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戦国異伝供書

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第九話 天守その六

「だから余計な警戒もじゃ」
「不要である」
「そう言われますか」
「この度も」
「そうじゃ、わしもあ奴が噂通りの者ならばじゃ」
 その時はというのだ。
「容赦なく成敗しておった」
「そうされていましたか」
「殿御自ら」
「そうされていましたか」
「しかし会ってそうではないと思った」
 松永は噂に聞く様な悪人ではない、そう見たというのだ。
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「殿も何もされなかった」
「そうなのですか」
「そうじゃ、それで領地はそのままにしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「あの様にな」
「用いている」
「そうされていますか」
「そうじゃ、お主達はどうも嫌い過ぎておる」
 松永、彼をというのだ。
「もっと落ち着いて見るべきじゃ」
「殿、そう言われますが」
 村井が信長にどうかという顔で述べた。
「あの御仁はです」
「主家の三好家を乗っ取り公方様を弑逆し大仏殿も焼いたな」
「そうしました、先の公方様は」
 村井は足利義輝、信長も会った彼のことも話した。
「当家を誉めも下さいましたし」
「わしも覚えておるぞ、よくな」
「その方も弑逆していまして」
「主家である三好家もな」
「乗っ取り三人衆ともいがみ合いました」
「そうしたのう」
 今三好家は織田家に降っている、そうして讃岐や阿波で小さな城を任されそうしてそれぞれの料理を治めている。
「三好家も天下一の家から落ちるきっかけとなった」
「そして三人衆との争いの中で」
「大仏殿も焼いたな」
「この大和の」
「そうしたことをしてきたからか」
「多くの謀も使い人も殺めてきました、まさに蠍です」
「殿、蠍といえば」
 ここで言ったのは平野だった。
「本朝にはいませぬが」
「異国にはおるな」
「尾に毒がある何かと剣呑なもの」
「相当に危ういというのう」
「はい、あの御仁はそう言われています」
 その剣呑さから言われているのは言うまでもない。
「今は何もせずとも」
「隙を見てか」
「当家にその毒で仇なします」
 平野が言うが他の者達もそうすると見ている。
「ですから」
「あ奴をか」
「この度は何もしませんでしたが」
「信じることはか」
「なりませぬ」
「そう言うがのう」
 信長は平野にも話した。
「わしはな」
「松永殿は」
「悪人には思えぬ、だからな」
「召し抱えていかれますか」
「そして使っていく」
「左様ですか」
「うむ、では岐阜に戻ってな」
 そしてというのだ。
「新たに政をしていくぞ」
「わかり申した」
 平野も他の家臣達も応えた、そうして信長は岐阜に戻るとすぐにだった、家臣達にこう言ったのだった。 
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