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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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7話:長兄と次兄

 
前書き
・三点リーダー修正 2018/10/08 

 
宇宙歴752年 帝国歴443年 1月9日 夜半
ヴァルハラ ルントシュテット伯爵邸
ローベルト・フォン・ルントシュテット

父上と弟コルネリアスとシガールームで談笑したあと、私は自分の部屋に戻ってきた。
明日には士官学校へ戻らなければならないので手早く荷造りを進める。

本来なら末弟ザイトリッツも揃っての年末年始を過ごすはずであったが、その末弟が領地から出てきた際に交通事故にあった。怒りを覚えずに冷静に詳しく語るにはもう少し時間がかかるだろう。

6年前に帝国軍は叛乱軍相手に将官だけでも60人以上が戦死する大敗を喫した。私の祖父に当たる先代ルントシュテット伯もその一人だが代々軍人を輩出してきた貴族家には大きな痛手だった。当主と後継者が戦死した家もあったし、後継ぎがいない家もあったのだ。そこは武門の家柄同士、助け合うことでなんとか急場をしのいだが、軍務に携わっていた貴族の力が落ちたのは事実だ。

その隙をついて門閥貴族が軍に浸透しようとしてきた。何やら自分たちの能力に自信があるようだが、宇宙艦隊を自分たちのおもちゃだとでも思っているのだろうか。

幼年学校でも、士官学校でも門閥貴族の横暴は目に余る。従者を気まぐれで殴ったり、成績優秀者になにかと嫌がらせをするのだ。領民にも平気で手をあげているのだろう。自慢げに鞭打ちをしたと話している者もいたが、気分が悪かった。

祖父の事を思い出す。事あるごとに部下への暴力は絶対にダメだ。一兵卒だろうが司令官だろうが公明正大に対しなければならない。と言っていた。当時はよくわからなかったが、今では少しわかる気がする。お爺様は怒鳴ったことも、手をあげたこともなかった。

ただ、私がなにか間違えたときにはしゃがんで目線を合わせながらなぜそれが間違いなのかをしっかり話してくれた。そして最後にこれで次からは大丈夫だな?とまっすぐ目をみて問いかけるのだ。
そしてはい!と返事をすると笑顔になり頭をなでてくれた。物語に出てくる実直で部下にも優しい頼りになる将軍というのがイメージにぴったりだ。

私はお爺様のようにありたいと思うし、弟たちにもそれを伝えたい。初めて末弟のザイトリッツに接したとき、お爺様を意識してみたがうまく出来ただろうか?
そんなことを考えているとドアがノックされた。弟のコルネリアスが来たようだ。

「兄上、お話があるのと事でしたね。荷造りの方は......お済のようですね。」
「無論だ。まあ座ったらどうだ。」

私と比べるとコルネリアスは柔軟で優しげだ。風貌は兄弟で似ているが、友達にするならコルネリアスを選ぶ人が多いだろう。実直であろうとするせいか、私は周囲からは堅物だと思われている。

「私たちも明日からそれぞれ学校へ戻ることになる。またしばらく会えないだろうし、少し話をしておこうと思ってな。」

「兄上も気苦労が絶えませんね。あまり気を使うと父上のように眉間の皺がまた深くなりますよ。士官学校の方も大変そうですね。」

少し茶化すような口調だが、表情は渋い。幼年学校も苦労が絶えないのだろう。

「幼年学校も大変そうだな。」

「ええ、ひどいものです。まあ士官学校も似たようなものでしょうが正直邪魔でしかありませんね。どうせ任官しないなら彼らだけの学校でも自分たちで造ればいい物を、踏みつける相手が欲しいのでしょう。」

そして優しい顔立ちだが、結構毒を吐く。

「今は我慢の時だ。何とか軍部への浸透を抑え込めている。父上もご苦労されているのだ。ザイトリッツも耐えてくれている。」

「兄上の実直さは美点だと思いますが、ザイトリッツはいつか報復するつもりだと思いますよ。僕が怒りを耐えるときにする笑顔と同じ感じがしましたから。おばあ様の養育が行き届いているとはいえかなり優秀です。自分と自分の乳母が誰に何をされたのか理解しているでしょうし。」

なんと。あの可愛げなザイトリッツまでもが腹黒だとは。

「僕ですら幼年学校に入る前に門閥貴族には悪印象を持っていました。両親が日々苦労しているのも、兄上がため息をついているのも見ていたわけですし。」

「うーむ。弟には弱い部分は見せたく無かったが隠しきれんかったか。」

私が落ち込むそぶりをするとすこし機嫌がよくなったようだ。

「まあ、悪い事ばかりではありません。僕たちの世代でまともな方を探すまでもなくより分けてくれるわけですから。おかげで良い友人を簡単に見つけることができますしね。
父上には言えませんが、僕は2個正規艦隊ぐらいを彼らにくれてやっても良いと思っています。どうせまともな訓練もできないでしょうし、補給整備も手を抜けるだけ抜くでしょう。所属した兵士たちは不幸かもしれませんが、そんな艦隊を前線には出せません。戦死がないという事で我慢してもらうのも良いのではとも考えています。まあそんな権限はありませんが。」

「コルネリアス。そういう毒舌は屋敷の中だけにしておくようにな。気持ちはわかるし、アイデアとしてもうまくできているが、さすがに貧乏くじを引かされる兵士が300万人近く出るのは容認してもらえまい。」

「分かっていますよ。半分は愚痴みたいなものです。父上たちの時代もこういうことは多少はあったでしょうが、共感していただけるのは兄上だけでしょう。さすがにこんな話を同期にするわけにもいきませんし。兄上の方こそ、吐き出したいものはないのですか?実直な兄の愚痴を聞くのも出来た弟の役目だと思いますが。」

「うーむ。士官学校でも似たようなものだが、さすがに貴族階級には強くは出てこないな。実力をわきまえているのだろうが。ただ平民や下級貴族への当たりはかなり激しい。特に成績優秀者は目を付けられることが多いよ。
そんな事をするくらいなら自分を高めることに時間を割けばいい物を。そもそも裏で加点されている事もどう受け止めているのか。正直、私の価値観では理解できないな。
卒業後に報復人事でもされてはたまらんからな。嫌がらせを受けた生徒は念のため父上に名前をお伝えするようにしているよ。」

弟は嬉しそうにしながら

「さすが実直、公明正大を目指す兄上ですね。僕も数年後には士官学校です。すべてとは言えませんが、手の届く範囲で守れる者は守ろうと思います。」と返してきた。

そのあとも幼年学校高年次で気を付けるべきことや、士官学校での楽しい出来事などを話した。

「では兄上。そろそろいい時間なので僕は寝室にもどりますね。」

だいぶすっきりした様子で、コルネリアスは部屋を出て行った。少しは話をした意味はあっただろう。私たちの世代が一人前になれば門閥貴族たちの浸透も完全に収まるだろうが......。

今しばらくは父上たちに踏ん張っていただかねばなるまい。私も就寝しようと思ったが、よくよく考えると早朝には屋敷を立つことになる。ザイトリッツと顔合わせした日でもあるし、手紙でも書いておばあ様から渡していただくか。兄として手本たらねばならない、なるべく丁寧にきれいに手紙を書くことにした。

会えてうれしかった事
入院した際は本当に心配だった事
兄たちも一日も早く両親の力になれるよう励んでいる事
両親も日々役目を果たすために腐心している事
最後におばあ様を頼む旨をしたためた。

士官学校の日々は憂鬱なことが多かったが、久しぶりに温かい気持ちのまま就寝することができた。

 
 

 
後書き
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