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少年の籠

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第二章

「この網は僕しか使えないから」
「どうしようもないというのか」
「そうなるかな」
「そうなるかなじゃない、何で御前ばかり獲れるんだ」
 このことが不満で仕方のない叔父だった。
「全く、面白くない」
「じゃあどうしたらいいのかな」
「ええい、そんなことは知るものか」
 叔父は口をへの字にさせてアナ=イルに言った。
「そう言われてもな」
「ううん、とりあえずね」
「とりあえず何だ」
「最近村自体が困ってるよね」
 アナ=イルは叔父にここで村全体の話をした。
「台風が多くて海も荒れることが多くて」
「田んぼの米が心配だというのだな」
「そう、それで漁の方もね」
 彼等がしているそちらもというのだ。
「僕は沢山獲れてるけれど」
「御前は大丈夫だろ」
「いや、僕は大丈夫でもね」
 それでもと言うアナ=イルだった。
「村、そして部族自体がね」
「心配か」
「そうなんだけれど」
「そんなことを心配してどうなるんだ」
 叔父は不機嫌な顔のまま甥に言った。
「御前が」
「僕が?」
「そうだ、それでどうなるんだ」
 こうアナ=イルに言うのだった。
「御前が考えて心配しても仕方ないだろ」
「いや、そう言われてもね」
「部族が心配か」
「部族の皆がね」
 こう叔父に言うのだった。
「どうなるかって」
「そんなに心配ならだ」
 それならと言う叔父だった。
「御前は天女と付き合っているな」
「あっ、そのことを知ってるんだ」
「かみさんから聞いた、それならだ」
「天女さんに聞いて」
「魚の網も貰ったんだろ、それだったらな」
 それならと言う叔父だった。
「天女に相談してみろ」
「そうしてだね」
「部族を助けられる方法を見付けろ、わしが知るものか」
 怒って言う叔父だった。
「自分の家のことでも精一杯なのにな」
「だから言えないんだ」
「人には出来ることと出来ないことがあるんだ」
 叔父はアナ=イルにこうも言った。
「わしは自分の家のことしか出来ないんだ、それも御前よりずっと魚を獲ることが出来ないんだぞ」
「だからなんだ」
「御前が出来るなら相談してみろ」
 その天女にというのだ。
「そしてだ」
「部族をどうしたら救えるか」
「その方法を出してみろ」
「うん、じゃあそうするよ」
「それで出来たら満足しろ」
 こうアナ=イルに言うのだった、そして。
 アナ=イルは天女と相談した、部族のことを。すると天女は少し考えてからアナ=イルに対して話した。
「なら二つのものを出すわ」
「二つのもの?」
「籠を出すわ」
 それをというのだ。
「二つね」
「それでその籠達からだね」
「ええ、お米とお魚を出して」
 そうしてというのだ。
「村の、部族の皆を救いましょう」
「それはわかったけれど」
 米と魚、即ち食べるものを出せばいいことはだ、アナ=イルも当然としてわかった。今はそういったものが不作で困っているからだ。 
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