叔父貴は安心した様子だった。

「グリンメルスハウゼンはの、ザイ坊が復讐を考えておるのではと心配しておったようだ。そういう事なら安心であろう。それにしても明日から領地へ戻るか。寂しくなるな。」

兄貴が落ち込むそぶりを仰々しくするのが少し可笑しかった。俺と叔父貴は思わず笑ってしまった。 
 

 
後書き
純米大吟醸酒の酒化率は 300 リットル/t生産可能なので材料のみで考えると最大で6000万リットル生産可能となります。日本の清酒の消費量が6億リットル/年なので薄利多売はしなくても済むかなあと思ってます。 
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