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西行と義経

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第一章

             西行と義経 
 西行は播磨で源義経の話を聞いた、それですぐに彼の話をしてくれた武士について彼の屋敷の中でこう言った。
「みちのくにいてはなりませぬ」
「九郎判官殿は」
「はい、決して」
 こう言うのだった。
「一刻も早く陸奥守殿に言われてです」
 藤原秀衡、今の奥州の主である彼にというのだ。
「そうしてです」
「みちのくから去られるべきですか」
「南に向かっておられれば南の島々にでも向かわれるべきでしたが」 
 そこにというのだ。
「あの辺りならばです」
「鎌倉殿もですな」
「はい、あの方もです」
 源頼朝、鎌倉にいる彼のことについても言うのだった。
「流石にです」
「南まで行けば」
「手出しが出来ませんので」
「そういえば南には」
「流された八郎殿がです」 
 源為朝、頼朝にとっても義経にとっても叔父にあたる彼がというのだ。
「噂では流れ着き」
「あの地で王となろうとしておられるとか」
「そのこともあるので」
「南にですか」
「逃れられればよかったのですが」
「では今から」
「いえ、みちのくに逃れられたのなら」
 それならばとだ、西行は武士に話した。
「まだ手があります」
「あの地に逃れられても」
「はい、確かに九郎殿は危ういです」
 このことは間違いないとだ、西行は武士に話した。
「今はよいですが」
「陸奥守殿がおられる間は」
「あの方ならば鎌倉殿に対することが出来ます」
「だからですな」
「東国も二分出来ますが」
「それでも」
「あの方がおられる間だけです」
 あくまでというのだ。
「若しあの方がおられなくなれば」
「跡継ぎの太郎殿は」
 藤原泰衡、奥州藤原氏の次の主となる彼はとだ。武士も西行に話した。
「どうにもですな」
「はい、聞くところによる器や頭の冴えは」
「陸奥守殿よりも」
「遥かに落ちます、それではです」
「鎌倉殿に対することは出来ず」
「あの方に様々な手で攻められ」 
 そうなってしまってというのだ。
「遂には滅ぼされるでしょう」
「間違いなくですな」
「はい、そうなります」
 こう武士に話した。
「あの方では、そしてその中で」
「九郎殿も」
「太郎殿ではあの方を大将として鎌倉殿に対するどころか」
 秀衡は義経を匿うことによってそうしている、だが泰衡はというと。
「鎌倉殿の甘言等に乗り」
「そうしてですな」
「九郎殿を消されるでしょう」
「そしてその後でご自身が鎌倉殿に攻められ」
「滅ぼされます」
 そうなるとだ、西行は武士に間違いなくと話した。
「それが鎌倉殿のお考えでしょうし」
「ですな、鎌倉殿は敵は許されぬ方」
 武士は西行に険しい顔になって答えた。
「これまで敵は誰でもです」
「相手のお子も含めて」
「殺められてきています」
 平家に木曽義仲にだ、頼朝という男は敵であればその相手を根絶やしにするまで殺してしまう。それは幼子でもなのだ。 
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